艦娘生活1日目   作:山頭

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頑張って別視点を書きますので、もう少しだけ続きます。


1日目

私が今、夢から覚めた。

 

おそろいのパジャマがそうとは思えないほどに、一部分が汗で色が濃くなっている。

しかし、そんなことも頭に入らないほど今見た夢は衝撃的だった。

 

ベットから体だけを起こす。

寝起きのはずなのに、やけに目がさえている。

そして…。

 

「私が…敵?そんなこと………。」

信じられない。信じたくない。

 

嫌、お願いだから、私から………。

 

………。

私は私だ。

絶対。

だから………。

だから。どうにかするよ。私が私の間に。

だから。

………。

 

夢で私を呼ぶ、肌の薄暗い人。それが今、この鎮守府に向かってきているようだ。この前の赤いツルツルとは訳が違う存在だと一目で分かった。夢だったけど。

 

なぜ分かるのか…。

なんとなく察しもついた。

私は多分。深海棲艦だ。

私の身体が言っているのだ。私の回りを渦巻いている憎しみと妬み、恨みと嫉み、僻みとが、私を私じゃない何かに変えようとしているのが。

 

いや、現に今、私を現在進行形で変えていっているのか。

私の意思とは関係なく、私が私では無くなっていく。

 

胸に手を当てて、感触でも確かめる。

やっぱり、弱くなってる。

 

鼓動が弱くなっていくのを感じるくせして、私の中を渦巻くチカラは際限無く増えていく。このよくわからないチカラも私以外は感じられないのだろう。こう言うモノを違和感なく自分の中で処理して思考する事ができている。

その事実に私が私では無くなっていると強く感じて、心細くなる。

そして、それに関係なく、私の中のチカラは高まっていく。

 

私が私の内にしたい事。

 

私はこのままだと、何もできる事なくこのまま海へ沈んでいく、それは嫌だ。

もし、そうなったのなら、私は本当の意味で沈んでしまう。

 

それなら、私は…。

 

 

海へ行こう。そして私はアイツを…。

 

 

それを決意するのにも時間がかかる。

そんな時間を有効活用して私ではない私は、私の中身をなにかと置き換えていってるのだろう。時間はかけていられない。少しでも早くしないと、私が私以外のナニかになる。その前に…。

 

 

 

とりあえず部屋は出よう。

寝ている二人を起こしたくない。

 

ベットから降りるときに出た音を聞いて、ハッとして、二人を見つめる。

…起きてない。よかった。

 

着替えをあきらめようとも思ったけど、私のパジャマの一部を見て、考えを改める。

…静かに手早く着替よう。

 

着替えた後は、ドアを丁寧に、音が出ないように開けて閉める。

 

…部屋からは少し離れたほうがいいかも。

 

部屋から出て、少し歩いたところの、廊下の壁に、もたれかかる。

冷たい壁が背中から私を冷やして、少しだけ体が震える。

少しだけ頭の中がスッキリした気がする。

 

 

 

 

 

 

ふぅ…。

よし。

私は、アイツを殺す。そして、私が私じゃなくなる前に私を殺す。それだけ。ただ、それだけ。

 

 

海に行こうとするが、まだ生身では海を走れないとなんとなく分かるので、工廠に艤装を取りに行こうとする。

…しかし、あと一歩の決心がつかない。

 

お願いだから…急かさないで………。

ごめん…ごめんお母さん…。

でも………。

 

あと少しなの…。

何か、私を奮い立たせる物があれば。

 

 

 

 

………そうだね。鉢巻き…。

確かに長良さんの部屋は覚えてる。

………でも、やっちゃいけない事だよね?

 

え?

でも…。

………うん。わかった。

 

 

ちょっと怖いくらいに静かな廊下を歩く。

 

 

音を立てないよう、慎重にドアを開ける。

足音も立てないよう、慎重に慎重に。

 

大きな部屋の隅の方に布団が敷いてある。

そこには綺麗な姿勢で、柔らかい表情をしながら寝ている長良さんが居る。

 

枕元にお目当ての鉢巻きが、今日の分の着替えと思しき、丁寧に畳まれた体操服の上にこれもまた綺麗に畳まれ置かれている。

 

すみません。お借りします。長良さん。

と、心の中で謝る。

 

 

工廠までの道、私は…いや、いい。直ぐにでも行こう。

アイツの元へ。

 

時間が無い。

 

私は、艤装の元へ向かう。

背中に背負うのは、相変わらず、聞いたことのあるランドセルというものの特徴と類似するものが多くある金属の箱だ。手に持つのは、主砲と…なんだっけ、たしか魚雷発射管…だっけ?

私には合わないかな…。

 

 

あぁ、そっか、これは霞さんの物だっけ…でも、私は………。

 

ごめんなさい。霞さん。

たぶん、これは海の底に…。

 

ごめんなさい。

 

 

 

………妖精さんが見えない、いや、私に近づきたくないのかな?

どっちにせよ、どうしたら艤装が海の方に行ってくれるのかが分かんない。

どうしよう。

 

こう…手で押して…っ!!…んっ!!…ふんっ!!

………だめ…動かない。

こう…なんか…ボタンというかレバーというかなんというか…。

うーん…それらしき物が見当たらない。

 

どうしたらいいかな?

 

うーん、無い。どうしようも。

どうしたものか…。

こう…よしよしって撫でてみたり…。

無理だよね…。

 

ガコッ!ゴウンゴウン!

 

あ、動いた。でも、なんで…。

あっ、妖精さんが艤装から飛び出して来た。

………。

すぐに逃げていった。

 

うーん、動かしてくれたのかな?

 

「ありがとう、妖精さん!」

 

…うん、声が響くだけだなぁ…。

 

艤装が海まで来た。

あとはこれに背中を近づけて………と、これで良し。

 

自分で付ける方式で良かった。

たぶん、この金属の塊が飛んできたら避けてた。

例え背後から来ようと全力で避けてた。

 

ふぅ…。じゃあ、行きますか。

 

…さようなら。

 

 

 

 

空は薄暗いが、雲は一つもない。

今日は晴れみたい。

でも、波は高い。

風は穏やかで、進んでいると、まるで風に包まれている様に感じる。

いつもより速く進んでる様な気もするけど、これは周りが暗いからかな?

速度が変わってる気はしない。…なんとなくだけど。

 

そんなに急かさなくても一番早いよ。

 

 

 

 

………。

あぁ、感覚が変わった。

さっきまでこれ以上速度が上がる気がしなかったのに、今ではいくらでも速度が上げられそうだ。私の中のチカラを代償に。

他にも背中の金属の箱を背負っている感覚がなくなっていたりする。恐らくだが、背中と一体化している。もう外すことが出来なくなっているのだと思う。

背中の金属の箱は、もう私の体の一部なのだろう。

主砲も魚雷発射管も手と一体化したのか、してないのかわからない。

ただ、もう私に何か持ってる感覚はないし、風を切る感覚が体のあちこちで変わっている。

主砲で言うと、さっきまではあった、主砲の持ち手を持っている指と主砲の間を風が通っていく感覚があったものが、いつの間にかなくなっている。

 

鏡があれば…なんて、主砲と魚雷発射管のせいで持てないか。

 

それでも気になる。

私が今どんな顔をしているのか。

………二つの意味で。

 

本格的に私は深海棲艦になってきているのだろう。

 

それでも…。

 

 

 

まだ聞こえない。聞こえないんだ。

 

 

 

今の私の体は、私と霞さんの艤装でできている。

じゃあ、私以外の深海棲艦はなにでできているのだろうか…。

海から来たらしいアイツらは………。

まぁ、それはいい。

 

 

後、する事があった。

けど…。うーん………。

もう、大体の物が私と一体化していて、もう外せない。

これじゃ…。

あぁ………。でも…くそう…。

はぁ、そんな…。

でも…でも………。

はぁぁぁ………………。

私は…私は、まだ唯一の私と一体化していない、未だに頭を締め付ける感覚のある鉢巻きを………。

 

 

はぁぁぁ……………………………。

 

 

 

 

私は頭から鉢巻きを、頭との隙間に砲身を差し込んで上に引っ張って、どうにか取ると、それを主砲の砲身にそっと載せる。しばらく経つと、砲身と接している部分からどす黒く染まっていく。

黒くなってしまった鉢巻きが私と一体化する前に、静かに丁寧に、沈んでいかないように海面に浮かべる。

たぶんこれだよね?白衣のおいちゃんたちが欲しがってたやつ。

私は今、もうこれだけしか残せない。

 

いつのまにか随分とかけ離れてしまった。人から、艦娘から。

 

 

 

 

着いた。ここに来るはずだ。

しばらく待つつもりはない。もし、来るまでに時間がかかるなら、私から行ってやる。

…まぁいい。

 

来たようだ。

 

「早かったな。…どうだ?そろそろ芽生えたか?自分が深海棲艦であると言う自覚が。」

 

声からして、夢の奴とは別個体のようだ。

まぁ、関係ない。

背後からかけられた声に、振り返ることなく返答をする。

 

「多分ね。これがそうかはわからないけど。」

手を空に翳して、握ったり開いたりしながら言葉を返す。

返答しても、振り返ることはない。

 

 

「そうか。早速で悪いが、もう行くぞ。ここに居たらアイツらが来かねない。」

 

曖昧な返答には、特に気にした様子もなく、淡々とすべき事をこなそうとする敵。やっぱり考えられる奴のようだ。

 

「おい。どうした?」

 

心配されたのか?そんな訳ないか…。

 

「なんだ、気にかける事ぐらいなら、できるんだな。」

やっと出来た。

準備万端。デカい一撃を…。

 

「…なんの話だ。」

 

チカラの掌握は済んだ。

あとは、私の新たな手足として存分に使ってやるさ。

 

「そう警戒するなよ。」

油断はしないだろうな…考えられる奴のようだし。

 

「…何が言いたい。いや、何がしたい?」

 

そりゃ、テメェを殺す事だが?

心の中ではそう答えながら、それはそれとして完璧なタイミングを計る。

確実に一撃で持っていく。

 

「さ、移動しようか。先導を頼むよ。」

背中は見せないだろう?アンタは私を警戒している。

 

「………分かった。着いて来れるか?」

 

それはアンタの進むスピードによるな。…が、アンタは大層立派なモン背負ってるだろうからなぁ…私よりは遅いだろう。

ついでにアンタは武器もデカいだろう。不意をつけば確実に一撃は入れられるだろう。

 

「愚問だな。私は恐らくアンタより速い。」

見りゃわかるような気もするがな。

 

「はぁ…そういう奴か………まぁいいさ。」

 

お?結論を出すのが早すぎないか?本当に大丈夫か?

 

納得したのか、移動し始める。

動いているのが、水の音からわかる。

音が、私の真後ろから斜め後ろに、そして横を通り過ぎて姿を確認できる所まで来た。

ほぼ想像通り。

馬鹿みたいにデカい武器と背後のよく分からないモノ。

唯一想像と違うのは、夢で見た奴とは別個体という事。

だが、それは今、関係ないだろう。

 

いや、これは………。

いや、関係ない。

後少し、もう少し、アンタの背中が私の真ん前に来たら一瞬だ。

 

「着いてこい。」

 

 

─────ドゴァ!!!!

 

初めて聞くような爆音と、初めて見るような閃光、そして視界を覆い尽くす黒煙。

煙が晴れるまで時間はあるが、景色の想像はつく。

確実に全てが消し飛んでいるだろう。無駄に整った顔も、しっとりとした長い黒髪も、馬鹿みたいにデカい武装も、大層立派な背負い物も、何もかも。

 

恐らくだが、今のは奴のブラフだったと思う。信用のポーズを見せるのが考えられる奴にしては早すぎる気がする。

もしかしたら防御の姿勢を取ったのかもしれない。…が、奴にとって予想外の火力で吹き飛ばしてやったみたいだな。

 

私が私の魚雷発射管と背中の箱を全部チカラに変えて、主砲をデカくして、砲弾をデカくして、具体的に言うと後三発打ったら私が消えるくらいにチカラを砲弾にしてぶっ放した。だから次は身体を削りながらになるだろうな。

 

………出来るだけデカくて賢そうな奴ぶっ殺してやる。

そいつらとおんなじとこに行けるなぁ…主砲だけ残して。

このまま行けばだが。

 

っと…煙が晴れたか。

………予想通り。全て消し飛んでいる。

 

さぁ、残された時間は少ないぞ。私。

それに私が好き勝手できるのも後少しだけだ。

 

さ、行こうか。もっと強そうな奴を殺しに。

 

…っとと、背中のも、左手のも無くなってるからか、バランスが全然違って転びかけた。

こう、右手の馬鹿みたいにデカい主砲を胸の前に持って来て、抱えて…こう、いつもよりかは前傾にならないようにして…

うわ速っ!砲弾の分は消えてるからか随分と速くなった。

 

なんか、急に身体を削った実感が湧いたかも。

………次は本当の意味で身体を削って撃つんだよな…。

 

ふぅ、改めて…行こうか。出来るだけデカくて賢そうな奴ぶっ殺しに。

 

さっきは先導を頼んだが、深海棲艦特有のモノかは知らないが、なんとなく分かるのだ。進むべき場所が、帰るべき場所が。

進むべき場所は人類の居る陸の近く。

帰るべき場所は…こっち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上の帰るべき場所。予想はしていたがこれは…。

私は今、私の顔が引き攣っている感覚をひしひしと感じていた。

 

ツルツルが数え切れない程居るのはまぁ良い。

だか…これは………。

人型が…いや、人型も、か。

馬鹿みたいに居やがる。

 

この光景のせいか、私の中で、チカラが一層高まって、殺意が溢れてくる。

ここで全力をぶっ放すものいいが、できれば人型なだけじゃなく、人型かつ、背後に馬鹿デカいナニかを背負ってる奴が良い。

 

お、これまたデカい武器と背後のなんか。

さてはコイツらワンパターンだな。

 

「おい。貴様。迎えに行ったのは?」

 

まぁ、そうなるよな。

ちゃんと返事は用意してある。

 

「迎えに来た奴か?アイツには足止めを頼んだんだよ。それで居ない。」

ふふん。完璧だろう。

 

「なんだ、しくったのか…フン。」

 

え?なんで馬鹿にされたの?

 

「なにがだ。」

 

「貴様が見つからずにあそこを出ていれば足止めも不要だっただろうに。フン。」

 

フンフンうるさいな。

ま、コイツは小物っぽいし、コイツじゃない奴にしよう。

 

「で、私はここからどこに行けばいい。出来れば夢であった奴と会いたいが。」

 

「夢で?」

 

「あぁ、夢で。」

 

あれだけゴツい奴なら強いだろ。

 

「…特徴は?」

 

「アンタより、何もかもがデカかった。」

 

「私より?そんな奴いるか?」

 

これじゃ、分からないか…。

他は…確か…。

 

「それと、足元にデカい口の付いた黒い何かかだったり、ツルツルとした表面の黒い何かだったりが埋まってる、小さな島のようなものがあった。」

顔ばっか見てたから…いや、目を離せなかっただけだけど…正直うろ覚えだけど…。

そうでなくてもそれ以外は覚えてない。

 

「お前、それ…。」

 

あ?貴様じゃなくなった?

そんなに驚くことか?

 

「私が夢であった奴はそうだった。」

…記憶が確かなら。

いや、アレが本当にただの夢なら違うか。

 

「………。」

 

心当たりがあるのか押し黙る。

 

「夢の中で会った奴が、私を呼んだんだ。話しても良いだろう?」

特に話す事はないが。

 

「いや、だが…。」

 

「さ、案内してくれよ。」

深刻な顔しながら悩んでるとか悪いが、早くして欲しいんだけど。

 

「いや、それは…。」

 

今度はイヤイヤうるさいな。コイツ。

急に挙動不審になったな。コイツ。

 

「どうかしたのか?」

 

「あいつ…こんなときに…。」

 

こんな…どんな?

こんなとき…何がある?何があった?

………いや、関係ない。

 

「こんなときだかなんだか知らないが、会えるのか?どうなんだ?」

 

「い、いや、ちょっと、ちょっと待ってくれ。」

 

なんだ?そんななのかこんなは。…分かりずらいな。

 

「どれくらいだ?」

 

「い、いや、いや待て。ちょっと待て。」

 

そこまで言うなら待つしかないが…。

コイツが案内するかどうかなんだから。

 

「どれくらいだ?」

 

「待て。待てと言っている。」

 

だから…それがどれくらいか聞いているのに…。

そんなにテンパるか?

 

「だから。それが。どれくらいか、聞いているんだ。」

 

「い、いやま………え、えと………ご、5分待て、待ってくれ。」

 

5分…5分か…まぁ、5分なら、夢の奴を諦めて、ここら辺の奴らを根こそぎどうにかしてやるつもりだったが…。

 

「待つ。さぁ、待つよ。」

 

「あ、あぁ…5分だな、5分。」

 

そうお前が言ったが?

まぁ、待つさ。間に合わなくなってもここら辺の奴らにぶっ放すだけだ。

 

 

 

 

 

 

「経ったな…5分。」

まぁ、まだ待てるから待つが。

 

遅れること数分。

 

「…会える。…会えるらしい。ったく…あいつは………。」

 

あいつがなんだ?

なにがあるんだ?

私にとって得になるならいいが…。

 

「…はぁ、着いてこい…。」

 

「ハイハイ。」

…気怠げになるほどか?

 

「…そろそろだ。」

 

は?近くないか?

これなら5分かからないだろう?

そのなにかがあるせいか?

それにしても影も形も無いが…。

 

「何も無いが?」

 

「まぁ…今に分かる。」

 

わ、すーごい顰めっ面。

何が来るのやら。

…いや、どんな状態のアイツが来るのやら。

 

 

大きな大きな水の音。

さっきの私の砲撃と同じくらいデカい音で、だいぶ耳に悪い。

案内してくれた奴を見ると、耳を塞いでいる。

 

先に言うべきだろうが馬鹿野郎。

 

心の中で全力の罵倒をしてから、急いで耳を塞ぐ。

塞いでいると。急に姿勢が崩れる。

 

海が裂け、裂けたところに私の足元の水が流れ込んでいく。これが理由か…。

いや、私の足元限定の話では無いが…。

 

もしかしてチャンスでは?

これチャンスでは?

むしろ今しかないのでは?

考えてる暇はない。

耳を塞いでる場合じゃない!………右耳は塞げてなかった。どうでもいい!!

全てのチカラを私の全てをこの一撃に。

 

「あえて嬉しいわ。私の愛し子。」

 

訳のわからないことを、まだ頭の頂点しか見えない状態で言ってくる夢の奴。

 

「髪、白いな。」

それぐらいしか分からない。

 

「ぅう…うぅぅ………。」

 

は?私なんかしたか?

殺気か?

いや、そんなもの私からは一ミリも出てないはずだが………。

 

「あぁ…!私の愛し子!貴女が二人目よ。私を見て、褒めてくれたのは…。」

 

褒め…?

いや、私褒めたか?見たまんまを言っただけだが?

 

「褒めてねぇだろ…。」

 

ですよね?私褒めてなかったよね?だよね?

よかった、フンフン言ってる割には常識的じゃないか。

急に普通の奴に思えてきた…。

 

「えと、髪…綺麗ですね?」

かわいそうだから褒めてみた。

二人目の奴に殺されるなんて不憫な奴だなぁ?

 

「ぅっ、っうぅ…私…わ、私…うぅっ…。うぅぅぅぅ…………ぅあ…。」

 

え?泣いた?え泣いた?

髪綺麗っつっただけで?は?

なんか…殺しづら…。

いや、無理だろ…これに騙し討ちとか心壊れる………。

 

「はぁ…こうなるから………。」

 

あ、ごめんなさい。

…って言うかアンタ苦労人ポジかよ…。

小物っぽいとか思ってごめんなさい。

着々と上がってきてはいるが、顔を手で覆っているのでどんな顔してるのか分からない。

しかし、身体はよく見える。が、夢で見た姿は全然違う。

まるで、というかそのまんま子供だった。

余計に殺しづらい…。

てか子供が顔を手で覆って泣いてるってなんか…なんだろ………。

 

「あやしてあげてくださいよ。」

 

「え?私?え私?…えぇぇ………。いいけど…。」

 

あっ、いい人。この人いい人だ。私にはどうにも出来ないからって、丸投げしたらどうにかしてくれるらしい。

うん。優しい。優しい事くらいしか知らないけど、この人絶対お人好しだ。

無駄に心労抱えるタイプの人だ。

人じゃないけど。

いや人じゃないのか?

いや、海の上を滑るように移動してる時点で人じゃないか?

…どこからが人じゃないのか分からなくなってきた。

…余計に殺しづらい。

 

「えっと…えと…。………よ、よしよし〜…なくな〜…なくな〜…えと、泣き止まないなぁ、これ………。」

 

あ、なんか…ごめんなさい。

 

「うぅ…愛し子が褒めてくれて、愛し子が慰めてくれる…。うぅっ…うぁっ…ぁあぅ…うぅ…うぅぅぅ………。」

 

慰めてもそれで泣くとかどうしようもないな。これ。

 

「私は愛し子じゃないって…。」

 

「愛し子ぉうぁっ…うぅっ…。ぅぁっ…。」

 

「はいはい、じゃあ愛し子って呼ぶな〜…。」

 

「じゃぁ…貴女…。」

 

「それでいい。いやそれがいい。…ってか泣き止んだな。」

 

「うん…。」

 

何これ殺さない。私には殺さないんだけど?

こんなの…。

え?………でも、私には………。

無理…だよ。私には出来ない。

ひどい…。ひどいよ!

なんでそんなこと言うの?

え?嫌…。嫌だ…分かんないもん!!

私には………言ってること分かんない!

 

…え?

おかしいよ…。そんなこと………。

違う…違うもん!!

 

…私変なこと言ってないよ?

おかしい。おかしいよ…。

なんで私がこんな事…。こんな…こんな………。嫌だ…。助けて………。

お母さん………。

 

こんなの見せられて…これをなんて………無理…です。

私には出来ません…。私には………。

 

 

 

 

 

 

今しか?今しかないの?

なんで?でも、無理。私は出来ない…。出来ません…。

嫌だ。嫌です。殺せない。私には出来ません…。

ごめん…なさい…。許して…下さい…。私には出来ない…。

い、嫌っ!嫌だ!!私は…そんな事ッ!!!

 

「嫌ぁ!!!」

 

 

──────────────

 

私は…撃ったのだろうか?

 

全て使ったから、何も無い。

私が撃った時にはもう私には身体も何もかもが無い。

 

聞こえてくる声も消えた。

 

耳がなくなったからなの?

もしそうなら耳を切り落としておけば良かった。

 

私の意識も消える。

 

なんでこんなことになったんだろう。




タイトルがネタバレになってたので変えました。

本当にお疲れ様でした。
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