俺は仕事がうまく行かず、思い悩んでいた。いつもなら一直線に家に帰るが、今日はなんとなく寄り道をして帰ることにした。なんとなく仕事のことを考えながら歩いていると見たことのない道に出てきてしまった。周囲を見渡すとマリオの世界にありそうな土管を見つけたので少し覗いてみた。すると俺はその土管に引きずり込まれてしまった。
土管から出てきた俺は尋常じゃない熱さを感じた。さらにはクリボーやノコノコと言ったマリオのキャラクターたちが自分を包囲していた。俺はパニックでどうすることもできなかった。クリボーやノコノコは俺の手を拘束し、どこかに連行し始めた。周囲を見ると溶岩だらけで熱さの原因がすぐにわかった。10分くらい歩くと目の前に大きな城が見えてきた。クッパ城だ。自分はゲームでしか見たことのなかったクッパ城を見て興奮した。
俺「(実際に見るとすごいな…。)」
それから俺はクッパ城に連れていかれた。
俺「あの~、僕ってこれからどうなるんですか?」
クリボー「さあ。それはクッパ様が決めることだ。」
俺「え、クッパってあのクッパ?」
クリボー「クッパ様はクッパ様だ。」
俺「…夢でもみてんのかなぁ?」
俺は拘束された手を頬に近づけてツネってみたら痛かった。恐らく夢ではないようだ。とはいえ俺はマリオのキャラクターのなかでもクッパは1番好きなキャラクターだった上に今の生活にもうんざりしていたのでもう殺されようが何されようが構わないとすら思っていた。
エレベーターで上に行き、王の間と書かれた場所へと連れていかれた。恐らくここがクッパの部屋でクッパがいるのだろうと雰囲気で感じた。俺は楽しみ3割と緊張7割といった心情だった。
クリボー「クッパ様。侵入者を連れて来ました。」
俺「(え、侵入者?!)」
クッパ「通せ。」
扉が開き、クッパが椅子に掛けているのを見た。俺は緊張で身体が思うように動けず、心臓の動きが相当速くなっていた。
クッパ「そこの椅子に座れ。」
クッパはそう言うと部下たちに部屋を出るように言い、この部屋は俺とクッパの2人だけになった。
クッパ「お前が我がクッパ城に乗り込もうとした『侵入者』か。」
俺「いやいやいや、僕はただの新入社員なので『しんにゅうしゃ』違いです!」
クッパ「何を言っとるんだおまえは。」
俺「すみません…。」
クッパ「お前、名前は。」
俺は自分の名前を名乗った。
クッパ「そうか…。おまえはどこから来た。どうやってここに来た。」
俺「え、えと…。どこからといえば良いのか…。まぁ、『地球』の…『日本』…ですかね?なんとなく適当に歩いてたら知らないとこに出て、土管があって覗いたら吸い込まれちゃったって感じです…。」
クッパ「そうか……。『地球』か……。」
クッパは何やら考え込んでいる様子だった。
俺「あの…。僕はこれからどうなるんでしょうか?」
クッパ「うむ……。そうだな……。まずは質問に答えてもらおうか。」
俺「はい…。」
クッパ「お前、緊張はしているが初めて我輩と会う割にはびびってないな。最初に我輩に対してダジャレをいうなんて度胸がある。我輩のことを知っているのか?」
俺「一応ゲームで見てるから知ってるといえば知ってる…になるとおもいます。」
クッパ「ゲーム?ふざけているのか貴様。」
俺「いやいやいや、ふざけてないですよ!むしろ急にゲームの世界に飛ばされて意味わかんなくてこっちがふざけんなって感じですよw」
クッパ「……では次の質問だ。なぜここに来たのだ?」
俺「だから言ったじゃないですか……。なんか土管があったんで覗いてみたら吸い込まれちゃったんですよ……。」
クッパ「ふむ……。なるほどな……。お前は異世界から来たというわけだな。」
俺「まぁ、多分そんな感じだと(俺からしたらここが異世界なんだけどなぁ)……」
クッパ「お前、元の世界に戻りたいか?」
俺「…。わかりません…。正直元の世界での自分の人生に嫌気がさしてたので…。戻りたいとも思わないし戻りたくないとも思いません……。」
クッパ「そうか……。お前に選択肢を与えよう。1つはこのままここで暮らすことだ。」
俺「えっ……。」
クッパ「そしてもうひとつは、ここから出て行き、元の世界に戻ることだ。」
俺「……。」
クッパ「どちらを選んでも構わんぞ。好きな方を選べ。」
俺「え、ちょ……。ちょっと待ってくださいよ……。いきなりすぎますよ……。まだよく状況を理解していないのに……。」
クッパ「お前は選択する権利を持っている。どちらかを選べるというのはそういうことだ。」
俺「……じゃあ、もう少しだけ考えても良いですか?」
クッパ「いいだろう。じっくり考えるが良い。」
俺はしばらく考えた後、あることを思いついた。
俺「あの……。」
クッパ「なんだ。」
俺「もし仮に僕がこの世界で暮らすって選択した場合どうなるんですか?」
クッパ「その質問に答える前に我輩からもいくつか聞きたいことがある。」
俺「はぁ…どうぞ。」
クッパ「お前はこの世界のなかで誰が1番好きなのか?ピーチ姫やマリオのことももちろん知っているんだろ?あと、緑のひげのヤツも。」
俺「あぁ、ルイージですよね。はい、知ってます。好きなのは建前とかじゃなくてクッパ様ですけど……。」
クッパ「そうか…。ではその理由を聞かせてもらおうか。」
俺「はい…。クッパ様は確かに悪役で性格悪いとか食べ方が汚いとかは感じます。」
クッパ「殺されたいのか?」
俺「すみませんすみません!でもクッパ様はいざというとき誰よりも頼りになって、誰よりも勇敢で、誰よりも強くて、誰よりも仲間を守れる心の強さを持っている…。理想の上司といった感じがあるから好きですね。それから…、自分にないものを全部持ってるように見えるからかっこよく見えちゃいます…。」
クッパ「そうか……。お前が我輩のことをそこまで想っているとはな……。」
俺「はい……。」
クッパ「なら、なぜこの世界に残ると即決できないのだ?我輩と一緒にいれば良いではないか。」
俺「いや、それはそうなんですが……。やっぱり元の世界に戻らないと親や友達が心配しますし、職場にも迷惑かけますし…。」
クッパ「そうか……。」
俺「はい……。」
クッパ「だが、お前が元の世界に戻ったところで、お前は本当に幸せになれるのか?」
俺「…どういうことですか?」
クッパ「お前は今までに何度も辛い思いをしてきたのではないか?お前の心の叫びが聞こえてくるようだ。」
俺「……。」
クッパ「今までいくつか質問をして来たがおまえの戻りたい理由に他人に迷惑をかけられないという責任感は感じられたが、肝心のお前自身がどうしたいのかは感じられなかった。」
俺「……。」
クッパ「お前の本当の気持ちはどこにある?」
俺「……。」
クッパ「お前はただ誰かに必要とされる人間になりたいだけだ。」
俺「……。」
クッパ「そう、ただ認められたいという承認欲求を満たしたいだけなのだ。」
俺「……。」
クッパ「違うか?」
俺「……。」
クッパ「お前は自分が思ってるほど立派な男ではない。ただの臆病なガキだ。」
俺「……。」
クッパ「本当はここに残りたいと思っているはずだ。我輩はお前の心の声を聞いている。」
俺「…。うるせぇ…。わかってるよそんなこと!なんもできないビビりなガキだからずっと他人の顔色伺って心苦しく生きてきたんだよ!ここに残りたくてもなんもできねぇ俺がいたって邪魔なだけだろうが!!」
俺は涙ながらに本音をぶちまけた。その後すぐにクッパに対して感情的になってしまったことを謝罪した。
俺「いや、あ、ごめんなさい…。」
クッパ「構わん。…それがお前の本音か…。」
俺「……。」
クッパ「残りたくてもなんもできないから邪魔になると言ったか?」
俺「あ、はい…。」
クッパ「ふざけるな!」
俺「え……。」
クッパ「お前は自分のことを『邪魔』だと思ったのか!?我がクッパ軍団の誰かがそう言ったのか!?」
俺「いえ…。」
クッパ「我がクッパ軍団には誰かを邪魔だとか無能だとかいうやわなやつはいない。もし、そんなヤツがいたら我輩に言え。こっぴどく叱ってやる。」
俺「……。」
クッパ「お前自身は残りたいと言ったんだ。だったら残れ。」
俺「え……。でも……。」
クッパ「お前はここに残るべきだ。」
俺「え…。」
クッパ「お前はもっと自分のために生きても良いんだ。」
俺「……。」
クッパ「お前の持つ誰かの為という責任感は立派だ。だが、それに縛られて自分のエゴを縛っているようじゃダメだ。」
俺「俺の…エゴ…。」
クッパ「責任なんて我輩に全部擦り付けとけ。お前はお前のやりたいようにやれ。とはいえ、もちろん我輩の為には働いてもらうがな!ガハハハ!」
俺「(なんだ…結局誰かの為じゃん…)」
クッパ「お前にはお前の人生がある。ここでお前なりの幸せを探すのだ!」
俺「(カッコよすぎだろ……)」
クッパ「わかったか?」
俺「はい……。」
クッパ「とはいえまずは心のケアをせんとな。1週間休みをやる。明日は我輩とこの国を散歩でもするか。」
俺「え、いいんですか?」
クッパ「おう、今日はもう遅いし寝ろ。寝坊するなよ。」
俺はクッパに向かって抱きついた。
クッパ「どうしたのだ?」
俺「一緒に寝てもいいですか?」
クッパ「好きにしろ。」
こうして俺の異世界での生活が始まった。