真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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更新お待たせしました!!春休み、面白いぐらいに昼間に入れられるバイト
そして、親からの伝えられた引越しの手伝いやら知り合いのお店のお手伝い
それらのせいで、全く創作意欲が湧いてきませんでしたが、漸く更新できます!!
そして昨日は大学の入学式

いよいよ、黛のと戦いが決着。その結末は?悠介は約束を守れたのか?

楽しんでくれたら、嬉しいです!!
大学に行ってきます


惡と礼 その3—その途の頂を目指す者—

少女松永燕には忘れられない出会いの記憶がある。別段それが始まりと言う訳でもないし、この気持ちを持ったのももう少し先の話だが、そう言う意味での出会いでは無い。

 

ただ、少女が彼のいる世界に興味を持つきっかけとなった記憶。

 

「何してるの?」

 

「あ?」

 

燕がそう問いかけたのは、ある意味当然だったのかもしれない。何せ、汗まみれになりながら、ひたすら腕を手の甲を交差させる動作をしているのだから。

 

「修行だよ、修行」

 

それだけ告げると、悠介は再びその動作を続ける。何となくそんな素っ気ない態度を取られた事が気に入らなかった燕はムカついたと言わんばかりに食って掛かる。

 

「そんな変なエクササイズみたいなのが、修行な筈がないよね。バカじゃないのかな?」

 

からかう様な一言だが、悠介は何言わずにひたすらに動作を続ける。

 

「‥‥‥」

 

何となく面白くない。そう思った燕が何かを言おうとするよりも早く悠介が口を開いた。

 

「なあ、お前は笑われても(・・・・・)成し遂げたい(・・・・・・)事ってあるか?」

 

「‥?無いけど‥」

 

「そうか」

 

そう言って悠介はまた口を閉じる。

 

「意味が分かんない!!」

 

その反応に怒りの言葉を発する燕だが、次の悠介の言葉でそれ一瞬でなくなる。

汗を拭った悠介が告げる。

 

「その意味が分かれば、直ぐにわかんだよ、バカ」

 

優しく呟かれたその言葉に感じたわけでは無い、悠介がそう告げた瞬間、確かに燕は視たのだ、その姿を。

悠介とは違う和服の道場着に身を包んだ、生意気そうな少年を。

そして二人の少年の顔を見た燕は何も言えなくなった。ただ、それに何かを感じた。

だからこそ

 

「それってどう言う修行なの?」

 

そんな問いがこぼれた。先ほどとは打って変わった燕の言葉に悠介は気にせずに答える。

 

「俺、唯一の防の技の修行だよ」

 

 

それが出会い。今後の人生においても、重要になっていく武術との出会いの記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが終わったと思った。だからこそ、立ち上がった悠介の姿に驚きの声が上がる。だが、それだけだった。先ほどまでの攻防を見ても明らかだったから。誰もがその根性を認める中で、武術を知る者達だけは別だった。

 

 

(良いぞ、悠介っ!!、やっぱりお前は、最高だッ!!)

 

彼が一つの目標と定める少女は、本能的に感じ取る。

 

(…やっぱすごいよ、アンタ)

 

彼とのだらけ仲間で在る少女とその主君と下僕は、それを肌で感じ。

 

(あの野郎‥)

 

(やっぱロックだわ‥)

 

(これは…)

 

九鬼家のメイドたちは、それを感じ震え。

 

(これは一体‥)

 

一匹の猟犬は記憶の中からそれの正体を探ろうとし

 

(何かしら‥)

 

(何だこれは‥)

 

(初めて感じる)

 

(おおーーーすごーい)

 

彼と同期である少女たちも僅かな鱗片を感じ取る。

 

(やっぱり、君は立つんだね‥)

 

誰より少年の近くにいる少女は、それを感じ祈る様に一度目を閉じる。

少年の師である二人もまた

 

(悠介‥お主)

 

(何と言う‥)

 

己の弟子から発せられるそれを感じ取る。

そしてそれは、彼の前に立つ彼女も勿論感じていた。

 

 

―――これは何ですか?

 

 

目の前に居る敵は間違いなく虫の息の筈なのに、彼から間違いなく感じる。

 

 

―――気じゃない…だったらこれは?

 

 

そんな疑問を持ちながら、黛は悠介から視線を逸らさない。感じる、何かは解らないが確かに何かが、彼を中心に吹き荒れている。そんな幻想をは確かに彼ら彼女たちは見た。

 

 

 

 

 

そしてもう一人周りとは違う反応を見せる少年がいた。

 

(何で立つんだよ?)

 

理解できない。全然効率的じゃない。そんな思いが胸の中から湧き上がるが、大和はそれ以上にその姿から目を逸らす事が出来なかった。

 

(なんでお前は‥)

 

諦めないんだ。ただその言葉が出なかった。認める事を嫌う様に、無自覚なのかそれとも意識してなのかわからないが、彼はその手を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がった悠介の姿を姿に驚いた黛だが、勝つために意識を切り替え、その刃を放つつために地面を蹴る。

 

「はあッ!!」

 

口から零れた気迫と共に、斬撃を放とうとした刹那、黛の動きが止まる。

理由は簡単

 

(え?)

 

悠介の拳が俄然に迫っていた。

 

(なん、で‥)

 

先ほどまで反応出来なかった筈なのに…

 

 

驚き戸惑いながらも、後転する事で間合いから逃れる。

 

「まだ…遅せえか」

 

拳を振り切った状態で悠介は、黛の方を見ながら悔しそうに呟く。息を切らせ、足元が僅かにふらついているが、悠介は確かな瞳で黛を見ている。

 

「なんでって面してんな」

 

「え?」

 

突如、悠介からの言葉に黛は息詰まった表情を見せる。その表情を見た悠介は、苦笑いをこぼしながら告げる。

 

「単純な話だ。あれだけてめえの攻撃を受けてきたんだからな、慣れだよ慣れ」

 

――嘘。悠介の言葉に黛はすぐさまそれが嘘だと断定する。そんな単純な話のわけがない。そんなにも簡単に壁の存在を無視出来る訳がない。

 

事実、悠介は慣れによって黛の動きに対応できたわけでは無い。悠介は、自分に持ってる武器を使い適応し始めたのだ。

 

(漸く、頭の中のイメージ(・・・・)と身体の動きが重なってきたな)

 

唯一相楽悠介にあって、他の者達にないモノ。それは何度も夢で彼ら壁越えの戦いを見た事があると言う事実。それが悠介の武器。まず悠介は、黛の動きと彼らの動きを何度も重ね合わせ、頭の中でイメージを何度も反すうする。

しかし、知っているのと体験するのでは、全く話が違う。イメージでは、既に追いついて(・・・・・)も、そのイメージに身体が全く追いつかない。でも、それしか活路が無かった。だから悠介は、何度も攻撃を喰らう中で、イメージに追いつくための身体操作を実践した。

 

そして遂に重なった。

 

(まあ、それでも完全には無理だけどな。精々、攻撃をギリギリ(・・・・)で急所から逸らす程度が、俺の限界)

 

それでも僅かな活路が見えてきた。

 

(良いぜ、一回気絶しかけたおかげで、いい感じに思考も戻ってきた。こっからだ)

 

その意思と共に悠介は重心を落とし、構えを取る。仕掛けはしない、それが出来るほどの体力がない、ならば全力のカウンターに全てを

 

(掛けてやるよ‥来い)

 

力強く意思を感じさせる瞳で黛を見据える。悠介の意思を感じ取った黛は、一度肩から力を抜く様に息を吐く。

 

―――感じます。貴方の気迫が、此処まで。

 

再び緊張が場を包み込む。沈黙は一瞬、黛が悠介に迫るまでのわずかな時間。超高速で距離を詰める黛。先ほどまでなら悠介に反応すらさせなかったそれに

 

(見えてるし、ギリギリだが反応できんぞ!)

 

反応して見せる。が、それはあくまでも及第点ギリギリの反応だ、黛にとってみれば、問題なく対処できる。

 

(間を取って、攻撃を外して決める)

 

そう、その筈だった…。―――放たれるはずの拳が飛んでこない?

 

(しまっ‥フェイント)

 

そう反応できないならば、勝負以前の問題だが、ギリギリでも反応出来るならば、そこに僅かな駆け引きが生まれる。更に悠介の拳は、彼女達にすら警戒を与えるまでに昇華されているのだから。

 

今言えるのは、この一瞬の駆け引きを制したのは、紛れもなく悠介だと言う事。既にカウンターを放つために腕を動かし始めた黛では、防御は間に合わない。

 

(でも‥拳の射程外。一歩進んでから打つなら、躱せ‥え?)

 

「オラァッ!!」

 

悠介の雄叫びと共に、放たれたのは拳ではなく、貫く様に押し出された脚だった。完全に意識を拳に向けていた黛は、躱せずに腹に直撃を喰らう。

 

「わりぃな、喧嘩には脚も使うぜ、俺(チィ、直撃っつっても内気功で防御膜張ってやがる)」

 

地面にラインを作りながら後退する黛を見据えながら呟く。悠介の言葉を聞いた黛は、僅かに息詰まる中、違和感に気がつく。

 

―――どうして追撃がない?彼の今までの戦いから、一撃入った後は、必ず追撃を仕掛けていてた。なのに、どうして?

 

(限界?)

 

思考する最中、その答えに行きついたのも無理ない無い。実際の所、黛の予想通り悠介は既に限界に近い筈だが‥

 

――ゾクッ!!。僅かにその答えを得、確信をに変わろうとした瞬間、その寒気は襲い掛かった。慌てて視線を悠介に向ける。視線の先には、息を切らせ、全身が泥まみれになりながらも、その瞳の意思は常に前を向いている、敵の姿。

 

甘かった。自分の認識が、そう認めざる得ない。初めてだ、こんなにも誰かを尊敬するような想いにかられるのは。

 

(だからこそ、勝ちたい!!)

 

その想いと共に再び構える。悠介は絶対に仕掛けて来ない、ならば自分が攻めるのみ。

 

 

その場を高速で影が奔る。その中心に彼はただ静かに佇み、ただその時を待つ。

黛が攻撃の動作を見せれば、悠介が攻撃を躊躇わせるように、カウンターの動作を見せる。刹那の駆け引き

 

「ぅ‥」

 

「くっ‥」

 

互いの一撃が交差し、黛は紙一重で躱し、悠介はギリギリに深手を避ける。

 

(まだ倒れないなんて‥)

 

直撃はなくなったとはいえ、確実に当たっている。なのに、膝すらつかない。その事実が、ゆっくりとしかし確実に彼女の思考を乱し、焦らせる。

 

「はあっ!!」

 

「ッ!!」

 

気迫と共に放たれる斬撃。悠介の反応が僅かに遅れる。間に合わない、そう判断した悠介は

 

「‥ぐぅう」

 

左腕を盾に防御に徹する。瞬間、黛が好機とばかりに一歩踏み込むが

 

「なめんなッ!!」

 

弧を書く様に悠介の足払いが、一歩踏み込んだ黛の足を崩す。崩された黛が息を呑む。不味い、体勢が不安定で防御が間に合わない。

そう思うと同時

 

「ぉらぁッ!!」

 

ズドン!と、悠介の持てる限りの力で放たれた一撃が、本当の意味で直撃する。

 

「ッがぁ‥」

 

零れるのは、何時もの彼女からは想像も出来ない声。それだけ深く決まった。ズサッと

初めて黛が地面に足以外を付ける。ほぼ、渾身の一撃されど

 

「まだです!!」

 

彼女は沈まない。地面に身体を付けたのは僅かな時間、即座に体勢を立て直し、間を取る。

片手で攻撃を受けた部分を抑えながらも、刀の切っ先は悠介に向けられている。そして直後、その場から駆ける。

 

「!!」

 

悠介は驚きながらも冷静にその動きを重ね追う。ギリギリ、本当にギリギリでその姿を捉え身構える。放たれる斬撃の深手を避けつつ、己の拳を叩き付ける。悠介の攻撃を躱そうとする黛だが、その動作に僅かな淀みが見える。

 

(さっきの一撃で筋肉が‥)

 

黛は、瞬時に自分の状態を判断。改めて、悠介の拳の重みを再確認する。やはり、多様に受ける訳にはいかない。もっと速く‥速く

 

「参ります」

 

「なっ!?」

 

宣言の元、黛の速度が上がる。

 

(気で足を強化するのを上げたのか‥だったら、防御が薄くなるはず!!不味いがチャンスだ)

 

――重ねろ、あの男達の動きに。そして、見切れッ!!

 

交わるのは、瞬く間の時間。されど、二人にとっては、濃密な時間。襲いくる十二の斬撃、その攻撃を躱す事は悠介には不可能。だから、あえて深手になる事だけを避け、一撃を与える事だけに集中する。

黛の攻撃は当たり、悠介の一撃はギリギリに掠る程度。しかし、確実に当たり始めた。

 

(おぉしッ!!)

 

確かな手ごたえが悠介の意思を高揚させ、当たり始めたと言う事実が、黛の思考を焦らせる。

焦りは、動きを乱し攻撃のキレを落とす、つまり

 

「くぅ‥」

 

悠介の攻撃がより、当たりやすくなることを指す。漸く、悠介の拳が僅かに続けて黛の身体に掠り始める。当たりさえすれば、その部分から僅かに伝わる衝撃が、遅効性の毒の様に確実に黛の身体の動きを鈍らせる。

だが

 

「ッ!!」

 

黛の動き追う悠介が力が抜ける様に一瞬、膝を曲げた。そう悠介自身、既に体のダメージが無視できな程になっているのだ。いくら直撃を避けているとはいえ、確実に当たっているのだから。

そして、その一瞬を見逃さず、黛の斬撃が襲いくる。

 

「クソッ!‥」

 

迫る斬撃を全力で後方に跳ぶ事で、直撃を躱すが完全ではなく確実にダメージを身体が受ける。

トンと、一瞬静かに地面に静止した黛は、次の時には地面を駆け、悠介に肉薄する。

ドオン!と土煙を発生させながら、猛スピードで迫る黛に対して悠介は

 

「なめんなってッ!!」

 

二度目となる、前に弧を描く様に足払いで脚を狙うが

 

「はあッ!!」

 

あらかじめ予知していたように、足払いの間合いの一歩前で黛が跳ぶ。そして落下する重力の力を利用し、気を込めた刀を振り下ろす。

勝負を決めるであろう一撃、それを前に悠介は

 

――ニヤリ

 

と、獰猛な笑みを確かに浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っていた!!この状況(シュチュエーション)を。最初の足払いは、この為の仕込み。此処が恐らく最後のチャンス!!

 

(黛は俺のタフさを知ってる…たぶん全力で最速で振りにくる)

 

そしてそれは恐らく今の自分では防御しても持っていかれる威力。速度も恐らく最速。どう考えても、どうにもできない筈。

だが、それは自分があれ(・・)を知っていないならの話。

 

――イメージは出来てる。そしてそれを重ねる事も出来ている。

 

刹那、悠介の脳裏に浮かび上がるのは、自分が憧れる男を救った剣客の姿。

 

――お前の剣は確かに速い。でもな‥

 

「はあッ!!」

 

――龍鎚閃(りゅうついせん)ッ!!

 

「あれに比べたら遅せえッ!!」

 

二つの斬撃、でも明らかにあの剣客の方が速い。合わせたのは、黛の一撃ではなく、彼の一撃。

故に止めれる。

 

ガチィ!!と交差された両手の甲が、黛の攻撃を完璧に止めて見せる。

 

「!!」

 

――奥義の(まも)り・刃止(はど)めッ!!

 

ズン!と刃から伝わる衝撃で悠介の足が深く沈む。

 

(攻めのあれには移れねえが、十分!!)

 

悲鳴を上げる様に痛みを伝える身体を無理やりに押さえつける。

 

「ぅぉぉぉおおおおおおおおッ!!」

 

咆哮と共に大きく交差した腕を跳ね上げ、黛の腕を大きく弾くと同時に、攻撃の構えを整える。

 

――好機。その場にいた、武をせし者達が同時にそう察する。

体勢も崩れ、腕は大きく上に弾かれている状況、不味いと察した黛は、動かせる気を使い、無防備な腹に防御を回す。

そう、それが当然の方法。誰だって、このタイミングならそこを狙うだろう。しかし、思い出してほしい、この試合が始まった当初、悠介は何処を狙っていた?

 

「シィッ!!」

 

零れた息と共に放たれた一撃が‥鋭く黛の左手(・・)に突き刺さる。瞬間、気を全く纏っていなかったが故に、衝撃を直に受けた黛は、その手から刀を離してしまった。そして続ける様に放たれた、左の一撃が、残す右手に叩きこまれる。

そして遂に、その両手から、完全に刀が手放された。

 

「しまッ!!?」

 

今、夜空を彩る一つの星が、地へと堕ちた。

 

 

 

 

 

刀が手から離れる。その意識が、刀に痛みに支配される。やられた。と思うよりも早く、悠介が迫る。

 

(ここが最後のチャンス!!)

 

蓄積されたダメージのせいで限界に近い膝に鞭を打ち、悠介が全てを掛けて駆ける。

速度を乗せた一撃が黛に放たれる。

 

「ぐぅ‥ッ!!」

 

ギチィと鈍い音を立てるが、その一撃を両腕を交差させる事で防ぐが、その衝撃が重く中に響く。

 

――徒手で戦うのは、余りにも不利。刀を‥

 

悠介の一撃を受けた黛がそう評すのも無理はない。そう判断させるモノを悠介から感じたのだから。

しかし、その一瞬の思考に合間に悠介が動いた。

 

「おらッ!!」

 

ダンと右足で黛の足を踏みつける。そして、続けざまに拳を打ち付ける。

 

――乱打(らんだ)

 

だらぁぁあああッ!と、咆哮と共に威力が低いが、反撃の隙を与えぬ様に大量の拳が襲いくる。

だが、黛も僅かな間を見つけ、その場を離れる。しかし、我武者羅に後方に回避したためか、体勢を僅かに崩す。

 

「逃がすかッ!!」

 

後方に逃げた黛を追おうと、駆けようとするが‥ガクッン!と悠介の脚が限界を迎える。

 

(こ、の…ヘタレがッ!!)

 

動けない。悠介の姿を見た黛は、そう判断を下し僅かに気を緩める。その直後、動けないと察しった悠介が、その場から残った力を籠め、前に向かって倒れ込むように跳ぶ。

しかし、飛距離を考えても届くかは五分だが、黛はこの攻撃が届くと直感する。

急いで、その場から離れる為に一歩後退しようとするが、それよりも早く悠介の拳が迫る。

 

単純な話、黛は履き違えたのだ。彼女は、悠介の強さが崇高な目標があるからこそだと考えていた。それ自体は決して間違いではないが、それだけで戦えるのは進めるのは、それこそ才能がある者達だけだろう。既にそこで黛は間違えている。それは、明らかに上からの視点だ。

無論、悠介にだってそれはある。しかし、その強さの‥思念の根底を支えるモノは、全く違う。

彼女達が感じ幻想した、それは‥

 

――届けッ!!

 

武術の神に見捨てられても尚、その途の頂を目指さんと人生の全てを捧げる執念!!

 

後退する黛の顔にその拳が突き刺さる。ズドン!と悠介と黛がそのまま地面に倒れ込む。体重と落下の速度を合わせた一撃。

しかし、その手ごたえは軽い。

 

(後退してたせいで、威力が殺された)

 

動こうにも、手足に力が入らない。対して向こうはダメージはあれど、立てない程ではない。

直後、僅かな辛そうな声と共に黛が立ち上がる。肝心の悠介の脚に力が入らない。それ加え、意識がかすみ始める。

もがく様に足掻く悠介の姿を見た鉄心が、ゆっくりと終了の合図を下そうとする。

 

(敗けれるか…あいつらと胸張って戦うんだよ!)

 

だから‥もう一度思い出せ!!

 

『だから貴様もおれたちに敗けるまで、絶対に誰にも敗けるな!!たとえそれが、武神であってもだ!!』

 

「ああ、任せろ」

 

脚に力が入らないなら、腕を使え!!苦悶の声を上げながら、悠介の上半身が持ち上がる。それを見た鉄心の動作が再び止まる。

そして

 

「ま、だだ‥まだ、終わって、ねえ」

 

膝をつき、左拳を支えにしながらも悠介は、膝立ちの状態にまで持って来る。その姿を見た黛が呟く

 

「見事です」

 

「‥‥」

 

誰もが再び、始まるであろう戦いに意識を向けるが、それよりも早く衝撃の言葉が放たれる。

 

「それまでえッ!!此度の決闘は、引き分け(・・・・)とする!!」

 

「「「「「「「!!?」」」」」

 

その言葉に誰もが何でだと非難の声を上げるが、次の瞬間放たれる闘気に口を閉ざす。

 

「今から説明するわい。まず第一に、相楽の方は気絶しとる」

 

その言葉と同時に誰もが悠介に視線を向ける。

そこには

 

「‥‥‥」

 

確かに意識を失った悠介が、膝立ちのままにいた。それならば、黛の勝ちではないのか?と言う疑問も次の言葉で納得する。

 

「第二に、黛の方は既に最後の相楽の拳が顎付近に当たり、脳震盪を起こしかけとる。今、立つのもつらいはずじゃ」

 

その言葉の真意を指すように、黛がドサ!と地面に座り込む。実際、それが起きたのは偶然だった。後退したが為に、悠介の拳がちょうど顎をかすめる様な軌道となったのだ。それは偶然だ、しかし悠介の執念が呼び起こした偶然でもある。

 

「互いに戦える状況ではないと判断。よって、引き分けとする。黛も異論はないかの?」

 

「はい。異論ありません」

 

その言葉が決闘の終わりを告げる。瞬間、大きな歓声が沸き上がる。

そのさなか、何人かの人間が様々な想いで気絶している悠介を見据える。

 

道端の石ころが見せた覚悟と執念、だが…その壁は未だに高く立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室。そこのベットに治療を終えた悠介が眠っていた。黛の方は、すでに治療を終えて帰っている。未だに意識が戻らない悠介だけが、寝かされている。

 

「‥‥」

 

夕日が窓から、保健室を朱色に染める中、パイプ椅子に座りながら眠ってる悠介を見ている燕。その表情は、悠介の健闘を称える様にそして悲しそうなな色で染まっている。

 

「全く‥毎回君は、ホント無茶をするね」

 

悠介の髪を優しく撫でながら、そう呟く燕。悠介からは何の反応も見せない。その事が嬉しくて、ついつい撫ですぎてしまう。でもそれもすぐに消え、悲痛な表情を見せる。

 

―――ねえ?知ってる。君が傷つく姿を見るたびに、私がどんな思いをしてるか。

 

――いつもいつもボロボロになって、それでも前に進んで…それを近くで見ながらも何もできない私の気持ち

 

言葉には出さない。それでもその表情が全てを物語る。燕が悠介の髪を撫でる音だけが響く。

 

―――ねえ、私の気持ちに気づいてよ

 

気がつけば、燕の顔が悠介の顔に近づいて行く。誰もいない保健室とライバルの存在、そして今回の決闘の全てが、燕のタガを外す。

ゆっくりと、燕に唇が悠介の唇に近づく。

 

三センチ

二センチ

一センチ

 

そして‥‥夕日に照らされた二人の影が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、重なったのは影だけだった。一ミリと言う場所で、燕の動きが止まった。別段、何も起きてはいない。誰かが当然現れてもしていない。でも止まった。

 

―――やめよう。これは、余りにも卑怯で、虚しい自己満足だ

 

だから

 

「今は、これで我慢だよ」

 

言い聞かせる様な言葉と共に、燕の目が重なった影に向けられる。そう。今はこれで我慢。心の底から、君に想いを告げるその時までは。

 

「待っててね、悠介君」

 

この想いだけは、誰にも敗けない。それが、私の自信で誇りなのだ。武術でもない、もう一つの争いの。

 

 

 

燕が顔を離すと同時、悠介の瞳がゆっくりと開かれた。それを見た燕は、何時もと変わらない声音で

 

「おはよう。悠介君」

 

そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識がゆっくりと浮上する。まず初めに意識が拾ったのは、聞きなれた幼馴染の声。そして天井だった。

徐々にハッキリとする意識、そのため口に出した言葉はそれだった。

 

「どうなった?」

 

何がとは言わなくてもわかってる。決闘の事だ。それが分かっているからこそ、燕は苦笑いしながら答える。

 

「引き分けだよ…大金星だよ、悠介君」

 

「はっ?‥」

 

ふざけんなと叫ぶよりも早く燕が口を開く。

 

「『今日の所は、師匠の言葉を受け入れろ』って鉄心さんが言ってたよ。私もそう思う。たとえ君が、納得できないモノだとしてもね」

 

「…何があった?」

 

悠介の問いに燕が事の詳細を話す。全てを聞き終えた悠介は、腕で顔を隠す。

 

「クソ…」

 

「護れたよ、きっと君は約束を」

 

だから、大丈夫。燕の言葉に悠介はゆっくりと

 

「‥‥わかった」

 

確かにそう答えた。悠介の答えを聞き、満足した燕が一旦席を外す。

一人となった悠介は、ひたすらに先ほどの決闘を思い出す。

 

―――敗けはしなかった…でも、それは刀と言う武器を手放させたから。もしもそうしてなかったら、自分には敗けしかなかっただろう。

 

そして悠介が求める勝利は、その完全な状態の相手からの勝利。

 

「とりあえず、まだお前らに俺は胸を張れるか…?」

 

師匠の鉄心の言葉を信じよう。右腕を上に伸ばしながらそう決める。

 

「‥…」

 

―――戦えた…間違ってなかった。俺は、あいつらに喰らいつける

 

残す欠片は、あの技一つ。時間が足りないなどと言う、弱音も言い訳ももう言わない。

あの男は、一週間で身に着けたのだ。自分には、その倍以上の時間がある。

 

「やってやるよ…ぜってえに間に合わせてやる」

 

悠介は決意の言葉と共に拳を握る。

 

――――祭りの開催まで、後十六日。




いかがでしょうか?結末や悠介が、一応は適応できるようにしましたが、大丈夫でしょうか?
違和感とかあったら、教えて下さい。

燕の方は、何でああなったんだろうか・・・良かったのか?

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