それはそうと今回の話はゲームのネタが含まれているので気になる方は一応注意。
「気乗りしねぇ……」
目的地に向かう道すがら、ため息をついて空を見上げる。
時期的には梅雨のはずだが天気は良かった。
いっそ雨でもと思ったが、それだけではこの先の展開は避けられないのだ。
「うっえすぎさーん!」
駅に近づくと、能天気な声が出迎えた。
悪目立ちリボン、四葉だ。
目一杯手を振って存在をアピールしていた。
相変わらずの元気さだ
少しでいいから分けてほしいぜ……
「よ、よう……よく来てくれたな」
「まさか上杉さんから誘われるとは……明日は雪が降るかもしれませんね!」
「むしろ槍でも降っててくれたら出かけずに済んだんだけどな」
「はい?」
今日こいつを呼び出したのはアルバムを渡すためだけでなく、親父の頼みごとも関係している。
むしろかかる時間的にはそっちがメインで、アルバムはおまけみたいな部分もある。
まったく、なんでこんなことに……
「ところでらいはちゃんは?」
「ああ、むこうで親父と一緒に待ってる」
「えっと、上杉さんのお父さんも一緒ということは……どういうことなんでしょう?」
むむむ、と唸り出す四葉。
頭の上にハテナが浮かんでは消えるのが見えるような気がした。
流石に何も説明しないというのは卑怯だろうか。
「……実は写真撮影のヘルプを頼まれてな」
「なるほど、お手伝いに呼ばれたんですね!」
「お手伝いというか、むしろ主役なんだけどな……」
「まさか……」
四葉は目を見開いてワナワナと震えている。
明言は避けているのだが、それでも俺の言葉の中から何かを察したらしい。
尻込みするのは当然だ。
俺だってそうだ。
昨日は夜ふかしをしたので眠気も中々にきつい。
率直に言って、今すぐ帰って寝てしまいたい。
「まさか、とうとう私もカメラマンデビュー……?」
前言撤回、こいつは何も分かっていなかった。
まぁ、言葉を濁している俺の責任でもあるか。
はっきり言ってものすごく気乗りしないが、四葉が来てしまった以上やるしかない。
今日の撮影は昼飯とバイト代も出るのだ。
そのために頑張ると思えばいい……!
「行くぞ」
「あ、待ってください! あの、私みたいな素人でも大丈夫なんでしょうか」
「心配すんな。俺らは撮る側じゃなくて撮られる側だ」
「撮られる側、ですか」
「モデルだよモデル」
「なるほど……って、むしろもっと緊張しちゃうんですけど」
一花がやっているようなことを思い浮かべたのだろう。
四葉は自信なさげにしていた。
これで具体的に何の撮影なのかを知ったら、一体どんな反応を見せるのだろうか。
この場でそれを言い出す勇気は俺にはなかった。
「え……結婚式、ですか?」
「おう、最近は式を見送るカップルも多いらしくてな。宣伝になるような写真を一発撮ってくれと頼まれちまってな」
「む、無理無理無理!」
案の定、親父から具体的な説明を受けた四葉は、すごい勢いで首を横に振っていた。
果たして無理と言っているのは結婚式の方か俺の方か。
……まぁ、あまり深く考えないでおこう。
「無理じゃない。もう前金は受け取っただろ」
「まさか……あの豪勢なお昼は罠だった……?」
「くくく、今更気付いても遅い!」
「う、上杉さんの策士ー!」
「ふははは、何とでも言え! さぁ、写真撮影のためカップルとしゃれこもう――いてっ」
無理にテンションを上げていると、後ろから小突かれる。
らいはが腰に手を当てて眉を吊り上げていた。
やべぇ、怒ってる。
「もー、せっかく来てくれたのにそんな態度じゃダメっ!」
「し、しかしだな」
「ごめんなさいっ。お兄ちゃん照れてるだけなんです」
「らいはっ」
いや、照れてませんが?
照れているのではなく、気恥かしさを紛らわすためにこんな態度をとっているだけなのだ。
親父に恨みをこめた視線を向けてみるが、サムズアップを返された。
元凶のくせに悪びれた様子が欠片もない……!
『写真撮影……結婚式場……?』
『人づてだが泣きつかれちまってな。若いカップル向けの宣伝がしたいらしい』
『それで、あいつらにも声をかけろって……?』
『衣装合わせもあるし、まぁ一人だけになるだろうな』
『いやいやいや、無理だろ』
無理だと言ったが結局押し切られてしまった。
バイト代も出るという一言に惑わされたわけでは決してない。
他の用事があれば断ってもいいという体でメールを送ったのだが、四葉は快諾した。
まぁ、写真撮影の件は伏せていたわけだが。
他の四人は正直、顔を合わせるのにさらに勇気がいるため候補から外した。
そもそもただの写真撮影ならともかく、それが結婚式場の宣伝のものとなれば話がまるで違う。
モデルとは言え、そういう格好をしてそういう事をするのだ。
告白に対する返事と取られかねない。
撮影となれば一花の得意分野だが、あいつの場合はさらにまずい。
これ以上攻め込む材料を与えればどうなるかわかったもんじゃない。
そういうわけで四葉を選んだわけだが、果たしてどうなることやら。
いまだに無理無理と首を振っていた。
「四葉さん……ダメ?」
「うっ、らいはちゃん……」
「私ね、四葉さんのドレス姿見てみたいな」
「――やりますっ!」
こうして話は決まった。
決め手はらいはの上目遣い。
四葉がちょろいわけじゃなく、らいはが可愛すぎるのだ。
俺もあれをやられたらひとたまりもないだろう。
訳知り顔で頷く親父は正直気に入らないが、こうなったら後はやるだけだ。
結婚式場のホールの中は、当たり前と言えば当たり前だがガランとしていた。
そもそも空いていなければ撮影だって行えないという寸法だ。
しかし、世間一般では六月は結婚式が多い月のはずだ。
なんせジューンブライドという言葉があるくらいなのだから。
それでもこうやって休みの日に式場が空いているということは……やはり親父の言うとおりなのだろう。
それにしても、こうして慣れない衣装に身を包んで馴染みのない場所に一人佇んでいると、いまいち現実感がない。
人生において結婚なんて言葉は縁がないと思っていたため尚更だ。
こんな俺でもいつかは誰かとそういう関係になったりするのだろうか。
なんでだか、同じ顔が五つ思い浮かんだ。
純白の衣装に身を包んだ花嫁が、俺に微笑んで――
「上杉さん、お待たせしました」
「ああ、お前も着替え終わった――」
「えへへ、モデルだってわかってても、なんだか緊張しちゃいますね」
一瞬、自分の妄想かと思った。
俺の想像から抜け出してきたんじゃないかと、そんな馬鹿げたことを思い浮かべた。
それもこれもこの場所のせいだ。
こんな現実感のないシチュエーションに身を置いているから、そんな事を考えてしまったんだ。
「変なとこありません? 背中の方は自分じゃ見えなくて」
四葉はその場で一回転してみせた。
普通の――といってもウェディングドレスには詳しくないが――よりもスカートが短いので、翻って太ももとさらにその上が見えそうになる。
たまらず目をそらす。
こいつにだけはそういう視線を向けたくなかった。
他のやつに関しては……少なからず肉体的な接触があったのにそんな目で見るなというのが無理な話だ。
しかし困ったことに顔が同じなんだよな、五つ子だし。
「上杉さん?」
「あ、ああ……変なところはないと思うが」
「よかった~……で、どうです? 似合ってますかね?」
「まぁ、馬子にも衣装ってところか」
「まご?」
「それっぽい格好をしてたら、それっぽく見えるってことだよ」
ちなみに、馬子とは身分が低く粗末な格好をした者のことを指す。
いい意味では使われない言葉だし、余計な説明はヤブヘビだろう。
とりあえず落ち着こう。
このままでは直視できない。
「もしかして、照れてます?」
「あ? 照れてねぇよ」
「隠さなくても、そういう反応するときは照れてるってわかっちゃうんですから!」
鬼の首を取ったかのように、四葉は得意げになって胸を張った。
馬鹿な、こんなおバカにも把握されてしまうほど俺が単純だっていうのか……?
下から覗き込んでくるので顔を背けるが、四葉のフットワークは軽い。
背けたそばから回り込んできやがる……!
「――っ、大体な! 結婚前にウェディングドレス着たら婚期が遅れるって話もあるんだぞ!」
「……がーん! どうしてそんなこと言うんですか! 上杉さんの鬼! 悪魔! 勉強オバケ!」
むくれた四葉は騒がしいことこの上ないが、これで妙な雰囲気もなくなった。
あとは主導権を握り返せば無事撮影終了で懐も潤うだろう。
「おっ、四葉ちゃんドレス似合ってるじゃねーか」
「上杉さんのお父さん! 上杉さんったらひどいこと言うんですよ!」
親父が姿を見せるや否や、四葉はチクリに走った。
お前は小学生かと突っ込みたかったが、そもそも俺が強引に軌道修正をはかったツケだ。
多少の苦言は受け入れよう。
「結婚前にウェディングドレス着ると結婚できなくなるって!」
「って、そこまでは言ってないだろ!?」
「たしかにそんなジンクスもあったな。ま、そんときは責任取ってお前が結婚してやれ!」
「親父もなに言っちゃってんだよ!?」
からかわれているとはわかっているが、四葉が本気で受け取ってしまったら大変だ。
非難の意を込めて睨みつけてやるが、親父はニヤニヤとしたまま全く動じない。
くそっ、完全に面白がってやがる!
「結婚……私と、上杉さんが……」
「真に受けんな。おい、聞いてんのか」
四葉は心ここにあらずといった様子で、俺の声に反応を示さない。
唇に指を当てたまま固まっていた。
薄赤く頬を染めた切なげな表情。
脳裏に焼き付いた光景、鐘の下でのキス。
五月の姿をした誰かの顔が、強くダブった。
「おい、四葉!」
「……はっ!? な、なんでしょうかっ」
「だから、親父ならからかってるだけだからマジに受けとんなって」
「で、ですよね! あはは、らいはちゃんを合法的に妹にできるなら、悪くないって思ったんですけど」
「ガハハハ! 俺も可愛い娘が増えるなら大歓迎だけどな!」
「親父!」
いい加減文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、見計らったかのように親父は引き下がった。
撮影の準備にもう少し時間がかかるらしい。
また後で、と言い残して去っていった。
合間に俺たちの様子を見に来たということは理解できるが、それだったらもう少し波風を立てないでほしいもんだ。
この先も事あるごとに茶々を入れられるのかと思うと、どうしてもやる気が減退していく。
「悪いな、親父もいい年なのに落ち着きがないんだ」
「私の方こそ、なんだか調子に乗っちゃってたみたいで」
「俺も余計なこと言ったし、別にいい。……お前の雰囲気がいつもと違って少し驚いたんだ」
「雰囲気……やっぱり、この格好のせいですかね?」
もしかしなくてもその通りだ。
ウェディングドレス姿なんて、日常生活じゃまずお目にかからない。
戸惑って多少変な態度を取ってしまったとして、それはしかたないのだ。
「でも、私だって同じなんですよ?」
「同じ?」
「だって上杉さんも普段と違う格好をしてるから……ずっとドキドキしてたんです」
「え……は?」
思わず目を見開く。
頬を染めた四葉の上目遣いは、俺の動きを縫い付けた。
言われてみればお互い様という話ではある。
馴染みのない場所で慣れない衣装、それに相手もまた見慣れない格好でいつもと違う雰囲気。
俺が置かれた状況は、そのまま四葉にもぴたりと当てはまるのだ。
しかし、その顔はまずい。
その顔はどうしても、他の四人と重なってしまう。
落ち着け……落ち着け、上杉風太郎。
かつての中野家での出来事を思い出せ。
ものの見事に四葉に騙されたあの時のことを……!
心の外装をガチガチに強化して次の言葉に備える。
さぁ、いつでも来い!
「……」
「……」
しかしいつまで経っても続きはない。
結果、俺と四葉は見つめあったまま固まっていた。
この状況がいつまで続くのか。
律儀に向かい合う必要はない。
ないのだが、なぜか目をそらせなかった。
人間は周囲を認識する際、ほとんどの情報を視覚から得るという。
したがって俺の頭の中は次第に四葉の事で占められつつあった。
振り返れば、こいつは最初から俺に好意的だった。
先日の修学旅行まで、その理由を深く考えたことはなかった。
そこにどんな理由があるにせよ、俺が四葉に助けられたことには変わらないからだ。
もちろん、そもそもがそういう性格だってのはあるだろう。
だけど、そこに別の理由があるとしたら。
数年前に馬鹿なガキと約束を交わした女の子が、今になってもそれを覚えていたとしたら。
でも何らかの理由でそれを諦めているのだとしたら。
成長して馬鹿じゃなくなったガキと再会した時、何を思うのだろうか。
そんな馬鹿げた妄想をしてしまった。
「……四葉、お前は――」
五月が零奈として接触してきた意味。
修学旅行中、一花が四葉のふりをして俺を連れ出した理由。
頭の片隅に根付いた疑問。
言い出せずにいたそれが、こぼれそうになる。
「わぁ、四葉さん綺麗!」
しかしその先は続かない。
幸か不幸か決定的な言葉が出る前に、いつの間にかやってきたらいはが割り込んだ。
純白の衣装に身を包んだ四葉に目を輝かせていた。
「いいなぁ、私もいつか着れるかな?」
「ええ、らいはちゃんだったらきっと素敵なお嫁さんになれますよ!」
仮にそんな時が訪れたら、俺はしばらく寝込む自信がある。
しかし同時にその姿を見たいと思う自分もいるという。
複雑な兄心だった。
「らいは、俺より成績が悪い奴との結婚は認めないからな!」
「うわ、上杉さん大人気ない……」
「そんなの気にしなくてもいいよ。絶対お父さんやお兄ちゃんよりも素敵な人と結婚するもん!」
「らいはー!」
なんにせよ、あの妙な空気はすっかり吹き飛んでいた。
……助かったなんて思ってしまった自分が、少し情けなかった。
「ん~! なんだかんだで楽しかったですね!」
「俺はもうボロボロだけどな……」
精神力を多大に消費しつつも撮影は終わった。
疲れてウトウトしているらいはを親父に任せ、俺は四葉を送りに出ていた。
まだ渡すものがあるため、このまま別れるわけにはいかない。
「今日の写真、後で送るってよ」
「本当ですか? 楽しみですねっ」
「……あんまり見せびらかすんじゃないぞ」
他の姉妹の反応が怖いというのは言うまでもない。
好意を伝えた相手が、自分を差し置いて姉妹を誘って結婚式場のPR写真を撮っていた。
当然、面白いわけがない。
散々ノーデリカシーと詰られてきた俺だが、そのぐらいは気がつく。
だからこそ気乗りしなかったわけだが。
「そういえば、あの時の写真はどうなった? あとで送るとか言ってたが」
「写真……なんでしたっけ?」
「清水寺で撮ったやつだよ」
「……ああ、そういえば!」
この様子だとすっかり忘れていたらしい。
まぁ、こちらとしてもどうしても欲しいというわけでもないのだが。
ただ、万が一変な顔でもしてる写真だったら、弱みを握られてるようで落ち着かないというのはある。
一花に寝顔を撮られていたのは本当に不覚だった。
とにかく、そういうことだ。
こいつだったら悪用はしないだろうが。
「ごめんなさい、あの後は色々とゴタゴタしてて。今送りますね」
メールの着信を知らせる振動。
開いてみると、画像データが添付されていた。
データ量が大きくて表示するのに時間がかかる。
さすがは高性能な機種で撮った写真だ。
ガラケー如きではスペックが追いつかない
「――これは……」
清水の舞台から見える景色を背景に並んだ二人。
カメラから目をそらす俺と、笑顔でピースを向けた四葉。
酷く既視感を覚える写真だった。
「上杉さん?」
「あ、ああ……とりあえず変顔はしてないみたいだな」
あの写真は零奈――五月に取り上げられた以降の所在はわからない。
問い詰めてみれば案外あっさり出してくるかもしれない。
だが、そうする事に必要性を感じなかった。
今の俺はもっと別のものに支えられているのだから。
五月が言う『彼女』があえて突き放すようなことをさせたのも、それを気づかせるためだったのかもしれない。
それに、たった今送られてきたばかりの写真もある。
まるで昔と変わらない仕草をしている自分に進歩がないと呆れてしまうが、持っていても損はないだろう。
これは今の俺と四葉の思い出なのだから。
「四葉、これ」
「え、なんですかこれ」
紙袋の中から、今日のために用意したものを取り出して渡す。
送られっぱなしではこいつを呼んだ意味がない。
「誕生日のお返しだ。金がないからせめて五人で共有できるものをってな」
「アルバム、ですか?」
「武田と前田も巻き込んで、親父やらいはにも協力してもらって完成させた」
前田は借りを返すためと言って、武田は親友の頼みならと快く引き受けてくれた。
訂正してやりたい部分もあるが、あいつらには感謝している。
家族の協力も含め、俺だけじゃここまでのものはできなかっただろう。
「そういえば……色んなことがあって写真はそっちのけでした」
「修学旅行はあっという間に終わっちまったが、将来的にはいい思い出になると信じて作らせてもらった」
「ありがとうございます、みんなきっと喜びますよ!」
「……四葉、お前には感謝してる。色々とな」
色々と、の中に口には出せないことも含めておく。
今はこれでいい。
「なんだか上杉さんがいつになく素直です」
「うるせーよ。それよりまだ渡すものが残ってる」
今度は紙袋ごと四葉に渡す。
誕生日プレゼントとは別だが、俺の努力の結晶にして寝不足の原因だ。
中身を覗き込んだ四葉はプルプルと震えていた。
「上杉さん、これは……」
「家庭教師も勉強会も休ませてもらってるからな。その埋め合わせってやつだ」
紙袋の中身はプリントの束だ。
こいつらも自主的に勉強するようにはなったが、まだまだ油断はできない。
また頭の中身がリセットされるのは困るのだ。
俺だったら喉から手が出るほど欲しいプレゼントだ。
問題集や参考書を買うのだって結構な金がかかるのだから。
すると四葉は顔を上げて、ひきつった笑みで紙袋をこちらに差し出してきた。
「こ、この件は一旦持ち帰ってみんなで相談しようかなーっと」
「お前がこいつを持ち帰るんだよ!」
「ひ、ひいぃ~~!」
「……結局受け取っちゃった」
紙袋を手に、四葉はため息をついた。
中身はアルバムと、目を背けたくなるぶ厚さのプリントの束。
どちらも風太郎からの贈りものである。
アルバムは素直に嬉しいが、課題の量には正直頭を抱えたくなった。
期限は一週間。
提出できなければ風太郎から雷が落ちるだろう。
勉強のことに関しては厳しいのだ。
「……楽しかったなぁ」
今日の出来事を振り返る。
駅前での待ち合わせに、お昼を食べてから式場での撮影。
知らされたときは驚いたが、やってみれば楽しめた。
風太郎が自分を選んでくれたことが単純に嬉しかった。
それが、四葉をそういう対象として見ていないがゆえのものだったとしても。
自分が消去法で選ばれたことは、風太郎の態度からなんとなくわかった。
「でも、あの時は危なかったな」
『だって上杉さんも普段と違う格好をしてるから……ずっとドキドキしてたんです』
それは紛れもない本心だった。
そして、いつかのようにごまかすつもりだった。
自分にはそれを伝える資格がないのだと。
また風太郎をからかう形で終わらせようとした。
だけどこぼれた本心を打ち消すための言葉は出てこず、四葉は固まってしまった。
もしあのままらいはが来なければ、自分は何を口走っていただろう。
「……もっと気を引き締めなくちゃ!」
頬を張って気分をリセットする。
風太郎の前ではいつも通り、元気な四葉でいなくてはならないのだ。
普段から気をつけていなければ、あっという間に綻びから本音が顔を出してしまうだろう。
ポケットの中のスマホが震える。
二乃からのメッセージが来ていた。
『まだかかる? もうちょっとしたら家出るけど』
今日の夕食は新しくオープンした店で食べようと約束していた。
用事が長引いた時のことを考えて予約は少し遅い時間に取ってある。
出発の時間には少し早いが、途中で寄り道をする予定なのだろう。
四葉は少し考えると、メッセージを返してスマホをしまった。
『移動に時間かかりそうだし、現地集合で』
荷物を家に置いておきたかったが、もう少し一人で歩いていたい。
家でも約束の店でもなく、その足は高台の公園へと向かっていった。
勤労感謝の日の最後に、風太郎と二人で訪れた場所だ。
姉妹の前でも、風太郎の前でもこの想いを出すわけにはいかない。
揺れたままの心を落ち着ける必要があった。
無人の公園に辿り着き、ブランコに腰をかける。
空の色が変わり始めていた。
ブランコを漕ぐでもなく、色の移り変わりをじっと見つめる。
「――風太郎君」
六年前、京都で出会った男の子。
一人と一人どうし、一緒に街を散策した。
暗くなってもう別れようという時に、移動費を賽銭箱に入れてしまう変な子だった。
それが路銀が尽きた四葉を一人にしないための優しさだと気づいたのは大分後だった。
そしてお互いに家族を支えることを誓い合い、約束を交わした。
「――上杉さん」
時が過ぎて再会した男の子は約束の通りに頑張り続けていた。
言い出すことはできなかったけれど、気づいてもらえなかったけれど、傍にいられるだけで嬉しかった。
少し寂しかったけれども、姉妹と打ち解けていく姿は喜ばしかった。
でもそれで余計に言い出せなくなった。
自分との思い出を覚えてると知った後でも、自分だけが特別になることを良しとできなかった。
だからあの思い出も、この想いも消してしまおう……そう決めたはずだった。
だけどブランコは揺れず、心は揺れたまま。
こうして暗くなりつつある空に、あの日の思い出を投影し続けている。
(あと少し、あと少しだけ……)
これが最後なのだと言い聞かせて、四葉は思い出に浸り続けた。
あと少しだけと言いつつも、いつまでもやめられないことってあると思います。
次回からは短めの話を何個かやる予定。
話は進まないけど(肉体)関係は進むかもしれません。
それはそうとようやくFF16が届いたのでそっちが忙しくなりそうです。