フー君が思春期の青い衝動に振り回される話   作:kish

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五等分の花嫁映画館まで見に行こうか迷う……

というわけで今回は三玖の番です。


放課後デートが三玖の場合

 

 

 

「デートに行こうよ」

「は? 駄目だが」

 

 放課後、教室を出て階段を下りている最中のことだった。

 小走りで後を追ってきた三玖の第一声がこれである。

 例によって断ったが。

 

「む~~」

「そんな顔しても駄目だからな」

 

 三玖はむくれてしまったが、ここで譲るわけにはいかない。

 昨日と一昨日とこいつの姉二人によって、俺の時間とその他色々なものが略取されている。

 特に昨日は二乃と……思い出すのはやめておこう。

 とにかく、今日こそ自分のために時間を使うのだ。

 三度目の正直というやつだ。

 

「もしかして用事あるの?」

「そんなとこだ」

「ちなみにその用事って?」

「勉強。受験生だしな」

 

 もはや躊躇することなく言ってやった。

 一花と二乃の件で学んだが、下手に言いよどむから付け入る隙を与えてしまうのだ。

 それならば最初からきっぱりと伝えた方がこちらの意思も伝わりやすいだろう。

 まぁ、問題はそれで遠慮してくれるかどうかなのだが。

 

「そっか、なら仕方ないね」

「あ、ああ……」

 

 意外にも三玖はあっさりと引き下がった。

 どんな難癖をつけてくるのかと身構えていたのだが、無駄になったようだ。

 正直に言うと拍子抜けしてしまった。

 だがしかし、これが普通の反応であるべきなのだ。

 間違ってもアレな写真をちらつかせてきたり、家の中で襲ってくるなんてことはあってはならないのだ。

 

「これからまっすぐ帰るの?」

「新しい問題集が欲しいからまずは本屋だな」

「その後は?」

「そうだな、たまには図書館で勉強ってのもいいな」

 

 自宅での勉強は基本中の基本だが、静かな空間で集中できる図書館という選択肢も悪くない。

 閉館時間までしか滞在できないという欠点があるが、その後はあらためて家で勉強すればいいだけだ。

 広がる勉強への展望に心が浮き足立っていた。

 ここ連日全く出来ていない反動もあるだろう。

 

「それじゃ、行こっか」

「どこに?」

「本屋さん。私もちょうど欲しい本があるんだ」

 

 俺達の目的が同じ場所にあるのなら、同道するのは自然の成り行きか。

 それならば断る理由もない。

 デートという言葉が頭にちらついたが、締め出しておく。

 なにやら上機嫌な三玖を連れ立って学校を出るのだった。

 

 

 

 

 

「うーむ、どれにしたもんか」

 

 本屋の一角にて、平積みされた問題集とにらみ合う。

 言うまでもないが予算は限られている。

 今回は一冊、無理をして二冊というところだろう。

 現状や目的と照らし合わせてよく吟味しなければならない。

 まずは今の俺の学力の状態だ。

 自慢じゃないが学内トップで、一度ではあるが全国トップも取った。

 難易度に関しては高いものを選んでも問題はないだろう。

 いや、それよりも問題のバリエーションを求めるべきか?

 対応できる幅が広がれば取りこぼしも減る。

 ユニークな問題は目新しさも相まって、解く楽しみというものが味わえる。

 いやいや、目先の楽しさを求めてあまりテストで役立たないものを選んでもしょうがない。

 逸れ始めた軌道を修正して今度は目的について考える。

 俺は高校三年生であり、冬には受験が控えている。

 それを考えれば、受験対策のものが望ましい。

 俺の志望は経済的な事情を考えて国公立一択。

 となると試験は二段、最悪三段構えだ。

 一段目のセンター試験と、二段三段目の二次試験。

 県外の難関大学の過去問に目を向ける。

 志望校についてもそうだが、学部学科に関してもいまいち絞りきれていない。

 どこだろうと入る自信はあるが、具体的な目標がボヤけてしまっていた。

 必要とされる人間とは言ったが、それがどのような将来を示すのかがわからなかった。

 

「……まぁ、一番難しいとこ選んどけばいいか」

 

 東大の過去問に目を向ける。

 さすがに全科目分を買うとなると予算オーバーなので英語を選んだ。

 どこを受けるにしても大体必要とされるので、無駄にはならないだろう。

 普通ならば苦手分野を補うものを買うのがいいのかもしれないが、生憎とそんなものはない。

 自分の優秀さが恨めしいぜ……

 

「いや、あったわ苦手分野」

 

 レジに向かう道すがら、とある本のタイトルに目を惹かれて立ち止まる。

 勉強には全く関係ないが、今の俺には必要かもしれないもの。

 

『高校生のための恋愛ガイド』

 

 帯にはナポレオンの名言。

 恐る恐る手に取る。

 本とは先人の知恵だ。

 それを頼れば、中野姉妹に対する俺の感情もスッキリと定まるかもしれない。

 というか、もはや健全な関係であると言い難くなってきたのでどうにかしないとヤバい。

 告白してきた相手(複数)に返事をしないまま肉体関係を持っている男。

 内情はさて置いて、言葉にしてみると中々のゲスっぷりだった。

 雇い主の耳に入ったらどんなことが起きるのかは想像したくもない。

 

「フータロー?」

「うおっ!」

 

 いきなり声をかけられて飛び上がる。

 振り向くと三玖がいた。

 目的の本を買えたのか、ビニール袋を提げていた。

 

「なに見てるの?」

「べ、別になにも見ていないが? さ、俺もさっさと会計を済ませてくるか!」

 

 手に持った恋愛ガイドを見られないようにレジへ急行する。

 なしくずしに買うことになってしまったが、棚に戻して見られるのも避けたかった。

 ある意味エロ本を見られるのよりも恥ずかしい。

 そんなことになったら、しばらく家庭教師を休む自信しかない。

 

「ありがとうございましたー」

 

 会計を済ませて足早にレジを離れる。

 女性店員の生温かい視線がまた精神にダメージを与えてきた。

 ……しばらく別の本屋を利用しよう。

 

「あ、待ってよフータロー」

 

 そのまま店を出ようとすると三玖が小走りで追ってきた。

 とにかく早く店を出たかったので、すっかり失念していた。

 お互い用事があって本屋に来ただけで、特別一緒に行動しているわけではない。

 だからと言って声もかけずにいなくなるのは薄情か。

 

「それじゃ、行こっか」

「……どこに?」

「図書館。せっかくだから静かな場所で読みたいし」

 

 確かにあの家ならば騒がしいことは目に見えているし、静かな環境で集中したいという気持ちは痛いほどわかる。

 別に一緒に行ってどうこうするというわけではないので、否定する要素はなかった。

 図書館デートという言葉がちらついたが、全力で無視。

 またも上機嫌な三玖を伴って図書館へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

「ここでいいか」

 

 図書館の自習スペースの一角に陣取って勉強道具を広げる。

 平日ならばあまり利用者がいないので、空いている席を探す必要もなかった。

 用意を終えて椅子に座ると、ごく自然に三玖も隣に座った。

 

「あ、私は買った本を読んでるだけだから気にしないで」

 

 そして持参した本を読み始めた。

 こっちも負けじと買ったばかりの問題集にとりかかる。

 難関大というだけあって、歯応えは中々だ。

 特に長文読解なんかは文量がやたらと多い。

 慣れてない奴だったら、このボリュームと向き合っただけでギブアップしてしまうかもしれない。

 とりあえず一年分をこなし、一息つく。

 後は答え合わせからの解説とのにらめっこで大体いい時間になるだろう。

 隣の三玖を横目で見る。

 読み始めた時の姿勢はそのままで食い入るように、あるいは噛み締めるように目を動かしていた。

 凝り固まった体をほぐすために立ち上がってみたが、それに気づく様子もない。

 大した集中力だった――これを普段の勉強でも発揮できたら、さらに成績が上がるだろう。

 また戦国武将関連の書籍だろうか。

 なんにしても、夢中になれるものがあるのは悪くない。

 もちろん、勉強を疎かにしないという前提があってのものだが、こいつの場合は中間試験も中々だったのでその心配もないだろう。

 あとは受験に向けて……って、今は自分の勉強だろうが。

 三玖の邪魔をしないように、その場を離れて飲食スペースへ。

 自習スペースとは少し距離があるが、ウォーターサーバーで水がタダで飲めるという特典がある。

 紙コップ一杯の水を飲み干すと、自販機でお茶を購入。

 ここ以外でなにかを飲みたいのなら、キャップ付きの容器が必要なのだ。

 あいつが好みそうな妙な飲み物はないが、緑茶が好きと言っていたのでこれでも問題はないはずだ。

 

「ここ、置いとくぞ」

「……あれ、お茶?」

「結構時間経ってるからな。一息入れとけ」

「あ、ホントだ」

 

 どうやら時間も忘れていたらしい。

 恥ずかしそうにお礼を言うと、三玖はペットボトルに口をつけた。

 

「フータローも休憩?」

「一区切りついたからな。ほら、お前の苦手な英語だ」

「むっ、もう赤点は取らないもん」

「はは、わかってるって」

 

 三玖の英語の点数はまだ半分に届かないが、他の教科は平均点に追いついている。

 得意の社会なら八割越えも珍しくはない。

 志望先にもよるが、英語の補強を重点的にやっていけば進学も難しくないだろう。

 

「東大受けるの?」

「いや、正直わからん」

「フータローならどこにでも行けるよ」

「つーか俺よりお前の方が問題だろ」

 

 来月の期末試験が終われば夏休み。

 いよいよ受験を意識し出すやつも多くなるだろう。

 一花はそのまま女優としてやっていくから進学はしない。

 五月は目標が定まっているから、後は自分のレベルをどこまで引き上げられるかだ。

 二乃と三玖と四葉に関しては、具体的なことをなにも聞けていない。

 進路をサポートすると決めたはいいものの、まずは本人の意思がなければ始まらないのだ。

 

「やってみたいことはある、けど……」

 

 歯切れが悪かった。

 言いたくないのか、言い出しづらいのか。

 どちらにしても強引に聞き出すのは得策じゃない。

 もはやノーデリカシーの不名誉は返上したのだから。

 

「まぁ、まだ時間はあるから焦らなくてもいいけどな」

「うん……ごめんね」

「いいって。話したくなったら話してくれよ」

 

 会話もそこそこに問題集に戻る。

 あまりのんびりしていたら閉館時間に間に合わなくなってしまう。

 隣で三玖はなにやら考え込んでいた。

 先程まで熱心に読んでいた本は、開いた状態で机の上に。

 チラッと見えたページの端に載せられた画像は、武将の顔ではなく料理の写真だった。

 

 

 

 

 

 閉館時間を控えた図書館を出て家路につく。

 夏至が近いとは言っても、八時近くともなれば流石に外は暗い。

 今晩はらいはが晩御飯を作って待っている

 いい感じに頭を使えたのでさぞ美味しいだろう。

 昨日と一昨日は散々だったが、今日の放課後は実に充実していた。

 

「なんか嬉しそう」

「わかるか?」

 

 勉強に打ち込める喜びというやつだ。

 例によってデートという言葉が出たときはどうしたものかと思ったが、相手が三玖で良かった。

 上二人がコントロール効かなさすぎるというのもあるが。

 

「このまま帰るの?」

「そのつもりだが」

 

 なんの確認なのだろうか。

 まさか昨日の二乃よろしく、こいつも家に押しかけてくる気じゃないだろうな。

 今日は確実にらいはがいるから変なことにはならないとは思うが。

 思わず蘇りそうになる昨日の『変なこと』を振り払う。

 下手をしたら臨戦態勢になりかねない。

 

「……最後にちょっと話したいんだけど、ダメ?」

 

 三玖は申し訳なさそうに切り出した。

 帰りたくはあるが、少しの時間を割くぐらいなら問題ない。

 まともに勉強が出来たので今日は気分がいいのだ。

 腰を落ち着ける場所を確保するため、俺達は近くの公園へ進路を変えた。

 

 

 

 

 

「フータローはさ、四葉が学者さんになりたいって言ったらどうする?」

「とりあえずは正気を疑うな」

「だよね」

 

 公園のベンチに二人で並んで座る。

 遠すぎず近すぎない絶妙な距離を保ったまま、三玖の言葉に耳を傾ける。

 話の内容は突拍子もないものだったが、とりあえず正直に答えておいた。

 もしあの四葉がそんな事を言ったのなら、天変地異の前触れかもしれない

 

「話したいのは四葉の事でいいのか?」

「ううん、そうじゃないんだけど……もしそうなったら、フータローがどうするのかは気になる」

「どうするもなにも、止めるだろうな。あまりにも不向きすぎる」

「そう、だよね……」

 

 何かを考え込むように三玖の視線は地面へ。

 意図するところがなんなのかいまいち図りかねるが、一般的な意見はそんなものだろう。

 そしてここからは、俺の考えだ。

 

「徹底的に向いてないんだって事を突きつける。くくく、泣こうが喚こうが容赦はしてやらねー」

「うわ……すごい悪い顔してる」

「諦めるならそれでよし。だが身の程知らずにもまだ目指すってならまぁ、一緒に頭をひねるさ」

「え、止めないの?」

「その前の段階で十分に止めてんだろ。そこまで言っても聞かないなら本気ってことだし、俺も腰据えて向き合うさ」

 

 自分の才能に見合わない道を進むのは不幸だ。

 大多数の人間はそう言うだろう。

 だがそれは所詮は外野の戯言だ。

 最後に決めるのは自分自身なのだから。

 

「これでも家庭教師なんでな。まぁ、進路探しぐらいは手伝ってやるってことだ」

「そっか……うん、フータローはそうだよね」

 

 いまいち具体性に欠ける話なのだが、なにかしら納得を得られたのだろうか。

 三玖は頬を緩ませて夜空を見上げていた。

 

「つーか、話したいことってこれでいいのかよ」

「本題はまだなんだけど……やっぱり今はいいかな」

「ここまでしといてそれか。地味に気になるんだが」

「教えてあげない。だってフータロー、返事いつまでもくれないし」

「うっ……」

 

 痛い所を突かれてしまった。

 今の俺は四人もの女子から告白されたにもかかわらず、ろくに返事もしていない状態なのだ。

 その内二人とは返事よりも先に妙な方向に(肉体)関係が発展しているという、どうしようもない状況でもある。

 常々どうにかしないといけないとは思っているが、どうすればいいのかが全くわからない。

 上二人との関係が知れ渡ってしまったら、果たしてどうなってしまうのやら……

 

「修学旅行で一花と何してたのかも気になるし」

「は、ははは……大雨で何かするどころじゃなかったけどな!」

「二乃は昨日帰り遅かったのに、すごく幸せそうな顔してた」

「ば、バイト帰りになにか良いことあったんだろ、うん」

 

 まさか馬鹿正直にナニしてましたなんて言うことはできない。

 心苦しいが、ここは誤魔化しの一手に頼るしかないのだ。

 

「フータローの家に行ったって言ってたよ」

「あーそうだ! たしからいはがいないから晩飯作ってくれたんだよ!」

「二人で食べたの?」

「食べたが、それだけだぞ?」

「む~~……!」

 

 疑いの視線が突き刺さる。

 正面から受け止めるのが少々厳しいので、目をそらすしかなかった。

 これ以上の深掘りは俺の中の青い衝動を刺激しかねない。

 すると三玖はさらに距離を詰めて迫ってきた。

 

「一花と二乃にしたこと、私にもしてよ」

 

 こいつは何を言っているのかわかっているのだろうか。

 二人にした事と聞いて思い浮かぶのは、互いの境界もわからなくなるぐらいの鮮烈な交わりだ。

 当然、出来るはずがない。

 だというのに俺の意思とは別に、体は期待して熱を高めつつあった。

 押し止めようとする理性と、突き抜けようとする衝動。

 まるで釣り合った天秤のようだ。

 少しでも何かの後押しがあれば、容易くそちら側に傾いてしまう予感があった。

 

「……意気地なし」

 

 顔を背け続ける俺への、三玖のほんの些細な不満。

 そんな気で言ったわけじゃないのはわかっている。

 でもそれが天秤を傾けた。

 頭の中がスイッチを入れたかのように切り替わる。

 どうにか押さえつけていたものが溢れ出す。

 ここ連日、一花や二乃にやり込められていた鬱憤もある。

 俺の中の衝動はこの瞬間、あらゆるものを振り切って三玖へ手を伸ばした。

 

「……三玖」

「なに――んんっ!?」

 

 引き寄せて距離をゼロにする。

 舐めた言葉を吐き出す口を強引に塞いでやった。

 いきなりの接触に目を白黒させているが、そんなことは知ったことじゃない。

 こんなものはまだ序の口だ。

 

「――っ!?」

 

 一花や二乃にされたのと同じように、舌で三玖の口内を蹂躙する。

 怯えて縮こまる舌を強引に絡め取って舐る。

 驚きに見開かれていた目は次第に緩み、潤み出した。

 この目には覚えがある。

 俺を求めて止まない、女の目だ。

 

「んっ……んむ……ふ、ふーたろぉ……」

 

 酸素を取り込むために口を離す。

 名残惜しむかのような唾液の糸と、蕩け切った三玖の顔。

 舌足らずに俺の名を呼ぶ声が、頭から冷静さをさらに奪った。

 あとはもう転げ落ちていくだけ。

 さらにこいつを味わうためにワイシャツのボタンに手をかける。

 抵抗はない――三玖は小さく頷いて、こちらに身をゆだねた。

 

「――誰かがこっちに来る」

「……え?」

 

 しかし頭が熱に浮かされていても、耳はちゃんと機能していた。

 複数人の足音と話し声を聞きとがめて、ようやく踏みとどまることができた。

 惚けている三玖の衣服の乱れを直して少し距離を取る。

 どうしてという目を向けられたが、程なくして現れた二人組の姿を認めて状況を理解したようだ。

 三玖は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「行ったみたいだぞ」

「……うん」

 

 水を差されたことで頭も冷えた。

 もう遅い時刻なのでいい加減帰るべきだろう。

 俺はまだ完全には立ち直れていない三玖の手を引いて、公園を後にした。

 

 

 

 

 

 手をつないだまま中野姉妹のアパートを目指す。

 とてもじゃないが、あの状態の三玖を一人で帰らせるわけにはいかなかった。

 衝動に負けた俺がやらかしたことでもあるので、尚更だ。

 

「……」

「……」

 

 とはいえ、ずっと無言というのも困る。

 言葉がない分、つないだ手の方に意識が集中してしまうからだ。

 頭は冷えたが体の方は冷え切っていない。

 下手な刺激を与えると、また衝動を抑えられなくなる危険がある。

 その手の経験を重ねるたびに、タガが外れやすくなっているのが実感できた。

 やはり二人きりというシチュエーションはマズイかもしれない。

 こうしている間にも三玖の手の柔らかさと温もりが……待てよ?

 今は俺が手を引いているわけじゃなく、三玖の足取りもしっかりしている。

 もしかして、わざわざ手をつなぐ必要はないのでは?

 試しに握る力を緩めてみたが、三玖の手は離れない。

 それどころかさらにガッチリ握ってきやがった。

 恐る恐る目を向けると、バッチリ目があった。

 

「どうして離そうとするの?」

「ちょっと緊張して手汗がな、ははは……」

「私は平気だよ」

「そうか」

 

 結局手を離すことはできなかった。

 つーか、傍から見たらどう見えるんだこれ?

 このまま他の姉妹がいるであろう場所に近づくのが危険に感じてならない。

 嫌な汗が背中を伝う。

 もういっそ五月にぶっ叩かれた方がいいのかもしれない。

 

「さっきの、いきなりでビックリしちゃった」

「すまん、あれは俺がどうにかしてた」

「でもちょっと安心した。フータローもそういうことに興味あるんだなって」

「安心って、もうちょっと危機感持てよ。いや、俺が言うのはどうなんだってのはあるんだが」

「でも、一花や二乃ともあんなことしてたんでしょ?」

「……」

 

 この場合の沈黙は肯定とみなされるだろうか。

 しかしどの道、二人にしたのと同じ事、と言われてああなったわけだ。

 もはやどうにも言い繕うのは困難だろう。

 

「あの続き……期待しても、いい?」

「……馬鹿言ってんなよ」

 

 口では否定したが、体の方の反応は真逆だった。

 期待しているのは俺の方だった。

 いつだってそうだ。

 自分の中の衝動を抑えようとしつつも、どこかで解放することを望んでいる。

 三玖の顔を見ることが出来ない。

 見てしまったら確実にそちらに傾いてしまう。

 

「も、もうこの辺まで来たら大丈夫だな!」

「あっ……」

 

 悪いとは思ったが、少し強引に手を離す。

 触れた外気がやけに冷たかった。

 アパートはこのまま真っ直ぐ行けば見えてくるだろう。

 俺も早く帰ろう。

 そして無心で勉強だ。

 

「待って」

「……まだ何かあるのか?」

「こっち見てよ」

「断る」

「む~~……!」

 

 不満そうな唸り声を上げるが、もはやどうしようもない。

 精神力を総動員して三玖を視界から外し続ける。

 しかしそれは相手の行動が把握出来ないということで――

 

「……えいっ」

「うおっ」

「んっ――」

 

 引っ張られて前のめりになる。

 何事かと確認する前に、首元に吸い付かれる感触。

 三玖の匂いがはっきりと感じられた。

 

「いづっ!」

 

 一際強く、痛みを感じるほどに吸い付いたかと思うと、三玖の匂いは離れていった。

 呆然と吸い付かれた箇所を触る。

 少し濡れていた――きっと痕が残るだろう。

 

「とりあえず予約しといたから」

 

 じゃあねと言って三玖は去っていった。

 後ろ姿が小さくなったところで、ようやく俺もショックから立ち直った。

 ……まさか三玖にまでしてやられるとは。

 この敗北はそれを取り返そうとすること自体、次の墓穴だろうか。

 結局、体の昂ぶりが蟠ったまま家に帰る羽目に。

 言うまでもないが、それ以降は勉強に身が入らなかった。

 そして次の日から三玖が弁当を渡してくるようになるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 




なんか思ってたよりも真面目な話になった……

ちなみに、三玖はキスマークが消えるたびに更新していきます。
ある時期を境にそれがなくなるそうですが、何を意味しているのかはさっぱりわかりません。

次回は末っ子です。
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