新作アニメが制作決定した記念というわけではありませんが、頭の中にだけ存在していたエピソードを投下しておきます。
時系列はタイトルで察してください。
青春クソ野郎と呼ばれた男・アフター
「髪を染めようと思う」
秋の深まりが高じて冬へと移り変わる季節。
放課後の中野家のリビング、恒例の勉強会を終えようというタイミングだった。
真剣な表情で風太郎がおもむろにそんな事を口にした。
その真意を計りかねて、飲み物を用意していた二乃と開いた問題集に顔を埋めていた五月は、揃って怪訝な顔をした。
他の姉妹はバイトやら撮影で席を外しているが、もしこの場にいたら同じ反応をしただろう。
「フー君、もしかして疲れてる?」
「受験が控えているとはいえ、無理はいけませんよ」
常とは違う雰囲気と言動に、当然二人は心配した。
はっちゃけていた過去を持つ風太郎だが、現在は外見に無頓着なガリ勉君である。
残念ながら素行の方は女性関係という一点で潔白と言えないのだが、明るい髪色でウェイウェイ言っているような連中とは対極に居ると言ってもいいだろう。
その風太郎が突然、髪を染めるなどと言い出したのだ。
受験勉強に一花との撮影にバイトに、忙しくしているのはもちろん知っている。
ここは疲労で少しおかしくなったのだと、二人はとりあえず結論づけた。
「勘違いするな、俺は正気だ」
「とりあえずココア用意したから飲みなさいよ」
「なんだったら秘蔵のおやつもご馳走しますよ」
「やめろ、気遣うな。正気だっつってんだろ」
とは言いつつもココアを受け取って口をつけた風太郎は、深く息を吐き出した。
どうやら疲労が溜まっているのは確かなようだ。
労わるような二人の視線に堪えかねたのか、続けてポツリと漏らした。
「要するにな、舐められてんだよ」
一体誰に何を舐められているのか。
日本語が奥ゆかしいと言われる一因は、言葉の省略にあると言えるだろう。
しかしながら、認識を正しく共有出来ていなければ、そこにあるのはただの空白でしかない。
そしてその空白は、二人が想像の翼を広げるには十分過ぎた。
二乃は行為の最中のアレコレを想像して頬を薄く染めた。
一方、五月は寒い時期に食べるソフトクリームも乙なものだと喉を鳴らした。
二人が明後日の方向に想像を展開していることを悟った風太郎は、説明を続行した。
「ふむふむ……つまり、見た目が地味なのに派手なことをしているから、余計に目立つと」
「なら、いっそ見た目も派手にしちゃえばってこと?」
苦々しい顔で首肯した風太郎に、二人は顔を見合わせた。
舐められてるだとかそういう言葉が出てくるあたり、昔のやんちゃ時代の片鱗がうかがえる。
普段から他人の言うことなど知ったことではないと公言してはばからない風太郎だが、今はそれがバッチリと揺らいでいた。
疲労のせいもあるだろうが、相当に追い詰められている証拠なのだろう。
そもそもそんな事をしても今更どうしようもないというのが、正直な感想ではあるのだが。
それだけ後夜祭の出来事が残した爪痕は大きいのだ。
中野姉妹も当事者ではあるのだが、幸いな事に周囲からの当たりは柔らかい。
五股されている被害者と見られているためか、そもそもの人との関わり方の問題か。
高校生活の大半を周囲との間に壁を築いていた風太郎とでは、受け取られ方が違うのだろう。
「しかし、髪を染めるというのは……」
「ええ、そうね」
「なしだと思います!」
「ありね、あり寄りのありよ」
「「……は?」」
似たような仕草で考え込んでいた二人の意見は、綺麗に別れた。
別れたかと思えば、次の瞬間にはお互いを信じられないとでも言うかのように見合う。
顔の作りはおろか表情までも一緒なので、髪型に目をつぶれば正に鏡写しだ。
「ありとはどういうことですか」
「そっちこそなしってどういうことよ」
「当たり前です。髪を染めるなんてチャラついてます、不良です!」
「いつの時代の話よ。今は明るい髪色だって市民権がちゃんとあるんだから」
「そもそも二乃が賛成してるのは、そういうのがタイプなだけですよね」
「そうだけど?」
「開き直り! もっとちゃんと上杉君の将来を考えてください!」
自分の欲望にストレートな姉に、五月は抗議の声を上げた。
その頭の中では、チャラくなった風太郎が悪い友達と付き合い始め、順調に道を踏み外していく転落人生が展開されていた。
二乃は頭を抱え始めた妹を呆れた目で見つめる。
真面目であるが故か物事を重く受け止めがちで、思いつめた結果暴走行為に走る。
言うまでもなく五月の悪癖である。
暴走癖に関しては決して人のことを言えないのだが、自分のことを棚上げするのはお手の物だ。
ともかく次に口を開かせれば、どんな突飛なことを言い出すか。
髪を染めるとは真逆の方向に考えを巡らせた末に、頭を丸めろなどとのたまうかもしれない。
ないとは思うが、万が一にでもそんなことをされたら堪ったものではない。
余計なことを言い出す前に、とりあえず頬をつまんで引っ張っておいた。
「いひゃいいひゃい、いひゃいれふ!」
「何考えてるのか知らないけど、髪を染めたくらいで大事になるわけないでしょ」
「本当ですか? 二乃はお父さんの前でもそうやって言えるのですか?」
「うっ……」
涙目で頬に手を当てた五月の指摘に、二乃は言葉を詰まらせた。
確かに五つ子の父はチャラついているというか、不真面目な人間を好まないだろう。
現状は幸いな事に自分達の関係を黙認してくれているが、印象が悪化したらどうなるか。
それでも、イケイケになった風太郎を見てみたいという欲望は抑えられなかった。
ならばどうするか……答えは、妥協点の模索である。
「こ、これぐらいなら良いわよね?」
「却下です、明るすぎます」
「じゃあこれは?」
「全然ダメです」
「あーもう! じゃあなんだったらいいのよ!?」
「これならOKじゃないですか?」
「ほぼ真っ黒! ならこれでいいじゃない!」
「どうしてまっキンキンになるんですか!」
二人は次第にヒートアップしていく。
自分で持ち込んだ話題だというのに蚊帳の外に置かれつつある風太郎は、静観……というよりも口を挟むことができなかった。
そもそも経験上、ここで余計な口出しをしたら面倒なことになるのはわかりきっていた。
かといって放置するのなら、やっぱり後々に面倒なことになる。
どちらがいいかと天秤にかけて、風太郎は現実逃避気味に自分の勉強を始めた。
後回しにしたら誰かが帰ってきて、何とかしてくれるかもしれない。
火種を持ち込んだ張本人のはずが、バリバリの他力本願である。
「ただいまー、って何事?」
「また喧嘩?」
そんな願いが通じたのか、一花と三玖が同時に帰ってきた。
リビングに入るなり、にらみ合っている二乃と五月の姿だ。
二人は説明を求める視線を風太郎に投げかけた。
問題集に没頭することで気づかないふりをしたが、左右に陣取られて息がかかるほどに顔を近づけられては、いくらなんでも無理がある。
観念したように顔を上げると、風太郎は事のあらましを二人に語った。
「なるほどねぇ、結構気にしてたんだ」
「別に気にしてねーよ。ちょっと気に食わないだけだ」
「よしよし、辛かったね」
「やめろ、撫でんな」
二人の労りの手は非常に心地よかったが、風太郎にも意地がある。
そもそも髪を染めるなどと言い出した時点で、意地もへったくれもないのは秘密だ。
「そっかぁ、フータロー君が髪をねぇ」
「意外……でもないのかな?」
「うーん……正直見てみたいし、ありじゃない?」
「なしだね。フータローはこのままが一番」
「「……は?」」
同じように思案していた二人の意見は、やはりというか綺麗に別れた。
その後のにらみ合いも含めて非常に見覚えのある状況に、風太郎は顔をしかめた。
「ダメ、絶対ダメ。髪染めたら和服が似合わなくなっちゃう」
「えー? 今時外人さんだって着物着てるような時代だよ? どうとでもなるよ」
「というか一花、面白がってるでしょ」
「いやぁ、あはは……そんなことないよ?」
「む~、フータローが悩んでるんだから真面目にやって」
「ごめんごめん」
悪戯っぽく舌を出した一花を、三玖は半眼で見つめた。
大抵の男子はこれで誤魔化されるだろうが、姉妹相手にはそうはいかない。
一花は肩をすくめると、正直なところを話し始めた。
「まぁ面白そうってのはそうだけど、気分転換にはいいんじゃないかなって思うよ」
「本当にそれでいいの? もしかしたら大変なことになっちゃうかもよ」
「というと?」
「……フータローに悪い虫が付くかも」
三玖はそれはもう深刻そうに口を開いた。
頭の中には、チャラついた風太郎が自分たち姉妹以外の女子を侍らせている光景。
つまりは恒例の妄想である。
男は狼という言葉が風太郎にも当てはまるのは、自分の身を持ってよく知っていた。
無論、風太郎からしたら中野姉妹で手一杯なので、そんな余裕など存在しない。
それは髪を染めたところで変わることはないだろう。
一花としても三玖の危惧するところは理解できるのだが、あまり心配はしていなかった。
「それならさ、私たちで目を光らせておけばいいんじゃない?」
「そうかな……そうかも」
「だからさ、別にちょっと髪の色が明るくなっても――」
「でもやっぱりそれはダメ」
「あららー」
三玖の不安を解消して自分の側へ引き入れようとした一花だが、そう簡単にはいかなかった。
やはり和服には黒髪という点は外せないようだ。
一花も一花で普段なら場を収める立ち回りをするのだが、今回ばかりは例外なようだ。
それは風太郎の髪を染めた姿が見られるかもしれないという状況に、幼い頃の初恋の記憶が大いに刺激された結果か。
「一花、加勢するわよ」
「三玖、ここで引き下がるわけにはいきません」
食卓の向こうでにらみ合っていた二人が合流し、事態は二対二のチーム戦へと様相を変えた。
賛成陣営には一花と二乃が、反対陣営には三玖と五月が。
面倒極まる状況に、風太郎は無性に帰りたくなった。
帰って妹の無邪気な笑顔に癒されたかった。
実際に荷物をまとめてこっそり出ていこうともした。
しかし、都合四本の手がそれを許さなかった。
「どこ行こうとしてるのかなー?」
「まだ話は終わってないんだから」
「帰っちゃダメ、ここにいて」
「そもそもあなたがこの話を始めたんですから、ちゃんと責任を持ってください」
「……ハイ、ソーデスネ」
多人数に強い力で肩を掴まれてしまえば逃れる術はない。
そもそもの責任の所在を追求されてしまえば尚更だ。
やや投げやりに返答して振り返ると、風太郎は諦念に身を委ねた。
「……どゆこと?」
リビングに正座させられた風太郎と、その左右に分かれて議論を白熱させる姉妹を見て、帰宅するなり四葉は目を丸くした。
話している内容はさっぱりで、ただいつもの裁判とは違うというのだけは感じ取っていた。
とりあえず状況的に、風太郎が何かをやらかしたことだけは辛うじて理解できた。
「四葉、いいところに」
「ずっと平行線で困ってたところだわ」
「票が偶数だと、綺麗に割れちゃうから」
「えぇっと、何の話?」
「つまり四葉、あなたが最後の鍵なんです……!」
五月に力強く肩を掴まれ、四葉は大いに困惑した。
誰一人として状況を説明しようとしないので、無理からぬことだ。
仮にスポーツの場なら、その双肩に勝負の行方を委ねられることもよくあるのだが。
事情を飲み込めない四葉に、風太郎を指差して姉妹は容赦なく決を迫った。
「「「「黒髪と金髪、どっち……!?」」」」
いきなりそんなことを言われても、というのが普通の意見だろう。
こんな状況に至った背景だとか事情だとか、そういったものがすっぽりと抜け落ちている。
判断材料というものが乏しければ答えに淀みが出るのが、知性ある人の性というもの。
しかしその点において四葉は別格だった。
学力が平均的に低い五つ子の中にあって、おバカと評される頭の作りは伊達ではないのだ。
考えてもわからないのなら、考えなければいい。
オーバーヒートを避けるために、半ば反射的に四葉は返答した。
「どっちでもいいよ。だって風太郎君は風太郎君だし」
過去と現在、そのどちらも四葉にとって大切なものだ。
だからどっちというわけではなく、どっちもなのだ。
京都で出会った金髪の風太郎も、高校で再会した黒髪の風太郎もなんら変わらない。
どんな姿になろうと、自分が相手を好きであることに違いないのだから。
四葉の答えに、四人は憑き物が落ちたかのように嘆息した。
今回ばかりは一人勝ちを認めないわけにはいかなかった。
こうして姉妹を二つに割る議論は終結を迎えた。
感極まった風太郎が四葉に抱きついたことでまた一悶着あるのだが、それはまた別の話だ。
というわけで正史の嫁は強いねというお話でした。
ところで話は変わるのですが、最近五期を視聴して久々にデートアライブを全巻一気に読破してしまいました。
おかげですっかり熱が再燃してしまいました。
ですので、酔った勢いで初対面の令音さんとワンナイトラブをかました新米教師の士道君が淫行教師と謗られながら世界を守るために精霊たちを攻略していく、みたいな話を誰か書いてくれませんかね?
供給がなければまたこの右手が勝手に書き出してしまうので、どうかお願いします!