貞操逆転世界で地味根暗系目隠れ天才美少女幼馴染にツバをつける話   作:鵺丸

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日常

 

 

覚醒――。

 

男――太陽はパチっとその大きな目を開いた。

 

 布団からはみ出た肌に朝のひんやりとした冷めたさを感じてぶるりと小さく身震いを一つ。

 

 上半身を起こし、壁一面に配置された額縁に飾られた写真を一つ一つ丁寧に目でなぞる。両親、弟、友達、そして美夜子をみて靄がかった頭は明瞭になる。

 そのまま寝る前につけたマスクを外し、ぷちぷちと幾本のコードをはずしていく。最初はまごついた動作もこの身体に生まれ変わって十数年で慣れ、今は流れるように終わった。

 

 ベットから降り、てつてつと窓際に近づきカーテンを開けて外をのぞく。

 

 曇り。

 

 先週の晴れは見る影もなく空は薄く灰色の雲がかかっている。

 

はぁ。

 

 前々から天気予報で分かってたとはいえ実際に目にすると気落ちするもので、小さく息を吐く。今日くらいは晴れて欲しかったな……。

 

「んーーっ」

 

 せめて雨だけは降らないでほしいと思いながら、ゆっくりと足先から手の先まで身体を伸ばす。

 

とはいえ今日はデートの日。――勝手に自分で言っているだけだが。

 

 そう思えば外は曇っていても心は晴れやか。

 

 ルンルン気分で事前に用意して掛けてあった先週買った服をハンガーから外して、身に着けていく、当然一度も着ていないので、しわもなければよれもない。親友に選んでもらったそれに似合っているかどうかの不安もない。新しい服に袖を通すというのは、気持ちのいいものだ。

 今日は寒そうだから上着を持ってかないと寒そうだ、と思って上着も持ってと。

 

 着飾り終わって、よしっと一言。荷物を持って部屋を出る。

 

 

 隣の部屋で寝ている弟を揺り起こしてから階段で下に降り、洗面所に入って顔を洗って、鏡を見ながら髪型を整え全体を見やる。

 

 結構、いいんじゃない? 自分で見ても納得の出来栄えに首を縦に振る。これなら隣に立っても最低限恥ずかしくないだろう。

 ただ映画に行くっていうだけなのにここまで気合を入れてしまう自分に苦笑する姿が鏡に反射する。でもそれでいい。

 普段しないようなことをしたので、時間が経つのが早くてびっくりする。 テレビの音と父が朝ごはんを用意する音が洗面所にいてにも耳に届いてきた。

 

 そうやってリビングに入ると朝ごはんのいい匂いが鼻に入ってくる。既に食卓には家族全員が揃っていた。

 

北家ルールその一『朝ごはんはみんなで食べましょう』その二はない。

 

「太陽きたよ二人とも、いただきます、しますよ~」

「んぁー」

 

 用意を終えて席に着いた父が、幼子に語り掛けるようにそれでいて鳥のさえずりのように声を震わせ、それに母と弟の鳴き声が続く。

 朝が苦手の二人は目を半開きにして、まだ舟をこいでいた。

 

 母と弟は似ていて俺は父似。母を父が起こし、弟を俺が起こすのはいつもの日常だ。

 

「いただきます」

 

 四人声を揃えて両手を合わせる。そうして、北家の朝は始まった。

 

 まずは全員がその湯気の立つ味噌汁を啜る。ずるる。ぷはぁ……あったかくておいしい。朝の味噌汁がいっちばん旨いのだ。

 味噌汁を飲んでようやく目が覚めた弟がこちらを見て一言。

 

「にーちゃん……かっこいい」

 

ぽやぽやと言葉を漏らすその可愛らしさ口角を緩め頭を撫でる。うちの自慢の弟です、あげませんっ!

 

「ありがとう」

 

 俺の手を感じながら目を細めるに、さらに心が籠る。

 

かちゃりちゃかちゃりと食器と箸がぶつかる音とテレビの音がリビングに響いている。 

 

 そうして食べ進めていると、テレビのニュースにピクリと目と耳が反応。何やら海外での上半身を晒す男性の抗議運動が取り上げられていた、女は上半身裸はよくて男はだめなのは女男平等ではないとかで、そういうデモ活動があるのだそう。昔の俺を見ているようだ。俺も上半身裸で海に行きたい。

 

母はテレビに目を向けて、

 

「やっぱり海外は進んでるなぁ」

 

 指に顎を載せながらそういう。俺のには怒ったのに……。

 

 そんな母に父は胡乱げな目を向けて、俺も一緒に呆れを込めて視ているとわたわたと慌てたように、いや戦略的思考を養うためだから、情報収集と分析だから、と父に言い訳をして違う番組に切り替えた。焦りすぎだろ。

 

 取り繕ったように、こほんっ、と一拍置いてからテレビから目を離して少し声を低くしてこちらに声をかけてくる母上。威厳あるなぁ……。

 

「今日は美夜子ちゃんと、デートなんだって? お父さんから聞いたよ、あんまり動き回って美夜子ちゃんに迷惑かけたらだめだぞ? 」

 

 朝は家族コミュニケーションの場、直近な出来事の議題があげられた。

さっきのアレは嘘のような声音に俺への……愛が伝わって相好をくずす。

 

「もう、子供じゃないんだからそんな心配しないでよ母ちゃん……」

「いやぁ……太陽は昔から目を離せばすーぐどっか行って父ちゃんを心配させるのが得意技で、わんぱくでやんちゃで外に行っては服を泥だらけにして帰ってくるような子だからなぁ」

 

目を遠くにしてそう言葉を紡ぐ母に言い返せない俺も俺だけども。

 

「まあまあ、お母さんそれくらいにして……ボクは太陽が元気なのが一番だよ? 美夜子ちゃんとのデート、楽しんできてね?」

 

そうウィンクしてその話を終わらせる父ちゃんに、うん、と素直に頷く。

 

「がんばってぇ……」

 

 子供用フォークにウィンナーを差して持ちながら、若干また寝かけている弟の触り心地のいい頭をもう撫でして、壁に掛けられた時計を見ると八時半。あわわ、平日よりもゆったりとした空気に忘れていたが予定は九時からである、まあ待ち合わせ場所は俺の家とミヤの家の間なので大丈夫だけれど。それでも少し急いでちゃっちゃかと食べ進める。

 

「ごちそうさまでした、おいしかったです。ありがとう。」

 

食べ終えて、手をしっかり合わせ父に感謝。

 

「おそまつさまでした」

 

にこにこする父。

 

 空いた食器をシンクに片づけてからまた洗面所に向かって最終チェック、左を向いてヨシッ! 右を向いてヨシッ! 指さし確認、ヨシッ!

 時間は八時四五分ちょっと早いけどいいかな。

 

 

 

「いってきまーす」

 

 そう玄関で声をかけると、ぱたぱたとスリッパの音が聞こえてリビングから父ちゃんがでてきた。

 

「折り畳み傘も、もっていったほうがいいよ?午後は降水確率七十五%らしいから」

「そうなの?」

「うん」

 

りょーかい、と返事をして、シューズクロークをひらいて中にある青色の折り畳み傘を取り出してバックに入れる。

 

「忘れ物はない?」

 

 心配そうに眉を下げてそう言う父に、大丈夫だよと言葉を返す。必要なものは昨日のうちにすべて確認してバックに詰めてあるのだ。ふふん。自分の才能が恐ろしいね。

 

「んじゃ、いってくるね」

 

と、手を振る俺に陽だまりみたいな笑顔を浮かべて父ちゃんも手を振り返してくれる。

 

「いってらっしゃい、お母さんじゃないけど車に気を付けてね、美夜子ちゃんから離れちゃだめだよ?」

「わかってるよ~!」

 

 そして数度かのいってらっしゃいといってきますを繰り返して玄関をでる。

 服の間から入ってくるすっかり冬になった気温に首をすくめて、手に持っていた上着をすぐに羽織る。

 あぁーぁ、できれば上着を着てない状態を最初に見せたかったと思うのは女々しいだろうか。こちらじゃ雄々しいか。ならいいのか?

 そんな自問自答をしながら玄関から踏み出して斜め前を見るとすでに待っている彼女(ミヤコ)の背中が見えた。

 

 定番のアレをやるチャーンス、と思い、そろりそろりと足音を殺して近づく。そうやって近づいて見たミヤの耳はもう真っ赤でいつから待ってたのと茶化したくなるくらいだった。

 意外と音を立てても気づかない、そんな彼女の瞳を後ろから塞ぐ。塞いだ俺の手が冷たくなるくらい顔もひんやりとしていた。

 

「だーれだ?」

「え、え。た、たーくん?」

 

こんなこと俺くらいしかしないだろうに、おどおどと答えるミヤについクスりと笑みが零れる。

 

「正解。まった? ごめんね、寒かったでしょ? 」

「う、ううん。ま、待つのは得意だし、待ってたいたかったの」

 

 そういうミヤから手を外して正面から見た彼女はいつも勿論かわいいが今日はもっと素敵な衣服で着飾って、妖精かと思うくらい神秘的な可憐さだった。いつものその長い前髪は可愛らしい青色のピンでとめてあって、隠している瞳は大胆にもさらけ出し、その魅力を俺の目に焼き付けてくる。

 

「今日もとっても可愛いね、ミヤちゃん」

 

 ぽつりと口から洩れた嘘偽ない言葉で彼女を褒めたたえると花が咲いたかのように笑う美夜子。あれ?冬明けた?

 

「たーくんも、すっごくかっこいいよ?」

 

 さっきみたいにおどおどせずに真っすぐこちらに伝えてくるミヤに逆に俺がたじろいでていると、自然に手を差し出してきた。

 

「寒いから、手つないで行かない?」

 

 えっ、この子大胆……。と思いながらおずおずと俺も手を伸ばす、家から出たばっかで俺のホカホカな手と冷え冷えなミヤの手が重なった。

 うわぁ……なんか……うわぁ。その端正な横顔をチラチラと覗いている俺とは正反対に、どこか大人びた顔で前を向いて、さぁいこう、と家からほど近いバス停にさっさと足を進めるミヤ。

 

 俺がドキドキさせてやるんだと意気込んでいたのに……。逆でしょこれ……。

 

 そうやって俺が頭の中で忙しなく議論を展開して、着いたバス停の前で待つ俺たち。その服かっこいいね、どこで買ったの? 今から行くところで買ったよ。へー、誰といったの? 山田と糸くん――

 

 そんな取り留めのない会話をしながら、定時にしっかりと遣ってきたバスに乗り込んだ。

 

 

 あぁ……、楽しみだ。

 

 




■母
営業マン。忙しいけど家族のために精一杯時間を作る。寝坊すけ。

■弟
九歳。寝坊すけ。
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