幾何かいな文字模様が描かれた壁に柱に天井、それは読むことは出来ないけれど不思議と僕を怖がらせた。
「おーい、―――!早く早く!遅れちゃうよー!」
「あっ、うん、今行くから」
前を行くトレーナーは、足を止めた僕を呼ぶ。それを聞いて足を止めこちらを向くエアシャカールが呆れ顔で僕をみた。僕は手の平の側面向けて謝りながらついて行った。
此処はなんか凄い建物だった。一通の豪華な装飾の手紙に導かれた不思議な不思議な建物。いつ建ったのかも解らない此処で僕達はレースをする。なぜだか僕は無性に興奮していた。だって、意味分かんない物。でも、走りたいって思いが強かったから納得しちゃった。トレーナーを追いかけるこの瞬間も心が踊るから。これは良いものなんだって!だから、僕は埃一つない幾何学模様の地面を蹴った。初速を殺さない様に二の足を蹴って進んだ。驚くトレーナーと呆れたシャカールに跳んで抱きつく。ああ、顔が痛いやシャカール。
「ガキか、はしゃいでねーで廻りをよく見てろ」
「――フガッフッゴ、ブッ!」
「シャカール、アイアンクローはやめて上げて。――も落ち着いてね」
舌打ちしながら腕を下ろしたシャカールと地面にベチャる僕。トレーナーに介抱される僕を腕を組んで見守るシャカール。何時もの光景かな、思わず口からタハハと弱々しく溢れた。それで怪訝そうに見るシャカールとトレーナー。いつまでそこで遊んでいるのかと僕らを呼ぶ黒服サングラスに連れられて、僕らはトレーナー室特別支店に赴いた。
「さて、ようやくのご到着だが、時間も迫っているので手短に説明しよう。君達に届けられたのはこのまだ名もない神殿で行われるウマ娘達によるレースの招待状だ。そこに記された時間に向こうのゲートを潜ってレース場に行って貰う。レース条件は向こうで知らされるからここでは言わない。時間までこの部屋は自由にしてくれて構わない。では、心地良い時間を過ごしてくれたまえ」
そう言って、黒服サングラスは煙に撒かれて消えて行った。この場に残ったのは、眉を捻って考えてるシャカールとゲートを見つめるトレーナーに周囲が気になる僕だ。だから、最初に動いたのは慌てて戻って来た黒服サングラスだった。わざとらしく汗を拭う黒服サングラスに僕らはじっとりと見つめ返した。帰って来た黒服サングラスは僕達を見ずに、この部屋以外にも部屋が有るという必要かどうかは解らない情報を残してまた消えた。忙しない奴だ。トレーナーもそう思ったのか消えた跡を見て溜息を溢していた。
まあ、ともかく自由行動である。招待状に記された時間までは後、半日程度時間があった。トレーナーは部屋にあった硬そうなソファに座って休むそうで、硬さを確かめながら横になった。シャカールの方は、調べ物と部屋を出て行った。なら僕はこの部屋を探索しようと、壁伝いに見て廻る。一周して戻って来たが、解った事は何も無く、硬い石の感覚が僕の手に残るのみだった。そうだ、僕も外に出ようと歩き出した。
入って来た時は気づかなかったけど浮遊する照明や頭を引くワイヤーレスのエレベーター等、地球の法則とかを無視してる物や手回しで開く扉に井戸と言った古いのか解らない物達が同居していた。とりあえず、エレベーターには3回乗った。でも、不思議と人やウマ娘にすれ違う事は無かった。
トレーナー室に戻った僕は、トレーナーやシャカールがいない事に気づいた。その代わりに、黒服サングラスが茶を啜っていた。一瞬、部屋を間違えたと入ろうとした足を止めるも、来た道をそのとおりに戻って来たから間違い無いと僕は部屋に入った。
「おや、―――君、此処は君達の部屋では無いよ」
「あれ、そんな訳ないじゃないですか。僕は来た道を戻って来たんですよ?こう見えても帰投本能は優秀ですよ?」
「そうなのかい?でも、君達の部屋は此処の下のはずだけど」
「下?」
「そうだ、ちょうど此の部屋の下が君達の部屋だ。似たような構造だから間違えたのかもね」
「ムム、恥ずかしい、お邪魔しました」
「次は間違えないようにね」
そして、僕はエレベーターに3回乗って部屋に戻った。部屋にはシャカールがいた。部屋の壁をじっと見つめてボソボソとなにかを呟いていた。見ていて怖かったのでトレーナーの元に潜りこんだ。あったかい。
「――、おい、起きろ」
「…ん、…寒、…何?」
「時間だバカ」
いつの間にか寝落ちていたようだ。トレーナーも反対のソファでこっちを見ていた。起き上がって伸びをする。硬いソファだからかゴキって言う。シャカールが面倒臭そうに寝癖を治す。トレーナーが笑顔で僕らをゲートに促す。体操服に着替えた僕らはゲートに向った。
レースは黒服サングラスが勝った。意味がわかんない。