俺、女になったけど本当に何も変わらんかったよ。

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TSしたけど何も変わらん

「別に女になってもやることは変わってなくね」

 

俺がそう言うと浩太はこちらに顔を向けず

「そうだなー」と適当に答えた。

部屋の中にはコントローラーを操作するカチャカチャという音とゲームの電子音が響く。休日で雨も降っているからお互いにやることがなく、約束をしたわけでもないのに気づけばこの部屋に来ていた。病気で性別が変わる前からこんな感じだから、別に今更気にすることだとは思わないが、女子が普通に男子の部屋に入ってくるのはいかがなものかともしも他人として今の自分を見たらそう思うかもしれない。

 

「アイテムとるなよ」

 

浩太のそんな言葉に特に感情は籠っておらず、口に出しただけでそこまで気にしてないように見える。二人で飽きるほどやった格闘ゲームの1プレイにすぎないのだからそんなものなのだろうか。

カーテンから漏れてくる光は昼間にしては控えめで、耳を澄ませば若干音が聞こえてくるのでまだ雨が降っていることがわかった。今日1日こうして二人で何にもならないことをして過ごすのだろうと簡単に想像が出来て、俺は惰性のまま話を続けた。

 

「女になったからって急に女子と仲良くできるわけでもないし、割り切って男と付き合おうと思えるわけでもないし。」

 

実際生理や身支度などに慣れてしまえばあとは別に変わったことなどなかった。最初の一か月くらいは心配して色々教えてくれる女子、逆に警戒する女子もいたが、時間が経てば元の距離感に戻っていったし、女子になったからといって特に人間関係で利点を感じたことはない。恋愛対象が急に男に変わるわけでもないのでむしろ前より寄ってくる男子には若干のわずわらしさを感じていた。総合で言えばマイナスのようにも思える。病気だからそれは当たり前か。

 

「あ、まだその話するんだ」

 

これもまた無感情に浩太が言う。

 

「悪いか」

「興味ねーもん」

 

こうもバッサリと自分から振った話題を切られると誰だって多少の憤りを感じるはずだ。現に俺はコントローラーを握る手に力が入っている。強くスティックを弾いて攻撃をすると、軽く浩太にそれが避けられた。脳内の思考が「こいつをどうにかしてこらしめてやりたい」というものに固められてしまった一瞬だ。

 

それを悟られてしまっては子供みたいといじられるだろうし、なにより俺自身子供みたいだと思ってしまっていたので、努めて柔らかい口調で俺は言った。

 

「そういえば。1つ大きく変わったことがあったなぁ。誰かさんの視線がよく胸のあたりにいくんだよなぁ。」

 

煽るための文言でしかないが、事実、奴は俺が女になってから何かと胸を見てくる。最初こそ面白いと思って放置していたが、最近はそれに飽きてきたのでタイミング的にはちょうど良かった。

 

「は?お前が俺のちんこ見てるからなんだけど」と、浩太は食い気味で無茶苦茶な反論をしてくる。この日初めてまともに感情を見せた浩太に対して笑ってしまいそうになる。逆の立場だったら俺も必死に弁解するんだろう。俺たち思春期の男子には厳しすぎる一言だ。

 

「見てねーよカス。流石にそれは無理があるだろ。」半分笑ってしまっていたが口調だけでも突き放すようにしてみる。

 

「俺がお前の胸見てるのも無理ある。証拠がない。」

 

動揺した浩太に遠距離から攻撃を仕掛ける。さっきは簡単に避けられていた攻撃が吸い込まれるように全て当たっていく様子は愉快としか言いようがなかった。

 

「俺が見られてると感じた」

「痴漢冤罪みたいだなしょーもな。おい同じ技連打するのやめろ。」

「やめろって言ってやめるやついねーよ。」

 

そのまま浩太の操作キャラが画面外にはじき出されると小気味よい音楽ととともに“GAMESET”の文字が大きく画面に映し出される。

悔しそうにこちらを見つめる浩太に対して指を差し一人で大笑いをしてやりたかったが、俺は大人なのでそんなことはしない。

画面がキャラ選択画面に戻ったが、浩太はやる気がないのかコントローラーをローテーブルに置いた。

 

「お前最近五十嵐とよく話してるよな」

 

話題が別の方向に変わっていたがさっきみたいにいじめてやるつもりはなかったのでそれに関しては特に何も言及しないことにした。

 

「席近いしそうかも。それがどうしたよ。」

 

五十嵐義友の顔が脳内に浮かんでくる。ニキビなどのできものが同級生の男子にしては珍しくほとんどない、自信に満ちたあの顔だ。野球部で誰にでも分け隔てなく接してくるタイプの人間で悪いやつではないのだろうが、声の大きさや歯に衣着せぬ言い方があまり好きになれない。

 

「あいつ陽キャじゃん。お前が陽の側にいってしまったら俺一人じゃん」

 

と、しょげた顔で言う浩太に対して、本音を言ってやれば安心するのだろうが、面白いのでこのままにしておくことにした。

 

「めんどくせーやつだなお前」

「寂しいもん」ベッドに顔をうずめる浩太。

「きめー」

 

コントローラーを投げつける。暗に早くキャラを選べと言ったつもりだったが通じてないようだ。ベッドに乗りかけている浩太の尻を数回蹴るとようやく動き出しコントローラーを握った。

 

「というかお前も最近は久留木さんと話してるじゃん」

 

ゲームが始まる数秒前、俺はそう言った。久留木は同じクラスの女子で、長い黒髪が特徴の女子だ。前に「髪長いと手入れ大変だしやめといた方がいいよ」なんて言っていたのが印象的だ。では、なぜあなたは髪を伸ばしているのでしょうか、という疑問も含め。

一瞬、浩太の顔がこっちを向いた。動揺しているのが隠しきれておらず、少し黙ってから

「バレたか」と言う浩太は滑稽に見えた。

 

「美人だしな。嫌でも目に付く。」

 

最近、2人セットで見かけるということが多発している。他人は別にそうでもないと言うが俺の中では多発している。事実本人も認めているから俺の見る目は確かだ。

二人が話しているのを見ても特に何も感じはしないし、親友に彼女が出来るのだから悪いことではないはずだが、何か先を越されたみたいで悶々としている自分がいるのもまた事実だった。

 

「違うだろ。お前が見てるのは俺の股間。」下品すぎて笑ってやろうという気すら起きない。

「久留木さんの前でそういうこと言うなよ。マジで。」

「言わねえよ。多分。」

「多分て」

 

多分コイツ自身も自分の抜けているところを自覚しているからそう付け加えたんだと思った。

 

「けど結構いい感じだよな。傍から見てるとちゃんと仲良さげ」

 

本当にいい感じに見えることもあって(いい感じなのがムカつく)“多分”が大分惜しいとも思うが。俺の言葉を聞くと浩太はニヤリと笑った。

 

「わかるか。今、『流れ』が来てるんだよ。趣味とかも結構合ってさ」

 

「ふーん」とそっけない返事をしてしまう。黙っていると惚気られそうだし、それはそれでいらつくのでこっちから訊ねる。

 

「例えば」

「映画、とか」しどろもどろになって浩太は答えた。

「お前が映画の話してるの見たことねーよ」

「だから今度教えて」

「いや、まあ。いいけど。」

 

やったぜと喜ぶ浩太を見て、内心、俺は驚いていた。浩太は小さい頃から他人に合わせるのがあまり好きなタイプではなかった。俺はそれこそ家が近くでなにかと遊んだり、あとは俺が連れまわすからこいつももはや諦めているんだろうが、基本友達もいない。

そんな浩太が相手の趣味に合わせて、話そうとしている。それだけ久留木のことが好きと言うことなんだろうか。

 

「じゃあ学校で話しかけない方がいいか」

 

そう考えた時に俺の口からそんな言葉が自然と出てしまっていた。「いや、違うだろ。」と内省する。少し距離を置くとしても言葉にする必要なんてない。相手に負い目を感じさせる必要なんてなかったはずだ。

 

ちらっとこちらを見た浩太と目が合った。すぐ画面に視線を戻し、

「なんで」と浩太はまた最初のように平坦な口調で言ったが少しそれが怒っているようにも見えた。

 

「俺みたいな美少女がいたら久留木さん勘違いするだろ」

 

怖くなって冗談みたいに言ってみたが、浩太の表情は変わらなかった。あはは、と笑ってみても空気は凍ったままだ。画面が暗くなった。気づけば浩太の手にはリモコンが握られていて、それでテレビを消したことを即座に理解した。

 

「しねーよブス。というかお前が男なのみんな知ってるだろ」

 

強い口調でそう言う。ブスと言われたのが気になって、というか少し悔しくて俺は言い返す。

 

「そうだけど、わかんないだろ。久留木さんがどう思うかは。」

「休日に家で密会するとかキモ過ぎるから学校でも話しかけろ。」

「じゃあいいよ。家でも会わん。」

 

少し意固地になってそう言ってしまった。売り言葉に買い言葉で傍から見たら子供の口喧嘩のようだっただろう。

 

「お前なんなんだよ」

「五十嵐きゅんとこれから仲良くする。土日もあいつとデートするわ。」

 

煽るように俺がそう言って立ち上がると後ろから肩を掴まれる。思ったより強い力で引っ張られてるように感じた。こいつの力ってこんなに強かったっけ。

「冗談でもやめろ」

お互いに冷静になれない感じだったから俺は振り返って強くそれを振り払った。そしたら何故か俺の足が浩太に引っかかって二人で倒れてしまった。

床に打った背中が少し痛んで、思わず目を瞑っていたが、気づくと俺を浩太が押し倒すような姿勢になっていた。さーっと雨が地面に叩きつけられる音だけが部屋に響いた。

目の前にある顔は少し歪んだあと、慌てたように離れていく。俺は上を見つめて、床に寝たまま特に何も言えずにいた。

 

「とにかく気色悪いからデートとか遊ばないとかいうのやめろよ」

「あ、うん。ごめん。」

 

思ったより素直に謝罪の言葉が出たのはそれどころじゃなかったからだろう。

色々とあって呆気にとられる気持ちとなんでか悲しいような気持ちが半分半分で、合わせると感情の最大値を超えてきそうだったから。

 

「純粋にさ。お前が久留木さんと仲良くするの応援したいだけなんだよ。」

「さっきも言ったけどお前いなかったら寂しいよ俺は。」

「そうか」

 

目を合わさないまま俺たちはそんな会話をする。お互いに何か思うところがあったのが丸わかりだったはずだ。

 

「男の時はこんなこと考えなくてよかったのにな」聞こえないように呟いたつもりだった。

「お前が勝手に考えてるだけだろ。無理に変なこと考えなくていいし、前みたいにしてればいいんだよお前は。」

 

親友のそんな言葉を真に受けて俺は自分に言い聞かせる。「俺は前のままでいい」と。

俺は変わらずにいられるのだろうか。そしてもしも変わったとしたら俺を浩太は受け入れてくれるのだろうか。そんな二つの不安を抱きながらも、もう一度言い聞かせる。

女になってもなんも変わらない。

 


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