保安官エヴァンスの嘘の二次小説です

花屋へ買い物にきたオークレイはそこでカートと出会う。カートはある女性へ花束を贈ろうとしていた。そこにはカートらしいある理由が秘められていた。

といったお話です
一応、エヴァオク小説です

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父の心の内はわからない

 オークレイは副業で働く酒場に飾る花を買いに、花屋を訪れていた。彼女が店に入ろうとすると店の奥から声が聞こえた。

「へー、お客さん有名なんだ、ガンマンのことよく知らないけど」

 これは店主のアナベル・ガードナーの声だ。

「こう見えて大統領に射撃を教えたこともある」

 聞き間違えでなければ、相手の声もオークレイの知っている人だ。

(あいつのお父さんだし、ナンパしてるわけじゃないわよね)

 オークレイはそっと店の中を覗き込む。二人の話は続く。

「そう、保安官さんの父親なんだね。彼もこの店にたまに来るよ」

「そうか、息子が世話になったな。詳しく聞かせてくれ、一緒にランチでも食いながら」

カウンター越しにカート・エヴァンスが女店主に話しかけている。ひいき目に見てもナンパだった。

 

この物語は…

花屋で贈り物を真剣に選ぶ客の物語ではない。所構わず恋愛にうつつを抜かすガンマンの二次小説である。 

 

「アナベル、こんにちは。それと、エヴァンスのお父さんも。花屋で会うなんて奇遇ね」

 そう話しかけながらオークレイは店に入る。カートは会話を中断しオークレイに顔を向け頷く。

「急遽、花束が必要になってな。要望を伝えるついでに息子の話をしていたところだ」

「へえ、何の花束?」

 オークレイの質問にアナベルが答える。

「『女性の機嫌を取る花束』よね」

 カートが頷く。オークレイは二人に近づきながら少し考える。彼女はカートに対しどうしても女たらしの印象が抜け切れていない。今もアナベルをランチに誘っていたのだから当然だ。だが、エヴァンスの父として浮気のようなことをしてほしくないとの思いもあった。

「誰への花束?」

 オークレイはこわごわカートに尋ねる。

「もちろん、妻へだ」

 カートはオークレイから目をそらさずにきっぱりと言い切った。

「奥さんへのプレゼントなんて素敵よねー」

 カートの証言を保証するようにアナベルも言う。

「そ、そうよね。変なこと尋ねてごめんなさい」

 オークレイは顔を下に向ける。

(エヴァンスのお父さんだもの。そりゃ奥さんへのプレゼントよね)

 自分の疑いを恥じつつ、エヴァンスの父が妻と仲が良さそうなことにオークレイは少し嬉しくなる。

「夫婦仲が良いのね」

「…まあな」

 カートは視線を逸らし、言葉を濁す。実際は浮気がばれブチ切れている妻への謝罪用の花束なのである。それをオークレイもアナベルもプレゼントだと誤解しているのだ。しかし、こういう時、余計な訂正を加えない方がカッコがつくをカートはよく知っていたので、あえて訂正はしない。そんなこととは露知らずオークレイは質問を続ける。

「そう言えば結婚記念日の時も花束を用意してたわよね。今度も何かの記念日なの?」

「そんなことより、君も花を買いに来たんだろ?」

 カートは目を反らしたままあからさまに話題を変える。深く尋ねられると謝罪用だとバレそうだからだ。しかし、オークレイはそれを照れ隠しととらえた。そして黙して多くを語らない姿に彼の息子を重ね合わせ一人微笑む。カートの誘導にわざと乗りアナベルの方へ話しかける。

「そうだったわ。アナベル、いつものお店に飾る花をお願いできる?」

「レディ・ファーストだ、君の方が先だ」

 オークレイを先に帰らせアナベルと二人きりになろうという下心でカートはそう提案する。だが、オークレイが強く拒否する。

「そう言うわけにはいかないわ。先に店に来ていたカートが先よ」

 浮気を疑っていたやましさもあり、オークレイは彼の行為を断ろうとする。だが男は髭の奥で静かに笑い言い訳を述べる。

「いや、実はまだどんな花束にするか迷っていてな。君が先に買ってくれ」

 オークレイはカートの下心には気づかずに微笑みながら礼を述べる。

「ありがとう」

 話がまとまったところでアナベルがレジカウンターから出てくる。

「じゃあ、先にフィービーのからだね。エヴァンスのお父さんも決まったらすぐに言ってよ」

 そう言って店の中をきびきびと動き回っていく。その間、カートがオークレイに話しかけてくる。

「ところで、君ならどんな花を貰いたい?意見を聞かせてくれ」

「私?どうして私に?」

「何が最適か、少し悩んでいてな」

 そう言ってからカートは店内を動き回るアナベルを手で示す。

「彼女からの意見も聞いたが、他の視点からの意見も知りたい。例えばオレの息子から受け取るとしたらどんな花が良いと思う?」

「はぁ?どうしてあいつから」

 そう言いながらもオークレイはエヴァンスから花束を貰うシチュエーションを想像する。恥ずかしそうに頬をかきながら花束を差し出してくる保安官。それは非常に魅力的な光景だった。

「フフ…」

 顔が自然と赤くなり笑みがこぼれる。正直、花の種類に関わらずキャスティングの時点でアリだった。エヴァンスの父がこちらを見ているのに気づき、彼女は慌てて顔を引き締める。

「どんな花でも奥さんは喜んでくれるわ」

「(妻にガチ切れされる)失敗の可能性は減らしたい」

「(プレゼントが気に入られなくて幻滅される)心配なんていらないと思うけど」

 要は花の種類ではなく誰に貰うか、どういった気持ちが籠っているかだ。彼女はそう伝えるが、カートは納得いかない様子で、小さく首を横に振る。

「放浪のガンマンという生き物には心配性が多い。心配ゆえに予防策を打つものが勝ち残る世界だからだ。かく言うオレも心配性で、ここ数日(怒られる悪夢で目が覚め)寝不足になるほどだ」

「(寝ないでプレゼントを悩むほど)真剣なのね」

「そういうことだ」

 そこまで言われるとオークレイも再考せざるを得ない。彼女は鋭い目つきで店内を見渡し、一つ一つの花に注意を向けていく。

「そうね、私がもらって嬉しいのは…」

 何種類もの花が彼女の目に映る中、ある花がオークレイの目にとまる。五枚の青い花弁が五芒星のような形を作っている花だ。その花の方に歩きそれをカートに手で示す。

「この花が良いわね」

 それは以前、エヴァンスがこの花屋で買った花であった。

「この花を選ぶ理由は?」

「それは…フフッ」

 エヴァンスの父に問われオークレイは一人頬を緩める。エヴァンスがこの花を差し出す様子を思い浮かべたからである。この花の花言葉は『永遠の愛』。意中の相手からから貰えるならこれに勝るものはないだろう。ただそんな考えをエヴァンスの父親に打ち明けるわけにはいかない。必然的にオークレイが黙り込んでしまうが、タイミングよくアナベルが戻ってきた。店主が抱える大きな鉢植えには色とりどりの花が飾られている。

「フィービー、こんな感じでどうかな」

「ありがとう、すごく素敵ね」

 少し申し訳なさを感じながらもオークレイはカートとの会話を打ち切る。レジで代金を払い鉢植えごと花を受け取る。近くで見るとさらに色鮮やかで、心地よい香りも感じられる。彼女がじっくり花を観察している間に、カートとアナベルが会話をし始める。カートは先ほどオークレイが薦めた花を示しきっぱりと述べる。

「花束にこの花を加えてくれないか」

 オークレイは二人の方を心配そうに見る。

「私が選んだ理由を聞かなくて良いの?」

 オークレイは自分から黙ったことを棚に上げた。むしろ、黙ってしまった負い目があるからこそ、心配する言葉が出たとも言えるのだが。

「大丈夫だ。君の思いはよくわかっている」

「私もこの花を混ぜたら素敵な花束になると思う」

 アナベルもそう同意する。それを聞きながらカートはオークレイに向け親指をそっと上げる。

 カート・エヴァンスという男は浮気を知って怒る妻を恐れる臆病な男である。だが、女性が薦めたものを無礙に断る無粋な男ではなかった。そして、

「アナベル、君にも同じ花をプレゼントしよう」

 妻に怒られるくらいでナンパを止めるような男でもなかった。

「これから奥さんに会うんでしょ。冗談でも怒られるよー」

 アナベルは軽く受け流して花束を作るために店内を動き回る。

「安心しろ。実家には帰らずに、数日マークウェストに滞在する予定だ」

「それってどういうこと?」

 カートが横を向きオークレイの疑問に答えようとしたところで店の入り口から男の声が聞こえた。

「親父、やはりここにいたか」

 声の主、エルモア・エヴァンスが店に入ってきた。オークレイとアナベルと軽く挨拶を交わしてから父親に近づく。父が息子の肩を軽くたたき

「息子よ。明日、花束をオレの代わりに母さんに届けてやってくれ。久々に顔を見せて母さんを喜ばせてやるんだ」

 体のいいことを言って、謝罪役を押し付けてた。

 だが、息子はすまなそうに首を横に振る。

「実は親父、明日は急な仕事が入って―」

 カートは掌を息子の前に広げ言葉を遮る。

「グラスデプスを拠点にしている強盗の取り締まりだろ。お前の助手から話は聞いている。それはオレがやるから、お前は久しぶりに母さんに顔を見せてやれ」

「だが、親父」

 反論しようとする息子の言葉をもう一度遮る。

「お前の代わりができないほど銃の腕は落ちてはいない。強盗など恐れるほどでもない」

 そう言って父は息子にさらに近づきの耳元で囁く。

「だから、オレの代わりに母さんに謝っておいてくれ」

 カートは強盗より妻の方が怖かった。

「親父がそこまで言うのなら―」

「その必要はないわよ、エヴァンス」

 オークレイが親子の会話に割って入った。

「グラスデプスの強盗ってウィルソンとボッシュの二人組でしょ」

「知っているのか、オークレイ」

 保安官の問いに彼女は頷く。

「ちょうど、私も追っていたとこなのよ。彼らの逮捕、私に任せてもらえないかしら」

 オークレイは余計なことを提案した。

「君のような部外者を巻き込むわけにはいかない」

 カートがそう言うとオークレイは小さくため息を吐く。

「花選びまで手伝わされて、今更他人の振りはできないわよ。それに私でも十分代わりは勤まると思うけど」

 そう言われてしまうと無礙に断ることもできない。

「…そうか、すまない」

 カートは苦虫を嚙み潰したような顔で礼を述べる。

「久々に家族揃って過ごしたら」

 そう言い残してオークレイは店を出ていく。その後姿を見ていたカートがそっと息子に耳打ちをした。

 

 花屋を出たオークレイはJ.B.サルーンへ足を進める。まずは花を店に飾り、その後、保安官事務所に行き事情を説明する必要がある。仕事を増やした形になったが、彼女の心は春の陽気のように暖かかった。

「まったく、お節介は父親ゆずりなのね。難儀な性格よね」

 彼女は小さく独り言つ。口調とは裏腹に彼女の表情は明るい。オークレイがそのお節介に助けられたことは一度や二度ではない。だからこそ、彼を助け合えることができるのが嬉しかった。

 軽やかに街を進む彼女を後ろから呼び止める声がする。

「オークレイ!」

 振り返るとエヴァンスがこちらに走ってきた。手には数本の花を握っている。彼は追いつくとその花を彼女に差し出す。

「仕事を代わってもらうお礼だ。お前に借りを作るわけにはいかないからな」

 頬をかきながらそう述べるエヴァンスからオークレイは花を受け取る。五芒星の形をした青い花。その花言葉は『永遠の愛』だ。オークレイの顔が真っ赤に染まっていく。

「あ、ありがとう」

「それと、明日の仕事の引き継ぎもしたい。今夜、食事をしながら話さないか?」

 『永遠の愛』の意味を持つ花を渡した異性から食事に誘われる。オークレイの心臓は期待で大きく膨らみ激しく音を立てる。返事をしようと口を開くが緊張でうまく言葉が出てこない。顔を上げ不安そうな表情を浮かべているエヴァンスの方を見つめる。そして小さく、だがしっかりと頷いた。

 

 カートは花屋の外で一人パイプをくゆらている。息子は言われた通りにできただろうか。そんな不安はすぐに打ち消される。何しろ息子を鍛えたのはカート自身なのだ。きっと今頃あの女賞金稼ぎとデートの約束をしているだろう。

 カートは煙を宙に吐く。首を横に振り今度は希望的観測を打ち消す。

 いや、息子のことだ、デートとは言えずディナーとでも言ってごまかしているだろう。あの二人の性格では付き合うようになるのままだ先のことになりそうだ。

「頑張れよ、息子よ」

 そうエールを送る。あの二人の恋は上手くいってほしいとカートは切に願う。目を瞑るとオークレイの姿が瞼の裏に浮かぶ。肩にかかるストレートの髪、強めの口調、勝気そうな性格。

「母さんに似ていたな」

 カートは口を緩めながらそう呟く。パイプをくわえたままゆっくりと歩きだした。

 妻に直接会うとなると花束だけでは心もとない。謝罪用のジュエリーも用意しておかなくては。当然、ナンパをしている暇はない。

 浮気を知った妻の怒りの顔と、宝石を貰った妻の喜びの顔をカートは同時に思い浮かべる。

「顔を見るのは久しぶりだな」

 歓喜と恐怖の気持ちを抱きながらカートは宝石店へと向かっていった。




読んでいただきありがとうございます

本作品は元々、母の日にカートが妻に花を贈るというシチュエーションで書いていました。しかし、西部開拓時代にはまだ母の日は存在しなかったということを途中で知り、花束のプレゼントは浮気の謝罪用ということになってしまいました。
本当はもう少しカッコいいカートになる予定だったんです。
ごめんなさい、カート

なお、今回の話に出ていた花は花言葉と漫画内のイラストからキキョウだと判断し、色は青といたしました。(自信がないので『キキョウ』という言葉は入れていません)

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