「カフェインレスのコーヒーって筋肉に良いのか?」
「何!?」
聖杯戦争もいよいよという夜、赤毛の少年は白髪のタフガイに訪ねた。
無理もない。彼の筋肉は凄まじい。対して少年は身長は低く顔は童顔。そうなれば磨くものがあるとすれば筋肉だろう。
「それは難しい問題だな小僧。」
シニカルな笑いをこらえつつタフガイは答える。
紅茶が欲しくなってきたなと肋を掻いた。怖かったのだ。
「コーヒーというのはな…カフェイン以外にも筋肉にいい成分が含まれてる。」
「なんでさ。」
「酔ってるのか?まぁいい。」
紅茶は結局淹れないことにしたようだ。今は紅茶を1杯買う金すらタフガイの主人は持っていなかった。
「ポリフェノールだ。」
「ポリフェノール?ブドウとかにあって視力がよくなるあの?」
「そうそのポリフェノールだ。」
それはそうと愛しのなんちゃって女騎士はどうしてるだろうか。
目の前の少年から縮れ毛のトゥーシャイシャイボーイに鞍替えしたのでもう知る術がない。話を戻そう。
「あれはな目だけでなく筋肉にもいいのだ。」
「何か体を…そうだな血液を高酸化させる。筋分解を抑える効果がある。」
小さく投影開始と心の中で念じダンベルを投影した。
剣以外のものは3倍もの魔力を消費する。もしてやダンベルだ。宝具の投影の20倍の魔力を消費する。それでも必要だった。やるせなかったのだ。
「他にも色々あるが…結論からするとだね、カフェインレスのコーヒーでも筋肉に良い。しかもアンチエイジング効果もある。」
「すごいな。毎朝飲むことにするぞ俺。」
「それは良い。だが小僧、もっと大事なことがあるぞ。」
アームカール…上腕二頭筋を鍛えるエクササイズを止め、タフガイは少年と向き合った。
少年の全身に稲妻が走る。
目の前のタフガイの腕が紅い外套を破裂させ、隠された腕の筋肉が剥き出しになっている。あまりの出来事に少年は脱糞と失禁を同時にしてしまった。
寝間着代わりにしている青の作業着が汚物まみれになり不快感を得た。
(こいつ…バルクアップしてやがる!)
自分も負けてられないと既にオムツと同じ存在になってしまった自分の衣類を脱ぎ捨てた。あらわになる自分の肉体が目の前のタフガイと比べたら何と頼りないことか!
月とスッポン、スルメの逆立ち、アルトリアとモルガン。
どんな比喩表現でも物足りない。圧倒的な差が目の前にあった。
「泣くなよ…」
「え…」
「藤ねぇが悲しむ。」
タフガイが少年を抱きしめた。そしてタフガイの身体の魔術回路がいや…存在が燃えた。これは英霊の座の本体のタフガイも一緒に燃えていることだろう。
「お前!何を!」
「何、ようやくな、ようやくわかったんだ。」
少年には目の前のタフガイが他人とは思えなくなった。
こんなにコイツは熱のある男だったか、これがあの皮肉屋の顔なのか。
「貴様には投影しかないと思っていた。」
「だが違う。」
「必要なのは極限まで鍛えられた肉体。日本一のスキルとそして…」
「宇宙探検用の強化服だ!」
己を燃料にした生涯いや死後も賭けた投影。
抱きしめていたタフガイの身体が溶けて変わっていく。
もう他人とは思えない顔はなく視界は暗闇に染まっていった。
不思議と怖くはなかった。でも温かい。何なんだこれは…
「そうか…」
タフガイも少年も消えた。
残ったのは紅い宇宙探検用の強化服を身に纏ったヒーローだ!
「これがカフェインレスのコーヒーの力なんだな、アーチャー。」
かくして聖杯戦争は終わった。
彼の故郷の魔術師はすべて滅びた。代わりに産まれたのは小さな、それでも確かな正義の味方だった。
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