二人が壊れたのはいつからなのか。
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「アヤベさんとアヤトレさんが共依存する話」のタイトル変更版
「妹が…あの娘がいなくなったの…」
夜の病室で泣きながらそう呟く自分の担当ウマ娘、アドマイヤベガを前に俺は何も言えなかった。クラシック戦の初戦である皐月賞で実力を出せなかったアヤベはレース翌日から山を走り込むという明らかなオーバーワークをしてしまった。慌てて追いかけて止めようとしたが無理がたたったのだろう。アヤベは気絶してしまう。なんとか病院に運び込み意識が戻るのを待っていたのだが…
「私が不甲斐ない走りをしたから…あの娘に勝利を捧げられなかったから!」
「皐月賞の時は調子が悪すぎたんだ。仕方なかった…」
「そんなこと言い訳にならない!!ごめんなさい…ごめんなさい!!」
アヤベが自分を責めるように叫ぶ。初のG1戦だった皐月賞。アヤベは原因不明の体調不良に見舞われていた。食欲もなく身体が重いと本人は言う。そして左脚が痛いとも…もちろんすぐに病院に行った。だが検査の結果は異常なし。左脚も全く問題なしだった。
「きっと皐月賞が近づいて緊張しているんだよ」
「そうかもしれない…でも絶対に勝たないといけないの。それしか私にはしてあげられないから…」
可能性としては強迫観念と言ってもいい精神的不安だろう。以前彼女と出会った頃に聞いた。アヤベには双子の妹がいた。正確には生まれる前に死に別れたが…アヤベはその妹から走りや楽しみを奪ってしまったと強く思っている。だから勝たなければいけない。勝利を捧げなければいけないと強く思っている。自分を壊すくらいに…
トレーナーとして言えばそれは思い込みであり、死人がどう思っているか。ましてや生まれてすらいないもののことなどわからない。今の体調不良はメンタル的なものである。というのが意見だ。
だが一人の男としてはどうだろう?優しすぎる。そして不器用だ。まずそう思う。そして「美しい」と一番感じた。そこまで一人の事を考えられる。そして壊れるくらい突き進める。それができるものがどれくらいいるだろうか。だから彼女のトレーナーになりたいと思ったのだ。
「君をひとりにしておけない。勝手に着いていく。」
そう言って契約したのだった。その彼女が子供のように泣きじゃくっている。妹がいなくなったと言って。とにかく落ち着くまで側にいてあげよう。そして…今自分は何を考えた?
「落ち着いた?」
「…少しだけ…」
消え入りそうな声でアヤベが答える。
「あの娘が言ったの…どうして勝ってくれないの?そんな走りじゃ楽しくない…お姉ちゃんもういいよって…私…私は…ごめんねダメなお姉ちゃんで…ごめん…」
「アヤベ…」
「いっそこのまま…」
「アヤベ!」
少し大きい声で呼びかける。涙に濡れた虚な瞳がこちらを捉える。彼女の大きなウマ耳も完全に垂れている。
「そんなことは言わないでくれ。君にもしもの事があったら俺は…」
言葉を切る。もしアヤベが死んだとしたら自分はどうなる?考えるまでもない。
「その時は俺も着いていく。絶対に一人になんてさせない。」
彼女のウマ耳がピクリと動いた。
「どうして…?どうしてそこまで私のことを…?ずっと一人でいいって言ってきたのに?」
「最初は心配だったから、あの模擬レース、君だけ覚悟が違っていた。ただ勝つだけじゃない…そうだな、勝たねばならない負けることは許されない気迫というより狂気かな そう感じたんだ。」
「そうね…それしか考えていなかったから…それなのに…もうあの子はいないの…私どうしたら…どう償えばいいの…?」
ここだ…自分は最低な事をしようとしている。自覚はあるが…それよりもう我慢できない。
「アヤベ…もう償うことはできない。いなくなってしまったのだから…」
「あ、アア…イヤ…そんな…」
アヤベは目をつぶりかぶりを振って否定しようとする。
「アヤベ、もういないんだよ。仕方ないんだ。代わりに俺が側にいるから。ずっと着いていって支えるって約束したじゃないか。」
「トレーナーさん…」
アヤベを優しく抱きしめる。壊れものの芸術品を扱うように…しかし絶対に離さないように… アヤベはされるがままだった…俺は自分が薄っすら笑っていることに気づいていた。本来手の届かない一等星がこの手に収まるのだ、当然だろう。
翌日アヤベは退院した。身体には異常が無いからである。
「トレーナーさん… いなくならないでね… 私…」
アヤベは寮に戻るまでピッタリくっついて恐る恐る服の裾をつかんできた。
これまでのアヤベとは大違いな様子にさすがに違和感を覚える。しかし同時にこの上ない喜びも感じているのが事実だ。
「アヤベ…側にいるから大丈夫だよ…」
翌日からは日本ダービーに向けてのトレーニングを再開する約束をして栗東寮の前で別れた。
本当なら離したくないが仕方がない。もう少しの辛抱だ。
日本ダービー当日。天候は晴れ。バ場状態は良。しかし控室の空気は重かった。
「ねえトレーナーさん…いなくなったりしないよね…?ずっといてくれるのよね…?」
アヤベが俺に抱きつきながら尋ねる。その手は震えていた。
「ずっと着いていく…でも今日はゴール前で待っているから大丈夫だよ。いつも通りに走ればいい。」
「わかった…でももう少しこのままでいたい…」
ああ…ずっとこうしていたいくらいだ…一等星の輝きを曇らせてでも手にいれたいという思いが間違っているとしてももう止められない。止めるつもりもない。アヤベを閉じ込めてしまいたいくらいだ。
だが
「選手の皆様は集合場所にお集まりください。くり返します…」
無情にもアナウンスが響く。
「時間だよアヤベ、大丈夫。君が一番に帰ってくることを信じてるから。いっておいで…」
本当なら離したくない…でも輝く一等星をこの目に焼き付けたいのも本心だ。我ながらおかしいとは思うが頭の隅に追いやることにする。
「ええ…行ってきます…私も信じてるから…」
その寂しそうな目も綺麗だよ、と喉まで出かけて必死に飲み込む。アヤベはパドックに向かった。自分も約束通りゴール前に行かなければ……
「アドマイヤベガ!ナリタトップロード!アドマイヤベガ!ナリタトップロード!アドマイヤベガ!!アドマイヤベガです!!輝く一等星アドマイヤベガ見事ダービーウマ娘となりました!!」場内の熱気は最高潮となっている。同期でありライバルであるナリタトップロードとテイエムオペラオーを最終直線で見事、彗星のように差し切りアヤベは一等星となった。ゴール直後のアヤベに自分が出せる最大の声量で呼びかける。アヤベも気づいたようで軽く手を振ってくれた。それだけで満たされたような気分になる。ケガもしていないようだし一安心だ。インタビューとライブを無事こなしたアヤベと控室で会えたのは数時間後だった。
「トレーナーさん!私…」
感極まるアヤベと抱きしめ合う。
「ずっと見ていたよ。おめでとうアヤベ…よく頑張ったね…」
「そうよね…あなたはずっと側にいてくれる…だから大丈夫…」
その時廊下を誰かが話しながら通っていったのだろう、一瞬アヤベの声が聞こえなかった気がする。
「忘れてなんていない…」
ダービー以降は菊花賞まで時間が開くことになる。夏合宿もあるがアヤベはトップロード達より俺といる時間の方が多かった。
菊花賞当日、今日のアヤベは落ち着いている。夏合宿で実力はかなり底上げできている。それに二人で過ごす時間もたっぷり取れたことも大きいと思いたい。
「アヤベ、今日の調子は?」
「あなたならわかっているでしょ?」
「そうだね、問題無さそうだ」
軽いアップをしているアヤベと話しながら時間を待つ。
「それよりも」
アヤベが話す。
「待っててくれるのよね。ゴール前で」
「もちろん、君を一番早く迎えに行きたいから」
「そう…絶対よ…お願い…」
アヤベが両手を広げて待つ。もう二人の間で何度もしたハグ待ちのポーズだ。ハグしながら頭を撫でるとアヤベは心底安心したようにこちらに身を預ける。ああ、このまま独占して閉じこめてしまいたい。だが無情にも時間のアナウンスだ。
「時間だね…いってらっしゃい、待ってるからね。」
「うん…待ってて…行ってくるわ…」
名残惜しそうに離れるアヤベを見送り観客席に向かう。その途中の廊下で男が待っていた。
「オペラオーのトレーナー?何か用か?客席に行かないのか?」
そこにいたのはオペラオーのトレーナーだった。アヤベによく絡んでくる覇王の手綱を握る変わり者という印象だ。
「アヤベトレーナー、率直に聞こう。君はアドマイヤベガをどうするつもりだ?」
「何かと思えば、共にトゥインクルシリーズを駆けぬけてアヤベを輝かせ…」
「違うだろ?」
俺の言葉を途中で遮って話すオペラオーのトレーナー。
「アドマイヤベガを依存させて束縛してるようにしか見えない。それで何をするつもりなんだ?」
「何をするか?別に何か企んでいるわけじゃない。俺はアヤベに着いていき支える。それは前から変わらないが?」
「彼女を一人で生きていけないようにすることが支えることか?それは違うだろ!」
「普通はそうなんだろうな。仮にお前が担当とそうなっていたら同じ事を言ってたかもしれないな。」
「だったら…」
「全天21のひとつ、一等星のベガ、表面温度約9600K」
「何…?」
彼が戸惑う…
「俺はもう焼かれたんだよ。アドマイヤベガという星に、どうしようもないくらいに。アヤベは強くて優しくて…壊れていた…それを美しいと思ってしまったんだよ…だからもう戻れない。星が燃え尽きるまで一緒に燃えるのさ。」
オペラオーのトレーナーは何も言わなかった。どう思ってるかはだいたい想像がつくがどうでもよい事だ。アヤベに比べれば全てが瑣末な事なのだから。
「話は終わりだ。アヤベとの約束があるんだ。お前も担当の走りは観たいだろ?」
彼は何も言わずに観客席に向かう。自分も少し離れて着いていく。目的地は同じなのに随分と意味合いは違っている気がした。
「ごめんなさいごめんなさい捨てないで捨てないでいなくならないで!やだやだいなくならないで!!」
「アヤベ!大丈夫だから!いなくなったりしないよ!大丈夫こっちを見て」
菊花賞を6着で終えたアヤベはゴール直後から様子がおかしかった。先にゴールしたトップロード達には目もくれず客席を見回すとすぐに控え室に向かって行った。慌てて後を追えばこの乱れ様である。
「大丈夫だから。どうしたの?ケガではないんだね?」
「ケガはしてない…本当だから…信じて…」
「信じるに決まってるだろ?ゆっくりでいいから話してごらん」
「あなたを…走ってる最中にあなたを忘れたの…絶対失いたくないのに…レースの楽しさで…それに気づいたら身体が思う様に動かなくて…」
「そっか…よく話してくれたね…まずアヤベが無事で良かった。それにそこまで思っていてくれて嬉しいよ」
ウマ娘の本能である走る楽しさより思われるなんて本望だろう。ましてや走る事を贖罪にしてそれ以外を知らなかったアヤベにである。なんて可愛らしいのだろう。
「アヤベ、君が走ることが楽しいと思えるならそれはそれでいいんだ。例えその間俺を忘れたって構わない。いつでも着いていくから。」
「本当に?本当に大丈夫なの?もう大事なヒトを失いたくないの…楽しんでもいいの?」
「ずっと一緒だよ。これからは一緒にアヤベが好きな事を他にも探していこう」
「私が好きなこと…?もっと走りたい…それに星を…いえ、あの子を思い出しそうでまだ怖い…でもあなたがいてくれる…」
アヤベはそう言いながら身体を預けてくる。優しく抱きしめながら思う。この先何があってもアヤベを離すことはないし離れないと。
「アヤベさん元気にしてるかなあ…」
同室だった少し…かなり不器用だけど優しい彼女から貰った青いクッションを抱きながら思い出す。最後に話したのはいつだっけ?もうクッションのフワフワも無くなってしまった。
「まさかトレーナーさんと駆け落ち同然にいなくなるなんてビックリだよ。あの二人あんまりカワイイ関係とは言えなかったけどアヤベさんが幸せならいいのかな…?」
その呟きを青く輝く星だけが聴いていた。
<後書き>
RTTT最高でしたね。
アヤベさんのアヤベさんによるアヤベさんのためのアヤベさん主人公アニメでした。
ダービーのアヤベさんカッコよさと美しさが極まっててすごくすごかったです。史実再現の接戦は手に汗握る見事な描き方で最高でしたね。その後祈ってるアヤベさん美しい…
あれをもし現地で見たらファンになりますよ好き。
3話の予告アヤベさんだけ1カットでしたけどアレだけでアヤベさん推しを気絶させられそうな見事なカットでしたね。「え?それ本格的にやるの?尺足りなくない?」と思ってたら本気で妹ちゃんとの対話をやってくれましたね。追い詰め方アプリよりエグくない?ひとしきり笑ってからの「いいよ、壊して…」こっちの精神が壊れるんだよなあ!トレーナーさんいないとこうなるのかあ…つらみ…トレーナーさんはよ!大丈夫?これちゃんと救いあるんだよね?と一週間モヤモヤですよ。
その最終回見事にやってくれました。レース中にジェミニとティコを入れてくるとは…そうくるかあってなるし表現お見事です。ありがとう…ライブのアヤベさんあまりにもカワイイし美しいがキマッてて最高でしたね。照れながらのハート作りガチ恋しちゃうじゃん好き。あとレース直後とダンスの最初にアヤベさんの左足チラッと映すのスタッフさんそういうとこだぞ好き。
カレンチャンが最後に撮った写真、アヤベさん救われた良かった…
ありがとうRTTT
さてこのSSですがアプリのアヤベさんとトレーナーさんって共依存しそうだよね好きという思いとRTTTの圧倒的アヤベさん愛最高ありがとう。が合体したため完成しました。アヤトレさん目線でメインになっちゃったねそんなこともあるよ。
アヤトレさんはあまり話題にはならない常識的な人ですけどアヤベさんに相当惚れこんでますよね。どこかでちょっとストーカー気質とか言われてた気はするくらい、でも中央トレーナーって大体担当のためなら命の2つや3つは投げ出す人種だしやはり平均的なのでは?ということでこの話では少し欲望に素直になってもらいました。
ちょっと独占欲が強めだけどアヤベさんという一等星を手に入れたくなるのは仕方ないよね?アヤベさんも3年経つとゾッコンなんではよくっつけとじれったくなりますね。なりませんか?この二人はお互いしか見えなくなって共依存してくれると美しいよなぁと思うのですよ。そして独占欲も拗らせまくってほしい。純愛っていいよね。そういうDLC出ませんかね出ないなら書くしかないよなあ?ということで作りました。共依存アヤベさんとトレーナーさん増えてください。(あと病んでたり独占欲マシマシアヤベさんもカワイイから増えて)