アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは!3日連続更新!?




友との再会。

 

 

 

 

「や、(いずる)

「おぉ〜、久し振りじゃん夏油」

 

 東京。

 街中。

 広い横断歩道を渡ってすぐのところにあるファミリーレストランにて。

 浮舟出は、()()と半年振りの再会を果たしていた。

 指定されたファミレス(場所)、指定された座席(位置)にて待っていたのは夏油傑。

 互いに手を上げて挨拶を交わし、浮舟は夏油の前にコーヒーとスイーツが置かれていることをなんとなく視界に入れてから四人掛けのテーブル席に腰を下ろした。

 義手での左利き生活を送った経験がありつつも、根は右利きな浮舟。両腕がくっ付いた今となっては利き手が定まらず、ソファに座った浮舟は取り敢えず壁際まで席を詰めることに。

 このまま右手を使おうとすると肘が壁に当たるので、左手を使おう──左右の利き手の使用を迷った際に思考を挟まずに決めることが出来る、浮舟なりのライフハックだった。

 

「夏油のお願い通り、硝子ちゃんには()()()()()()()()って伝えて出てきたけどさ。一体どゆこと? 硝子ちゃん相手なら夏油のこと言っても良いじゃんか」

「……ファミレスで堂々と再会しながら言えることじゃないけれど、君も私も本来身を潜めていなければならない人間だからね。連絡を取り合う相手の数は最低限に抑えた方が良い」

「ふーん……? まぁよく分かんないけど、他ならぬ夏油が言うんだからそうなのか──あ、店員さん。白ワインお願いします」

 

 丁度目の前を通りがかったウェイトレスに注文を済ませた浮舟。夏油はその遣り取りをどこか白い目で見詰めてから、咳払いを一つ。

 本題に入った。

 

「だから、お願いがあるんだ」

「お願い? なんだよ改まって。〝僕〟に出来ることならなんでも言ってくれよな」

 

 白ワインよりも早く届いたお冷に口を付けながら、浮舟が()()()()()()()()()()()安請け合いをする。頼もしい返答に夏油が「本当かい」と喜んだ様子を見せて「じゃあ」と笑顔で言った。

 

「出には、今日高専を出てから、今このファミレスで交わしている私との遣り取りまで。その間全ての記憶を忘れる縛りを結んでほしいんだ」

「……縛り?」

 

 浮舟の表情が(にわ)かに強張る。

 浮舟は過去に縛りで()()()を見ているので、当然と言えば当然の反応であった。

 

「そう。私事(わたくしごと)ではあるけれど、何せ今結構()()()()でね。こうして出とお話出来る時間も、30分かそこらしか無い。時間が来ればまたどこかに身を潜めなくちゃあいけないから、今日会ったという事実は無かったことにしておきたいんだ」

「だから、縛り?」

「酷なことを言っている自覚はあるよ。なんせ出は産土神の一件で縛りにトラウマがあるし」

「……覚えててくれたのか」

 

 夏油の指摘に、浮舟の目が見開く。予想外、と言った表情も長くは続かず、それから吹き出すように笑った。

 

「なんか、お前のそのモテ仕草懐かしいよ」

「よしてくれ。高専時代は君によくその単語で揶揄(からか)われたものだ」

 

 クスクスと笑い合う。

 和やかな空間の最中、横から控えめに白ワインのボトルとグラスが届く。ファミレスあるあるだなと浮舟が呟き、グラスを使わずに直接ワインボトルに口を付けようとしたところで。

 

「先に縛りを結んでおかないか」

 

 夏油がやんわりと制止した。

 

「え、なんで?」

「当然だろう。君が酔った状態で縛りを結べば、無意識の内に互いの認識に齟齬が発生しかねない。この縛りが他者間の縛りである以上、余計なリスクは避けたいんだ」

「成る程なぁ。〝僕〟ってば縛りにトラウマがある割には、基本的なこと忘れちゃってた。ありがとうな夏油」

「いやいや、君の為なら──じゃあ、結ぶよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出?」

「……あれ、〝僕〟寝てた?」

「うん、縛りを結んだ直後に。寝不足かい?」

「昨晩は棘ピーに呪言貰ったからぐっすりだったんだけどな」

 

 浮舟は卓上のワインボトルに視線を移して。

 

「まだお酒も飲んでないし」

「あぁ、そういえば。縛りも終えたし、もう飲んで構わないよ」

「よっしゃ」

 

 浮舟がワインボトルに口を付け、一気に傾ける。

 途端に浮舟の身体を中心に呪力圧が生まれるが、非術師に関係は無い。若干一名、ウェイトレスが着の身着のまま外へと駆け出していってしまったが、二人には関係の無いことだった。

 浮舟は傾けていたワインボトルを卓上に置き、卓上端に備え付けられていたカトラリーケースからフォークを一本取り出す。そしてコーヒーを飲もうとカップを掴んでいた夏油の右手に、容赦無く突き刺した。

 

「テメェ、誰だよ」

 

 腰を上げ、眼前まで顔を近付けて睨む。

 睨まれた夏油は「痛いじゃないか」と浮舟と目を合わせたまま平然と呟き、カップを置いた。

 ──座ったらどうだい。

 慌てる様子も逃げる様子もなくそう言い放った夏油に、頭を掻いて周囲を見渡す浮舟。

 やがて、再び腰を下ろした。

 

「私だよ私、夏油傑」

「こういう時フルネームで名乗るとメチャクチャ不自然なんだけど……まァ、別にどうでも良いや」

「……いつ分かったのかな」

「不自然な点は幾つかあった」

「聞かせてよ」

 

 浮舟は溜め息混じりに息を吐いてから。

 

「まず、オレの名前の呼び方が微妙に変」

「嘘、そうなの」

「それに、オレ等は同期の間で縛りを結ぶことは()()()()()()()()を除いて無い。しかも、お前の提案した縛りは悪手中の悪手。何故なら縛りを設けるということは、信頼を疑うということに他ならないからな。オレ等は口約束で十分なんだよ」

「そうなんだ」

「あと、その()()のことは誰にも話してない。硝子ちゃんが傷付くからだ」

「……そうか」

「更に言えば、あの夏油が家族捜索の進捗について話さないのもおかしい。……半年経ってまだ見つかってないのも、今思えばおかしかったんだけどな」

「…………」

「つーか、その()()()()()。本物の夏油だったらオレが悲しむからなによりも先に自分で説明するはず」

「……指摘されないから気付いていないのかと思ったよ」

「舐めんな。──あと、オレが一番違和感を抱いたポイント。……これは出来れば言いたくはないんだけど」

「気になるね」

「夏油ってば、10年振りの再会の時でもお尻を触ってくるくらいオレのお尻が大好きなの」

「だからさっき会った時に触ってないのはおかしいって? ……なんだ、そんな気持ち悪いコミュニケーションがあったのかよ」

 

 下調べが足りなかったか。

 夏油は呆れたように笑いながら、ソファの背もたれに背を預けた。

 

「酒を飲んだのなら気付いているんだろう?」

「あぁ、とんでもねェのを外に待機させてやがるな」

「本当は同席させたかったんだけどね。四人席で一人あぶれるくらいなら、全員外で待たせた」

 

 出入口と、従業員用の裏口と、すぐ近くの大きな窓の外。

 浮舟が逃げ出そうとすればどうしたって鉢合うことになる位置に、それぞれ呪霊が配置されていた。

 浮舟が半身でソファに寄りかかり、(あざけ)るように笑う。

 

「なにそれ、仲間意識?」

「まさか。違うよ」

 

 夏油は腕を組み、目を瞑ったまま答える。浮舟は予想の内とも外とも違う反応に少しの間口を閉じ、それからワインを一口含んでから問い掛けた。

 

「で、オレに何の用だよ」

「うん? あぁ、君目障りだから殺そうと思って」

「馬鹿言えよ。なら酒飲む前に殺してる筈だ」

 

 浮舟が言い返せば、夏油はまるでお片付けをこなした幼子を褒めるように、パチパチと手を叩いて微笑んだ。

 

「君、思っていたよりちゃんと物事考えてるんだね」

「まァな。もうちょっと深酔いしたら自信ねェけど」

 

 バツの悪さから視線を外し、窓の外の呪霊と目が合う。いや、呪霊の両目にあたる位置からは枝が生えており、顔が合った──と言った方が適切だろうか。

 

「ねぇ、浮舟」

「夏油の声で苗字呼びされるとメチャクチャ違和感。……なんだよ」

「…………」

「……なんなんだよ」

「……うーん、やっぱり駄目か」

「人の顔見て溜め息吐くのやめてくんねェか?」

「ならテーブルの下で外部に連絡しようとするのもやめてほしいね」

「……バレてたか」

 

 夏油からの指摘に浮舟は両手を挙げ、スマホをテーブルの上に素直に出した。「電源切ったよ」とついでの言葉で追いかければ「マナーがよろしい」とお褒めの言葉が返ってくるのだった。

 

「どうせ忘れるだろうから聞いておくけど、一入のことは知ってる?」

「ひとしお? なに、調味料の入れ方?」

「一入に変われる?」

「だから、なんだよその()()()()って。人名なのか」

「…………」

 

 疑問の通りに言葉を返す浮舟。しかし夏油からすればその返しは酷くつまらなかったようで、夏油の顔から表情が消えていくのが見て取れた。

 

「平安でのこと、なにか憶えてる?」

「お前、宿儺()の知り合い?」

「敬称とか付けるんだ」

「縛りだからな。本人不在とはいえ、ペナルティは怖ェ」

「成る程、宿儺も手を打ってるみたいだね」

「……あのさ、当人を置いて勝手に分かったような顔して納得すンなよ」

浮舟出()は当人じゃないよ」

「ハァ?」

 

 言葉遊びか、それともわざと遠回しに言っているのか。

 全く理解の及ばぬセリフに浮舟が片眉を上げて不快そうに聞き返せば、夏油は溜め息で応戦してくるのだった。

 

「最後に質問」

 

 スイーツを食べ終えた夏油が、口元を拭いながら切り出す。

 

「自身の術式のことは?」

「素直に答えた方が良い?」

「そうだね。というか、私は君自身よりも君の術式について詳しい自信がある。なんだったら相談に乗ってあげても良いよ」

「…………」

 

 意図の読めない笑みに、訝しみつつもワインボトルを傾けた浮舟。わざと大きめの音を立ててボトルを置き、渋々語り始めた。

 

「なんとなく、ただの天与呪縛じゃねェっつーのは分かってる。でも、()()()()()だ。オレはオレの術式のことをまだ()()()()()しか知らないし、そもそも術式の名前すら聞いてない」

「そうか、じゃあ素直に答えてくれたご褒美。選択肢をあげるから、選んだことについて少しだけ教えてあげても良いよ」

「……ここに来て初めてオレにメリットがありそうな話が回ってきたな」

 

 どうせ忘れるから意味ねェけど。

 浮舟の諦め混じりの空笑いには構わず、夏油が指を一本立てる。

 

「一つ。君の術式の名前」

 

 夏油が指を二本立てる。

 

「二つ。君の寿命が尽きたらどうなるか」

「どうなるか、って……。死ぬだけだろ」

「ハッハッハッハ」

「つーか、それだけ? もっとなんか無いのかよ」

「うん。時間も無いし」

 

 夏油はファミレス内の壁掛け時計を一瞥した。

 

「どうせ忘れるんだし、この際知ってること全部教えておいてくれよ」

「それじゃあつまらないだろう」

「ンだよそれ……。じゃあ、一番」

()()()()

「……は?」

「君の術式、謂わば降霊術だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、どうして貴方がここに」

 

 残穢を辿り、屋上へと辿り着いた七海と虎杖。屋上は施設利用者の為の駐車場として開放されているのだが、警察によって一帯に規制が張られている今、屋上に車は一台も止められていない。

 先程からそれほどの時間が経過していたわけではなかったが、朝から降り続けていた雨は止み、駐車場の湿ったコンクリートに大小の水溜りが残っているだけだった。

 傘持ってなかったし、雨が止んで良かった。

 重たい曇り空を見上げながら虎杖がそんな感想を抱いていたところで、隣の七海が呆れ混じりにぼやいて──現在。

 七海の言葉を受けた虎杖は、空と駐車場だけでなくもう少し辺りを気にしてみる。

 すると、人影。

 

「あれ!? 浮舟先輩じゃん!」

「おう、七海に虎杖君。久し振りじゃん。最後に会ったのが8月だから……半年振り? いやそれ以上?」

「ついこの間会ったばかりです。おかしなことを言わないでください」

 

 駐車場の隅。万が一にも乗り越えてしまわないように、成人男性の肩辺りの位置くらいまでの高さに設計された()()()()()と呼ばれる囲い壁。

 その上に、浮舟出がいた。

 酒瓶片手に腰掛け、川崎の街並みを見下ろしていた。

 

「う、浮舟先輩、なんでここに? ()()()()()()()()って」

「友達? ()()()()()()()()()

「嘘だったんだ……」

 

 

 

 

 





次回で番外編終わりです!
ではまた!

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