目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が   作:小林司

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各話最初に登場するウマ娘の名前は、今回から分かりやすいように太字で表記します。



 地方交流(?) 中編

 

浦和ウマ娘ノダトレーニングセンター学園。通称『浦和トレセン学園』。

 

私たちの『中央トレセン学園』が『トゥインクルシリーズ』に出場するため学校ならば、こちらは『ローカルシリーズ』に出場するための『地方トレセン学園』だ。

 

私は今、所用でこの学園を訪れているのだが、所用どころではなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

浦和トレセン学園の生徒会室にて。

 

浦和の生徒会長が遅れてやって来たので、改めて自己紹介。

 

「改めまして。生徒会副会長のフツロルンルンと申します」

 

「同じく、ピサノミライです

 

「生徒会長、サバノミッソーニです」

 

浦和側の自己紹介が終わり、

 

「私は中央トレセン学園生徒会、副々会長のブタノカックーニです」

 

「ボクは生徒会役員ではないけれど、クーニさんのお伴をさせてもらったテイエムオペラオー!」

 

彼女の自己紹介には花弁が舞う、というオマケ付き。もちろん、ピサノミライさんが掃除をする。

 

「…………」

 

「…………」

 

当たり前、といわんばかりの行動に、呆れる副会長(見るのが二回目)と、驚く会長。

 

「彼女は?」

 

「ミライさんのお姉さんだそうです」

 

「なるほど」

 

彼方(あちら)の二人、耳打ちで状況を確認したらしい。勿論、ウマ娘の聴力を嘗めてはいけない。聞こえてましたよ?

 

 

 

サバノミッソーニさんは、背丈は私と同じぐらいで、耳は多分私と同じぐらいの大きさ。なにぶん黒色のカバーを着けているので、正確なサイズは分からない。

 

そのカバーの上から、金属製のアクセサリーを右耳に引っ掛けている。イクノディクタスさんの物に似ているが、彼女のは魚のような形をしている。サバか?

 

髪の色は私より濃い目の茶色で、腰まで届くぐらいの長さ。

 

銀縁のメガネを着用している。ビワハヤヒデさんの物に似ている。同じメーカーの色違いだろうか。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「えっ? ああ、何でもありません」

 

見つめていたかららか、声掛けられてしまった。

 

「自己紹介も済んだことですし、そろそろ中央トレセン学園へ向かいましょうか」

 

「「はい」」

 

会長がそう言うと副会長二人が返事をした。

 

「準備は大丈夫ですか?」

 

「はい。既に整っています」

 

「では、出発しましょう」

 

 

 

 

 

 

私たち二人が先に生徒会室を出て、三人が出てきた。会長が部屋を施錠する。

 

廊下を昇降口へ向けて歩いて行く。

 

私と会長が一緒に歩いていて、少し後ろをテイエムオペラオーさんと副会長二人が歩く。何やら盛り上がっている様子。

 

此方は特に会話はない。黙々と歩いている。

 

「中央トレセン学園生徒会です。ありがとうございました」

 

「ありがとう!」

 

受付で借りている名札を返却。

 

「どうもね~」

 

私とテイエムオペラオーさんは来客用の昇降口へ、三人は生徒用の昇降口へ向かう。

 

靴を変え、三人を待つ。此方の方が駐車場に近いので、ここで待ち合わせ。

 

「お待たせ致しました」

 

会長たちがやって来た。

 

「では、駐車場へ行きましょう」

 

そう言ったもののすぐ側だ。

 

此方(こちら)の車です」

 

そう言いながら車を指すと、三人の反応は……。お察しください。

 

「どちらに乗りますか?」

 

そう三人に問い掛ける。

 

「ボクは勿論! ()()()()()()()()さ!」

 

「いや、別にあなたには聞いてませんけれど?」

 

「じゃあ、私は姉の隣に」

 

「でしたら、私は隣宜しいですか?」

 

「構わないよ!」

 

「えっと。私は助手席でも宜しいですか?」

 

「はい」

 

 

 

そんなわけで、三列シートの最後列に、左からピサノミライさん、テイエムオペラオーさん、フツロルンルンさんが座り、真ん中が空席で、助手席にサバノミッソーニさんが座った。

 

何でこうなるのかなぁ……。まあ、予想してましたけどね?

 

「それでは出発しますよ」

 

 

 

 

 

 

浦和トレセン学園を出て、一路中央トレセン学園へ向かう。

 

「そうなんですか!」

 

「そうさ! 驚いただろう?」

 

「まあ、姉さんらしいですね」

 

後ろの三人は会話に花が咲いている。フツロルンルンさんともすっかり意気投合している。

 

「いやあ、君と話していると楽しくて仕方がない! 初めて会ったような気がしないよ!」

 

「私もです!」*1

 

楽しそうでなにより……。

 

「クーニさん」

 

「はい?」

 

隣のサバノミッソーニさんに声掛けられた。

 

「クーニさんが運転されるんですね。てっきり、学園職員の方が運転するものだと思ってましたから、驚きました」

 

普通そう思うよね。

 

「ええ。運転免許を持っているので、生徒会長に良いように使われています。ハハハ……」

 

会長には絶対内緒だが、学園の車を自由に使う権利さえ持っている。

 

一生徒に与えるとか、有り得ないよなぁ。普通。

 

「会長……シンボリルドルフさんですよね?」

 

「ええ。御存知でしたか」

 

そう言ってから気付いた。

 

「勿論! シンボリルドルフさんといえば、URA史上初()()()()()()()()じゃないですか!」

 

ですよね……。

 

「ソーニ会長、シンボリルドルフさんに会えるのが楽しみでしたからね」

 

後ろから、ピサノミライさんの声が聞こえてきた。楽しみにしていたのか。

 

「はい! お会いできるだけで感動ものです。なのに、今回の交流イベントの件を前向きに考えてくださっているなんて……。もう、今回の件がどうなろうが、お会いしたらまずは感謝の意を伝えなければ……!」

 

まだ何も決まっていないのに?

 

「緊張してトイレに籠っていたっていうのは、それが理由ですか……」

 

「お恥ずかしながら」

 

「まあ、仕方ないと思いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央トレセン学園に到着。私たちにしてみれば、『帰ってきた』という感じだが、浦和の三人は……。

 

「ここが……!」

 

「中央……」

 

「流石です」

 

この通り。

 

「それではテイエムオペラオーさん。三人を生徒会室まで案内してください」

 

「任せてください!」

 

「私は別の用件がありますので、これで一旦失礼します」

 

駐車場に車を止めて、三人の案内をテイエムオペラオーさんにお願いし、私は別の方へ向かう。

 

えっ? 帰寮?

 

そんなわけないでしょう?

 

向かった先は……、

 

「失礼します!」

 

ノックして扉を開いた。

 

『スピカ』

 

そう。チームの部室棟だ。

 

「あ。クーニさん! どうかしましたか?」

 

早速、スペシャルウィークさんが駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様です。えっと……」

 

室内を見渡す。

 

これからトレーニングなのか、既にジャージに着替えている娘もいれば、まだ制服姿のままの娘もいる。

 

全員揃っているか……否。

 

ゴールドシップさん、居ませんか?」

 

ゴルシさんの姿だけが見当たらない。

 

「ゴールドシップさん? 来てませんね。スズカさん、知ってますか?」

 

「いえ、聞いてないわ。二人は?」

 

「知らねえなぁ……」

 

「私もよ」

 

誰一人知らないらしい。

 

「何かご用ですか? 来たら伝えましょうか?」

 

「あ、いえ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。では失礼します」

 

居ないなら長居は無用。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシさんを探して校内を歩く。

 

何故、ゴルシさんを探しているかって?

 

彼女は私が(クーニ)ではないことを知っている。だから、彼女ならサバノミッソーニさんのことも分かるのではないか? と思ったからだ。

 

サバノミッソーニさんは、私の名前を聞いて今までに無い反応をした。もしかしたら、私と同じような状態なのかもしれない。

 

直接聞くのが一番手っ取り早いのだが、ストレートに聞くのは(はばか)られるし、なによりあの場で聞いたら他の娘にも聞かれてしまう。

 

彼女がもし本当に私と同じような状態であれば、その正体がバレれば彼女の立場は無くなるだろうし、それは私にとっても危ないことだ。

 

「おや? クーニさんじゃないかねぇ」

 

ん? この声。

 

「あら、ワンダーアキュートさん」

 

振り向けば、そこにはワンダーアキュートさんが立っている。

 

「アキュートで良いよ、長いから。しかしまあ、こんなところで会うなんて、奇遇だねぇ」

 

「アキュートさんこそ。どうしました?」

 

「あたし? あたしは日向ぼっこだよ。今日は寒いけれど、太陽の光があるところは暖かいからねぇ」

 

なるほど。彼女の立っているところの近くにはベンチがあり、水筒が置いてある。さしずめ彼処(あそこ)で寛いでいたのだろう。

 

「誰か探しているのかな?」

 

「ああ。ゴールドシップさん探しているんですが、見てませんか?」

 

「うーん。見てないねぇ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

そうなるとこの辺りには来てないのだろう。

 

「ありがとうございます。それでは」

 

「無理しないようにねぇ。あ、これをあげよう。それーっ」

 

ん? 何か投げ渡してきたぞ。

 

「おっと」

 

我ながらナイスキャッチ。これは……飴?

 

「その飴ちゃんでも舐めて、時にはリラックスしようね」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

もらった飴を手に頭を下げ、次の場所を目指して歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、なんじゃこれ」

 

アキュートさんにもらった飴は、ビニール袋に小包装の飴が幾つか入っている物なんだけど、内容はバラバラ。恐らく彼女が詰め替えたものだろう。

 

その中に赤一色のパッケージの飴があり、味の表記を見て驚いた。

 

『豚キムチ味』って書いてあるからだ。

 

「飴で豚キムチって。全く想像できない……」

 

一部透明の部分があるので覗いて見たところ、いかにも辛そうな色をしている。

 

「あれぇ? あなたは先日の……えっと、クーニさん?」

 

また私の名を呼ぶ声が。

 

「あ。メイショウドトウさん」

 

件の『にゃんにゃん倶楽部』*2で会った彼女だった。

 

「こんなところでどうしたんですかぁ?」

 

「ゴールドシップさんを探しているんですが、見てませんよね?」

 

「そうですねぇ。見てないです……」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

こっちにも来ていないのか。

 

「ところで。手に持ってるそれは何ですかぁ?」

 

メイショウドトウさんが、私の持つ飴に目敏く気付き、尋ねてきた。

 

「飴です。もらったものなのですが、変な味で見た目も辛そうなので、どうしようかと思っていたところです」

 

「それ、もらっても良いですか?」

 

「えっ?」

 

「いらないのなら、私がもらいますよぉ?」

 

いや、いらないとは言ってないんだけど。

 

「辛そうなんですよね? 私、辛いのは大丈夫ですから」

 

あ、これ拒否権ない感じ?

 

顔に『ください』って書いてあるように見える。

 

……。

 

どうぞ、というまで引くつもりはなさそうだ。

 

「それじゃあ……どうぞ」

 

もらった時みたいに投げ渡そうと思ったけど、多分落とすだろうから止めた。

 

彼女の前まで行って渡す。

 

「ありがとうございますぅ!」

 

つまらぬものですが……。

 

いやいや。他人からもらったものを他人にあげるのに、こんなことを言ったら失礼だ。危ない危ない……。

 

さて。次へ行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! お姉さま~!」

 

ん? この声、この呼び方。

 

ライスシャワーさん。どうされました?」

 

青薔薇の付いた小さな帽子が目印のライスシャワーさんだ。

 

「お姉さまどうしたの? 何か探しているの?」

 

そう見えるのだろうか?

 

まあ、探しているのは事実だが。物ではなく人を。

 

「ゴールドシップさん。見てませんか?」

 

「ご、ゴールドシップさん……!」

 

私が名前を言うと、聞いた途端ビクッとし、少し顔色が悪くなった。

 

「どうしました?」

 

「あ、えっと、大丈夫だよ。心配させてごめんなさい。ただね……」

 

 

 

どうやら、彼女はゴールドシップさんが少し苦手らしい。

 

嫌がらせやイジメではないが、時々からかわれることがあるとのこと。

 

「この間もね……。ライス、朝御飯はパン派なんだけどね。ゴールドシップさんが『ライスがパンを食べてる。自分へのアンチテーゼか?』って言うんだよ」

 

「それは……。なんというか……」

 

何て言えば良いのだろう。御愁傷様? ……違うか。

 

えっ! おいおい、待ってくれ!

 

ライスシャワーさんに対し、『ライスがパン』って言ったってことは、名前をそう認識したってことだろう?

 

ライスシャワーといえば、()()()()()()だけど、そもそも『ライスシャワー』という名前を固有名詞で認識していれば、『ライス=米(ご飯)』という繋がりは発生しないはずだ。

 

しかし、ゴルシさんはそう言ったらしい。私は直接聞いていないものの、彼女がそう言うんだから確かなのだろう。

 

となると、『ウマ娘の名前は固有名詞として認識される』は、間違っているのだろうか?

 

「お姉さま?」

 

あ、いかん。考え事をして目の前の彼女のことを忘れるところだった……。

 

「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていました。えっと、なんの話をしていましたっけ?」

 

「ゴールドシップさんを見てないかって。ライスは見てないけど」

 

「ああ、そうでしたね。ありがとうございます。では、私はこれにて」

 

「あっ、はい。気を付けてね……」

 

次を探そう。

 

しかし、私のあの結論は間違っていたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ。

 

あ~。

 

ダメだった。

 

チームの部室に居らず、校内各所を回ってみたが見付けられず。あの後数人に尋ねてみたが、誰も見ていないらしい。

 

だから、教室に行ってみようと思ったのだが、よくよく考えてみたら、彼女がどのクラスなのかが分からないのだ。

 

私は生徒会役員故、調べる手段は幾つも持ち合わせているのだが、どれを使っても分からない。

 

『ゴルシちゃん保護法第十三条』*3、恐るべし……。

 

そろそろ時間切れだ。私は帰りも浦和の三人を送り届けなければならない。生徒会室へ向かおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昇降口で靴を履き替え、生徒会室へと歩いて行く。

 

この時間ともなると、皆校舎内には残っていないので、廊下はとても静かだ。外から掛け声とかは聞こえてくるけれど。

 

『生徒会室』

 

到着。

 

「ブタノカックーニです」

 

ノックしてから声を掛ける。

 

「お入りください」

 

中から返事が聞こえてきた。この声はグルーヴ副会長だな。

 

「失礼します」

 

扉を開いて入室。

 

室内には、中央の三人と浦和の三人が居る。

 

応接用のソファーに浦和の三人がこちらへ背を向けて座っており、向かい側にルドルフ会長が座っていて、副会長二人は後ろに立っている。

 

「お。クーニやっと来たか」

 

ルドルフ会長は私を待っていたらしい。しかし、待たれる記憶は無いのだが。

 

「遅くなりました。えっと、話は纏まりましたか?」

 

私がそう声を発すると、浦和の三人が一斉にこちらを向き、どこか安堵の表情を見せた。緊張していたのが解れた感じ……?

 

「ああ、平穏無事に。話し合いは恙無(つつがな)く終了した」

 

「それは良かったです。私は彼女らを送り届ければ宜しいですか?」

 

まあ、緊張するのも仕方あるまい。

 

『皇帝 シンボリルドルフ』『シャドーロールの怪物 ナリタブライアン』『女帝 エアグルーヴ』。この面子相手に緊張するな、というのが無理な話だろう……。

 

「まだ早いんだな。せっかくだからクーニもこれを見て欲しい」

 

何だろう?

 

「大勢の生徒の協力を得て、当学園のPR動画を作成したんだ」

 

どれどれ……?

 

 

 

〈著者注〉ここで流れる映像は、アニメ三期のオープニングです。『ウマ娘プリティーダービー season3』のタイトルは、『トレセン学園』に置き換えてください。

 

 

 

「なんですか、これ」

 

動画を見終えて、思わず声が漏れた。

 

「さっき言った通り、当学園のPR動画だが?」

 

さも当然のようにいい放つ会長。

 

「いやいやいや。これの何処がPR動画ですか! 少なくとも学園のって意味では違うと思いますが!」

 

突っ込むしかないだろう……。

 

「まあ、それは私も思ったんだがな」

 

ふと、グルーヴ副会長が溜め息と共に呟く。

 

「彼女たちは何をしたんですか?」

 

「分かりません。会長に二人を怒りの形相で追い掛けろ、という指示をもらっただけですから」

 

エアグルーヴ副会長は、メジロパーマーさんとダイタクヘリオスさんを追い掛けるシーンに出演していた。

 

ブライアン副会長とルドルフ会長は、この部屋で話し合っているシーンで登場。因みに、ブライアン副会長の顔を見るも、関わりたくないのか恥ずかしいのか、露骨に私と目を合わせようとしない。

 

それでは私も動画の内容についての感想を言わせてもらおう。

 

「会長、特にサクラバクシンオーさんが廊下走っているシーンは、観た人に誤解を与えます。廊下は走るなってずっと言っているじゃないですか」

 

これは一番宜しくない。

 

因みに、サクラバクシンオーさんは 廊下走り魔 らしい。普段からあんな感じなんだって……。

 

同室ながら、部屋での彼女しか知らないんだよなぁ。

 

「あと、ゴールドシップさんのあの蹴り、あれも危険です」

 

ゴルシさんは、トーセンジョーダンさんに回し蹴りを食らわせていた。

 

見事に避けていたが、あれが本気の蹴りで、相手に命中していた場合、命は無いだろう……。

 

「えっと。浦和トレセンの皆さんは、どう思いましたか?」

 

私が感想を述べても会長は何も言わない。この際だから三人の感想も聞いておこう。

 

「えっと……観て面白い動画だと思いましたが、トレセン学園をPRする、という目的とは離れている感じがします」

 

「姉の登場シーンが無いのは何となく寂しいです……」*4

 

「レースシーンが多いのは良いと思いますが、皆さん言う通り、学園のPRは……」

 

三者三様の意見。しかし、想いは一致している。

 

「そこまで言うのなら、この動画は却下だな。グルーヴ、この製作費用は幾らだった?」

 

「まあ、大した額ではありませんが……」

 

これに大金つぎ込んだって言うなら大爆笑ものだ。

 

「さてと。では、もう一本用意した方の動画も見てもらおう」

 

は?  

 

 

 

〈著者注〉ここで流れる映像は、アニメ一期のオープニングです。タイトルはさっきと同じように……。

 

 

 

「こっちの方が断然良いと思いますが?」

 

「そうか……」

 

会長はなんだか納得ずくだ。

 

「それでは。今日は誠に有意義な時間を過ごせたよ。ありがとう」

 

おっと、浦和の三人との挨拶だ。もう帰る時間なのか。というか、切り上げて無理矢理帰そうとしている?

 

否。私をここから追い出すつもりだ。

 

「改めまして、こちらこそありがとうございました!」

 

代表してか、会長どうしが挨拶をして、握手。

 

あ、サバノミッソーニさん、大丈夫かなぁ?

 

「それでは!」

 

大丈夫なようだ。ただ、興奮してか顔が幾分赤い。

 

「ではクーニ。送り、よろしく頼むよ」

 

「はい。では、行って来ます」

 

「ありがとうございました」

 

「よろしくお願いします」

 

「失礼します」

 

私がルドルフ会長にそう言うと、三人がそれぞれ挨拶して生徒会室を出て行く。私が最後に出て、扉を閉めた。

 

「全く。あの動画にケチを付けるとは」

 

「だから私は言いましたよ。彼女は絶対文句を言うって……」

 

「当然だと思うな」

 

中から何か聞こえてくるが、気にしない。

 

 

 

 

 

 

あ。帰りはテイエムオペラオーさんは来ないのだろうか?

 

「ピサノミライさん」

 

「はい?」

 

「お姉さん。テイエムオペラオーさんについて、何か聞いていますか? 帰りも一緒に行くとか?」

 

こういうのは妹さんに聞くのが早いだろう。

 

「ああ。姉はトレーニングに行きましたので、帰りは同乗しないそうです」

 

「了解です」

 

それじゃあ、浦和からの戻りは私一人か……。戻ってくる頃には暗くなっているだろうし、ちょっと不安だな。

 

一人の時に限って何かトラブルが起きたりするんだよなぁ……。パンクだったりオーバーヒートだったり、事故通行止・渋滞等々……。

 

と、余所事(よそごと)を考えながら駐車場へ向かい、到着。

 

「あ! クーニさん、大変です!」

 

「うへっ? な、何ですか?」

 

考え事をしていた中で声が掛かったので、我に返って変な声が出てしまった。

 

「クーニさん。あれ……」

 

フツロルンルンさんが右後輪を指差している。

 

「あれって……? あれまぁ……」

 

なんと、右後輪がパンクしているのかタイヤがぺちゃんこに潰れていた。

 

「どうしますか?」

 

「参りましたね」

 

「しかし見事にパンクしていますね……」

 

これまた三者三様の反応。

 

…………これ、()()しかないよね?

 

 

 

 

まあ、そんなわけなので、理事長室に一報を入れ、我が愛しの あの車(世紀末覇王号) で三人を浦和まで送って行くことになった。

 

高速道路に入った先での反応は、最早説明不要だろう……。

 

 

 

 

 

 

何だかんだ無事に浦和トレセン学園に到着した。

 

「しっかり。もう少しですから」

 

「ありがとう……」

 

フツロルンルンさんは酔ったらしく、真っ青な顔でピサノミライさんに支えられながら歩いて行く。あっちは寮がある方向だな。

 

「それでは。今日は色々とありがとうございました」

 

最後に残ったサバノミッソーニさんが、私に向かって挨拶。

 

「こちらこそ。お役に立てて光栄です」

 

「えへへ~。貰ってしまいました」

 

嬉しそうに何かを鞄から取り出した。

 

「お。良かったですね」

 

ルドルフ会長のサインが書かれた色紙だ。名前まで入っている。

 

「これは家宝にします」

 

そこまでか……。

 

 

 

ふと、周りを見渡す。

 

今、この場所にいるのは私とサバノミッソーニさんの二人だけ。今なら聞けるかもしれない……!

 

「サバノミッソーニさん。変なことを聞いても良いですか?」

 

「えっ? 構いませんが、何でしょう?」

 

許可は貰った。さて、どう聞こうか。

 

ストレートに『憑依・転生者ですか?』とか『人間だったとか?』って聞いたら、違った場合に私がヤバい。

 

『本当にウマ娘ですか?』だと、失礼に当たるだろう。

 

それとなく、自分語りで聞いてみるか。

 

「実は私、記憶喪失なんです。ある時を境に、その前の記憶が一切無いんですね」

 

「それは……」

 

驚いている。

 

この話を理事長にしたときの反応に似ている。尤も、彼方は大袈裟なリアクションと変幻自在の扇子付きだが(『驚愕』だった)。

 

「ですがね。不思議なことに、全く別の記憶はあるんですよ」

 

「…………」

 

サバノミッソーニさんは何も言わない。黙って続きを促している、というよりは驚きのあまり言葉が出ないのだろう(理事長の扇子なら『絶句』と書かれているだろう。但し、この話は彼女らにはしていない)。

 

「その、別の記憶によると、私は人間だったらしいんですよ。だから、この身体に入っている私は、一体何者なのでしょうね……?」

 

一度、空を見上げた。お、星が見えている。一番星かな?

 

そして、サバノミッソーニさんの顔を見る。

 

「…………?」

 

この表情。読みは外れていたらしい。

 

「ごめんなさい。こんな話をしても、何て返せば良いか分かりませんよね」

 

「は……はい。不思議な話があるものですね……。驚きました」

 

「今の話は忘れてください。まあ、忘れろって言っても難しいですよね……」

 

それほどの話をしたのだ。

 

「まあ……仰る通り。忘れるのは難しいでしょうね」

 

困り顔。

 

「あ。私から言った手前、勝手なお願いになってしまうのですが、この件は誰にも話していないので、口外無用でお願いします」

 

「そ、それは大丈夫です。これでも生徒会の会長を賜っている者。言うなと言われれば誰にも言いませんので」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

さてと。そろそろ私も帰るか。サバノミッソーニさんもあまり長い間足止めさせてしまうと、寮長が心配するだろう。まあ、門限にはまだ早いとはいえ。

 

「それではこれにて私は失礼します」

 

「はい。今日は本当にありがとうございました」

 

互いに頭を下げると、サバノミッソーニさんはさっき二人が歩いていった方へ向かって行く。

 

 

 

 

車に乗り込みエンジンを掛け……。

 

帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、パンクしたことが良い厄払いになったのか、帰り道は何も起こることはなく、無事に帰ってこれた。

 

 

えっ? 高速道路料金はどうしたのかって?

 

……これ、言わなきゃダメですか?

 

『通行証』はナンバーを含め申請しているので、車が変われば使えない。

 

しかし、世紀末覇王号にはETC車載機があり、学園からETCカードを預かっている。

 

これで答えは出たでしょう?

 

『車』に『給油カード』の次は、『ETCカード』まで。この事がルドルフ会長にバレたらって考えると、恐ろしくて恐ろしくて……。

 

何があっても隠し通さねばならぬ……!

 

 

*1
テイエムオペラオー フツロルンルン ピサノミライとも、史実馬の父は オペラハウス である。つまり、皆父が同じ。因みに、ピサノミライの史実馬の母は ワンスウエド であり、テイエムオペラオー の全妹となる。そのため、本作では姉妹として扱っています。

*2
怒涛の視察(第12話)参照 ※リンクですから左のサブタイトルを押すと、飛びます

*3
ゴルシちゃん保護法第十三条、如何に不思議なことがあっても、深く追求してはならない。

第二項、ゴルシだし がすべてを解決する。

*4
〈筆者注〉テイエムオペラオーさんは登場していなかった……。なんか寂しいです。





サバノミッソーニ会長が眼鏡を掛けている設定は、ネット競馬等で史実馬を検索したときに、着用しているメンコの額部分に『無限マーク(∞)』が見れたので、それを眼鏡に変えました。

眼鏡を掛けているウマ娘は、たいてい頭脳派の娘なので、ちょっとウマ娘の設定とはズレますが、ご了承ください。


この一ヶ月の間に、アニメのseason3が始まり(※第1話は放送済)、そのオープニングがあまりにも素晴らしい……というか、面白かったので本作に登場させました。

しかし、あの二人は何をしたんでしょうね? 必死に追いかけるエアグルーヴが……。可愛かった。
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