此度の被害・・・腹を切るより他にあるまい(ガチ) 作:白白明け
他に書いている文章が煮詰まってしまっているので、気分転換に書いたものです。
僕の考えた最強のヨロイムシャを書きたかっただけの文章です。
皆様の暇つぶしになれば幸いです。m(_ _)m
全四話で完結です。書き終えています。
でも、感想などくれると、とても嬉しいです\(^_^)/
鳴羽田-旧市街地-再開発区域。
老朽化したビル群の解体が始まり、大通りを重機が行き交う街の一角にある喫煙スペースにて二人の男が並んで立っていた。
並んで立つ二人の男の内、松葉杖を突きながらも体躯の良さから周囲を圧する一人の男の風貌は、嫌煙が進む現代社会においてオアシスと言うべき喫煙スペースから人を消し去る程には物騒なものだった。
黒いバンダナを頭から巻き、顔を半ばまで隠し、目出の為に空いた穴からは鋭い眼光が覗いている。拳には厳つい金属製のナックルを装備していて、一見すればヒーローのようにも思えたが、黒いバンダナで隠れていない部分、無精髭と口元に浮かぶ獰猛な笑みを見れば、誰もが勘違いだと気がつくだろう。
その男は、ヒーローではない。
元ヒーロー。現ヴィジランテ-ナックルダスター。
対してもう一人の男。和服を着た総白髪の壮年の男はヒーローだった。
現役トップヒーロー-ヨロイムシャ。
二人はナックルダスターがヒーロー-オクロックとして活動していた頃からの知り合いであり、ナックルダスターにとってヨロイムシャはヒーロー引退後も少なからず連絡を取り合い続けていた数少ないヒーロー関係者だった。
仲が良い。と言うわけでは無い。なんなら、ナックルダスターはヨロイムシャが苦手だった。
ヨロイムシャとナックルダスターの年齢は親子ほども離れているし、ヨロイムシャもナックルダスター自身も話し上手な訳ではないのであっても会話は弾まない。
しかし、それでも二人が連絡を取り合い続けていたのは互いに
だから、ナックルダスターは自分の抱えていた一つの大きな仕事が終わったのを切っ掛けにヨロイムシャを呼び出し、そのことを伝えた。
それに対するヨロイムシャからの返答は実に淡泊なものだった。
「フン、ならばその奇天烈な
「それは出来んな。ヒーローというやつは、忙しい。路地裏のチンピラを相手にする暇は無いだろう。だから、俺みたいな奴が必要だ」
「
「個性など無くとも殴れば大概の問題は解決できる」
「やる気のある
「爺さん、パパ活の意味を間違って覚えているぞ」
「なんじゃと?父親活動というくらいじゃ。家族サービスのナウい言い方じゃないのか?」
「・・・こりゃ、爺さんが引退する日も近いな」
呆れたように溜息を吐くナックルダスターに対して、ヨロイムシャは不快感を隠そうともしないで鼻を鳴らす。
「フンッ、勝手なことを抜かすな若造。俺は求められる限り、ヒーローを辞めることはない」
「なあ、爺さん。これは100%善意からの提案なんだが、本気でそろそろ引退を考える時期なんじゃないのか?もう前みたいに無理できる身体じゃないだろう。少なくとも表舞台からは、身を引いた方が良い」
「うっさいわい。誰が俺より後にヒーローに成ったくせに、俺より先に引退した若造の指図など受けるか」
ヨロイムシャはそう言ってその場を立ち去ろうとする。
その背中にナックルダスターが投げかけた言葉は、ヨロイムシャの身体を案じての言葉だった。
「弟子に後を託すことも、勇気が無きゃ出来ないことだぞ」
「・・・託せる者がいるのなら、とっくにそうしとるわい」
『ヒーロービルボードチャートJP』。
事件解決数や社会貢献度、国民の支持率などを集計し毎年二回発表される現役ヒーロー番付。そのトップ10の常連であるヨロイムシャは、その発表の場にはじめて登壇しながら、今回のランキングの重要性について目を細めて考えていた。
絶対的な№1ヒーロー、オールマイトが事実上の引退に追い込まれた神野での大事件以降、初めてのビルボードチャートの発表はそのまま日本国民がヒーロー達に寄せる期待の現れだ。
《
《
第九位というランキングに対してヨロイムシャは思う所は何も無い。彼は第三位までを除けばこんな番付は時と運で如何様にも変動すると考えていた。
そして、自分のような老兵の名前が何時までも番付の中に上がり続ける間は自分がヒーローを引退する日は来ないとも考えていた。
だから、鎧兜の下で仏頂面をしているヨロイムシャの考えを簡単に一言で纏めるのなら、「最近の若い者は・・・」という老害思考まっしぐらだった。
それでも、まあ、芽のある若者も居るとヨロイムシャは横目で自分の発言に水を掛けてきた若者を見る。
壇上でのインタビューで「これからもやるべき事は変わらん」と言ったヨロイムシャの言葉に
「やること変えなくていいんですか?」
ウイングヒーロー-ホークス。18歳で事務所を立ち上げ、22歳にして
「
ホークスの言葉は正論だろう。彼よりランキングの低い者たちのほとんどが、返す言葉を持ってはいなかった。だから、誰にも邪魔される事なく言いたい事を言い切ったホークスが現№1ヒーローとなったエンデヴァーに渡そうとしたマイクを横からヨロイムシャが奪い取ったとき、会場に集まっていたヒーロー達の驚きは大きかった。
「年長者に対する礼儀がなっとらんな」
「・・・すみません。今時の若者なもので」
鎧兜の所為で表情の読めないヨロイムシャと薄い笑いを崩さないホークスのにらみ合いに空気が静まりかえる。数秒、にらみ合った両者だったが、司会者から待ったが掛かったことで此所はヨロイムシャが鼻を鳴らしながらに引いた。
「あ、あの、このような場ですので・・・どうか、穏便に・・・」
「フン、わかっとるわい。じゃが、俺は孫ほど年の離れた若造に侮られて黙っていられるほど大人ではなくてなッ!ホークス!ハッキリと言い切っておくッ!俺がやるべき事は、これからも何一つ変わりはせん!
ヨロイムシャはそう言うと司会者にマイクを返して壇上を降りる。
「あ、あの、お待ち下さい!どこへ⁉」
「帰る。もう直に相撲の時間じゃ」
壇上を降りたヨロイムシャが会場を後にするのを止めるヒーローはいない。会場に集まったヒーロー達の中で
ヒーローにあるまじき傍若無人な振る舞いをする自分に対して、何も言ってこない
(フン、いつの間にか、つまらないヒーローが増えたものじゃわい)
年長者を
もし仮にこの場に元№1ヒーロー-オールマイトが居たのなら、HAHAHAと笑いながら自分の前に立ち塞がっただろうかと考える。あるいは大の男のくせにモジモジとしながらも、和を以て貴しとなす日本人の美しさを説いてきただろう。
(見所のある若造から先に舞台を降りていく。年寄りばかりが生きながらえる。年長者ばかりを慮る。この国の悪いところじゃわい)
ヨロイムシャはホークスと言い合いをした自分を止める若造の出現を望んでいた。現代のヒーローの中に礼儀知らずの老人を爺呼ばわりできる気骨のある者が居るのかを確かめたかった。しかし、そんな思いは届かずに誰にも止められることなくヨロイムシャの手で会場から出る扉が開く。
その時、壇上の上から現№1ヒーロー-エンデヴァーの声が掛かる。
「ヨロイムシャ。去るのは俺の答えを聞いてからにしてはくれまいか」
「・・・フン、なんじゃ。棚ぼたで№1ヒーローに成った癖に、俺に意見する気かの?」
会場に再度、静寂が訪れる。ヨロイムシャの言葉はオールマイトが現役の時代は決して№1ヒーローには成れないと噂されていた努力するヒーロー、エンデヴァーに掛けて良い言葉ではなかった。
流石に聞き捨てならないとエンデヴァーの
「若輩にああも煽られ、先達にこうも舐められている以上、多くは語らん」
エンデヴァーは拳を強く握りながら、会場にいる全てのヒーローとカメラの先に居る人々に向けて言う。
「俺を見ていてくれ」
その目は確かに燃えていた。
それを見てヨロイムシャの鎧兜の下の口元は、僅かに緩んだ。
「フン、やる気のある
《突如として現れた一人の
現在、エンデヴァーとホークスの二人が
「ええいッ‼もっと飛ばさんかいッ‼」
「む、無茶言わないでください!これで
「若いんじゃからマッハ2くらい出ないのか!」
「む、無理ですよ。インゲニウムじゃ無いんですから・・・」
「これだから最近の若いもんは駄目なんじゃ!」
「急いでいます!急いでいますけど・・・多分、間に合わないですよ。行っても、戦いはもう終わっているんじゃないですか?」
「・・・じゃから、向かわんのか?」
「え?」
「間に合わなければ、ヒーローは戦わんでもいいのか?」
「それは、違いますけど・・・」
「“奇跡”が起きて間に合うかも知れん。その“奇跡”を望んでいるのは俺たちヒーローじゃない。今も助けを求める者たちじゃ」
ラジオから流れる情報がヨロイムシャの言葉と共に若いヒーローに重くのし掛る。
《いち早く応戦したエンデヴァー氏が―――この光景、嫌でも思い出される三ヶ月前の悪夢―――人々が助けを求め逃げ惑っています。・・・これが、象徴の不在・・・‼》
「
「―――はいッ‼」
この日、長崎の片田舎でヒーローをしていた青年は
福岡市内、繁華街。
エンデヴァーとホークス両名と
戦いに遅れた老兵は救助活動に参加しながら、己の無力さを鎧兜の下で恥じていた。
「あ、あれ、ヨロイムシャか?来てたんだ」
「戦ってたっけ?」
「いや、今さっき、着いたらしいぜ」
「へー、あの
「しっ、聞こえるぞ」
周囲のヒーロー達が漏らす陰口に鼻を鳴らしながら、ヨロイムシャは黙々と手を動かし続ける。
(フン、言われんでもダサいのはわかっとるわい。・・・昔は、よかった)
昔は良かった。その言葉は、しかし、決して現実を見ずに過去に囚われる老害思考では無かった。
嘗ては大の男を片手で投げ飛ばせた手に力が入らない。木刀を握り潰せた握力は瓦礫を掴むのにも苦戦している。何よりも問題なのは直ぐに息の上がる
老いは人間なら誰しもに訪れる。ヨロイムシャの全盛期はまだ国によるヒーロー制度が整備される前、ヴィジランテという善意の私人が街を守る為に闊歩していた時代だった。
あの頃は良かったとヨロイムシャは思う。肉体は息切れを知らず、個性を存分に使うことが出来た。
(しかし、今はどうだ。俺の身体は衰えた。個性を全力で使うことも出来ん。空を飛ぶ事など、夢のまた夢か)
嘗ての彼は飛べたのだ。甲冑を纏い。刀を握り。空を掛ける鎧武者を見ればどんな
多くの人々は彼を日の本を照らす正義の
(あの頃のように個性が使えれば、間に合ったろうに)
孫ほど年の離れた若造に侮られる事もなかっただろう。
(これが死に場所を見つけられなかった老兵の無様さか・・・)
ヨロイムシャはそろそろ引退を考えるべきじゃ無いのかというナックルダスターからの言葉を思い出す。彼の言葉は尤もだった。栄光は過去の遺物に。老いという現実は彼を確かに蝕んでいる。ならば、若かりし頃の活躍を貯金に、程ほどの活躍と程ほどの名声でトップ10入りを果たせている今のうちにヒーローを引退することが自分にとって幸せであることを、ヨロイムシャは理解している。
しかし、それでも―――
「あ、ヨロイムシャさん!こっちの瓦礫をどかすのを手伝ってください!」
長崎から福岡にヨロイムシャを運んできた青年ヒーローから声が掛かる。
「・・・まったく、そんな瓦礫も一人で動かせないのか!俺の若い頃はなあッ―――」
―――彼は求められる限り、ヒーローを引退することはないだろう。