此度の被害・・・腹を切るより他にあるまい(ガチ)   作:白白明け

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皆様の暇潰しになれば幸いですm(_ _)m






求められること

 

 

蛇腔(じゃくう)病院及び群訝(ぐんが)山荘、同時強襲作戦。

後のヒーロー史において“未曾有の大災害”として記される公安主導の作戦を聞かされた時、ヨロイムシャは武者震いした。

オールマイトを引退に追い込んだ“魔王”オール・フォー・ワン。その魔王が選んだ“後継”死柄木弔と(ヴィラン)連合は、ヴィジランテの時代の悪のカリスマであったデストロの思想を継ぐ異能解放軍を吸収し、『超常解放戦線』という悪の大組織に変貌していた。

その巨悪を討つ為に集められたヒーロー総勢二百名超。

このヒーロー飽和時代にこれ程に多くのヒーローが集った事は未だ嘗て無い。

 

「この作戦で次代の魔王(死柄木弔)を討つことが出来たなら、これ以上の花道は無かろう」

 

ヨロイムシャに恐怖はなかった。

鎧兜の下の眼光は獲物を狙う光りを帯び、携えた刀は抜かれる時を今か今かと待っていた。

 

そして、作戦決行日。群訝山荘。前線部隊。

百名を超えるヒーローの中にヨロイムシャは居た。ヨロイムシャの個性上、前線にて活躍することが王道にして最善の策であり、彼は最前線にて開戦の時を静かに待っている。

その中で場違いな()()悲鳴が聞こえた。

 

「何で俺が最前線なんスか⁉わあーん、みんなが恋しい‼A組が恋しいよおおおおぉぉぉ」

 

集められたヒーローの中には“学生”の姿もあった。

“学生動員”。ヒーロー科の生徒とはいえ、学ぶべき事の多い若者が戦場に立っている現状にヨロイムシャは嘗てこの国が犯した過ちを思い出しながら、頭を振る。

これだけのヒーローが集っている。ヒーロー陣営が先手を打つための準備も万端。忘れ去られた嘗ての大戦とは違い(にしき)の御旗が血に染まる“最悪”はない。

 

「フンッ、小童共の手を借りるほど、公安連中は(ヒーロー)たちを信用しとらんわけか。そのたわけ、叩き切ってやるわい」

 

憎まれ口で老兵より先に若者が戦場で死ぬという“最悪”を決して起こさない覚悟を決めて、ヨロイムシャは群訝山荘を見据える。

見据える空の上で鷹が飛んでいる。

 

「“最悪”。俺も()()()()()()()()

 

嘗て、国を守る為に武士は空を飛んだ。未だに飛ぶ個性(すべ)はある。無いのは体力(燃料)だけだ。

だが、文字通りに命を燃やすのならば、武士は再び飛べるだろう。

 

まるでそれを望む様に鎧兜の下の口元は嗤い。

そして、鷹が鳴くと同時に彼の最後の戦いは始まった。

 

雄英教師-セメントスの個性『セメント』により群訝山荘に隠されていた超常解放戦線の基地が開かれる。革命軍幹部の個性『増電』は雄英生徒-チャージズマの個性『帯電』により封じられる。その隙を突き、広域制圧が可能な個性を持つ者たちの手によって革命烈士たちは次々と沈んでいく。

道が開かれたのなら、後は戦闘を得意とするプロヒーロー達が総力を以て中枢を叩く。

全てがヒーロー陣営の作戦どおりに進んでいた。

 

「今ッ!ここより革命をッ‼」

「そういうのは学生運動で卒業しておけ若僧どもッ‼」

 

ヨロイムシャは近くに居る革命烈士達を手当たり次第に峰打ちで沈めながら、群訝山荘の内部へと侵入する。進む程に敵の数と殺意が膨れ上がるが、今の彼にはそれすら刀を握る力を増す増強剤に過ぎない。

 

「武者震いが止まらぬ。俺はッ、こういう死地を待っていたッ‼」

「ヨロイムシャッ‼それ以上は進ませない‼かくごっふ⁉」

「型がなっとらんわ!素振りからやり直せいッ‼」

「クソッたれッ‼これ以上、ヨロイムシャを進めさせるなッ!」

「爺の数少ない楽しみである散歩を邪魔するでないわッ!」

「糞爺!殺してやる‼」

「誰が爺じゃゴラァ‼」

「ガッハ⁉・・・い、言ってることが無茶苦茶だ・・・。むちゃくちゃ、()ええ」

 

若かりし頃の活躍と名声を貯金に()()()()の活躍でもトップ10入りを果たし続けるヒーロー、ヨロイムシャ。

彼は間違いなくオールマイトと同じく一時代を築いたヒーローの一人であり、その戦闘能力に衰えはない。衰えたのは体力と機動力のみ。長時間の戦闘は不可能だが、刀剣の間合いにおいてなら、彼の戦闘能力は未だに全ヒーローの中でも三本の指に入る。

 

ヒーローは備えた。これ以上、何も失わない為に。勝つために備え、勝利は約束されていた。

しかし、物語は不条理であるから物語たり得ている。予定調和は崩される為に存在していた。

少なくとも、今はまだ―――ハッピーエンドでは終われない。

 

 

 

 

群訝山荘から約60㎞。

蛇腔病院の“崩壊”と共に“魔王”は誕生した。

 

「おいで“マキア”。みんなと一緒に。今ここから、全てを壊す」

 

 

 

 

まず起きたのはヒーロー陣営の前線の崩壊だった。()前線にて戦っていたヨロイムシャは、振り返り、その光景に目を見開く。

動かないとされた“歩く災害”ギガントマキア。魔王の先兵であり最強の駒とされる巨大(ヴィラン)が動き出し、ヒーロー達を踏み潰していた。ギガントマキアの歩みと共に増える血溜まり。それを見たヨロイムシャは冷静な思考を放棄する。

 

「このッ、糞たわけがアアアアああアアア‼」

 

既にギガントマキアは群訝山荘から山林に出ていた。進む方向は蛇腔市の方角。

そして、道中にはヒーロー科の()()が数多く配置された後衛があった。

ヨロイムシャは全力で走る。老体で具足を纏いながら、その速度は優に成人男性の平均走力を超えている。しかし、追いつかない。ギガントマキアとは歩幅が違う。

筋力の衰え。体力の衰え。全盛期にほど遠い速度と上がる息。

いくら老体に鞭を打とうとも走って追いつくことは不可能だった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、俺は、求められている」

 

ヨロイムシャが思い出すもの。

それは“嘗て”、“遠い過去”()()()()

つい、先月の話だ。

 

「求められて、ハァ、ハァ、いるんだッ」

 

将来が楽しみな小童共(学生達)がいた。

 

「だからッ、飛べッ‼ヒーローだろうッ‼」

 

具足ヒーロー-ヨロイムシャ。個性『劔冑(つるぎ)』。

甲冑を身に纏い。その鎧は着用者の熱量(カロリー)を消費し、生身とは比べものにならない剛力を発揮し、背部に発現するジェットエンジンで空を飛ぶ。

 

嘗て日の本を照らした正義の武士(もののふ)()()()()()()()、再び空を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

個性のチカラで空を飛びギガントマキアを追うヨロイムシャだが、やはりその速度は全盛期とはほど遠かった。

 

「よもや、具足をこれ程までに重く感じる日が来ようとは・・・」

 

それでもギガントマキアとの距離は詰まっている。視界にはギガントマキアを止めようとするヒーロー達の健闘が入ってくる。それを何よりも歯がゆく思い、ジェットエンジンに()べる熱量(カロリー)が無意識に増える。

ギガントマキアに正面から対峙し、押しとどめようとしていた個性『巨大化』を持つMt.レディが吹き飛ばされた。巨体となる個性もそれ以上の25メートル級の体躯を持つギガントマキアを前にはチカラが足りなかった。

孫ほど年の離れた女性が投げ捨てられる光景にヨロイムシャの目がつり上がる。

しかし、彼の戦闘可能範囲はあくまで刀剣の間合いのみ。刀が届かぬ距離なら、助ける術は無く、吹き飛び傷つく彼女を助け起こす暇は無い。

断腸の思いでMt.レディから視線を外し、ヨロイムシャはギガントマキアを追う。

 

その最中、ヨロイムシャの通信機に音が流れる。

 

《ジジ・・・聞こえるかしら、クリエティ‼・・・力押しでは・・・ジジ・・・眠らせ・・・》

 

不明瞭な通信はヨロイムシャに向けてのモノでは無かった。

雄英教師-ミッドナイトが生徒に向けた通信をヨロイムシャの通信機が拾っていた。

 

《・・・律違反になっちゃうけど・・・態が事態よ・・・麻酔で・・・・・・ーロに麻酔を渡して・・・!・・・難しけ・・・すぐ・・・避難を・・・‼》

 

ヨロイムシャが眼下に広がる山林を見渡す。速度は衰えた。体力は衰えた。

しかし、視力は2.5。皺は増えたが衰え知らずの瞳は山林で倒れるミッドナイトの姿を捉えた。

 

《あなたの判断に・・・委ねます」

「たわけっ!小童共などに委ねるな!」

「・・・え?」

 

ギガントマキアを追う速度はそのままにヨロイムシャは片手でミッドナイトを拾う。

ついでとばかりに倒れていた彼女を狙っていた(ヴィラン)達を蹴散らしたヨロイムシャは片手でミッドナイトを抱えたまま飛んでギガントマキアを追う。

突然の事態に目を白黒させていたミッドナイトだったが、ヨロイムシャに助けられたのだと気がつくと冷静さを取り戻した。

 

「飛んで・・・いるんですね」

「なんじゃ。驚かんのか。俺が最後に飛んだのは、お前さんの産まれる前のことだというのに」

「根津校長から、昔の貴方の活躍は聞いています。嘗て、侍は空を飛んだ、と」

「フンッ、あの小動物(ネズミ)の癖に長生きめ。相変わらずのお喋りか」

「ヨロイムシャ。私を下に降ろしてください」

「たわけ。その怪我では(ヴィラン)に襲われれば死ぬぞ」

「かまいません。そんな事よりも早く貴方がギガントマキアに追いつくべきです!私を捨てれば、速度は上がるでしょう!」

「…」

「私は、プロヒーローです。死ぬ覚悟はできています!」

 

ミッドナイトには覚悟があった。ヒーローとして(ヴィラン)との戦いで命を落とす覚悟があった。

それに対するヨロイムシャの返答は、抱えている腕とは反対の手でミッドナイトの胸を揉むことだった。

 

「にゃあ⁉」

 

突然のセクハラに素っ頓狂な声を上げたミッドナイトに対して、ヨロイムシャは呆れたように息を吐きながらに言う。

 

「ハァ、乳が詰まってない胸じゃ。よもや、生娘(きむすめ)か?」

「なっ、こ、こんな状況(とき)になんですか!セクハラですよ!」

「俺の時代はな、女は子供を産んで初めて一人前だった。勿論、それが時代錯誤の老害思考であることは分かっとる。じゃが、孫ほどの年の()()を見捨てることが現代的だというなら、俺は老害でかまわん」

「…私を捨てずに、ギガントマキアに追いつけますか?」

「フンッ、小娘一人、軽いもんじゃわい」

 

ヨロイムシャの言葉に彼が頑なであることを察したミッドナイトは説得を諦めた。

そして、同時に思い出す。雄英高校校長‐根津が言っていた。

 

―――ヨロイムシャ()は、求める限り助けてくれるヒーローなのさ。

 

「わかりました。…ありがとうございます」

 

予定調和とは、崩されるためにある。

この日、救われぬ命が一つ救われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

“歩く災害”ギガントマキア。その体躯は25メートルを超える。その巨体を刀一本でどうにかしようと思うのなら、取れる手段は限られていた。

あの肉体に対して削りあいでは分が悪い。そもそも長くは自分が飛んでいられないことは、誰よりもヨロイムシャは自身が理解していた。老体では若い頃とは違い肉体に貯められる熱量(カロリー)には限りがあった。刀で傷つけ失血による長期戦を狙うことはできない。

 

(ならば…取れる手段は一つ。一刀による頸部切断しかあるまい)

 

ギガントマキアは“魔王”の命令にのみ従う最強の守護者。腕や脚を切り落とした所でどこまで効果があるかがわからない。ギガントマキアが街に出れば、数多くの人々の命が踏み潰される。

それを考えれば(ヴィラン)一人の殺害はヨロイムシャにとって迷う必要のない決断だった。

 

(奴の上空に飛翔し、降下の速度を刀に乗せて首を斬る。俺ならば斬れる)

 

無論、その落下攻撃には危険は伴う。ギガントマキアの巨大な頸を斬ろうと思えば、十分な速度を刀に乗せなければならない。ブレーキは踏めない。ギガントマキアの頸を斬った後、ヨロイムシャの身体はそのままの速度で地面にぶつかることになるだろう。

 

(“散りゆく桜は、二度と元に戻ることはない”か。俺にもようやく襷を託す番が来たな)

 

「ギガントマキアが見えてきました」

「…若僧(ヒーロー)共の姿もある。そこらへんで降ろすぞ」

「わかりました。ヨロイムシャ、ご武運を」

「フンッ、任せておけ」

 

ヨロイムシャは低空飛行に切り替えミッドナイトを地上に卸すとブーストエンジンを唸らせ急上昇する。そして、上空より戦場を俯瞰する。

ヨロイムシャがミッドナイトを助けている間にMt.レディが追いついて来たようでギガントマキアの腰に縋り付き動きを止めようとした。

更に後衛に配置されていた学生。雄英高校ヒーロー科の生徒たちの姿もある。

ミッドナイトからの連絡を受けた彼らはギガントマキアを止めるために策をめぐらせていた。

雄英高校ヒーロー科1年A組‐八百万(やおよろず)(もも)の指揮の元、ギガントマキアを転ばせることに成功していた。

その攻防の最中に見知った光線(レーザー)を見たヨロイムシャの顔が僅かに綻ぶが、直ぐに彼らが作った機会(チャンス)を無駄にしない為、()()()を開始する。

 

(小童共のおかげで姿勢がいい。あれなら無防備な頸部を狙える)

 

上空500メートルからの急降下により、ヨロイムシャの身体に重力(G)が掛かる。身体を蝕む重圧に耐えながら、ヨロイムシャは勝機を見据える。

上空からの奇襲にギガントマキアの背にいる超常解放戦線の幹部たちは気が付いていない。

Mt.レディとシンリンカムイ。そして、雄英高校ヒーロー科の生徒たちの手により転んだ姿勢のまま押し留められているギガントマキア。

今ならば、その頸が斬れる。

 

決死の勝利にヨロイムシャの顔が歪む。

その刹那、彼は見た。見てしまった。

超常解放戦線幹部‐荼毘の放った青い炎の中を突き進むヒーロー志望者の姿。

粘土Maxの酸の鎧を纏い、恐怖で竦む心を溶かしてギガントマキアに迫るその姿はまさしくヒーロー。

 

「眠れえ‼」

 

 

「二度と集らぬよう払うが最短」

 

 

「………あ」

 

その勇気が涙と共に流れてしまった芦戸三奈(少女)を見た。

 

勝利があった。刀を振るう先に喝采を受けるべき約束された勝利があった。約束された花道。

求め続けたヒーローを辞める舞台。ギガントマキアを斃さねば起こるだろう災害を思えば、たった一人の命。たった一度の迷い。それを振り払えるものこそが“英雄”と呼ばれるのだろう。

“最善”を選ぶことに否はない。その筈だった。

ギガントマキアを斃すことを、多くに人々に()()()()()()()

ヨロイムシャの視界の端に芦戸三奈を助けるために駆ける少年の姿が写った。

 

きっと少年は少女を救える()()()

 

(だから、俺は求められるままに―――)

 

ギガントマキアの頸を斬る。

 

Mt.レディが吹き飛ばされる。芦戸三奈が取りこぼしたナニカを拾うために涙を流しながらに手を伸ばす。それを衰えることのなかった眼が写した瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺の前でッ、その小童を泣かせるなあああああああああああ‼」

 

狙いを頸から芦戸三奈を潰そうとする左手へ軌道修正。散りゆく桜は風に吹かれ、約束された勝利から遠ざかる。しかし、ヨロイムシャの思いを込めた一刀はギガントマキアの左腕を見事に切り落としてみせた。

 

頸狙いの縦から腕狙いの横へ。地面に激突する筈だったヨロイムシャの老体が地面をゴロゴロと転がる。受け身を取りつつ勢いを殺し、身体を止めると直ぐに顔を上げた。

其処には切島鋭児郎(少年)に助けられた芦戸三奈(少女)の姿があった。

 

「ボーイ、ミーツ、ガール。…ひとまずは、それでいい。…後は、もう一度、飛べ…」

 

ヨロイムシャは震える身体を立ち上がらせようとする。ギガントマキアの進撃は止まっていない。予想していた通りに“歩く災害”は腕一本失ったことなど気にすることなく、“魔王”の命令を遂行するために蛇空病院へと向かっている。

飛ばねばならない。ヒーローは、飛ばねばならない。

しかし、ヨロイムシャにはもう、再び飛ぶ為の熱量(カロリー)が残されていなかった。

 

 

 





個性『劔冑』。
別作品。装甲悪鬼村正より設定をお借りしています。
気になる方は是非、プレイしましょう!
ニトロプラスなので人は選びますが、とても面白い作品です!
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