VTuber育成ゲームに転生したけど、ステ振りに失敗しました   作:bnn

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プロローグ

 

 目の奥に鈍痛が走った。

 慌てて目薬をさして、ギュッとまぶたを閉じる。

 暗い部屋の中で、裸眼のままPCの画面を見続けたせいだ。自分の体の脆弱さにうんざりしながら、手探りでブルーライトカット用の眼鏡を探す。

 

「うあぁぁ……最悪。頭痛い……」

 

 妖怪のようなうめき声を漏らしつつ、眼鏡をかけて作業再開。

 DAWソフトにシンセの音を打ち込んでいく。

 だけど一度切れてしまった集中力はなかなか立て直せないもので、気付けば私の手は傍らに置かれたスマホへと伸びていた。

 気分転換に動画アプリを開いて、過去に自分が投稿したMVの一覧を眺める。

 

「懐かしいな……」

 

 アルバムを捲るような気分で、下にスクロールして日付を遡っていく。やがて最下段の、初めて自分で作った思い出の楽曲まで辿り着いた。

 なんとなく動画を再生しながら、コメント欄に視線を落とす。そこには古いものから最近のものまで、様々な賞賛の言葉が溢れていた。

 

「ふふ……えへへ……」

 

 神曲! とか。

 この曲で人生が変わった、とか。

 永遠に色褪せないでほしい、とか。

 投稿したのはもう数年前なのに、今でも誰かに聴いてもらえてることが嬉しくて、自然と笑みが溢れる。

 

 ――だけどすぐに、虚しくなった。

 

「……私が歌いたかったな」

 

 スマホから流れているのは、機械的な合成音声。

 それだって味があるし、立派なエンタメのひとつだと思うけれど、私はやっぱり自分自身の声でみんなに届けたかった。

 

 生まれつき貧弱で、歌うことに声帯が耐えられない。大声を出せないし、長時間話すこともできない。欠陥だらけの私の身体。

 それでも歌うことを諦められなくて、無理をして、とうとう喉を壊してしまって。

 低く掠れた自分の声が、たまらなく嫌いだった。

 

「……ああ、もう。まただ……」

 

 自己嫌悪によるフラッシュバック。

 どうしようもなく愚かな過去が、嫌がらせみたいに脳裏に蘇ってくる。

 

 喉を壊した後も諦めきれずに、曲だけは作り続けた。そんな代償行為で束の間の充足感を得て、承認欲求を満たしても、次の瞬間には絶望して死にたくなった。

 何度も何度も、同じことを繰り返して。

 その結果が、この膨大に並んだ動画のリストだった。

 

「こんなにやってきたのに、まったく成長してないな……ほんと、何やってんだか」

 

 そう自嘲して、コメント欄を閉じる。

 すると関連動画がいくつか表示され、その中に私が過去に作った曲の『歌ってみた』動画が並んでいた。

 私でも名前くらいは知っている、とある企業の女性VTuber。歌唱力で高い評価を得ている彼女の歌声が気になって、軽い気持ちで動画を再生してみる。

 そして、激しく後悔した。

 

 カリスマ性に溢れた美しい歌声。

 気持ちよさそうに伸びる高音域のロングトーン。

 感情を揺さぶる、魂のこもったシャウト。

 

 とにかく、全力で歌うことを楽しんでいた。

 そして彼女のそんな姿が、私には堪え難いほど眩しかった。

 

 ああ、羨ましい。羨ましい。羨ましい。

 本当なら私も、そうやって声を張り上げて歌いたかったのに。

 喉を震わせて、爆発しそうなこの感情を表現したかったのに。

 

 あなたみたいに、きらきら輝きたかったのに――

 

 

 

 曲が終わって、画面が少しずつ暗転していく。

 無意識のうちに涙を流していたことに気がついて、パーカーの袖で拭った。

 ひどく惨めな気分だった。まあ、いつものことだけれど。

 こうやって誰かを羨んでばっかりで、少しも前に進めてない。

 

 それが私、雨音律。

 

 スマホを置いて、席を立った。

 今日もまた死にたい気分に浸りながら、服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びにいく。

 熱湯でも浴びれば、このドロドロとした不快感を、少しは洗い流せるだろうか。

 

 

 

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