VTuber育成ゲームに転生したけど、ステ振りに失敗しました   作:bnn

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ミッション1 キャラメイクをしよう

 

 生乾きのままの髪の毛にタオルをかけて、PCの前に戻ってきた。

 シャワーを浴びて少しはすっきりしたものの、まだなんとなく作業に戻る気にはなれない。

 脳が仕事モードに切り替わるまで、もう少し時間がかかりそうだ。

 

「うーん……急ぎでやらなきゃいけない仕事もないし……気分転換に、ゲームでもやろっかな」

 

 PCゲームのオンライン販売を行っているプラットフォームを開いて、セール中のソフトをいくつか物色する。

 その中から価格の安いものや評価の高いものを選択して、まとめてカートに放り込んだ。

 購入したソフトを順番にダウンロード。待っている間に髪の毛を乾かして着替えを済ませ、ホットコーヒーを淹れる。

 温度が高すぎると喉を痛めてしまうため、ある程度冷めるまでは我慢。

 クセになる香りを楽しみながら、どのゲームを遊ぼうかとマウスを彷徨わせる。

 

「さーて、何か面白そうなものは……ん?」

 

 購入したゲームの概要を流し読みしていると、とある箇所でマウスの動きがぴたりと止まった。

 カーソルの先には、『VTuber』の文字。

 先ほどの動画を思い出して、複雑な気分になる。別に何か思うところがあるわけではないけれど、さっきの今で少しばかり気まずくなった。

 せっかく目に留まったんだし、少しだけやってみるか……と、アイコンをクリックしてゲームを立ち上げる。

 

「えーっと……『このゲームは、あなただけのVTuberを育成してチャンネル登録者数100万人を目指す、育成シミュレーションゲームです』……? はは、100万人って。簡単に言うなぁ」

 

 今の世の中、ネットには多種多様な配信プラットフォームがあって、それぞれで無数の配信者が活動を行なっている。だけど登録者100万人越えなんて、一部の超有名勢だけ。ほとんどは鳴かず飛ばずで伸び悩んでいるその他大勢で、もし運よく大成功したってせいぜいが数万から数十万人。

 私だって数年活動を続けているのに、100万の半分にも届いていない。

 ましてやVTuberなんて、一部の大手企業による寡占状態が続いている完全な飽和市場。その中で頭角を現すのは至難の業だし、100万人なんて夢のまた夢だ。

 まあ、とはいえ……。

 

「ま、その辺はゲームだしね。気にするだけ野暮かな」

 

 あくまで育成シミュレーションだし、リアリティを求めるものでもないだろう。

 今から活動を始めて上位数パーセントに食い込むために、いったいどれだけの能力と労力と幸運が必要になるのか……とか、いちいち考えながら遊んでも楽しめない気がするし。

 

 そんな世知辛い想像に苦笑しながら、ゲームの読み込みを待つこと数十秒。

 ようやくゲームが起動して、見たことのない会社のロゴが表示された。

 ゆっくりとロゴが消えていき、ゲームのタイトル画面に切り替わろうとした瞬間――

 

「……んん?」

 

 突然ゲームがフリーズして、スノーノイズのような荒れた映像が流れる。

 驚きで目を瞬かせながら画面を注視すると、その時にはもうPCは正常に表示されていた。

 『Ultimate VTuber』というゲームのタイトルが、カラフルでサイバーチックな背景と共に映っている。

 

「な、何だったんだろう、今の……初期不良かな?」

 

 気にはなるものの、とりあえずゲームの進行に問題はなさそうだ。

 PCの調子でも悪かったのだろうと納得して、エンターキーを押す。

 数秒のローディングを挟み、いきなりキャラメイクらしき画面に切り替わった。

 

「これは……ステータス表かな。キャラクターの初期ステータスを決めるのか」

 

 画面左には蜘蛛の巣状に広がった八角形のレーダーチャート。そして右側には、各ステータスの項目が上からリストになって並んでいた。

 画面の右上には〈Vポイント〉という名称と数字が表示されていて、現在の持ち分は百ポイント。

 どうやらこの、どこかのクレジットカード会社のポイントプログラムのような名称のポイントで、各項目のステータスを強化していくらしい。

 

 ステータスのリストに目を向けると、一番上には〈トーク力〉と書かれている。

 試しに一ポイント振ってみると、左側のレーダーチャートの一角がググッと伸びた。

 八項目のステータスと、八角形のレーダーチャートがそれぞれ連動しているようだ。

 

「なるほどね……どのステータスを伸ばすといいのかなー」

 

 攻略サイトなどを見ればおすすめのステ振り例が出てくるだろうけれど、私は基本的にゲームはネタバレなしで楽しみたい派だ。

 自分の直感に従ってプレイして、もしダメだったとしてもそれはそれでいい。

 失敗や遠回りも含めてゲームの醍醐味だと思う。

 よし、好きなステータスに自由にポイントを入れていこう。

 そう決めて、改めてどんな項目が並んでいるのかを上から順に確認してみる。

 

 

Vポイント残高:99

 

〈トーク力〉:1

〈企画力〉:0

〈演技力〉:0

〈歌唱力〉:0

〈画力〉:0

〈ゲームセンス〉:0

〈コミュニケーション能力〉:0

〈運〉:0

 

 八つの項目を順番に見ていって、ある一つの項目でピタリと瞳の動きが止まる。

 強い磁力で引き寄せられるように、その項目から視線を外すことができない。

 ……ざわざわと、胸が波打つのが分かった。

 私の心の一番醜い部分に、するりと入り込んできたステータス。

 

「…………はは。歌唱力、ね」

 

 ――これは八つ当たりだ。

 悪いのは出来損ないの身体で生まれてしまった私ひとりで、それ以外のすべてには何の罪もない。

 分かってる。分かってるけど……どうしても、許せなかった。

 

「馬鹿じゃないの。こんな数字一つで歌えるようになるなら……誰も苦労しないって」

 

 脳裏に浮かぶのは、さっき見た動画の女性VTuber。

 綺麗な歌声を響かせる彼女が眩しくて、羨ましくて。私もあんな風に輝きたくて。

 私も……私だって、本当は――

 

「――歌さえ歌えれば、他には何もいらないのに」

 

 空っぽの頭で、そう呟いた。

 気付けば何も考えないまま手だけが勝手に動いて、〈歌唱力〉のステータスにポイントを振り込んでいく。

 残高をすべて注ぎ込んだ後、〈トーク力〉に振っていた一ポイントも回収して〈歌唱力〉に振り直した。

 

「……え? 何これ?」

 

 すべてのVポイントを使い切ったと思ったら、画面の右上に『追加でポイントを購入』というボタンが出てきた。

 クリックしてみると、外部サイトへと繋がる。どうやら課金することで、初期のVポイントを増やすことができるらしい。

 衝動的に可能な限りのVポイントを購入して、ゲーム画面に戻り発行されたコードを読み込ませる。

 追加されたポイントを、また〈歌唱力〉のステータスにぶち込んだ。

 やがて追加分のVポイントも使い切り、これ以上ステータスを上げることができなくなったところで、私はようやく我に返った。

 

 

Vポイント残高:0

 

〈トーク力〉:0

〈企画力〉:0

〈演技力〉:0

〈歌唱力〉:999

〈画力〉:0

〈ゲームセンス〉:0

〈コミュニケーション能力〉:0

〈運〉:0

 

 

「はは……何をムキになってるんだ、私は……ただのゲームなのに」

 

 改めて自分の行いを振り返って、恥ずかしさに顔が熱くなる。

 もう子供でもないのに、まさかこんな衝動的なお金の使い方をするなんて。

 我ながら幼稚というか、ただの馬鹿というか……。

 

 レーダーチャートを見ると、〈歌唱力〉の項目だけが突き抜けた、何とも歪なステータスが出来上がっていた。

 特化型と言えば聞こえはいいが、それ以外がポンコツすぎて何もできない人になっている。あまりにもピーキーすぎる能力構成だ。

 

「まあでも……とりあえずこれでやってみようか。ダメだったら、その時はその時だよね」

 

 育成に失敗しても、面白ければいいか……と楽天的なことを考えながら、〈完了〉のボタンを押す。

 本当にこれでよろしいですか? と確認画面が表示されたので、OKを選択して画面を閉じる。ローディングアイコンを横目に、ゲームが開始されるのを待ちながら温くなったコーヒーでも飲もうかと、お気に入りのマグカップに手を伸ばす。

 

 ――次の瞬間、またゲームがフリーズした。

 

「ええ……また? やっぱりPCの調子悪いのかな……」

 

 ため息をつきながらマウスを動かすが、反応がない。

 強制終了でもしないとダメかな、などと思っていると、先ほどのスノーノイズがさらに激しく画面上を占領した。

 

「ちょ……嘘、本当に壊れちゃった? どうしよう――づっ‼︎」

 

 不規則に流れ続けるノイズにあたふたしていると、明滅する光の刺激にやられたのか、唐突に激しい頭痛に襲われた。

 思わず頭を抱えて、テーブルの上に上半身を投げ出す。

 頭痛は次第に強さを増していく。あまりの痛みに、脳を鉄の棒で無理やり掻き回されているかのような錯覚を覚える。

 

「いった……何これ……ほんと、最……悪……」

 

 経験したことのない激痛に、段々と意識が遠ざかっていく。

 霞んでいく視界の中、PCの画面がひとりでに切り替わるのが見えた。

 カラフルでサイバーチックな背景の上に、『Game Start』というテキストが表示された気がした。

 

 

   * * *

 

 

プレイヤーネーム:雨音律

 

・〈歌唱力〉のステータスが規定値に達しました。

・称号:〈歌姫〉を獲得しました。

・称号:〈星の歌声〉を獲得しました。

・称号:〈白金の旋律〉を獲得しました。

・称号:〈魔王〉を獲得しました。

・スキル:〈完璧な調律〉を獲得しました。

・スキル:〈カリスマ〉を獲得しました。

・スキル:〈癒しの音色〉を獲得しました。

・スキル:〈魅惑の音色〉を獲得しました。

・スキル:〈哀痛の音色〉を獲得しました。

・スキル:〈奮起の音色〉を獲得しました。

・スキル:〈ステージの君主〉を獲得しました。

・スキル:〈魂の叫び〉を獲得しました。

・スキル:〈歌姫のオーラ〉を獲得しました。

・スキル:〈歌姫の眼光〉を獲得しました。

・スキル:〈魔王のオーラ〉を獲得しました。

・スキル:〈魔王の眼光〉を獲得しました。

 

・キャラクターの外装データをランダムで作成します。

・キャラクターの外装データに称号:〈歌姫〉の補正がかかります。

・キャラクターの外装データに称号:〈魔王〉の補正がかかります。

・キャラクターの外装データにスキル:〈カリスマ〉の補正がかかります。

・キャラクターの外装データにVポイントの追加購入ボーナスが加算されます。

・キャラクターの外装データを作成しました。

 

・ステータスが0のため〈トーク力〉に制限がかかります。

・ステータスが0のため〈企画力〉に制限がかかります。

・ステータスが0のため〈演技力〉に制限がかかります。

・ステータスが0のため〈画力〉に制限がかかります。

・ステータスが0のため〈ゲームセンス〉に制限がかかります。

・ステータスが0のため〈コミュニケーション能力〉に制限がかかります。

・ステータスが0のため〈運〉に制限がかかります。

 

・すべてのキャラクターデータの作成が完了しました。

 

〈ゲームを開始します〉

 

 

   * * *

 

 

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