VTuber育成ゲームに転生したけど、ステ振りに失敗しました   作:bnn

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日間3位になっていて驚きました。
たくさん読んでいただいて本当にありがとうございます。


ミッション6 配信準備をしよう

 

 

 いきなりゲームの世界に巻き込まれてから訪れた、二回目の、一日目の夜。

 理不尽なミッションを押し付けてくる『Ultimate VTuber』というゲームに対して、私は――

 

「――ふっざけんなぁぁあああああああああああっ‼︎」

 

 全力で怒りの声を上げていた。

 威勢よく『やってやるよ、初配信』なんて啖呵を切ってしまったその日の内だったが、これはもう、無理かもしれない。

 

 詰んだ。無理ゲーだ、これ。

 

 頭を抱えて項垂れながら、改めて自分の置かれた状況に絶望していた。

 いったい何が私をここまで追い詰めているのか。

 話のきっかけは、数時間前に遡る。

 

 

   * * *

 

 

 ゲームに宣戦布告をした私は、すぐにPCの前に座ってブラウザを開いた。

 

 与えられたミッションの内容は〈初配信をしよう〉だ。

 おそらくミッション達成の可否について、配信の内容やクオリティはそこまで厳密に求められてはいないはず。

 

 とはいえ、あくまで『VTuberを育成するゲーム』である以上、最低限その体裁は保たなければならない。

 一応あとで試してみようとは思うけれど、例えば暗転した無音の画面を十秒だけ配信してミッション達成、とはならない気がする。

 

 私にはライブ配信のために必要な知識もそこまでないし、どうすればVTuberとして活動を始められるのかも分かっていない。

 兎にも角にも情報が必要だ。

 

 そう思い、まず真っ先に『My Tube』のアカウントを作成する。

 規約が以前までと同じなら、たしかアカウントを作成してから二十四時間はライブ配信を行うことができなかったはずだ。

 ゲームの世界になって規約がどう変化しているのかは分からないが、早く作っておくに越したことはない。制限時間ギリギリにアカウントを作ってしまって、配信できずにミッション失敗、なんてことになったら目も当てられないし。

 

「元々の私のチャンネルが残ってたら楽だったんだけどなぁ……まあ、言っても仕方ないか……」

 

 せっかく育てた自分のチャンネルが消えてしまった喪失感に打ちひしがれながら、今度は別の配信プラットフォームの情報や、配信に必要なソフトについて調べていく。

 

 念のためすぐに『My Tube』のアカウントを作りはしたものの、何もそこにこだわる必要はない。

 初配信まで時間がないんだし、別のプラットフォームでより低コストに配信を行うことができるなら、利用しない手はないだろう。

 

 スマホひとつで簡単にVTuberとして配信を始められたり、必要なアセットや素材が一通り揃えられるアプリなんかがいくつかあった気がする。

 それらを利用すれば、三日という短い時間の中でもある程度まともな配信ができるのではないか。

 

「よーし。ちょっと色々調べてみるかー」

 

 服の袖を上げて、指をポキポキ鳴らす。やる気だけは十分にある。

 

 忘れてはならないのが、ここがゲームの世界だということ。

 ある程度現実世界との共通点があると言っても、細かいところでどんな差異があるか分からない。

 そういったところまで含めて、詳しく調べていく必要があるだろう。

 

 私は気合いを入れ直して、『()()()()()配信活動』についての調査を開始した。

 

 

   * * *

 

 

 ――で、現在。

 調査結果のメモを目の前にして、絶望し頭を抱えているわけだ。

 

「クソゲー……クソゲーだこれ……何なのこの世界……めちゃくちゃすぎるでしょ……」

 

 ブツブツと恨み言を吐きながら、走り書きしたメモを眺める。

 私の内面を表すように、メモの文字が後半にいくにつれどんどん荒れていってるのが分かった。

 

 どうしてこんなに荒れているのか。主な問題点はざっくり分けて三つ。

 項目分けされたメモに、再度目を通していく。

 

 一、配信プラットフォームについて

 二、配信の準備について

 三、配信の内容について

 

 最後の方の文字はもう日本語の形を成していないが、とにかくそれぞれの問題点を頭の中で整理していく。

 

 まず、配信プラットフォームについて。

 

 調べてみてびっくりしたのだが、なんとこの世界、配信活動を行うことができるプラットフォームが『My Tube』以外に存在しない。

 そんな馬鹿なと時間をかけて調べてみても、他の配信用アプリはおろか、SNSでのライブ配信すら行うことができなかった。

 

『My Tube』もUIや仕様がところどころ現実世界のものと変わっていたりする。おそらく名前が同じなだけで、厳密にはこの世界独自の一本化された配信用プラットフォームなんだろう。

 

 確かに『チャンネル登録者数100万人を目指す』のがゲームの目的である以上、物語の舞台が一つのプラットフォーム内で完結するのは納得できる。戦場がとっ散らかってしまっては遊びにくいし、100万人の定義が曖昧になってしまうから。

 

 だけどさぁ……。

 

「わざわざ他のプラットフォームを全部なくすのはやりすぎでしょ……『絶対ここで配信しろよ』って悪意を感じる……仕様を考えたプランナーが憎い……」

 

 デスクにおでこを打ちつけながら、このゲームを作った会社に災いあれと願う。

 この仕様のせいで、私が他のプラットフォームで配信できないことの他にもう一つ、大きな問題が生まれていた。

 

「競争率、半端ないんだよなぁ……」

 

 あらゆる場所での配信活動が行えなくなった結果、VTuberに限らず多くの業種、分野から人が集まってしまい、まさに激戦というか、ターゲットの奪い合い状態になってしまっているのだ。

 はっきり言って、後追いでこの戦いに参加するのは果てしなく不利。

 

 今後チャンネル登録者数100万人を集めるハードルが、ぐんと高くなった。

 

「……まあそもそも、このままでは100万人どころか、配信を始めることすらできないんだけど……」

 

 問題の二つ目。配信の準備について。

 正直、これが一番の大問題。

 

 プラットフォームが一本化され、競争率が跳ね上がっているからか、この世界におけるVTuberの割合は企業勢が圧倒的に多い。

 現実世界ではどうだったか分からないけれど、ここではVTuberとして活動するためにはどこかそれなりの企業に所属するのがほぼ必須、という状況だ。

 

 その原因になっているのが、恐ろしく厳しくなった、配信用ソフトやミラーリングアプリなどの利用条件。

 利用するためには会社と交渉して許諾を得る必要があり、その条件が個人勢にはかなり厳しい。そもそも法人契約じゃないと利用できないことすらある。

 

 無料で使えるソフトが減って、素材も簡単に用意できるものではなくなった。時間も、労力も、お金も、あらゆる面でVTuberとして本格的に活動するためのコストが高騰している。

 新規の個人勢にとっては、参入障壁があまりにも高すぎる。

 

 一部個人でも活動を続けているVTuberもいるにはいた。

 だけどそれは、もともと大手と強いコネがあったり、その上で既にトップクラスまで上り詰めて独立した人だったりと、少し特殊な例だ。

 ゼロからスタートする私では、ロールモデルにすることはできない。

 

 と、まあ……。

 そんな厳しい現実を知って、私は自分が詰んでいることを悟り、発狂していたわけだ。

 

「あー、もうっ! スタートラインにすら立てないとか、どんな無理ゲーだっての!」

 

 お気に入りの椅子をぐるんぐるん回しながら、流れる景色に向かって吠える。

 少し酔ったあたりで椅子を止めて、挫けそうになる気持ちを無理やり切り替えた。

 

「とりあえず……今日はもう遅いから、明日朝一で各所にメールして、利用許諾を取ろう。ダメだった場合は交渉だ。やれるだけやってみないと」

 

 明日の自分に丸投げして、準備の問題については一旦ペンディング。

 許諾が取れたと仮定して、三つ目の問題を考える。

 

「配信の内容について、だけど……どうして何にもアイディアが出てこないの⁉︎」

 

 髪の毛をわし掴んで引っ張ってみても、配信のネタはこれっぽっちも出てこない。

 せいぜい、何か適当にしゃべって、歌いたいから歌ったりするかぁ、くらい。

 

 色んな人から『配信舐めてんの?』と怒られそうなプランだけれど、どれだけ真剣に考えてもこの程度の案か、そもそも破綻した案しか出てこなかった。

 

 ステータスの検証で、りんごの絵を描いた時と同じ状態。

 その時は『上手くやれている』と思ってるはずなのに、いざ出来上がったものを見てみたら、想像とはかけ離れた内容になってしまっているのだ。

 

 間違いなく、〈企画力〉のステータスが影響していると思う。

 ただ私の発想や創造力がしょぼいだけ、というわけではないはずだ。きっと。

 

「せっかくだから面白い配信にしたかったのに……やっぱり難しいのかなぁ……」

 

 時間が足りない中で凝った企画なんてできないことは分かっている。

 それでも、せめて何か面白い話をしたり、見に来てくれた人に少しでも楽しんでもらえることをしてみたかった。

 

「……明日いっぱいまで考えてみよう。奇跡的に、何かいいアイディアが思い浮かぶかもしれないし」

 

 もしどうしても何も出てこなければ、短い雑談と歌で乗り切るしかないだろう。

 ああ、歌といえば……。

 

「初配信でいきなりオリジナル曲だけってのもハードル高いから、何か歌えそうな曲の許諾も取っておかないと。ああ、やること山積みだ……」

 

 調べたところフリーで使える楽曲も相当少なそうだったので、その辺りも考えないといけない。

 今夜中に目星をつけて、明日まとめて連絡してみよう。

 

「あー、今日寝れるかなこれ……とりあえず、一回休憩するかぁ……」

 

 やることも決まったので、シャワーでも浴びて息を入れ直そう。

 PCをスリープモードにして席を立つ。

 

 画面の明かりが消えると、部屋の中は完全な暗闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして三日目の夕方。

 

 交渉はすべて断られた。

 配信の準備は何もできていない。

 

 

 名前も知らない橋の上で、沈んでいく夕日を眺めながら……私は独り、途方に暮れていた。

 

 

 

 

 





たくさんの感想と評価、ありがとうございます。
少しバタバタしていて一部返信ができておらず申し訳ないのですが、全て目を通して励みにさせていただいています。

今後とも楽しんで読んでもらえると幸いです。
引き続き感想、評価等よろしくお願いいたします。
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