孤高にして伝説の金髪美少女ヤンキーちゃんに挨拶したらストーキングされた。 作:さやん
対戦よろしくお願いします。
失敗した。
今年、高校に進学した僕、
高熱のために数日間もの間寝たきりを余儀なくされ、快復した頃にはすっかり入学式からのあれやこれやが過ぎてしまって通常の授業が始まっていた。
環境の変化は何事もスタートが肝心。
周囲との人間関係を築く上で、僕は盛大な出遅れをかましてしまったわけである。
だから、ようやく登校できるようになり、高校生活初日を迎えた僕はあることを心に決めていた。
隣の席の子が来たら、まず自分から挨拶をしよう……と。
何も奇抜なことをする必要はない。
高校に進学したと言っても、地元の高校だから同じ中学から進学した知り合いはいる。
彼らに声をかければ、僕の事情を慮ってくれる程度には彼らとの交友関係は築けているわけで。
肝心なのは、一歩を踏み出すこと。
自分はこのクラスに溶け込む意志があるのだと周りに示すこと。
そうすれば、まぁ悪いようにはならないだろう……と楽観的に僕は考えていた。
その行動が、どんな結果を齎すのか知る由もなく。
僕の席は、窓際の隅――アニメや漫画の主人公が良く座る感じの席だった。
ただ僕の場合、本人がその場にいないから、端の方に寄せておこうという意志をほんのり感じる。
まぁ、良いか悪いかで言えば最高クラスの席だ。
甘んじてそれを受け入れ、この後やってくるであろう隣の席のクラスメイトを待った。
幸いにも、中学時代の友人は僕のことを心配してくれたし、困っている事があったら行ってくれと親切にしてくれた。
緊張はしているが、不安はあまりない。
そんな何とも言えない心境の中、僕は目を閉じて意識を集中させた。
隣の席に座るであろう人の気配を待ち……そして、その時が来た。
がらら、と椅子が引かれる音。
どうしてか、シン……と静まり返った教室に、それは随分と響いた。
しかし、僕はその違和感に気がつくことはなく。
「――おはよう、今日からよろしく」
そう、努めて自然に隣のクラスメイトへと声をかけたのだ。
声をかけてから、気づいた。
凄い目つきの、金髪美少女がそこにいた。
一瞬チビるかと思うくらい存在感と眼力がすごかった。
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後から聞いた話によると、彼女の名前は
ざっくりと切りそろえられた少し癖のある金髪を腰のあたりまで伸ばし、何よりも印象的なのはその眼力だ。
とにかく威圧感がすごい、立っているだけでその場の空気を支配できてしまう存在感を放つそれは、一度見たら忘れることはないだろう。
ただ、僕は今この瞬間、彼女と直接顔を合わせるまでその名前を知ることもなかった。
理由は単純で、僕があまりリアルでの交友関係が広くないオタクだからだ。
中学時代はずっと帰宅部で、ネットとゲーム三昧の日々を送っていたために。
もしも少しでも自分の中学以外の中学について興味があれば――部活などで他校と交流がアレば――古原久利須の名前を知らないなんてことはなかっただろう。
そんな彼女が自分と同じ高校に進学したことも。
同じクラスになったことも。
知らないはずはなかったのだ。
僕のようなインドアオタクでさえなければ。
ともかく、そんな古原久利須は、中学時代伝説のヤンキーとして知られていた。
ヤンキーって言葉がそもそも古いような気がするが、ある意味でだからこそ彼女の二つ名とも呼べるものなのかもしれない。
彼女はその雰囲気がヤンキーそのものなのだ。
彼女がそこに立っているだけで、多くのものは彼女から目をそらしてしまう。
きっと、喧嘩をすれば立ち所に無数のチンピラを叩きのめしてしまうのだろうという気迫。
曰く、彼女の中学時代の学校は、たった3日で彼女によって支配された。
曰く、彼女に喧嘩を売ろうとしたこの街の不良学生全てを一週間で制圧した。
曰く、彼女の正体は海外のマフィアの娘で、故郷ではあまりにも危険すぎる彼女の存在を裏社会から遠ざけるためこの国へ追放した。
だとか。
いわゆる“伝説”と呼べるものには枚挙にいとまがない。
実際そのどれが真実であるかなど、外野には定かではないのだが。
確実に言えることとして、彼女の前に立った時、そういった噂が真実であるかを考えると――
噂が真実であるか嘘であるかなどどうでもいい。
彼女を見ればわかる。
古原久利須はそういう少女だった。
――で。
僕はそんなことも知らずに、彼女へ声をかけてしまったわけで。
彼女の目を見た瞬間、僕は思わず自分が生を受けてしまったことへの後悔を覚えた。
生物として、目の前の存在に逆らってはならないという恐怖を刻み込まれた。
身動きの取れなくなった僕は、彼女と視線が合ったまま、それを生存本能によって追いかけてしまった。
彼女から返事はない。
無言で僕の隣の席へ座ると、持っていたバッグを机にかけてこちらを見る。
沈黙が続き、静寂がクラスを満たす。
……気付くべきだったのだ、この静寂は彼女が入出した時点で起こっていたのだと。
僕が彼女に挨拶をした時点で、それは静寂ではなく、寒波に寄って凍りついた極北に変わったのだと。
それが僕と、古原久利須の最初の邂逅だった。
無限にも思える視線の交錯の後、古原久利須は顔を前に向けて僕から視線を外した。
生きた心地がしなかった数秒間。
死の河をわたりかけた永劫の時間。
僕は彼女に、文字通り縛り付けられてしまったのである。
……そういえば、彼女が顔を前に向ける時。
口を少しだけ動かしていたような気がするけれど。
アレは、何かを言おうとしていたのかな?
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それに気がついたのは、昼休みのことだった。
朝の一件で、僕はクラス内で凄まじく浮いていた。
困惑と、それから畏怖のような感情が時折僕へ向けられる。
だからクラスに居づらくなった僕は、昼食を人気のないところで食べることにした。
そして、“彼女”はどういうわけか、そんな僕を追いかけてきたのである。
古原久利須。
伝説の美少女ヤンキーと噂される、金髪の少女は。
僕を、遠くからじっと見つめていた。
彼女は気配を消して追いかけているのかもしれないが、気が付かないわけがない。
彼女の歩くところには静寂が伴う。
普段ならばにぎやかに雑談を興じているはずの学生たちが、彼女が通りかかると沈黙する。
それが、僕の真後ろから常に発生しているとしれば、彼女の存在を無視できるはずもない。
何故? 一体何故、彼女は僕を追いかける?
ただ挨拶をしただけじゃないか。
それで、彼女は僕をターゲットに認定したのか?
あり得ない話ではない。
否、あり得ない話ではないと思わされてしまうくらい、彼女の存在感は強烈だ。
しかしここで、僕はなけなしの勇気を振り絞った。
今すぐにでもその場を逃げ出したい衝動を堪えたのだ。
何故そんなことを?
決まっている、パニックを防ぐためだ。
周囲の状況は逼迫している。
古原久利須が僕を追いかけていることは明白で、それは道行く学生たちにも容易に推測できる。
いわば一種の緊張状態だ。
だからもしここで、僕がパニックを起こせば――それは連鎖的に広がっていく。
いくら何でも、何の罪もない通りすがりの彼らに迷惑をかけるわけには行かない。
だから僕は努めて、普通に振る舞った。
その場から逃げ出すことなく、目的としていた学校のハズレ――どこでもいい、人の居なさそうな場所――を目指して進み。
そしてたどり着いた。
ほっと一安心。
否、そんなわけはない。
周囲のパニックを防ぐことは出来たが、僕の命の危機はいまだ継続中だ。
どころか、古原久利須は僕を遠くからじっと眺めている。
ただただ眺めて、じーーーーーっと眺め続けている。
何を考えているのだろう、距離はかなりあって、相手の顔色は伺えない。
その御蔭で、あの眼力を受けなくて済むのはありがたい限りだが、落ち着かないのもまた事実。
とはいえ、こちらから声をかける勇気なんてあるはずもなく。
僕は結局最後まで、彼女に見つめられながら食事をすることになったのだった。
……そういえば、こちらを見つめる彼女の手には、牛乳とサンドイッチが握られていた。
もしかして、彼女は探偵ごっこかなにかがしたかったのだろうか?
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結局、彼女のストーキングは学校が終わってからも続いた。
僕が席を離れクラスを後にすると、彼女もまたそれに続く。
僕が通学路である道を通って家に帰ろうとすると、彼女はそれを追いかけた。
できるだけ自然に、市街へと足を運ぶと彼女もこちらへやってきた。
人混みに紛れようとしても、彼女はそれでもなおこちらと同じ道を進んでいる。
帰り道が同じ……なはずはない。
そもそも彼女と僕は別の中学だ。
目的地が同じ……なはずはない。
僕の目的は彼女を撒くことだ。
一体どうして、こんなにも彼女は僕を追いかけるのだろう。
極限にまで高まった恐怖は、僕にある種の冷静さを与えていた。
心臓は今にも飛び出しそうで、足は今すぐにでもこの場から走り出そうとしているが、頭は至って冷静だ。
ただし、彼女に対する何故? で思考の全てを支配されてしまっているが。
果たしてそれが本当に冷静なのか?
僕は自分に自身を持てなかった。
僕が彼女にしたことといえば、挨拶をしたことだけ。
それ以外は何もしていない。
親切にだってしていないし、逆に迷惑だってかけていないだろう。
完全なフラット、良くもなく、悪くもなく。
そういう状態だったから、なおのこと僕はわからなくなる。
挨拶一つで、僕をボコボコにしたいのなら既にやっている。
それだけのチャンスはいくらでも合ったし、彼女はその気ならそうしているだろう。
でも、そうではない。
なら、まさか――まさかだが。
挨拶をしたから、彼女は僕を追いかけているのか?
それは、そんな、つまり。
孤高のヤンキーである自分に声をかけるおもしれー奴に、好意を抱いた?
いや、そんな、まさか。
ありえない、漫画やラノベじゃないんだぞ?
そんな都合のいいモテ展開が、そうそう起きてたまるものか。
そもそもそれだったら、なおのこと彼女の行動に説明がつかないじゃないか。
仮に好意を持ったのだとしても。
ただこちらを追いかけて、無言で後ろからじーっと見つめてくるだけなんて。
だから結局。
僕は答えを出せなかった。
彼女を撒くことを諦めて家に変えっても。
僕は、今日のことをただ疑問に思うしかなかったのである。
――空は、どんよりと曇り空。
今にも雨が降り出しそうだった。
==
夜、諸々のことを終えて布団に入る。
時刻は十時。
ここから、眠くなるまで適当にスマホで時間を潰そうと考えていたときのこと。
外は雨が振っていた。
僕が家に帰って少ししてから、雨は止むことなく振り続けている。
そんな中、僕はふと気がついたのだ。
もしくは、気がついてしまったのだ。
窓の外、家の外。
雨が降りしきる道路の上に。
古原久利須が立っている。
「―――――――は?」
ありえない。
確かに彼女は、僕の家までついてきたけれど。
警察に通報すれば、そのまま連れて行かれてしまいそうな程だったけど。
実際には通報したら、警察が勘弁してくれと泣きを入れてきそうだけれど。
それでも。
帰ったと思っていた。
流石に、家の中に入ってこないなら。
帰ったのだと、てっきり。
だってそうだろう?
彼女が伝説のヤンキーなら、噂通りの実力の持ち主なら。
遠慮なんてすることない。
思うがままに行動すれば良い、僕をどうこうすることならば簡単だ。
だってのに、どうして彼女は、傘もささずにずっとそこに立っているんだ?
あまりにも不可解で、不可思議な行動。
違和感しかない彼女の動向は、しかし。
「――風邪引くだろ、あんなの!」
第一に口から飛び出したのがそれだっていうのは、果たして何とも。
僕はある意味馬鹿なんじゃないかとも思う。
それどころじゃないだろ、もっと考えることがあるだろ、と思うのに。
どうしてか、僕は。
そのことだけが頭の中をいっぱいにして。
思わず、飛び出していた。
……どこにって?
言うまでもない、朝、挨拶をした相手。
伝説の金髪美少女ヤンキー。
こちらをストーキングしてくる謎の少女。
古原久利須の元へと、飛び出していたんだ。