ハピネスチャージプリキュア!の小説   作:モリ―・ジョニー

17 / 25
16.悪夢

気が付けば、燃え上がる炎の中にいた。四方八方に巡らされた赤黒い大火炎の中に見えた光景は、どこかの町か、あるいは森の中か、いずれにせよ全てが焼き尽くされ、その原型を見ない。

 ふらついて要領を得ない足を無理やりに動かしては、その先から突き刺さるような感覚が全身へと襲い掛かる。熱せられた地面が、細く脆い足を激しく攻め立てた。

 炎の爆発を受けてふらついた体を支える力もなく、焦熱の大地へと身を倒す。この体に痛みはないが、全身に伝わった衝撃は恐らく肉体に大きなダメージを与えたであろうことが分かる。ただ黙っていても、絶え絶えの喉を通って焦げ臭い不快な風が肺の中を圧迫していく。

 もたげた首の視線の先で蜃気楼のように蠢く無数の黒い影が見えた。それは全身を炎に包まれて尚、生を求めて逃げ惑う半死体の群れ。彼らは焔の中に身を焦がしては、怒号や嘆きを口々に叫んで消えていった。しかし、自分はその怨嗟の渦の中に取り残され、ただ茫然と赫赫たる灼熱をその身に受け止めていた。

 出来ることなら今すぐにでも楽になりたい。そう思っても、この体ではそうもいかない。こんな体では、眼前の炎に身を燃やすこと敵わないのだ。

 ここは何処だ。何故、私はこんなところにいるのか。何故だ。なぜだ

 

 むせ返るような不安を拭っては、とぼとぼと黒い大地を歩き続ける。見える景色は全て朝霧のような黒い靄によって塗りつぶされて、判別に苦しい。ただどこまでも道だけがずっと続いている。

 歩けど歩けど、いつまでも道が続いている。寝起きのように頭がはっきりとしない。

 

 永遠にも思える退屈な時間が経過して、未だにぼんやりとした意識に反して少しばかり視界が明瞭になっていた。ふと辺りをよく見てみれば、景色は現代的な都市の様相を見せた。ここはビル群だろうか。なんだか見覚えがあるような、無いような。遠くに空高く伸びた煙突を臨んだその場所には人の気配はなく、だだっ広い街の中で自分だけが1人歩いている。そんな感じ。

 

 ここが夢だと言うのは気が付いていた。起きればそこまで。あんまり記憶もないし、ぼんやりとしたイメージしか残ってない。

 それでも、この覚めない夢は待っているだけじゃなにも起こらないことは知っていたから、胸の中でざわめいている不安を誤魔化すためにも、暗い世界を歩く以外の選択肢は思いつけなかった。

 

 ひたすらに足を動かしては、果てしない道のりに辟易とする。背の歪んだビルを通り過ぎれば次は民家だろうか。それを越えれば柱の曲がった大きな西洋風の建築物。そして、幾つかのお店が混じり合ったような建物が見えては、その陰からまたビル群が現れる。その繰り返し。方向性を統一しない歪んだ街並みの風景はどことない不気味さを放っていて、この先へ進むことを躊躇させる。

 

 延々と変わらないその景色を思い切って走り抜けようとした時、口を開けて待ち受ける無限の闇が眼前に立ちふさがった。混沌と蠢くその中を凝視すると、かすかに何かが光っているのが見えた。

 暗黒に際立った白い光。それを道しるべに、痛む足を抑えて進むことに決めた。

 一歩二歩と光源へ近づくにつれて、世界が段々と白く染められていく。黒と白が混ざり合っていく世界の光景を進んでいると、これ以上先へ踏み入ってはいけないような自分の領域ではない未知の中を進んでいるような感覚が浮かぶ。

 

 それから、ずっと真っすぐ。視界を埋め尽くしていたビルの山々は姿を消して、見えてくる建造物の頭が随分と低くなっていくのが分かった。

 時折見えた西洋風の建物から、木材を中心として作られたいかにも和といった感じの建築物へと変わる。瓦屋根に木の支柱、土の白い壁。神社仏閣のような佇まい。寝る前に歴史の勉強をしていたせいなのか。古式の建物が視界の中へと次々に躍り出た。

 

 そして、程なく歩いたその先に広がっていたのは、現代でもあまり見ないような茅葺き屋根の家々が立ち並ぶ広い平原。町…ほどでもない村や集落の方が近いかもしれない。そこは昔解いた志望校の過去問の中で見たことがあるような。そんな場所。

 色こそ一面の白だけど、味わったことのない古の風景と相まって幻想的な印象を受ける。

 それから村を分断するように広がる大きな川を見つけると、それに沿って下っていく。

 覚えのない夢の中を当てなく歩いて何時間ぐらいだろうか。少なくとも今は平常心そのもので、さっきまでの退屈は感じていない。

 このまま何事もなく、段々と強まる白の中へ消えていこうとしたその時、背後から炎の柱が大地を駆けた。

 振り返れば、辺り一面を炎が包んでいた。白い世界の中には違和感となる赤が混ざってしまい、随分前に通り過ぎたはずの村や街が目の前で炎の中で為すすべなく焼かれていた。

 

 あまりに突然のことであたしは呆然と立ち尽くしていた。さっきまではなにもなかったのに、なんで?なんでなの?夢だと言うのならすぐに覚めて欲しい。炎の中で身もだえる黒い何かを見つめながら、ただそう願うばかりで。

 炎で舗装された道の上を逃げていく人々は誰も彼もが我先にと他の人を押しのけて逃げていく。轟轟と燃えたてる炎は一帯を瞬く間に焼き尽くし、その裏で何度も叫び声が響いていた。

 

 そんな惨状の中、肌の表面を炙られるような鈍い痛みが意識を現実のものへと取り戻させる。バチっとなにかが弾けるような音が聞こえたと思うと、その先の空へと顔を上げた。すると、炎の山から分かたれた火球が一つこっちへ降ってくるのが見えた。

 

 危機感すら覚える前に視界に広がっていく赤。次の瞬間、瞼を閉じるよりも早く全身をなにかに突き飛ばされる感覚が襲った。地面にぶつかり、全身を痛みが強く打つ。何事かと体を起き上がらせると、地面に人影が。文字通り人の形をした影の塊がうずくまっていた。

 炎の中、どこから現れたのは分からないけど、目の前で倒れているこの黒い人影は確かに今、あたしを助けるために飛び込んできた。以前、サイアークが現れる前に見てからずっと夢の中に出てくる黒い人影。

 これまでは特に何をするでもなくただ傍に立っていただけだった黒い影があたしを助ける為に?

 現状への困惑と、新たに現れた困惑を重ね、頭まで痛くなってしまいそうだ。だって、この影の正体は…

 

 刹那、視界の隅で光が閃いた。今度は何事!?混乱が冷めやらぬ中、再び空を見上げる。

 炎に包まれた空でぶつかり合う白い光と蒼い光。二つの輝きは互いにぶつかり合い、その度に体から光の粒が溢れては空の中で消えていく。白と赤で塗り固められた世界に瞬く双星が、不規則な軌道を描きながらひたすらに相対した光玉へ向かってその身を食らわせる。

 それはまるで戦っているかのように見えた。

 数分の激闘の末に、青い光の攻撃を受けて白い光がその動きを鈍らせる。僅かに空を迷った白光の隙を逃さず、もう一体が更に追撃を加えた。

 その直撃を受けたことで、弾けるようにして白い光が飛散し、やがてそれは力を失い流星となってこっちへ飛んできた。それが接近するに連れて、光量は目に刺さるほどに増していく。

 

 スピードを上げて落ちてくるそれに思わず、未だ起き上がれていない人影に覆いかぶさるようにして背を向ける。頭上数メートルを通って目の前に墜落した白い光。激突音が響き渡ると、白い光は弱弱しく点滅を始めた。目の前に落ちた謎の光。その正体を突き止めようとその中へ眉間にしわをよせたその時、世界が青の逆光を受けて鮮やかに染まった。

 振り返ると、もう一方の光の玉も空から舞い降り、わたし達を見下ろすように地上スレスレに漂っている。そして、こっちへ向けて蒼光はその輝きを強めた。

 辛うじて青い光の中に見えた人型の影。よくは見えないがそれは手をかざしているように見えた。そして、それはたった今落とした敵に止めを刺そうとしている。プリキュアとしての戦いの勘がそう告げた。突然、悪寒が背筋を撫でる。

 次の瞬間、目の前で大きくなっていく眩しい光。それはあっという間に視界を覆い、世界全てを青く白い光で包んでいった。

 

 なにもかもが光の中へと飲み込まれていく。薄れゆく感覚、溶けてゆく思考。自己を構成する全てが消滅し、そして、最後に残された意識さえも清浄の光へと消えていく。

 

 そして、誰かは叫んだ。

 

─────いやだ、たすけて!!

 

 そして、少女は目覚める。日光がカーテンの隙間を抜けて、部屋の中へ世界の夜明けを告げた。

 視界が天井を映すとめぐみは、かけていた布団を跳ね飛ばし、勢いよく体を起こした。そして、大きく背伸びをすると、体中へ張り付いたパジャマに違和感を覚える。体中に張り付く湿ったフリース生地。その肌触りのなんとも気持ちのわるいことか。襟首を掴んで、風を入れるためにパジャマをパタパタと仰いだ。

 なにか悪い夢でも見たかな。そういえば見たような気がする。でもどんなのだったかな。 昨晩の間に自身へと降りかかったストレスの存在を予想するも、何せ夢の中のお話。皆目見当も付かず、悩める頭を振っているとアナログの置き時計が目に入った。

 

 時計が指したのは午前5時。それにしては少し明るすぎるような気もするけど、そういう日もあるだろう。休みだし、ランニングまではもう少し時間があるな。

 カーテンから見えた外の様子を確認するが、瞼に残った重たい眠気から再度布団を被って二度寝を決め込もうとしたその瞬間、部屋の中へけたたましい着信音が鳴り響く。何事かと首だけを動かして周囲を見渡す。

 

 数秒ほど経って、その発信源が枕元に置いていたキュアラインだとめぐみが合点したとき、天井を捉えた視界の中にキュアラインが飛び出した。

 水面を泳ぐ魚の如く跳ね飛んだキュアラインの画面の向こうで白い生き物は悲痛な叫び声を上げた。

 

『めぐみ、今すぐ来てくださいな!!大変ですの、ひめが!!ひめが!!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。