ハピネスチャージプリキュア!の小説   作:モリ―・ジョニー

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19.夢想

炎が祀り上げる無地の空を飛びかう白と青の二色の光。様々に軌道を描いて互いの身をぶつけ合う彼らは、その衝突に応じて花火のように光の尾を弾けさせる。その光景がもたらす幻想的なツートンのコントラストは正に夢のような美しさ。

 

 昨日見た夢…?

 

 代り映えの無い夢が急に色を持っていた。昨日今日で姿を変えるのは夢なんだからおかしくはないけど、最近見てきた夢がずっと黒い世界に放り出されるというものだっただけに何処か違和感がある。

 その上、この異様な光景には、不思議に騒ぎ立てられる胸のざわめきにだって全く覚えがない。まるで自分の夢ではないみたいな感じ。

 一見メルヘンチックに見える夢だけど、それよりも自身への傷すら厭わない鬼気迫るものがそこにはあった。

 

 何度もぶつかり合う光達はただただひたすらに相手へと突撃していく。特に、白い光はそれが顕著だった。何度も青い方へ体当たりを繰り返し、自分もろとも火花を散らす。しかし、衝撃の際に千切れた白い粒が溢れては空に消えるその様は、突撃する度に白い球の方がダメージを受けているように見えた。

 白い光として認識していた身体を明滅させ、その大きさも萎むように段々とサイズダウンしている。やがて、青い光玉が凄い速度で突撃したことにより、なんとか拮抗していた形勢は一気に傾いた。

 地面へと向かって墜落する白い光。そして、それを追って一方も地へと方向を変える。

 うずくまる白の塊と、見下ろす青い光。自身を挟んで、決着を迎えようとしている。

 

 だけど、蒼光は様子を窺っているのか、黙ったまま動かない。次の瞬間、背後で白い光が輝きを増したと思えば、それに反応して青い光の中から人の腕がゆっくりと姿を覗かせた。

 光から人間らしい姿が現れたことに驚きつつ、怖いもの見たさで腕を辿ってその根元を探る。

 

 青い光に遮られて曖昧としたその顔はあたしを、その後ろの何かを睨みつけているような。もっと、目を凝らして正体を拝もうとすると、その瞬間、目の前のそれにデジャブが重なる。走った電撃に息が止まる。

 どうして。衝撃を飲み込む前に伸びた彼の腕にグッと力が入ると、その先から光が溢れ出してくる。

 

 薄れていく意識の中でまっすぐ彼を見つめるが、間もなく世界は輝きの中へと消えていった。

 

 

 

 

 視界の中へ突き刺さった眩しい光。夢と地続きの強い光を受けて、驚きの余りめぐみが飛び上がる。音を立てて震える机を伴って、盛大に起床した。

 すると、何事もない教室の風景が広がっていた。そのことに安堵を覚えるが、それと同時に自身に向けられた視線の束に気が付くと、顔を青くさせる。   

 自学自習にシンと静まり返るクラス。めぐみはその注目の的になってしまっていたのだった。

 

「愛乃さん、もうすぐ卒業するからといって気を抜かないようにしてくださいね。山崎くんもですよ」

 

 諫める先生に、すいません、と苦笑いを返してゆっくりと背中を曲げる。授業中にも関わらず、いつのまにか寝てしまっていたらしい。自主学習の時間とはいえ、またしても居眠りは良くなかったなと心の中でつぶやいた。

 ついでのように叩き起こされた健太がガタンとその場に起立する姿を横目にして、窓から見える街並みへ視線を移した。

 悠々と泳ぐ雲の下で、ビルたちが暗がりを纏い、奥にそびえた山々が緑を深める。

 頬尻を突いた左手とペンを手にした右腕は動かない。夢うつつがのしかかったまま時間だけが過ぎていくのだった。

 

 終業のチャイムが鳴り、クラスメート達が一斉に教室を後にする中、一人ボーっと景色を見つめていためぐみ。ゆうこにかけられた声に、はっきりとしない反応を返して手を引かれるがまま帰路へとついた。

 

 学校を出て以来、とぼとぼと歩くめぐみと、その歩幅を合わせて横に並ぶゆうこの姿が続いていた。

 

「めぐみちゃん、わたしね…」

 

 ゆうこが言いかけた台詞を気まずさがせき止める。今の彼女にかける話題は自身についてのことではないような気がした。

 

「なにか、考え事?」

 

「うん…」

 

 ゆうこが問いかけるも、肝心の内容はない。元気がない友人の姿にゆうこが無性な違和感を覚える中、めぐみは更に歩を進める足を鈍くさせた。

 ゆうこが少し先で振り返ると、めぐみは口ぶりを重くさせ、見つめる顔に神妙な面持ちを浮かべていた。

 

「ゆうゆうなら、もしも……もしもだよ?もし、元幻影帝国の人が今回のサイアークを生み出していたとしたらどうする?」

 

 沈黙が二人の間を突き抜ける。ゆうこは昨日めぐみ達から話されたサイアークについての話だと合点すると、めぐみのモゴモゴと蠢く唇を待った。

 

「もしも、また誰かが世界を恐怖に陥れようとしているとしたら……」 

 

 頬に人差し指を当てて、宙に答えを探すゆうこ。数秒ほど考える様子を見せると、瞳を合わせて返答する。

 

「そうだね…わたしなら、事情を理解しようとするかな。一連の黒幕が幻影帝国でも、そうじゃなくても。こんなことをするからにはきっと何か理由があるはずでしょ?だったら、それを理解しないと始まらないと思うな」

 

 一言一句すら聞き届けようとするめぐみへ、ゆうこはゆっくりと穏やかに話す。きわめて真面目な話ながら和やかな口調を続けるゆうこのペースに誘われて、めぐみは少しばかり普段の顔を取り戻していた。

 

「理解したなら、その原因についてどうにかできないか一緒にご飯を食べながら考える。美味しいご飯を食べてお腹いっぱいになれば、他の人を不幸にしない方法で解決しようと思い直してくれるんじゃないかしら」

 

 めぐみからの言葉はない。しかし、頻りに首を縦に振っているがその態度を示していた。

 

「めぐみちゃんだったら、どうすると思う?」

 

「わたしは…同じかな。簡単に助けるなんて言えないけどさ」

 

 投げかけられた問いに一瞬戸惑いながら、絞り出した答えに一人顔を渋くさせるめぐみ。しかし、それを聞いたゆうこの目がほんの少し大きくなった気がした。

 

「ほら、わたし不器用だからさ!」

 

 黙して反応を窺うようなゆうこの顔に、後ろ手で頭を掻きながらめぐみは出した返答を笑って誤魔化すのだった。

 

「…心配いらないよ、きっと」

  

 ゆうこの呟いた言葉が、再び俯いためぐみの耳へ届くことはない。彼女の頭には既に一つの事柄で埋め尽くされていた。

 

 夢であることは知っている。だが、何故か、無性に、その瞳が胸に刺さっていた。この回想がどんな意味を持っているのかはめぐみ自身には分からない。しかし、あの冷たい瞳は彼女の中でどうにも消化できないシコリを残した。

 青い光の中に見えた瞳は、憐れみや憎しみ、様々な感情が入り混じるその目は、忘れたくても忘れることが許されない赤い瞳に酷く似ていたのだから。

 

 

「それじゃあ、めぐみちゃん、また明日ね」

 

 商店店にある、ゆうこの自宅で解散する二人。階段を上がるゆうこの背中を見送るめぐみの視界の端では、隣接するおおもりご飯の賑わいが映っていた。店の窓から中を覗くと、平日の昼だというのに店内にはスーツを着た人間からおじいちゃんやおばあちゃんまでお客がいっぱい。彼らは皆一様に幸せそうな笑みを浮かべながらご飯を頬張っていて、胸が温まるような日常の一幕が繰り広げられていた。

 

 思わず見入ったその光景の中で、ふとおおもりご飯のエプロンをかけた男の人の姿が気になった。比較的若く見えるその男性は、おおもりご飯で働くファンファン含めた大森家の誰とも違う。

 アルバイトでも雇ったのだろうか?最近はおおもりご飯で食事をする機会がなく、めぐみの中に答えはない。推量は後回しにして、自宅へと歩を進めるのだった。

 

「ただいまー」

 

 帰宅の合図とともに玄関戸を開ける。この後は作文を書かなければ。そんなことを考えていた矢先、鞄を肩に下げた母が今まさに外へ出ようとこちらへと向かってきていた。

 

「あぁ…お帰り、めぐみ。今日は早かったのね」 

 

「そうかな?いつもこのぐらいだと思うけど。お母さんはこれから買い物?」

 

「そ、そうね。お買い物」

 

「じゃあ、あたしが行ってくるよ!今日はパートお休みなんだから、お母さんはゆっくりしていて」

 

「気にしなくていいのよ、お母さんが行ってくるから」

 

「いいから、いいから」

 

 遠慮する母から半ば強引に買い物の番を受け取ると、めぐみは自室へ急いだ。クローゼットを開くと、いつものコーディネートを取り出した。

 学習机に着替えを乗せて、制服のボタンを外す。そして、肩からゆっくりと袖を下ろしていく。

 二の腕を撫でる生地の感触が妙にこそばゆい。この制服も入学前に購入したこともあってここ一年はどことなく窮屈さを感じていたが、これもあと少しで味わうことも無いのだと思えば、随分と名残惜しい気持ちだ。

 

 卒業まではあと何日だったろうか、そんなことを考えながら机の卓上カレンダーを確認する。今日の日付から、ちょうど一週間後のマスにでかでかと描かれたハート模様にハッとした。

 何を隠そう、その日は両親の結婚記念日。しかも、前までは帰ってこれなかった父が今年は帰ってくると言うのだ。それを意識した途端に、待ち遠しさと卒業の名残惜しさが同居してもどかしい。

 祝いのプレゼントがなにがいいだろう。買い物に行くついでに、プレゼントも考えてしまおうか。そう思い立つと、急いで制服から着替えて部屋を出た。

 

「お母さん、行ってきます!」

 

 めぐみはすれ違いざまに母から買い物鞄を受け取ると、ステップを踏むように軽やかにドアを開いた。かおりは申し訳なさそうな顔を浮かべてそれを見送るのだった。

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