ハピネスチャージプリキュア!の小説   作:モリ―・ジョニー

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22.不知

「そこで俺はこう決心したんだ!これから、俺は俺自身の為だけに生きるのだ、とな!!」

 

 目の前で自分の半生を語るオレスキー。その勢いは収まることを知らない。親身に聞き入るめぐみの傍ら、いおなは壁にかけられた時計の針を頻りに見つめていた。

 

 二人が件のサイアークの話を聞くために、彼の勤める交番に連行されてから約1時間が経とうとしていた。ところが、サイアークの情報について聞こうとしたいおな達の意に反して、彼は聞いてもいない自分の過去を無理やりに語り出したのだった。

 

「それまだ続くのかしら。そろそろ私たちの話もしたいんだけど」

 

「まぁ、そう焦るな。〈オレスキー哀愁禄〉第三章荒廃の将軍オレスキー爆誕編はここからだぞ」

 

「はぁ…」

 

 一度は水を差してみたものの、尚も鼻息荒く自分が主役の物語を堂々と陳ずる彼の勢いに押されて、いおなもそれ以上口出しすることができなかった。

 

 オレスキー、本名を織田保己(おりたやすき)。彼が言うには、かつて警察のキャリア組として将来を有望視されていた彼はたった一度のミスによって出世コースから転落。信頼していた仲間達からも相手にされなくなり、周囲の人間は自分のエリートとしての地位にしか興味がなかったのだと気が付くと、自分の存在を証明する為に地位や名誉へ固執するようになったそうな。そして、その心の隙間を突かれて正義の警察から一転、悪の軍団の一員として人々の平和を脅かすようになったとか。

 時には手に汗を握り、時には頬を濡らして大げさに語る織田の話を鵜呑みにするのであれば、であるが。

 

「そして、幻影帝国が倒された後は、復職の際に自らの意思で地位を捨てて交番勤務の巡査を志願したんだ。前例のない事態故に特例に特例を重ねた結果ではあるが、こうやって警官を続けられていることには感謝しているのだ」

 

 満足げな顔で物語を完としたオレスキー。哀愁禄を謳うに違わず、めぐみはどこかしんみりとした読後感を覚えていた。出されたお茶にも手を付けず、思わず真剣に聞いていた。誰の人生にもストーリーがあるものだが、かつての敵の裏にも苦労があったのだと強く思わされていた。

 

「どうだ、このオレの涙なしでは語れぬ半生は!」

 

「それは前にも聞いたわよ」

 

「君ではなく、ラブリーの方に問うているんだ!」

 

 めぐみの方を指さすと、スカンを誤魔化すように腹から声を出す織田。敵同士だったいおなと織田。めぐみはその二人の親しげなやり取りが妙に嬉しく思えた。

 しばらく二人がやいのやいの言い合っているのを見ていたが、そこでふとめぐみに疑問が浮かんだ。

 

「あれ、でも何時頃おなちゃんと織田さんはお友達に?」

 

「あぁ、それはだな…」

 

 問われると織田は前のめりを解き、懐から紫色の愛の結晶を取り出した。

 

「フォーチュンがこれをどうしても俺に受け取ってくれと言って譲らなくてな」

 

「違うわよ。去年のぴかり祭りで巡回してるオレスキーにばったり遭って、その時にくれくれって聞かなかったのよ」

 

「当たり前だろう!あれだけ拳を交わした(ライバル)の君たちハピネスチャージからオレスキートリオで俺だけそいつを貰っていないというのはイカン!」

 

「それで、見かける度にオレスキーが話しかけてくるようになってたってだけよ」 

 

「大体なんだ!オレを差し置いて他の連中とは親身にしおって。仲間外れはイカンぞ、オレが寂しくなってしまうからな!」

 

 大人げないというか、子供っぽいというか。織田の堂々たる返答に呆気にとられためぐみ。その横で、暑苦しい男の様子にいおなは右手でおでこを突いていた。

 

「ただでさえ最近は悪い夢続きなのだ。オレにもっと優しくしてくれても」

 

 あまりオレスキーだった頃との態度の変化は見受けられないが、しかし今の彼には以前のような刺々しさは感じない。幻影帝国幹部オレスキーとしての一面とかつて生きづらさを抱えていた人間としての一面、その間で上手く折衷できているようだった。

 

「そんなことよりも、本題に入ってもいいかしら」

 

「おっと、そうだったな」

 

 放っておけば永久に続いてしまいそうな織田の独白をいおなは切って捨て自分たちの話題へと転換させる。

 

「確かにあのサイアークには繋がりは見えなかったな。生みだした人間と、その母体にされた人間。そのどちらの存在も感じ取ることができなかった」

 

 いざ件の話になると、至って真面目な語り口の織田。先ほどまでとの対応の変化にギャップを覚えつつ、めぐみは横に座っているいおなと顔を見合わせる。彼もまた生瀬同様にレッドから与えられた力が抜けきっていないようだった。

 

「だが、妙な白いサイアークは、どうにもただのサイアークでもないように感じた。オレ達幹部が生みだす黒いサイアークというよりは、いつかの赤いサイアークの発するオーラに近いような」

 

「それってどういうこと!?あのサイアークの正体が分かるの!!?」

 

「く、詳しいことは分からん!だが、そう感じ取っただけだ!」

 

 思わぬ食いつきを見せ、そのまま机に体を乗り出しためぐみ。それまでと打って変わり、自身が圧される番となると織田の大きな体が途端に小さく縮こまっていく。

 

「だが、幹部の中でもとびきり優秀だったオレが言うのだ!間違いはない…と思う!」

 

「一先ず安心したわ。サイアークに人間の心が利用されていないのなら、それだけ被害が抑えられるってことだもの」

 

 ペースを逃さないために織田はその場に立ち上がると、拳を握り明後日の方向へ胸を張った。

 根拠は彼の自信に任せるしかないが、寄せられた情報にいおながうなずく。すると、話が終わったタイミングを見計らかったかのように交番の出入り口のドアがビシャリと開かれた。

 

「織田さん、助けてくれ!ゴンさんと饅頭屋の大将がまた喧嘩してる!」

 

「まーた、あの二人か!毎度明るい時間帯から酒なんぞ飲みおって!」

 

 中年の男性は馴染みのような口ぶりで助力を求めると、ドタバタと重たい動きで再び走っていった。

 

「すまないが、これで失礼する!」

 

 飛び込んできた来訪者に織田は眼の色を変えると、制服を整え机の上の帽子を深々と被る。めぐみといおなは何が何だかと言った表情を浮かべるも、その口ぶりや態度からしてどうやら緊急事態らしい。

 

「今日は助かった、ありがとう。よーし、本官に任せろ!!」

 

 去り際、織田は二人へ向かって軽く会釈すると、外にかけていた自転車へ跨り先に出ていった男の後を追った。

 その背中にいおなは口尾を少しばかり緩ませた。

 

 

「ここまで付き合ってもらって悪いわね。お礼…はまたお茶ぐらいしか出せないのだけど」

 

「全然!むしろ最近運動不足だったから、ちょうどいいぐらいだよ!」

 

「そう、ありがとう。じゃあ、一人で突っ走ったことはこれで手打ちにしてあげる」

 

「たはは、それはどうも……」 

 

 二人はしばらく歩いたのち、一件の平屋の前で歩みを止めた。門袖に構えられた白い表札には黒字で氷川の文字が記されている。

 

 交番から道場へ荷物を取りに戻ると、そこで解散する運びとなった二人。しかし、両手に大荷物を抱えたいおなの様子に見かねためぐみは彼女から袋を一つ受け取り、ここまで同行してきたのだ。

 いおなはポケットから鍵を取り出すと、自宅の戸口を開けた。そして、めぐみから膨らんだビニール袋を受け取ると、板張りの床を軋ませて中へと消えていった。

 

 いおなに「待ってて」と促され、彼女が戻ってくるまでの間ふといおな宅をぐるりと見まわした。敷地を囲った竹垣や雑木の萌える庭には、どことない和の雰囲気を漂っている。アプローチから枝分かれした敷石が導く先には大きき建築物が鎮座していた。シミの深い木造の外壁は、隣の家宅よりも長い月日を感じさせた。あそこは何だろう。

 

 考えてみれば、いおな宅に来たのはこれが初めてのことだ。初めて来る友達の家という響きに、歓心と好奇心、そして形容できない感情がめぐみの喉元でソワソワと騒いでいた。

 

「待たせたわね。どうしたの?」

 

 戻ってきたいおながぼんやりと庭を見つめていためぐみを不思議そうに覗いた。

 

「あぁ、いや。あの建物はなんなのかなって」

 

「あそこはひいお爺ちゃんの代から受け継いできた空手の道場よ。今でこそ、私が自主鍛錬に使うぐらいだけど昔はあそこに大勢が空手を習いに来ていたんですって」

 

 歴史のある道場と聞いて、合点が行った。それを鑑みれば、いおなの堅忍不抜な性格はああいった格式ある場所から養われてきたのだろうと思わせられた。その他にも、痛んだ屋根や庭の木に刻まれた身長の記録など、そこらかしこから氷川いおなという少女がぴかりが丘の町で営んできた生活の一端が伺える。

 

「一応部屋も片付けてきたから…」

 

「ねぇ、いおなちゃん」

 

 いおなの言い終わる前に、めぐみが彼女へと聞いた。

 

「ちょっと聞いてもいい?」

 

「いいけど、なにかしら?」

 

「いおなちゃんのご両親、今は海外にいるんだよね」

 

「そうだけど、それがどうかした?」

 

「友達のことでも意外と知らないものなんだなぁって思ってさ。寂しかったりしないのかなって……あ、いやほら!わたしのお父さんも海外で働いてるからさ!少し気持ちも分かるかなぁって!」

 

 自身の突飛な言葉に慌てためぐみの両腕が無造作に宙を掻いた。

 

「確かに最初の方は寂しかったけど、お爺ちゃんも居たし手紙や写真も送られてきてたからあまり寂しさは感じなかったわ。それに、お姉ちゃんが鏡に封印されてからはそれどころじゃなかったから…」

 

「…ごめん。そんなこと思い出させちゃって」

 

「いいのよ、もう昔の話だもの。そういうめぐみはどうなの?」

 

「わたし?」

 

 自身の顔を指さしためぐみの両目が丸く広がる。いおなの境遇に同調を示した矢先だが、自身が聞き返されるとは思ってもいなかった。

 中空を見上げて、ほんの一瞬考え込む。

 

「わたしも寂しくはないかな。お母さんが居てくれてるし、誠司やゆうゆう、友達もいてくれてるから。それに今はひめやいおなちゃんだって」

 

「それなら、良かった。友達でも家族でも誰かが傍に居てくれるのって、それだけで心強いものね」

 

「そうだね。皆それぞれの道を進むことになるから、これから先はどうなるかわからないけどさ…」

 

「大丈夫よ、きっと」

 

 「大丈夫」何を以ってそう言ったのかはめぐみには分からなかった。だが、今はその言葉を信じたい。そう思うしか無かった。

 事の終わりを感じ、めぐみは体を返そうと右足を下げる。

 

「よう、お二人さん。こんなところで立ち話かい?」

 

 そのとき、男口調なかわいらしい声をが二人の間に姿を見せた。ぐらさんだ。彼女はキュアラインを背中のリュック型の羽の中へ収納すると、二人の元へと駆け寄った。

 

「今日は不作だ。相も変わらずサイアーク達はぴかりが丘以外では姿を見せていないみたいだぜ」

 

「そうだ、ぐらさん。預かっていたプリチェンカード、返しておくわね」

 

 間を通り抜けて家へと入ろうとするぐらさんを呼び止めると、いおなはズボンのポケットから数枚のカードを手渡した。何分ぐらさん達とは別行動が多い状況だ。そのため、ぐらさんと離れるときにはいつでも万全に戦えるように変身用カードの他にフォームチェンジ用のプリチェンカードを自分で持つようにしているらしい。

 先ほどの戦いで、近くにぐらさんが居ないにもかかわらずフォーチュンがパインアラビアンに変身できていたのはその為だ。

 

「よければめぐみも上がっていって。戸棚に美味しい和菓子があったの。本当はお爺ちゃんのだけど、今日は特別にね」

 

「そいつはいいな。今日はずっと話しっぱなしで喉がカラカラだ。お嬢ちゃんも冷たい麦茶で一杯と行こうぜ」

 

「いいの?」とめぐみがいおなに問いかけると、いおなは「いいのいいの」と何時になくやんちゃな笑顔を見せた。ぐらさんは小さな腕をパタパタと扇ぐと、いおなと並んで一足先に家の中へ入っていく。めぐみもまたその後を追って、門を潜っていくのだった。

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