ハピネスチャージプリキュア!の小説   作:モリ―・ジョニー

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7.待望

 めぐみが夢から覚めた時より少しばかり遡って、ここ在日本ブルースカイ王国大使館では白雪ひめがウキウキ気分で室内を駆け回っていた。

 

「今日はみんなでティーパーティー、楽しい楽しいティーパーティー!」

 

 伝染した「心の歌」を口ずさみながら、ダンボールの山を二階に片付けさっぱりとした応接室内に鮮やかな飾りつけで彩りを加えている。壁に吊るしている紙製オーナメントはいつかのめぐみのバースデーに使ったものだ。

 

「ただの休日の集会に飾りつけまでする必要があるんですの?」

 

 高所の装飾を手伝わされながらリボンが不満げに言った。 

 

「せっかく皆で久しぶりに集まれるんだよ?だったら、これぐらいは必要じゃない。これからは一つ一つを特別な思い出にしていかないと!」

 

 ひめ自身もあちこちを飛び回り楽しそうに準備をしている。張り切っているその姿をほほえましく思いながらリボンも修飾に励んだ。

 

「やっぱり青に合わせるなら白の花瓶かなぁ?」

 

 手に持った小さな花と、テーブルに並べた幾つかの花瓶を見比べ色の組み合わせを吟味するひめ。何事もまずは見た目から入る彼女にとって雰囲気という物は場を盛り上げる大切な要素なのだ。

 

「うん、白だ。そうしよう。何にでも合うから困ったら白にすると便利なんだよね」

 

 ひめは青と桃の二本の花を可憐に映すホワイトの演出効果に満足そうにテーブルの真ん中に配置した。

 

「これは勿忘草ですか?」

 

「そうだよ、懐かしいでしょ!時期的には早いんだけど花屋さんで見かけてさ」

 

「えぇ、お城の花畑にも沢山咲いていたのを思い出しますわ」

 

 「誠の愛」「真実の友情」を花言葉とする勿忘草は、ヨーロッパでは恋を成就させる魔法の花として信じられており、古くから互いの仲を象徴した贈り物として恋人や親しい友人の間で親しまれてきた。幼い頃からその文化に慣れ親しんできたひめにとってブルースカイ王国の空を思わせるこの花は思い出の代物であり、中世ドイツの悲しい物語を起源とするこの花の名前に様々な気持ちを詰め込んでいた。

 

 飾りつけを終えた二人は達成感もそこそこにあとはめぐみ達がやってくるのを待つフェイズとなった。しかし、ひめはソファにも腰かけずそっちこっちを歩き回り、落ち着きがなかった。立ち止まり何度も時計を見てはまた歩き出す。これをしばらく繰り返していた。

 

「ひめも座って待ってはいかがですか?準備で多少は疲れているでしょうし、まだ少し時間までありますよ」

 

 リボンがぐったりと椅子に座っている。はやる気持ちも分かるが、本番が来る前にひめが調子を悪くしては台無しだ。ひめが確かにそうだ、と思い直した矢先に玄関口からリンゴーンと重々しいチャイムベルが鳴り響いた。

 ひめは来客を告げる鐘の音に胸を弾ませ、どたどたと足音を上げて出迎えに行った。少しばかり重めの両開きドアを押し開けると、大森ゆうこが両手で小さめのバスケットを抱えながら立っていた。

 

「ひめちゃん、こんにちは」

 

「ようこそ、ゆうこ。待ってたよ!さぁさぁ入った入った!」

 

「では、お構いなくお邪魔します」

 

 ひめはようやく来た友人にあからさまな昂りを隠そうともしない。明るいうちからハイテンションのひめへ微笑むとゆうこは大使館の中へ足を踏み入れた。だが、玄関先にはまだ来客が一人残っていた。顔にほのかに影を見せる青年。鋭い目つきを構え、白いワイシャツと黒のズボンが赤髪の警戒色をより強くしており威圧的な雰囲気を醸し出すその男は、どうやら入室を躊躇しているようだった。

 

「そこで何してんの?早く入りなよ」

 

 両手に籠を持っていながら、中へ入る素振りを見せないその青年へひめが問いかける。

 

「いいのか、オレが入っても?」

 

「何言ってんの今更?前まで普通に入ってたじゃん」

 

「そ、そうか。なら、お邪魔するぞ」

 

 そうボソッと男は言うと、応接室へと向かっていった。彼の可笑しな反応にひめはぽかんとした表情を浮かべると、同じように不思議そうな顔をしているゆうこを見て再び問いかけた。

 

「今日はどうしたの。いつもあんな感じだったっけ?」

 

「あの恰好のときはいつも口数は少ない方だけど……。久しぶりだから緊張してるんじゃないかしら?」

 

 語尾にクエスチョンマークを付けたその様子に、ゆうこ自身もピンと来ていないらしい。

 

 

「今回は何を作ってきたの?一口だけ食べさせて!」

 

 テーブルに並んだ二つのバスケットの中から香ってくる匂いにひめが籠の隙間から中を覗くフリを見せる。特に甘い匂いのする小さめのバスケットの方が気になっている様子だ。隣に座るゆうこともう反対側にいるリボンへ目をやると二人にバレない様にそろりと手を伸ばした。

 

「ダメよ、ひめちゃん。おいしいご飯は皆が来てからのお楽しみなんだから」

 

「くれぐれもつまみ食いなんかしちゃいけませんわよ」

 

「そ、そんなことぐらい言われなくたって分かってるよ!」

 

 ひめは蓋にかけていた手を咄嗟に頭の後ろに組んで何事もなかったかのように装った。しかし、隣と向かいに座っている二人に誤魔化しても仕方がない。目の前に座っている男からもしっかりとした視線を感じる。

 

「あーあ、みんな早く来ないかなぁ。朝から飾りつけしてたからワタシもうお腹ぺこぺこだよ」

 

「もうすぐの辛抱ですから。我慢してくださいな」

 

 ひめは肘置きに体を預けながら右手を自身のお腹の上に置いた。

 

「それならひめちゃん。少しだけ」

 

「……腹の足しになるかは分からないが、これでも食べたらどうだ」

 

 見かねたゆうこを視線で制すると、青年は懐から小袋を差し出した。ひめはその意外な行為に一瞬驚きながらも両手で受け取り、袋から伸びた紐を引っ張ってその口を開ける。

 中を見てみると包装に包まれた焼き菓子が何枚か入っていた。

 

「おぉ、これってクッキーじゃない」

 

 ファントムの黄色と茶色の生地が彩る正方形のクッキーの可愛らしさと目の前の威圧的な男とにギャップを感じつつも、目の前で輝く甘味の結集にひめはゴクリと喉を鳴らした。

 

「これ食べていいの!?」

 

「勿論だ」

 

「それじゃあ、遠慮なくいただきまーす!」

 

 空腹故に小さなクッキーを一回で全部口に入れて思いっきり味わう。咀嚼するたびに鼻を突き抜けるバターの甘い香りが糖の旨味を支え、あとからやってくるココアのほんのりビターなテイストが口内をリセットさせる。そして、生地に混ぜ込まれたアーモンドの香ばしいアクセントが存分に効いて舌を飽きさせないよく考えられたクッキーだ。

 

「あれ、もうなくなっちゃった」

 

 気が付けばひめは袋いっぱいのクッキーを食べ尽くしてしまい、その口回りにはクッキーの破片が付着させている。その豪快な食べっぷりに男は渋い顔で見つめていた。

 

「お、怒らせちゃったかな……?」

 

「勝手に全部食ベたから気を悪くさせてしまったのですわよ」

 

 顔を寄せ合って不機嫌の原因を探るひめとリボン。そのやり取りにおいてもやはり青年は眉をしかめていた。

 

「あんまり美味しそうに食べてくれたから嬉しくなったんだよねー」

 

 意見を巡らせる二人に、ここでゆうこが男の声を代弁するようにわざとらしく大きな声を上げた。

 

「そ、そうじゃないオレは!」

 

 急に男が感情を表に出したかと思えばバフンという音と共に彼の体から煙があふれ出した。

 

「オレは味の感想を聞きたかっただけだ!」

 

 煙が晴れると、そこにはミステリアスな長身の男の姿はなく代わりに丸みを帯びた小さなシルエットが。灰色の衣服を身に纏った男の子妖精ファンファンが立っていた。

 強めの語気とは裏腹に頬を染めているその姿は妖精らしい愛くるしさを隠しきれていない。

 

「嬉しいならわざわざ誤魔化さなくてもいいのに」

 

「だ、だから違うんだ!」

 

「ふふっ、ファンファンったら赤くなっちゃって可愛い」

 

 白い顔を真っ赤にしてムキになるファンファンを一同で面白がっていると、またしても玄関先でベルが鳴った。

 

「こんにちは、ひめ」

 

「元気にしてたか、おヒメちゃん」

 

 玄関先でいおなとその隣にはパートナー妖精ぐらさんを出迎えたひめは二人を中へ通した。いおなは手にした風呂敷包みをバスケットの横に置くと、空いているファンファンの席に腰を下ろした

 

「結構早く来たつもりなんだけど、ゆうこ達はもう来てたのね」

 

「今日は料理を作るために早く起きたんだけど、時間まで待ちきれなくてね。ファンファンもなんだかソワソワしていたみたいだったから」

 

「オレはせっかくの料理が冷めたらいけないと思ったんだ」

 

 話を振られたファンファンは照れ隠しにプイっと顔を右に反らした。ひめはそんなファンファンを見てまだニヤニヤしている。

 

「私もサンドイッチを持ってきたんだけど。余計だったかしら」

 

「そんなことないわよ。美味しいご飯は幾らあっても困らないからね」

 

「ゆうこは流石ですわね……」

 

 テーブルの上に並んでいる二つのバスケットと自身の風呂敷の計三つの荷物に若干圧倒されたいおな。そんなテーブル上の威圧感などなんのその。ゆうこはお腹を摩り、この先を想像してうっとりとした。底知れぬ彼女の食欲にリボンは感心か戦慄か声を漏らす。

 

「おヒメちゃんは何か作ってないのかい?」

 

「ワタシは今日は食べる専門だから……。そうだ、お茶淹れてくるよ!お茶会には欠かせないもんね!」

 

 ぐらさんの問いにひめはあいまいに返す。飾りつけに気を取られて食べ物に関しては全く考えていなかったのだ。ひめは何か目に見えた仕事をしてみせようと慌てて肘掛けに力を加えると、それよりも先にファンファンが人間体へと変じて立ち上がった。

 

「それならばオレが淹れてこよう。キッチンを借りるぞ」

 

 有無を言わさずに先を追い越していったファントムにひめはあっけにとられ、時間が止まったように半分立った姿勢を数秒してからゆっくり崩した。

 

「彼、今日はなんだか張り切ってますわね。ワタクシたちがもてなされているみたいですわ」

 

「アイツ案外楽しみにしてたんじゃないか。あぁ見えて中々可愛いところあるじゃねぇか」

 

 ぐらさんがオデコに乗せていたサングラスに光を反射させてにやりと笑った。些か荒っぽい男口調に誤魔化されてはいるが、ぐらさんは紫色の姿をしたリボンといった見た目からも分かる通りれっきとした女の子である。

 

「ファンファンも変わったよねぇ。プリキュアハンターファントムなんて言ってた頃は恐ろしい敵だったのに。今ではすっかり可愛い妖精さんなんだもん」

 

「元々妖精が本当の姿なんだから、変わったというよりは元通りになったって感じじゃないかしら」

 

「それもそっか。ファントムの時は雰囲気が怖いからたまに忘れちゃうよ」

 

「わたしはあの恰好の時も可愛いと思うけどなぁ」

 

「ゆうこ、それはちょっと……」

 

 ゆうこのほんわかな雰囲気からは予想できない尖ったセンスにやんわりと否定の意を示すひめ。いおなやリボン達も口元を少し歪ませ苦笑いを浮かべている。

 

 それもそのはず。ファンファンはかつて青年の姿でプリキュアハンター・ファントムと名乗り、クイーンミラージュの忠実なしもべとして世界各地のプリキュア達を倒して鏡の中に封じ込めてきた。ハピネスチャージプリキュアも彼の強力な力に何度も苦しめられてきた。それ故にファントムのあの姿は彼との闘いを想起させる姿でもあるのだった。

 しかし、彼も本来悪であったわけではない。かつてクイーンミラージュがキュアミラージュとして戦っていた時にサポート妖精としてファンファンも正義の一助をしていたのだが、クイーンミラージュ同様にレッドに弱い心を利用され、精神を悪に染めてしまったのだ。

 

「それにしてもめぐみ達遅くない?もう15分前だよ。もしや、二人に何かあったんじゃ……」

 

「そうですわね、めぐみなんか特に集合時間のずっと早くから来そうなものですのに」

 

「わたしはめぐみちゃんと相楽くんからは何も聞いてないよ」

 

 

 めぐみといえば、何かイベントがあればその用意の為に朝から会場入りし、参加者として招かれたパーティーや自身が主役の誕生日パーティーにおいてですら積極的に準備を手伝おうとするほどで、こういった催し事にまだ顔を見せていないのは珍しい。

 誠司もどちらかと言えば早めに合流し、遅れてやってくるひめを待っている側だ。

 

「きっと、大丈夫よ。二人とも遅刻するような人たちじゃないわ」

 

「それは分かるけど、やっぱり待ちきれないじゃない」

 

「まぁまぁ、急いては事を仕損じる。楽しむためにはゆとりを持つことも大切だぜ、おヒメちゃん」

 

 ぐらさんはその言葉遣いに反して、冷静で思慮深く中々鋭いことを言ってくる。この言葉にはひめも納得するしかなく、落ち着いて時間を待つことにした。

 程なくして本日三回目のチャイムの音が鳴ると、ひめは大急ぎで出迎えに行った。ドアを開けると、目の前にいる相手も確認せずに少々大声で捲し立てる。

 

「もう何してたの!?皆も待ってるんだから早く早く!!」 

 

「あぁ、悪い。ちょっと……あってな」

 

「って、なんだ誠司か」

 

「何だとはなんだよ」

 

 ひめが自身の予想とは反したことを隠しもせずぶつけると、誠司は到着早々眉をしかめた。一見失礼にあたるこの行いはそのものズバリ失礼な行為なのだが、ひめが友人と判定した人間に対しては信頼感から少々雑な対応をすることを誠司が理解しているからこそだ。

 

「めぐみは一緒じゃないの?」

 

「あぁ……めぐみなら。ハァハァ……」

 

 肩から息をし額から猛烈な汗を垂れ流しているその姿を見るに、誠司の住むマンションからここまでの長い距離を走ってきたようだ。基本的に時間には忠実な彼が焦っている様子に違和感を覚え、ひめは一先ずの追及をやめた。

 

「とりあえず中に入って座ったら?」

 

「あぁ……そうするよ」

 

 その一動作を鈍くし、廊下を渡っていく誠司。パーカーの紐も重力に負けてどこかげんなりしている。

 誠司は横長のテーブルの入り口側に近い席、所謂お誕生日席にチェアを設置すると、全身の力が抜けたようにドシンと深く座った。

 彼が息を整えていると、間もなくファントムがこの場の人数分に+1した数のカップとティーポット、そして角砂糖を入れた透明な瓶をプレートに乗せて応接室へと戻ってきた。

 

「それで、めぐみはどうしたの?ワタシはてっきり誠司と一緒に来るものかと」

 

「あぁ、それがな。めぐみが今日に限って遅いからドアの前で待ってたんだけどな……」

 

 ここで誠司が目の前に置かれた紅茶をグッと飲み干した。深刻な喉の渇きを熱い紅茶で癒せるかは定かではないがとりあえず何かを通しておきたかったようだ

 勿体ぶるような行為に誠司の喉が鳴ると同時にその場の全員が唾を吞み込んだ

 

「全然出てこないからかおりさんに聞いたら、あいつ寝坊してたらしくてさ。それで、俺まで間に合わなくなるからってかおりさんに先に向かうように言われて急いできたんだよ」

 

 大したことのない話のオチにほんの静寂が流れたあと、前のめりになっていたひめは呆れたようにソファに背中を押し付けた。

 

「なぁんだ、寝坊かぁ。心配して損しちゃったよ」

 

「寝坊なんてひめは毎日ですものね」

 

「余計な事言わなくていいから!」

 

「何はともあれ大事が無くて良かったじゃない」

 

「めぐみちゃん、今日のこと凄く楽しみにしてたから寝坊のこと気にしないといいんだけど」

 

 早速めぐみの話題で持ちきりになった。彼女一人が遅れただけでこれだけ声が挙げられるその影響力がうかがい知れる。

 

「別に遅れてもいいんだけどさ。めぐみもなんで今日寝坊なんかしちゃうかな」

 

「この前あいつ最近寝不足だって言ってたからなぁ」

 

「そうだとしても随分間が悪いわね」

 

「あいつ、昔からそういうところあるんだよな。イベントを控えてると前日に張り切り過ぎて却って体壊したりな」

 

 誠司は腕を組んで、しみじみと語る。他の面々も思い当たる節があるのか自然と息を合わせたようにうなずいた。

 

「先にお茶会始めちゃう?本当は全員が揃ってからと思っていたんだけど、皆もお腹空いてると思うし」

 

 バスケットと蓋の隙間に指をかけるゆうこ。彼女の気遣いを先ほど限界を迎えていたはずのひめが静止した。

 

「いや、いいよ。めぐみ一人だけ仲間外れにしたんじゃ悪いから」

 

 友達一人を置いて先に事を進ませるのは全員の望むところではない。しかし、時間はまもなく11時になろうとしていた。友人同士の集会で時間は必ずしも守られる必要はないが、それとして先に集まっている者を優先し、この場は不本意ながら規定の時間を以ってティーパーティーを始めることとした。

 

 一周、また一周と秒針が絶えず時間を刻む。そのサイクルがほんの数分のタイムリミットを永遠のように感じさせている。

 ひめは頻りに時計を見つめ、誠司は窓の外を常に意識している。また、他の面々もどこか落ち着かない様子でめぐみの到着を待ち続けている。その間、全員が言葉を発することもなく、独特の緊張感が部屋中に充満していた。

 あと数十秒に差し掛かり、先に断念してしまったファントムがキッチンへ食器を取りに廊下のドアノブに手をかけた。それと同時に奥から玄関戸から大きく軋み音があがった。

 ひめが来訪者の正体を確かめる間もなく部屋を飛び出していった。

 

「もう、遅いよ!」

 

「ごめぇん!」

 

 僅か数秒を残してようやくめぐみが大使館へ到着した。顔を真っ赤にして、全身から息が漏れるようなその姿にどれだけ彼女が急いでいたかがうかがい知れる。

 

「目覚まし時計はかけたんだけど」

 

「いいからいいから、皆もう来てるよ」

 

 めぐみの手を引っ張り、無理やりに足を進ませる。応接室へ足を踏み入れた途端にたくさんの視線がめぐみへ突き刺さった。

 安心やら焦燥やらがごちゃ混ぜになった全員の表情にめぐみが後頭部を摩りながら申し訳なさそうに笑った。

 

「えへへ、遅くなっちゃった」

 

「全くだよ、ワタシがどれだけ待ったと思ってるの!!?」

 

「まぁまぁ、ギリギリ遅刻はしてないんだからいいじゃない」

 

「そういう問題じゃないよ、怪我でもしたんじゃないかって心配してたんだから!」

 

 いおなの擁護も虚しく自身に迫るひめの権幕に圧され、めぐみは事を理解し深々と謝った。

 

「本当にごめんなさい!!アラームはちゃんとかけたんだけどね、その……聞こえなかったみたいで」

 

 顔を俯かせながら、気まずそうに両手の人差し指を付け合わせるめぐみ。そのいたたまれなさを遮るようにゆうこがバスケットの蓋を開いて大きなタッパーを取り出した。

 

「じゃーん、おおもりごはん特製のからあげでーす!全員揃ったことだし、早速お茶会始めちゃいましょう」

 

 タッパーを開けると、中に詰め込まれた大量の鶏唐揚げがキラキラと輝きを放つ。おおもりごはんで一番人気なしっとり皮のジューシーな唐揚げが目の前でひしめき合っている。その夢のような光景に全員が目を奪われた。

 

「いよっ、待ってました!」

 

 ひめが興奮気味に叫びをあげた。そして、早速テーブルに置かれた唐揚げのタッパー目掛けて手を伸ばした。

 

「こら、行儀が悪い」

 

 いおながひめの腕が伸びるより早くタッパーを奥へ引くと、その手がテーブルを掠めた。

 

「まだダメなのぉ?」

 

「手づかみじゃ汚いでしょ。それに、ちゃんと全員に行きわたるように分配しないと」

 

「たくさん作ってきたから量は気にしないで」

 

 そう言うとゆうこは唐揚げ入りのタッパーをもう二つ、そして重箱を取り出す。三段積みの重箱を分解すると、中にはおにぎりやエビフライなどこれまたおおもりごはんの名物メニューが溢れていた。

 

「おぉ、凄いな。随分作ってきたじゃないか」

 

「えへへ、久しぶりにみんなで集まると思うと楽しくなっちゃってね」

 

 テーブルいっぱいに料理が広がっている様は中々に圧巻である。ピクニックないしバイキングとも言えてしまうようなそれはお茶会というにはあまりにカロリーが高い。

 

「じゃあ、わたしはお皿とか持ってくるよ。えーと個数は」

 

 めぐみはテーブルの状況を一瞥すると、指で人数を数え始めた。

 

「五つだ」

 

「おわぁ、ファンファン!」

 

「オレが持ってこよう。お前は座っているといい」

 

 気づけば後ろに立っていた赤髪の青年の存在にめぐみが大きく後ずさる。そんなことなど気にせず、ファントムは一人で応接室から出て行った。

 

「ちょっと、待ってよ!一人で持ってくるのは大変でしょ!」

 

 ドアの向こうに声をかけると、慌てて彼を追いかけていった。

 

「来たばかりなんだからもう少し休んでいけばいいのに」

 

 忙しないめぐみの後ろ姿にひめが呟いた。

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