───江戸時代、末期
突然だが、この物語はそんな昔から始まる。
「て、敵襲!敵襲ぅぅぅぅ!!」
ある真夜中、満月が美しく輝き、それに照らされた立派なある城で、そんな声が響いてきた。
「敵は何処だ!?」
「一体どこから忍び込んだっ!?」
「わ、分からねぇ…だ、だが…」
敵の存在を知らせた兵士が震えながらある方向を指差すと、そこには二人の兵士が頭に矢が突き刺さった状態で倒れていた…
「い、今これを見つけて…」
「っ…と、とにかく!敵を見つけて」ザシュ
指示を出そうとした兵士の首が次の瞬間飛んでいた。
「…は?」
「っ、何や」ズシャ…!
呆気に取られた兵士と直ぐに対応しようとした兵士。次にやられたのは後者であった。
「くっ…ごっはぁ…!」
その兵士は、心臓を十文字槍で貫かれ、そのまま空へと突き出された。兵士の吐き出した血が、槍を持つ存在に降りかかる。
「あ…あ…」
最後に残った兵士は、腰を抜かした。その存在は槍は振り、突き刺した兵士を地面に叩き付ける。月明かりに照らされたソレが、絶望する兵士の瞳に映った。
「ひぃ…!」
ソレは一見するとただの人間だった。背の高い男で、白い髪が月明かりに照らされキラキラとしていて、血まみれで右手に槍を、左手に刀を携え、弓を背負っている。
「や……夜叉……!」
「………」
「やめっ」ザシュ
夜叉、と呼ばれた男は次の瞬間には腰が抜けていた兵士の首を斬り飛ばしていた。兵士の身体が地に伏し、それを少し眺めていると、無数の足音が聞こえて来る。
「出会え出会え!!」
城を守る兵士達が夜叉に向かって来る。夜叉は向かって来る兵士達に向き合い、ただ一言。
「災いで、あれ」
そう言って兵士達に向かって行く。
夜が明け、鳥の囀りが響き、太陽の光が城を照らし始めた頃。
「すぅ…ふぅ…」
夜叉は城の天守閣に居た。天守閣から外の景色を眺め、そして下の方を見ると…
「終わりか」
下には夜叉に立ち向かった兵士達の屍が積み重なっていた。そして夜叉の背後、天守閣の中には、首を飛ばされた城主の姿があった。
「………」
夜叉は真っ赤になった姿で空を見上げ、一言。
「災い、ここにあり」
「カァーッ!カァーッ!」
そう呟く。空には多くの死体に釣られて来たカラスが大量に飛んでいた。
────人斬り夜叉。
現代においてそう呼ばれる存在。江戸時代末期、およそ40年に渡り日本各地で人を斬り続けた世界最恐のシリアルキラー。夜叉に関する詳しい情報は殆ど残っていないが、被害の大きさから存在した事は間違いないとされている。城を一人で落とした、夜叉の斬った人間は万にも届くと言われ、その存在は世界最大の謎の一つとして扱われており、その残虐非道な逸話から「日の本最大の災い」とまで言われている。
「人斬り夜叉。まぁ大層な名前をしてはいますが、決して名前負けするような存在ではありませんよ?簡単に言えば日本版のジャック・ザ・リッパー!しかも被害者の数はジャックより圧倒的に多く、そして無差別だった。日本だけでは無く、世界中で最も恐ろしいとされた殺人鬼です。夜叉の行動範囲は日本全土と言われ、各地で夜叉が現れた逸話が残されています。ただ…」
人斬り夜叉に詳しい歴史専門家は少し困った表情をして言う。
「私が言ってしまうのもなんですが、夜叉の正体は何も分からないのです。あらゆる武に精通しており、様々な技が使えたとされていますが、色んな武道の流派を調べても、夜叉の武芸百般の逸話に一致するような人物は見つかりませんでした…何処に住んでいたのか…性別は、年齢は、何故、無差別に人を殺めたのか…分からない事だらけで…最もあり得る話としては…夜叉は実は複数人居た、とかなんですね…」
突然だが、俺の名前は星野
「ただいまぁー!
家の扉を開けて我が家に帰って来た綺麗な黒髪の女性。彼女は星野 アイ。そう、苗字から分かると思うが、俺とアイは親子だ…それだけなら良かったのだが…
「いや〜、今日の収録、危うく皆の事言いそうになって危なかった〜」
「ホント勘弁してくれよ…アイドルのお前が子持ちってバレたらもう全部終わるから…」
「分かってるって〜、佐藤社長」
「だから俺は斉藤だ…!」
アイはバリバリの現役アイドルであり、もし世間に俺達の事がバレたらとんでもない事になってしまうという事。そしてもう一つ秘密がある、それは…俺には前世の記憶があり、前世でアイの出産を手伝っていた雨宮吾郎という医者だった。
(ホント、何でこうなった…)
アイの赤ん坊が産まれる直前にアイのストーカーに襲われてしまい、崖から落とされて死んだらアイの子供になってた。な、何を言ってるか分からねーと思うが(以下略。
(ま、推しの子になれたんだしいいか〜)
因みに、アイの子供は三つ子だった、普通に珍しい。当然、俺以外にも二人子供がいる訳で…
「あうあう!」
「おーよしよし、ルビーは甘えん坊だねー」
一人目が今アイに抱っこされている俺の妹の
(また窓から外を見てる…)
一番下の弟で、どこか不思議な感じのする
「ほら、クリスもアクアもおいで〜」
まぁ、何はともあれ、俺はアイの子供になった今の人生を満喫していた。そんなある日…
「アクアー、お腹減った?おっぱい飲む?」
「っ!?」
そう言われた俺は首をブンブンと横に振り、哺乳瓶を手に取り口をつける。
(さすがにアイドルに授乳させるのは大人としての一線を超えてしまう気がする!)
そう思っていると、ルビーが騒ぎ出しアイに授乳してもらう。
「ルビーはおっぱい好きだねー」
「……ふっ」ドヤッ
(こ、こいつ…!)
ルビーのドヤ顔にイラついていると、アイはルビーを俺の隣に降ろし、次にクリスの方に向かう。
「ほら、クリスの番だよ〜」
「…あう…」
クリスはアイに抱えられ、別に何とも無いといった様子で授乳されていた。
「仕事の時間だ」
「は〜い」
斉藤社長に呼ばれたアイはクリスをルビーとは反対側の俺の隣に置き、俺たちの額にキスをして仕事に向かった…
「お前、ちょっとは遠慮しろよ…」
「何で?娘の私がママのおっぱい吸うのは自然の摂理なんですけど。与えられた当然の権利なんですけど」
俺の言葉に対してルビーはさも自分が正しいみたいな感じでそう言ってくる。コイツ本当にヤバいな…
「一応聞いとくけど、お前前世も女?」
「うん」
「ならまぁ、ギリ許せるけど…」
「オタクの嫉妬キモーい!まぁいい年した男が授乳とか倫理的にヤバいもんね!よかった~合法的におっぱい味わえる女に生まれて!」
「俺の倫理感だとそれもアウトなんだけどな…」
「ママも可哀想…まさか自分の子供が自分のオタとかマジキモいもん…あーママ可哀想私が一生守ろぉ…」
「絶対お前の方がキモいよ……そういえば、クリスはどうなんだ?お前も当たり前みたいな感じで授乳してもらってるけど…」
「?何がです?」
「いや、お前前世は女だったのか?」
「いえ、男ですが」
「はぁ!?」
ちょっと待てルビーよりヤバい奴いたかもしれん。
「おま、何でそれで当たり前みたいな感じで授乳してもらってんだよ…!」
「そうよ!いい歳した男が授乳してもらうとかキモいのよ!哺乳瓶で我慢しなさいよ!」
「…?私が母上から乳を貰うことに何か問題が?」
「いや、倫理観的に問題が……」
「それは兄上と姉上にとってはの話では?母上は私に乳をあげようとした、私は腹を満たす為に有り難くソレを頂いた。双方の納得の上で行われた行為に恥じることなどあるのでしょうか?」
「「………」」
マジかコイツ…一体前世はどういう生き方してたんだよ…
「うぅ…オムツ交換したいから向こう行って」
「はいはい…ほらクリス、行くぞ」
俺とクリスが離れると、ルビーはおんぎゃーと声を出す。すると社長婦人であり、俺達の世話をやってくれているミヤコさんが来た。
「はぁ…私が何でこんな仕事…」
ミヤコさんは俺達の世話をする事に不満を持っているのか、愚痴を言いながらルビーのオムツを替えていた。
「美少年と仕事できると思ってあいつと結婚したのに!与えられた仕事は16歳アイドルの子供の世話!?そんで父親不明の片親とか闇すぎんだろー!そもそも私はベビーシッターやりに嫁に来たんじゃねぇぇぇ!」
今まで相当な不満を抱えていたのか、ミヤコはそう叫ぶ。確かに闇深いよな…
「はぁ?ママに尽くせるのは幸福以外の何物でもないでしょ。頭おかしいんじゃない?」
「いや意外と彼女の言ってることに正当性が見受けられる」
「そもそも、なぜアイドルは子をこさえてはいけないのでしょうか…」
「その辺はまた勉強しようなクリス」
俺達がそんな会話をしていると、ミヤコさんがとんでもない事を言い出す。
「あー…ていうかこれって不祥事の隠蔽よね」
「「っ!?」」
「?」
「そうだ…週刊誌とかにこのネタ売ったらお金持ちに…?もう全部どうでもいい!やったるかー!」
ミヤコさんはそう言って立ち上がり、アイと俺達の関係を世に知らしめる準備を始めた。
「どうする!?殺す!?」
「無理だ、体格差がありすぎる…」
「こっちは冗談で言ってるけどもしかしてそっちは本気?」
「殺すんですか?」
「ほっといたら危険なのは間違いない。だけど……クリス?」
「体格差があろうと人は殺せます。ちょっと机の上などに尖った物とかないでしょうか」
「クリス、ステイ!」
コイツ怖っ!?ミヤコさんを始末しようとする事に一切疑問を持たなかったぞ!?そんな風に恐怖していると、ミヤコさんはアイの母子手帳をスマホで撮り始めた。
「どうするの!?あいつ母子手帳の写真をめっちゃ撮り始めたけど!」
「むしろコレはチャンスだ、俺に考えがある!」
「ふふ…これを売ったお金で本担を月間1位に押し上げるのよ…」
ミヤコはそう呟き、母子手帳が映し出されたスマホ画面を見て歪んだ笑みを浮かべていると…
「哀れな娘よ。貴様の心の渇きはシャンパンでは癒えぬ」
「誰っ!?」
突如聞こえた謎の声に慌てて振り向くと、机の上に座っているアクア、ルビー、クリスタルが居た。真ん中にいるアクアが腕を組みながらミヤコに言う。
「わ…我は神の使いである。貴様の老籍これ以上見過ごすわけにはいかぬ…!」
「神の使い…?っていうか赤ちゃんが…嘘だぁ…」
「貴様の常識だと赤子は喋るのか?信じよ」
とんでもない設定、神の使いでミヤコの暴走を止めようとするアクア。ミヤコは信じられないといった様子だった。
「いやいやさすがに神とか言われても私そういうの信じないし…あっわかった!これドッキリでしょ!アイさんの出る番組でマネージャードッキリとか!あるある!手がかかってるなぁどこかにカメラあるんでしょ?」
ミヤコはそう言ってカメラを探そうと周囲を見渡す。
(くっ…さすがに無理があるか…)
「ほらほらルビーちゃんテーブルの上に乗っちゃあぶな…」パシッ
「慎め、我はアマテラスの化身。貴様らの言う神なるぞ」
ルビーに伸ばした手を弾かれ、そう言われたミヤコは唖然としてしまう。するとそこに追い打ちをかける様に…
「良いか、今貴様の目の前では神の使いであり神の化身…アマテラス、ツクヨミ、そして我…スサノオの三柱が童らの身体に憑依しておる」
クリスタルがそう言い、ミヤコも徐々に目の前の事態を受け入れ始めると、ルビーが続ける。
「貴様は目先の金に踊らされ天命を投げ出そうとしている」
「天命…?」
「星野アイは芸能の神に選ばれた娘… そしてその子等もまた大いなる宿命を持つ三つ子。それらを守護するのが何時汝の天命である」
ミヤコは(三人の背後に置かれたペンライトの)後光を浴びる三人の姿を見てその話が本当かもしれないと思い始める。
「その行いは神に背く行為…このままでは天罰が下るであろう…」
「天罰!?天罰って何ですか具体的には!?」
「具体的に?具体的には…」
「死ぬ」
「そう死ぬ!」
「いやぁ!!」
「ソレもただ死ぬだけでは無い」
「「!?」」
「そ、そうなんですか!?」
クリスタルが天罰の内容をより具体的に深掘りし始めていく。
「お主は金輪際、誰からも愛されなくなり、やがて都を追われ、一人寂しく彷徨い、やがては陽光も月光も届かぬ暗い…まるでこの世の底の様な場所で看取る者もいないまま息絶え、その亡骸を獣に貪られ、人としての尊厳を全て失いこの世を去るのだ」
((怖すぎるっ!?))
「いやぁぁぁぁぁぁ!?怖すぎるし、そんな惨めな死に方したくない!!私、どうすれば…!?」
クリスタルから聞いた天罰の内容に絶望し、机に突っ伏し泣き喚くミヤコの腕にルビーは優しく手を添える。
「簡単なこと…母と我々の秘密を守ることじゃ。そしてこの子らを可愛がり言うこと全部聞くのじゃ。さすればイケメン俳優との再婚も夢ではないぞよ」
「マジですか!やります!!何でも言うこと聞きます!靴の中敷きでも舐めます!」
「そこまではせんでよい」
こうしてミヤコは三つ子の言う事を何でも聞くようになってしまうのであった…
「はぁ…これで良かったのかな?」
「どの道、乳児の活動範囲には限界がある。これで外にも出られるな」
「やった!」
「しかし、ルビーもクリスもなかなか迫真の演技だったな。どこかで演劇でもやってたのか?」
演技が上手かったルビーとクリスに対してアクアがそう訊くと二人は…
「ううん?初めてやった」
「私は演技は少々…」
と答えた。
「クリスはともかく、ルビーは初めて?学校で劇とかやんなかったのか?」
「…私ちょっと変わったとこで育ったから」
「ふーん?じゃあ才能だ。将来は女優かな…あ、てかクリスは脅し過ぎ!今度からは気をつけろよ…」
そう言ってアクアはその場から離れていった。
「将来…考えた事も無かったな…」
ルビーがそう呟いているのを見たクリスタルはその場から部屋の隅に移動し己の右手を見やる。
「これは無用でしたね」
その右手には子供用の箸が一本握られていたのだった…
それから少し時が経ち…アイが子供3人を育てる上でのお金に関して色々悩んだり、笑顔に人間味が無いとSNSで呟かれていたのを気にしている時にやって来たミニライブ…
「ママのステージちゃんと見るの初めて!!」
三つ子はB小町のミニライブを見に来ていた。
「いいですか…どうしてもって言うから連れてきましたがこんなの社長にバレたら怒られるのは私なんですからね」
ミヤコが険しい顔をしながらベビーカーの中を覗いてそう言う。
「推さない、駆けない、喋らない!おしゃぶりつけて大人しくしててくださいね!」
「そうだぞルビー、目立つことだけは絶対ダメだからな。アイとの関係性を匂わせるようなことは…」
「言われなくたって。見たでしょママが落ち込んでるところ… これでも私はママが心配できてるの。遊びに来たわけじゃないのは分かって」
「本日はB小町のお三方にお越しいただきましたー!」
ルビーの台詞の途中で司会がそう言い、アイ達が登場してミニライブが始まる。ファン達のコールが会場内に響き熱気が高まっていく。そんな中ライブ中のアイは…
(人間臭さが無い……そんな事言われたってなぁ…私、プロだし)
ある呟きの事を考えていたのだった。
(それ よくわかんない。人間ぽくないのを求めてるのはそっちじゃん?鏡見て研究して。ミリ単位で調律… 目の細め方 口角 全部打算。いつも一番喜んでもらえる笑顔をやってる…私は
少し暗い感情を持ちながらアイは踊っていると…
「!?」
アイの視界に驚きの光景が映り込む。
「「バブバブバブバブバブバブバブバブ!!」」
なんとそこには!ペンライトを両手にヲタ芸を披露する乳児、アクアとルビーが!そしてそよ二人の隣には、ペンライトを軽く振ってるクリスタルの姿もあった。
「何だあの赤ん坊ヲタ芸打ってるぞ!」
「乳児とは思えないキレだ!」
会場もヲタ芸をしている赤ん坊二人に驚きどよめいている。
(何が心配してきたですか!誰よりもエンジョイしてるじゃないですか〜!)
((つい、本能でー!!))
(母上〜、応援しております〜)
ミヤコの脳内ツッコミにアクアとルビーは同じように脳内で返している横で、クリスタルはのんびりとアイを応援していた。
「わっ」
「何あれすっごー…」
アイの横で踊っていたB小町のメンバーもアクアとルビーに驚いている中、アイは…
(うちの子きゃわ~!!!)
我が子の可愛さにとびきりの笑顔を見せていた。
「21万リツイート… 転載動画もすでに200万再生…赤ちゃんコンテンツはバズりやすいとはいえこれはさすがに…」
ヲタ芸を披露したアクアとルビーはそれは見事にバズった。因みにクリスタルは映っておらず、アイと同じ髪色をしている子供が映らなかったのは不幸中の幸いとも言えるかもしれない。
「ちょっと来い」
斉藤社長はミヤコに今回の件についてちょっとお話しがあるということでミヤコを引き摺っていった…アイは今回の件でファンの反応を調べていると…
「……!」
SNSにアイの笑顔には人間臭さが無いと言っていた人が「これだよコレ!!」と呟いていた。
「なるほど…これがイイのね…覚えちゃったぞ〜?」
とニコニコしながら言っていたのだった。
その日の夜。
アイはライブの疲労で、アクアとルビーはヲタ芸の疲労でぐっすりと眠っている中、クリスタルは起き上がり、誰も起こさないようにそっと寝室を出た。
「………」
リビングの窓に近づき、窓越しに空を見上げ、月をジッと見つめる。そして一言。
「災いで、あれ」
そう、呟いた。
何だこの主人公…我が子ながら意味が分からん…いや、私は色々知ってるけど、読者からしたら「何だコイツ?」としかならんのでは?あ、アンケート投票良ければお願いします。