災いの子   作:猪のような

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連日投稿しちゃうもんね。質は保障しないぞい。


第十話 初恋

 

 

 

 

まるで、新しい玩具を与えられた子供の様な顔。今まで見せて来なかったクリスの表情はその場に居た今ガチメンバーや撮影スタッフに衝撃を与えた。

 

「──不知火さん、もう一本やりましょう」

 

「「「「待て待て待て待て!」」」」

 

既に疲労困憊なフリルに対して再戦を申し込んだクリスを他の今ガチメンバーが止める。

 

「フリルもうくたくただよ、勘弁してあげてクリス君!」

 

「そうだよ今日はもうお終い!」

 

「む…すみません、つい溢れ出る気持ちが」

 

「ほ、ほらもう終わりだから着替えに行こーぜ!」

 

ノブユキとケンゴに連れられて着替えに向かったクリス。アクアはその後ろ姿を眺めた後に床に座って休んでいるフリルを見た。

 

「けど実際凄いな、クリスが一本取れない相手なんて初めて見た。そっちでもやっていけるんじゃねーの?」

 

「いや…今のはそういうのじゃ無いよ…」

 

フリルは息を整えながら説明する。

 

「私は相手がクリス君だったから5分間耐えれただけ。多分他の人が相手だったら普通に負けてもおかしく無かったよ」

 

「相手がクリスだったから?」

 

「……私、クリス君の事は本当によく知ってる。何度も試合映像とか見たし、家に資料も沢山ある。ここ数年は、ずっとクリス君を見て来た。だから分かる()()()()が」

 

「………」

 

アクアは絶句していた。そう言ったフリルの姿は、まるでクリスと重なっているようで…

 

「持つのは絶対的な自信じゃなくて、絶対的な信頼と理解……私は断言出来る。この世界で最も彼の事を理解しているのは、私」

 

「……マジかよ、愛の成せる技ってか?」

 

「ん、その通り」

 

「どっちにしろスゲーよ…あんなクリスの表情、初めて見た。アレは絶対クリスの中で何かが変わっただろうな」

 

「うん、それが果たして恋愛感情なのかはともかく…なったよ、特別に」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

誰もいない教室で一人着替えるクリス。その胸中は先程からずっとフリルと対峙した時の記憶で満たされている。

 

(…あんなに長く対峙したのは、本当に久しぶりです…分からない、何故斬れなかった?辰と同じ感覚ではありませんでした。アレは理解するのには時間がかかりましたが、それまでです。けど不知火さんは私の理解を無意味にしていった…)

 

「はぁ、いけません…先ほどからずっと不知火さんの事ばかり…狼、どうしましょう…あなたの言った通りになりました…」

 

クリスは何度も思い返す。いつぶりだったろうか、自身の力を思う存分振るったというのに、それを正面から受け止められたのは…

 

「不知火フリル……」

 

あの爬虫類じみた美しい瞳が、かつて自分に似たような喜びを与えた存在の瞳と重なる。

 

「なりましたね、特別に」

 

 

 

この日から、星野クリスタルは不知火フリルに強い意識を向ける様になる。アクアとあかね、クリスとフリル。二つの組み合わせが織りなす物語に視聴者は盛り上がっていた。

 

『ユキユキも良いけど、最近アクあかとクリフリ熱すぎる!』

 

『アクあかは一緒に壁を乗り越えた感じの良さがあるよね、あかねめっちゃアクアの事気にしてるし!』

 

『クリフリは今までずっとフリル→クリスだったのに最近フリル→←←←クリスみたいな感じで今までとのギャップで推せる…』

 

『なお双方のガチ恋勢は地獄の模様』

 

『それは触れるな、誰も幸せにならない』

 

「うわ〜…人気出てるな〜…つか、マジでやったよ不知火フリル。お前の言った通りだったね、狼」

 

「まぁな、とはいえ今はまだ明確な恋愛感情は持っていないだろう。辰と同じように自分が理解出来ない存在に対して強い興味を抱いているだけだ」

 

「…それじゃ結局、クリスが不知火フリルの事を理解すれば元通りになっちゃわない?」

 

「大抵の場合はそうだ。だが今回はそれに至るまでの過程で今まで夜叉が全く触れてこなかった重要な要素がある」

 

「へぇ?」

 

「理解する為にはそれについて深く知る必要がある。その為にそれを経験するというのは理解に必要不可欠な要素だ」

 

狼はスマホで今ガチを視聴しながらニヤリと笑う。

 

「不知火フリルが夜叉の特別となった最大の要因。それはたった一人の人間をどうしようもなく求め、その人間の為に狂ってしまうほどの愛情。全てを愛してきた今の夜叉では理解出来ぬだろうなぁ…しかし、それを知った時…」

 

「夜叉は初めて恋を知るって事?ひえー人間社会に強く関わるようになってから色々分かるようになったんだねぇ…」

 

「まぁ、今までは余計な知恵だと思っていたが…運命とやらは、どうやら相当夜叉を気に入っているようだ」

 

「面白くなってきたね〜……因みにお前いつまで俺の家にいるの?つかそれ俺のスマホなんだよね」

 

「今ガチが終わるまでだ」

 

「は!?ふざけんなよお前さっさと帰れって!」

 

「森にスマホがあると思うか!?夜叉の恋物語が終わるまで帰らないからな!」

 

「じゃあせめて俺以外の奴らのとこ行けって!干支組のいる神社とかさ!」

 

「あいつら絶対夜叉についてうるさいくらい聞いてくるから嫌だ。それに神社の人間にも迷惑をかけたくない」

 

「なんだよもぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

クリスとフリルの関係の変化。それは今ガチのみに限った話では無く、日常生活にも現れていた。

 

「クリス、また不知火さんが出てるドラマ見てるの?それでリピート何回目?」

 

「不知火さんの事、もっと知りたいんです。ですが、ドラマや資料だけではまだまだ足りませんね…明日は学校にいらっしゃるでしょうか」

 

クリスはフリルが出演している作品を何回も見返し、学校にフリルがいる時はずっと近くにいたり、部屋にフリルの資料が増え出したりと、今のクリスの生活の中心は不知火フリルになっていた。

 

「という訳で…マジでクリス、不知火さんの事滅茶苦茶意識しててさぁ…」

 

「うんうん、まぁそれは学校でも見るから分かるんやけど…今のクリス君って、不知火さんの事になると年相応って感じがしてギャップ萌えしてしまうなぁ…」

 

「渡さないからね?」

 

「ヒェ…」

 

「あ、不知火さん!」

 

ルビーとみなみが話していると、いつの間にか二人の背後にフリルが立っていた。

 

「えっと…クリスとは今どんな感じ…?」

 

「仲良くやってるよ、視線を独り占めにするのは取り敢えず達成かな。けど、まだ足りない」

 

「「え?」」

 

「クリス君が今私に向けてるのは恋愛感情じゃなくてただの強い興味。それを恋にどう昇華するかで私とクリス君の関係が決まる」

 

「……クリス君って最近ずっと不知火さんについて行ってるけど、よくよく考えたら不知火さんも同じ事しよったね」

 

「もしかしたらお似合いなのかも…兄の事もあるし、私はどうすれば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてある日の平日、クリスは放課後学校に居た。と言っても、今いるのは通っている陽東高校では無く…

 

「星野先輩強すぎ!何なんですかもう!!」

 

「はっはっはっはっ。これで全員斬りましたかね?」

 

「芸能界入りしたから少しは衰えたかと思ったら全然そんな事無かった!あなたの何処が二段ですか詐欺しないでください!」

 

「文句は協会に言ってください」

 

クリスが居たのは母校である中学校だった。今は剣道部のメンバー全員を圧倒したところで、主将以外のメンバーは真っ白に燃え尽きている。

 

「はぁ…で、今日は何の用ですか?」

 

「今ガチ、見てますか?」

 

「……番組には興味ないですけど、先輩が出てるんで見てますよ…その話するなら、やっぱり話題は不知火フリルに関して?」

 

「その通りです。一度あの立ち合いを客観的に見てどう思われているのか剣道の心得がある方に聞いた方がいいと思って」

 

「じゃあ本題はそっちでうちらボコったのはついでかよ…!はぁ……で、不知火フリル、でしたね……はぁ、今俺らをボコった先輩が一本取れない相手…ってだけならスゲーってだけで終わりましたけど…」

 

主将は真剣な表情で画面で見たクリスとフリルの立ち合いを思い出す。

 

「不知火フリルは初段成り立ての初心者。見た感じ、多分俺の方が普通に強いですよ。けど…」

 

「その相手から、私は一本も取れなかった。アレから時間が空いている時は何度か立ち合いましたが、まだ一本も取れないんですよ。いえ、寧ろ以前より余裕が出たような…」

 

「それで?どうして不知火フリルから一本も取れないのか分からないから私のとこに?」

 

「その通りです」

 

「つってもな〜……俺…っていうか、先輩と試合した人なら大体分かるんじゃないですかね?」

 

「なんと」

 

主将は燃え尽きてる他の部員を叩き起こすと、部員達にクリスとフリルの対決を見せる。流石は武道が売りの名門中学に通うだけあって真面目に分析すると、皆どこか納得した表情になる。

 

「先輩、皆も同じ結論だったんで言いますよ」

 

「はい」

 

「不知火フリルは、()()()()()()()()()()()()()()なんです」

 

「…私にとっての?」

 

「はい、詳しく説明すると…」

 

主将はスマホ画面の中で向き合う二人のクリスの方を指差す。

 

「先輩は俺達です」

 

次にフリルの方に指を移動する。

 

「不知火フリルは先輩です。この人は、先輩が俺たちの動きを完璧に読んでるみたいに…いや、もしかしたら先輩の読みより凄い読みを、先輩にだけ発揮しているんですよ」

 

「…私と、同じ…」

 

「そうっすねぇ…先輩が誰に対しても100%の予測が出来るとしたら、不知火フリルは先輩にだけ200%の予測が出来る。だから先輩がどれほど手札を切っても…」

 

「──不知火さんは、それを全て読み切って対処してくる。それが、私が彼女に勝てない理由」

 

「はい。恐らくですけど…先輩の事を世界で一番理解していると言っても、過言ではないですよ、不知火フリルは」

 

「…あり、えません。そのような芸当、不知火さんが…」

 

理由は分かった。しかしそのせいで新たな疑問がクリスの中で浮かび上がって来る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ええ、分かりますよ先輩。俺だって同じ事しようとしたって出来ませんよ。けどね、不知火フリルがそれを可能にしたのは、彼女がそれほどまでに先輩の事を好きで、先輩に夢中なんですよ…」

 

クリスが動揺した様子を見せるのは主将にとって初めてだった。それもその筈。クリスの全てを見透かす瞳は前世で磨き上げた最大の武器そのものだ。それをフリルはクリス限定とはいえたった数年で、クリスの上を行く完成度で作り上げた。それを可能にしたのが愛の力とかクリスからしてみれば意味不明である。

 

「根本的に違うんですよ…先輩は誰にでもその目を向けてきましたけど、不知火フリルは、先輩にだけ向けてきた…一か全か、それがお二人の差なんですよ」

 

「………」

 

クリスは驚いたまま動かず、少し経つと礼を言って帰っていった。

 

「…はぁ…」

 

「主将、どうかした?」

 

クリスが帰った後、主将はあからさまに落ち込み、部員から心配される。

 

「…俺さ、星野先輩にずっと憧れてた訳…」

 

((((自分語り始まった…))))

 

「何回も挑んだけどさぁ、全然勝てなくてさぁ…先輩が受験シーズンの時も何回も頼んで試合してもらったし…先輩の相手を理解するって教えを第一で頑張ってきたんだよ…」

 

「あ、はい…」

 

「けど、俺……」

 

(しゅ、主将が泣いてる!?)

 

(マジか鬼の主将が!?)

 

泣き始めた主将に対して部員達は驚きながらも黙って聞き続ける。

 

「先輩の事、全然理解出来なかったなぁって……何を、考えていたのか、俺の事、どう思っていたのかなとか、何で、芸能界に行っちゃったんだろうって…何も、分かってやれなかった…」

 

「主将…」

 

「それなのに、狡いよなぁ、良いよなぁ、不知火フリル…きっと、先輩の事、何でも分かるんだろうなぁ……くそ、羨ましいなぁ…先輩からもう一本やろうなんて、俺言われた事ねぇよ…」

 

主将はスマホの中で向き合っている二人の画面に涙を落とす。

 

「剣道今年からのくせに、先輩から求められるなんて、羨まし過ぎるぞ、不知火フリル…」

 

「主将………

 

 

 

女々しいな…正直ちょっと引いたぞ…星野先輩の事好き過ぎだろ…」

 

((((副主将ぉぉぉぉぉ!?))))

 

何でこのタイミングでそんな事を言うんだと部員達が副主将に非難の視線を浴びせるが、気にする様子は全く見られなかった。

 

「…ふ、ふふ、よし、お前ら、並べ。今度は俺が全員叩き斬ってやる」

 

「何で俺達も!?」

 

「元はと言えば、主将が勝手に」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇだらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 

「ふふ、おもろ」

 

拝啓 星野先輩へ、今日も剣道部は元気です

                    副主将より

 

「何傍観してんだてめぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

帰ってからクリスは自室である事についてずっと考えていた。それは…

 

「愛…」

 

クリスにとっては未だに分からない、たった一人に向ける強大な愛情。全てを平等に愛してきたクリスでは理解出来ないもの。フリルはそれを持ってクリスの特別となった。

 

「……母上…兄上…姉上…ミヤコさん…」

 

今呼んだ四人はクリスを愛してくれた人達だ。しかし、それはあくまで家族愛。フリルのそれは全くの別物。クリスがその正体が知りたかった、ので…

 

「もしもし、不知火さん。今、大丈夫ですか?」

 

『大丈夫だけど、どうしたの?』

 

「その、一つ参考までに、お聞きしたいのですが…」

 

『うん』

 

「えっと………不知火さんは、私の事、どう思っておりますか?」

 

遂にクリスは、直接本人に訊く事にしたのだった。

 

『……そう、だね……』

 

不知火フリルが珍しく言い淀み、二人の間に少しの沈黙が訪れる。そして不知火フリルは息を深く吸うと…

 

『好きだよ』

 

ただ一言、そう言った。クリスはその言葉を聞いて、考えるがまだ答えが出ない。ので…

 

「好きとは、具体的に…?」

 

『え』

 

「知りたいのです。たった一人を愛するとは、どういう事なのか…一と全の愛の違い…それを、知りたいんです」

 

『……どうしたの、今日』

 

「………ダメ、でしょうか」

 

『……狡いなぁ』

 

その夜で、クリスはどれほど世界を広げただろう。言葉を交わす事に想いに触れ、想いに触れる度に胸に熱が宿る。フリルが想いを伝えるほど、クリスは実感していく。

 

 

 

自分が彼女から、どれほど求められているか。そしてそれが分かるほど、クリスにある感情が芽生えてくる。

 

(────嬉しい)

 

ただ、隣にいる事を強く求められた。一緒に生きる事、誰よりも強く願ってくれた。恨みも、闘志も無い、けれどそれらの時より真っ直ぐに、大きな想いをフリルは伝えてくれた。

 

(どうしよう)

 

この日、あらゆるものを愛してきた存在は。

 

(胸が、痛い)

 

生まれて初めて、恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に迎えた今ガチの最終回。色々な事があった恋愛リアリティショーも、遂に終わりを迎える。

 

「いよいよ撮影も終わりだね?寂しいなぁ… アクア君の言う通りのキャラ付けしたら人気も出て…かなり助かったよ。ありがとう」

 

アクアは感情に整理がつき、あかねへの感情は恋愛感情では無くアイの幻影を抱いていただけだと気付き、あかねと付き合う考えは無くなっていた。

 

「アイの演技…いや、役作りか。まるで本物を見ているみたいだったよ、是非本人に見てほしいくらいにな」

 

「あ、アイって何処かの病院でまだ眠ってるんだっけ?公表はされてないけど…アクア君知ってるの?」

 

「知っているけど、教えないぞ…それにしても、アレってどうやってるんだ?」

 

「いや、そんな大層な事じゃ… 一応プロファイリングの本とか読んだりはしてるんだけどね。いっぱい調べて自分なりに解釈してるだけ。いろいろ勝手な設定とか出しちゃってるし」

 

「勝手な設定?」

 

「うん、例えば… ()()()()()()()()()()()()…とか」

 

「っ!?」

 

あかねの言う勝手な設定。それはアイが隠し続けた事実であり、それを誰かに気取られた事は一度も無い。しかし、あかねはその真実に自力で辿り着いた。アクアは、あかねに更に質問する。

 

「アイの思考パターンってどれくらいわかるんだ?」

 

「え?うーん… どういう生き方をしてきてどういう男が好きかまで多分大体わかると思うけど?」

 

目に星を宿しながらそう言ったあかね。アクアは少し考え込む。

 

(……使える。アイの好みまで分かるなら父親が誰なのか簡易的な識別器になる…けど、良いのか?俺の勝手な復讐にあかねを巻き込んで……いや、アイが再び狙われる可能性を考えれば、戸惑っている暇は、無い…!)

 

星の瞳を黒に染めて、アクアは自分の復讐の為にあかねを利用する事を決意した。一方その頃…

 

「………」ソワソワ

 

「……ねぇ、何か今日のクリス君、妙にソワソワしてない?」

 

「ん?…確かに、さっきからうろちょろしてるし落ち着き無いよな…」

 

「どうしたんだろ…」

 

先ほどから他のメンバーが違和感を覚えるレベルで落ち着きがないクリス。すると…

 

「クリス君、おはよう」

 

「ひゃ!……不知火さん、お、おはようございます」

 

「……どうしたの、顔赤いよ?」

 

「いえ、な、何でもありませんよ!ええ!わ、私ちょっとお手洗いに行って参ります!」

 

顔を真っ赤にしたクリスがそう言って逃げるようにその場から去っていく。

 

「クリス君、ホントどうしたんだろ」

 

「大丈夫かな〜…」

 

「………勝ったなこれ

 

「ん?フリル、何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

そして遂に番組はクライマックス…告白シーンに差し掛かる。ノブユキがユキに、ケンゴがMEMちょに振られる中、アクアはあかねに告白し、そのままキス。一組のカップルが誕生した。そして…最後の二人組、クリスとフリルの告白シーンに突入するのだが…

 

「「………」」

 

二人はさっきからずっと向き合ったまま黙っている。

 

「ね、ねぇ!二人ともどうしちゃったの!?」

 

「分かんないわよ!」

 

「クリス、どうしたんだ…?」

 

周りの人々が心配そうに見守る中、クリスは…

 

(ま、不味いです。不知火さんの顔が見れません。顔熱いし、胸が痛い。私、どうしたんでしょう)

 

なんとこれが前世を含めて初恋の星野クリスタル。あまりにも初心で何を言うべきかも分からずにいると…

 

「ねぇ、クリス君」

 

「は、はい」

 

「緊張してる?」

 

「それは…!は、はい…緊張、してます」

 

「意外、緊張なんて知らないってくらいに何時も余裕そうなのに。何で?」

 

「……わか、りません…ただ…」

 

「ただ?」

 

クリスは顔を真っ赤にして、零すようにフリルに告げる。

 

「不知火さんの事を、考えると…胸が、痛くて、顔、熱くて…考えも、纏まりませんし…こんなの、初めてで…」

 

「……ちょっとごめん」

 

「へ、ひぁっ!?」

 

フリルは突然クリスを正面から抱きしめ、胸に耳を当てる。クリスは突然の事に頭がショートし、フリーズしていた。

 

「ホントだ、心臓の音、凄く速いし大きい……まるで初めて隣に座った時の私みたい…」

 

「あ、あの、不知火さん、そろそろ離していただけると…」

 

「…クリス君は私とこうしてるの、嫌?」

 

「嫌…では、無い…のです、が…」

 

「……ねぇ、クリス君。私、クリス君の事好きだよ」

 

「っ!!」

 

先に告白した組とは違い、まさかのフリルから告白するという展開。クリスは抱きつかれたまま上目遣いで告白してきたフリルに頭が真っ白になる。

 

「本当に好きなの。誰にも渡したくない…きっと…ううん、絶対に誰よりも君と幸せになれると思ってる。だから、私と付き合って」

 

「────えっと…私、こんなの本当に初めて、で…恋とか、全く分かりませんけど…けど…不知火さんからそう、言われて…凄く、嬉しいです」

 

それは、今までのクリスらしからぬ、つぎはぎの様に紡がれた言葉だった。

 

「私、不知火さんが求めてくれるなら…ずっと一緒に、いたいです。ですから、その…よろしく、お願いします…」

 

「───ありがとう」

 

「え、んむっ!?」

 

クリスがOKを出した瞬間、フリルはクリスの顔を両手で捕まえて近づけると唇を合わせる。

 

 

作戦終了、目標達成。

 

星野クリスタルと不知火フリルは、こうして結ばれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からガチ恋始めます。全収録終了です!」

 

『お疲れ様でした〜!!』

 

今ガチは終了し、関係者達は打ち上げに来ていた。出演者組が集まって番組について話す。

 

「いや、思い返すと一瞬だったわ」

 

「色々あったけど、本当に楽しかった」

 

「あかねがそう言ってくれるなら文句ねぇな!」

 

先ずは全員が番組を楽しんで終えられた事に皆喜んでいた。するとユキやMEMちょが気になっていた事を聞き出す。

 

「で…」

 

「早速聞いていいかな…?」

 

二人は先ずあかねとアクアをターゲットにする。

 

「最後のキス!本当に付き合うの!?」

 

「どうなるの!?」

 

「………分かんない… 番組の流れ的にあれは受ける流れだったけど…仕事もあるのに恋愛なんて…」

 

「いやいや芸能人とはいえ高校生にもなったら彼氏の一人や二人当然でしょ!」

 

「そうだよ、あかね」

 

「!不知火さん…」

 

「私はもうガチでいくから。ね、クリス」

 

「恥ずかしいぃ…」

 

「「きゃー!!」」

 

付き合う事に消極的なあかねに対してもう一組のカップルであるクリフリはフリルの方はガチの交際をする気満々で、クリスもそれをOKしている。

 

「ていうか、クリスはキャラ変わりすぎだろ」

 

「そんな事言いますがね兄上!私ホントに初恋なんです!恋がこんなものだったなんて知らなかったんです!というか兄上は何故そんな余裕そうなんですか!?」

 

「お前が余裕無さすぎるだけだ。ホントにコイツクリスか…?」

 

「けど、正直告白のところはクリス君の方が乙女みたいだったよね」

 

「ホントに可愛かった。あんな顔見せられたら絶対幸せにしなきゃってなるよね」

 

「逆にフリルはマジで堕としに来てたね…見てるこっちもドキドキしたよ〜…」

 

「まぁ私はドキドキしてなかったから、ドキドキしてたのクリス君だけだね」

 

「フリルさん!これ以上私を辱めないでください!」

 

その後はユキが意外と身持ちが固かったり、実は番組では振ったノブユキと付き合っていた事に驚いたり、悪い大人ことDから交際に関するアドバイスを貰ったり、その隙にアクアが鏑木Pと話したり、その後にあかねと交際について話したりと、それぞれ打ち上げを楽しんだのだった。そして打ち上げが終了し、帰ろうとすると…

 

「じゃあ帰ろっか、クリス」

 

「え、あの…私、兄上と一緒に…」

 

「店員さん、クリス一人、テイクアウトで」

 

「非売品だ馬鹿」

 

フリルがクリスをお持ち帰りしようとしたが、アクアに阻止され、アクアとクリス、MEMちょ以外のメンバーとは別れたのであった…

 

「MEMはタクシーじゃないのか?」

 

「うん、歩いて帰れる距離だから」

 

「そういや割と近所だったな」

 

「業界の人が住んでるところって大体この辺だしね」

 

MEMちょは別れたメンバーの方が歩いて行った方をジッと眺めている。

 

「MEMちょさん?」

 

「…寂しいな…私、この現場めっちゃ好きだった」

 

「…そっか」

 

「……私も、凄く実りの多い日々だったと、思っています」

 

「けど、二人はそんなに寂しく無いかな〜?あかねとフリルの彼氏だもんねぇ」

 

「やめてください恥ずかしいです」

 

「俺はあくまで仕事上の関係だ」

 

そんな会話をしながら三人も歩き始める。

 

「まぁ最初はそれでもいいんじゃない?いずれ本気になっちゃうかもしれないし」

 

「ならねーよ」

 

「とか言ってアイの演技してるあかねに赤くなってたくせに~。それに、クリス君を見て本当に無いって言えるの?」

 

「……」

 

「私ってそんなに付き合う気配無かったですか」

 

「そりゃそうでしょ!マジで一番意外だよ!」

 

「それは同意…ていうか詳しいよな。B小町は世代じゃないだろ」

 

「いやいやB小町はみんなの憧れだから!」

 

MEMちょはそう言って少し歩いたところで足を止め、月を見上げる。

 

「ここだけの話だよ?私…元々はアイドル志望だったんだぁ」

 

「なんと」

 

「でも色々あって挫折しちゃって。今は元気にユーチューバーやってますけど!」

 

「ふぅん」

 

MEMちょからのカミングアウトを受けて、アクアとクリスは顔を見合わせる。

 

「じゃあウチ来たら?」

 

「…え?」

 

「新生B小町は現在メンバー募集中ですよ、MEMちょさん」

 

「B小町に、私が?あはは、そんな冗談…」

 

MEMちょが二人の顔を見ると、二人とも真剣な表情をしていて、MEMちょは冗談で言っている訳では無い事を悟る。そして…今、眠り続けていた熱意が再び目覚めていくのを、MEMちょは感じ始めていた。

 

 

 

恋愛リアリティショー編 完

 

 

 

 

 

 




次はファーストライブ編ですか…クリス君の出番ある?
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