東京ブレイドの舞台稽古三日目。稽古場でのグループが幾つか出来てきた頃、クリスは情撰の役作りにかなり苦戦していた。
「フリル、あんたクリスと話さなくて良いの?」
「ん、話したいけど、クリス最近ずっと台本とか漫画の情撰が出て来る場面をずっと読んでるから、邪魔しない方がいいかなって」
「あー…まぁあいつ初の舞台演技で五重人格なんて激ムズ役やらされてるから、そりゃ余裕無いわよねぇ…」
「俺五重人格とか絶対無理…ごちゃごちゃになる自信しか無い…姫川さんはどっすか?」
「出来なくは無いがめんどくさい」
主演グループがそんな会話をしながら台本を読み続けているクリスを眺める。
クリスが情撰を演じる上で苦戦する要因は大きく分けて二つある。一つは五つの人格全てがクリスの性格とは全く違うこと、そしてもう一つが…
(一つ一つの人格の描写が少な過ぎる…)
五つに分けられたが故に圧倒的に不足している人格一つ一つの情報だった。
(実質今回は五人の役を演じるようなもの…しかしその五人の情報量は合わせて一人分ほどしかない。故に不足している五人の人物像を私自身が補完する必要がある…落ち着いて整理しましょう…)
クリスは台本の隅々まで目を通し、情撰に関する情報を整理していく。
(先ずは基本的な感情。武器を持たない時の情撰は…無、ですね。感情が表に出ず、ただ人形のようにしている…コレはまだ演じやすい方でしょうね…)
次にクリスは他の四つの人格の部分に目を向ける。
(喜怒哀楽の人格はそれぞれが皆、情撰であると同時に…自身が使う刀剣の名を二つ目の名としている…
朝日…喜の感情が強く、刀を扱う武士道精神の持ち主…強者との対決を望み、特に盟刀の持ち主には強い執着を見せる。
真昼…楽の感情が強く、長巻を扱う好奇心旺盛な性格。自由奔放で度々味方にも予想外な動きをして困らせる事がある。
夕陽…哀の感情が強く、ロングソードを扱う騎士道精神の持ち主。喜怒哀楽の中で最も忠誠心があり、戦いを好まぬ性格から鞘姫と仲が良い。
日没…怒の感情が強く、ツヴァイヘンダーを扱う感情的な性格で、激しい怒りと静かな怒りの二面性を持つ。
こんなところでしょうか…原作の情撰の完成度を十とするなら…今の私は六と言ったところ…励んでいくとしましょう)
舞台 東京ブレイドについて語るスレ
46:名無しの東ブレファン
え、鞘姫役と刀鬼役の二人って付き合ってるの?
47:名無しの東ブレファン
情撰とか絶対やるのムズイやろなぁ…
48:名無しの東ブレファン
>>46せやで
49:名無しの東ブレファン
はっ…つまり刀鞘…って事!?
50:名無しの東ブレファン
>>49ほう、刀鞘派か…まだ生きていたとはな…
51:名無しの東ブレファン
>>49刀鞘派など、所詮先の時代の、敗北者じゃけぇ…!
52:名無しの東ブレファン
>>51取り消せよ、今の言葉…!
53:名無しの東ブレファン
けど実際、漫画はもう刀つるの流れなんすよね〜
54:名無しの東ブレファン
ほら、鞘姫には夕陽がいるだろ
55:名無しの東ブレファン
確かに、あの二人相性良いからな
56:名無しの東ブレファン
>>54 >>55いや、夕陽と鞘姫の関係はただの滅茶苦茶信頼してる主従だから、恋愛感情とか無いから
57:名無しの東ブレファン
情撰だけ交友関係複雑なのどうにかならんか?
58:名無しの東ブレファン
>>57無理です…
59:名無しの東ブレファン
戦場でも忙しければ人間関係も忙しい男、情撰
60:名無しの東ブレファン
敵だった時は有能で味方になってから更に有能になる男、情撰
61:名無しの東ブレファン
皆は情撰の人格どれが好きー?
62:名無しの東ブレファン
>>61なんやかんや一番頼れる兄貴分の朝日さんですよねぇ!!
63:名無しの東ブレファン
>>61死にかけの匁を見て真顔になって敵に切り掛かる真昼君にやられた
64:名無しの東ブレファン
>>61毎回サポートで活躍する夕陽君が渋くて好き
65:名無しの東ブレファン
>>61「王になるのはお前じゃねぇ、ブレイドだ」って敵大将に言い切ったシーンが一番好きなので日没さん
66:名無しの東ブレファン
結論、皆違って皆良い
67:名無しの東ブレファン
そういえば情撰役の星野クリスタルって藤春役であるあの不知火フリルの彼氏として有名やけど、演技上手いの?
68:名無しの東ブレファン
>>67聖騎士戦隊見て来い、最高だから
69:名無しの東ブレファン
天才武道少年であり、アクションシーンすら見事にこなすクリスタル君を情撰に持ってくるのは納得の采配。それに比べてキザミ役ときたら…
70:名無しの東ブレファン
>>69メルト君の悪口はやめろぉ!
71:名無しの東ブレファン
>>70だって今日あまの演技…
72:名無しの東ブレファン
確かにアレは酷かった…
73:名無しの東ブレファン
俺も速攻でリタイアしちゃったよ…
74:名無しの東ブレファン
大丈夫大丈夫、最終回は覚醒してたし、なんとかなるって
75:名無しの東ブレファン
>>74そうなん?
76:名無しの東ブレファン
確かに最終回は演技良かったな。アレから結構経ったし良くなってんじゃない?
77:名無しの東ブレファン
まぁ、そこは公演開始までのお楽しみって事やな
78:名無しの東ブレファン
>>76へぇ…あとで今日あまの最終回見よ
「やっほ、来ましたよっと」
本番まで後20日、その日の稽古場に脚本家のGOAが来ていた。
「おうGOA、調子はどうだ?」
「別件の脚本のスケジュールがガタガタでさ、朝までに修正寄越せとか言われて大変だったよ。眠い眠い」
「お気の毒に」
金田一の隣に座っていると、アクアとあかねが座って二人に近付いて何か訊いているのをクリスは目に捉えた。どうやらあかねの演じる鞘姫が原作と性格が違うことに関して質問しているようだ。
(……分かりやすく見せる為に、構造をシンプルにする…か…元々情撰は朝日と真昼が戦に乗り気だった為逆に今の構造はやりやすいのですが…)
GOAと金田一説明を受け、あかねは渋々納得した様子を見せると…
「はーいお疲れー!今日はスペシャルゲストがお越しでーす!」
そう言いながら雷田が入って来ると、その後ろから人が3人現れる。
「『東京ブレイド』作者のアビ子先生!……と、付き添いの吉祥寺と申します」
入ってきたのは東京ブレイドの原作者である鮫島アビ子と、その担当編集者。そしてアクアとかな、メルトが出演した『今日あま』の吉祥寺先生だった。
「吉祥寺先生、お久しぶりです!」
「有馬さん、『今日あま』の打ち上げ以来ですね…!アクアさんもまたお会いできて嬉しいです!」
「光栄です」
「先生、おひさっす」
「あ、ども…」
かなとアクアには明るく接していたが、メルトにだけはどこか距離を感じる対応をする吉祥寺。
「分かっちゃいるやや塩対応だな…」
「そりゃお前『今日あま』で滅茶苦茶してたしな。原作者からしてみれば親の仇だろ」
「………まぁな」
メルトが少し落ち込んでいると、あかねがアビ子に近づく。
「先生、初めまして」
「……っ!」
あかねが挨拶をすると、アビ子はサッと吉祥寺の後ろに隠れてしまった。
「ほら先生、ちゃんと挨拶して」
「無理……イケメンと美少女は目を合わせただけでテンパる…」
「まぁ、分かるけど…」
「…ん?」
クリスは隠れているアビ子を見て何かを感じ取る。
「クリス、どうかした?」
「いえ…アビ子先生…どこかで見た事があるような…」
しかしクリスはアビ子をどこで見たのかを思い出せず、やがて稽古が再開される。
「まぁ、ゆっくり見学なさってください」
「ありがとうございます」
雷田の言葉で椅子に座り、稽古を見学する二人。アビ子は稽古をしている役者達を見て目を輝かせる。
「どうですか、先生」
「………皆、演技上手…良い舞台に出来ると思う」
「そりゃララライは一流の役者しかいませんから!」
「皆きっと…沢山練習してくれてるんですよね…」
「先生、舞台の時は練習じゃなくて稽古って言った方がいいですよ」
「そうなんですか?すみません、私何も知らなくて……凄いな、私には出来ない…」
(…良かった、アビ子先生も気に入ってくれてるみたい…)
付き添いで来た吉祥寺はアビ子の様子を見てホッとする。
(これならきっと上手く…)
「だからこそ、あれですよね…私が言わなきゃですよね…」
隣に座るアビ子からそんな呟きが聞こえた瞬間、先ほどまで感じていた安心感が消え去り、悪寒を感じる。
「あの、脚本って今からでも直してもらえますか?」
「んんっ!?…勿論ですが、どの辺を……」
「どの辺って言うか、その…全部?」
「巫山戯るなよ、貴様…!」
アビ子の近くにいた全員が絶句した瞬間、クリスの放った台詞が偶然にも、アビ子の発言に対して咄嗟に出た反応の様にも思えた。
結局、今までやって来た脚本は白紙になり、稽古は一旦休止となった。アビ子が自分で脚本を書くと言い出し、でなければ許諾を取り下げるというとんでもない脅しを仕掛けてきたのである。
「GOAさんの脚本は非常に完成度は高いと思うのですが…」
「そうだね、私もこの脚本なら良い舞台になると思っていたけど…」
「まぁ、アビ子先生のこだわりも分からなくはありません。ですが、もっとやり様はあったと思います」
「例えば?」
「何時も私がやっている事です。こういう問題は結局、相互理解が解決の糸口になるのですよ」
クリスはそう言いながら没になった脚本を悲しそうに読み、フリルはその姿をジッと見つめる。
「それに…分かるのです…きっとGOAさんは、本当に東京ブレイドが好きなんだと」
「クリス…」
「私、GOAさんの為にも、きちんと情撰を演じ切りたいと思っています。ですが…未だに中途半端でして…」
「…確かに、まだ役に入りきれてないね…中途半端な没入型って感じ」
「でしょう?どれだけ演じようとしても…星野クリスタル感が残ってしまう…このままではいけません。ですが…この没になった脚本も、本誌も全て読み尽くしてしまいました。お手上げです」
クリスは脚本を閉じてフリルの方を見る。
「完成度はここまでやって七…あとは私自身が変わる必要がある。フリルさん…私には何が、足りないのでしょうか?」
「………そうだね…クリスに足りないのはきっと…
「と、言いますと?」
「クリスは常に誰かの為って事を考えすぎ。真昼とか思い出してよ、ずっと自分の欲求優先で行動してるでしょ?そういうのがクリスには足りないと思う」
「なるほど…自分の欲求を優先する…」
「クリスは、やりたい事ってある?」
「……やりたい事…私は、誰かの役に立てれば、それで…」
「それは無しで…誰の為にもならない、クリスの為だけにやりたい事、無いの?」
「………」
「無いよね、分かるよ。クリスはそういう人だから…けれど、きっとソレがなきゃ、クリスが納得出来る情撰は演じる事が出来ない」
クリスはその言葉を聞いて黙り込んでしまい、フリルがそれを見守っていると…
「クリス、ちょっといいか?」
「兄上、どうかしましたか?」
「あかねと舞台見に行く事になったんだけど、クリスもどうだ?お前も舞台見た事無いだろ?」
「…ああ…いえ、私はまた別の日に致します」
「そうか」
(黒川さんが兄上の後ろで少し不機嫌そうにしているので、ここは邪魔しないでおきましょう…あ、笑顔で親指上げてくれてます)
クリスが空気を読んでアクアの誘いを断ると、あかねはアクアと二人きりで出かけられる事を喜んでいた。
(……誰の為にもならない、自分の為だけに…あ)
するとクリスは何かを思い出したのか、スマホで何かを調べる。
「クリス?」
「……兄上、フリルさん、あかねさん。私はもう帰ります。準備をしなければ」
「準備って…?」
「情撰の役作りの為に、行きたい場所が出来ました。時間は出来ましたが、遠出になるので行動は早めにしないと…」
「遠出って…何処に行くつもりなんだ?」
「ええ少し……京都に参ろうかと」
何故役作りの為に京都に行くのか…と、その場に居た三人は同じ事を思った。
「お邪魔しまーす!」
クリスが京都に行き、アクアがステージアラウンドでの演劇を見た数日後、アクア、かな、メルト、あかねの四人は吉祥寺の自宅を訪ねていた。
「わー!皆いらっしゃーい!」
理由としては、アクアが見たステアラの演劇の脚本が東ブレの脚本を降ろされそうになっているGOAの脚本だったので、感動代に助け船を出す為である。
「あれ?クリスさんはいないの?てっきり来るかと思ったのに…」
「クリスは役作りの為に京都に行きました」
「何で?」
「分かりますよ吉祥寺先生。私もアクアから話を聞いた時はぁ?って思いましたから」
そんな会話をしながらお菓子やジュース、吉祥寺は酒を飲みながら本題に入っていく。本題とは、アビ子の師匠である吉祥寺にアビ子の説得をしてもらう事だった。
「アビ子先生はやっぱり来れない感じですか?」
「まぁ向こうは週刊だからねー…こないだの見学も原稿の合間を縫って無理矢理来た位で…基本的に週刊連載って人間のやる仕事じゃないから!脳を週刊用にチューンナップされた兵士のやる仕事だから!」
「こわ…」
「デートしてる時でもネームの事考えちゃう人しか務まらないのよ」
「えー、やだー…」
「アビ子先生は今、特に忙しいでしょうね〜。アニメ化やらなんやらで描かなきゃいけないカラーイラストの仕事だとか監修物とかが山のようにあるでしょうし」
吉祥寺は今のアビ子がどれだけ忙しいかや、自分とアビ子の付き合い、彼女がどのような人間かを語った。
「今、脚本家の人が降ろされそうになっているんです…先生からアビ子先生を説得する事は出来ませんか?」
あかねからそう言われて吉祥寺は少し考えると…
「ごめんね」
優しい表情で、そう言った。
「原作をいじられる事に不満を持つアビ子先生の気持ち、とても良く分かるから。私は人の仕事にケチつけるの得意じゃなくて、メディアミックスは割と全部お任せしちゃう主義の人だけど…本心はアビ子先生と同じ。出来る事なら
「…分かりました、でも一つだけ」
アクアはそう言って懐から封筒を一つ取り出す。
「これをアビ子先生に渡して貰えませんか?」
「…出ない…はぁ…仕方ない、行くか」
「アビ子先生、お邪魔するわよ〜」
吉祥寺はアクアから頼まれた物をアビ子に渡す為に彼女の自宅に来ていた。アビ子は仕事中でペンを走らせている。
「原稿中なのでこちらからすみません」
「あれ?そっちの締め切りって昨日じゃなかった?………オーバーしてるの?」
「はい。ごめんなさい汚い部屋で…」
「汚いってレベルじゃないでしょ…こんなんでアシスタント呼べるの?」
「今アシスタントいないんで」
「えっ…」
アビ子の発言に吉祥寺は固まる。それもその筈。週刊連載している漫画家にアシスタントがいないなど普通はあり得ない。
「何度言っても絵柄合わせてくれないし、背景で感情表現、全然出来てないし、修正繰り返すより自分で描いた方が早いからクビにしました」
「…今一人で描いてるの?いつから?」
「先月……いや、163話の時だから2ヶ月前からですね」
「寝てるの?」
「一応毎日、二時間は寝てるので、まぁなんとか…今日はデッドなので寝てないですけど…」
「それ死ぬわよ、もっとリアルに言うなら鬱病リタイアコース。二度と元のペースで描けなくなるわよ?」
人間が、いや生物がしてはいけない様な生活をしているアビ子に対して吉祥寺がそう言う。
「いやもう死にたいですね〜…来週カラーもあるし、単行本作業の書き下ろしも描かなくちゃですし…」
「舞台の脚本は?」
「あーそれもありましたね。この原稿終わったらやらなきゃ…」
「…手伝うわ。適当に背景埋めるからね」
「いや良いです、座っててください」
「言ってる場合じゃないでしょ」
吉祥寺もアビ子の原稿を手伝い始めたその時…
ガチャリ…
と、扉が開く音がした。二人は身体をビクッ!とさせる。
「…アビ子先生、誰かが玄関の鍵開けたわよ」
「え、嘘嘘嘘嘘…やばっ…!?」
するとアビ子は明らかに動揺し始め、スマホの画面を確認すると更に焦り始める。すると…
「アビ子さん、入りますよ」
「だ、ダメっ!」
アビ子の制止も虚しく、仕事場のドアが開き…
「失礼しま…うわ汚っ…はぁ…」
青年が入って来て、部屋の惨状とアビ子を見てため息を吐く。そして吉祥寺の方を見る。
「人を呼ぶなら部屋を綺麗にしてください。私言いましたよね?家の事なら呼んでくれればやりますって」
「ご、ごめん…」
「…取り敢えず掃除しますね、まだ原稿中なんでしょう?そっちに専念してください」
「は、はい…」
青年の言葉でアビ子は再び原稿に戻り、青年は吉祥寺の方を向く。
「すみませんお見苦しいところを…」
「あ、いえ…」
「吉祥寺頼子先生、ですよね。アビ子さんからお話しは伺っております。今後ともアビ子さんをよろしくお願いいたします」
「あ、いえいえこちらこそ…えっと…あなたは…?」
「申し遅れました。私、
「あ、はい…えっと…それで…カナギさんは、アビ子先生とどの様な関係で…?」
「!せ、先生、カナギ君は「はい、お恐れながら私、アビ子先生とお付き合いさせて頂いております」ああっ…!」
「ああなるほどお付き合い…………ええっ!?あ、アビ子先生と、お付き合い…!?」
「はい」
淡々と答えるカナギと、それに頭を抱えるアビ子に唖然とする吉祥寺。すると吉祥寺はある事に気付く。
(いやいや、アビ子先生が週刊連載しながらお付き合いしてた事も驚きだし、なんか凄い負けた感じするけど、それより…)
吉祥寺はカナギの姿をじっと見る。
(……
「あの、どうかされましたか?」
「あ、ごめんなさい…えっと…カナギさんって、今幾つですか…?」
「?自分は今15です。次の春から高校生ですね」
「………は?」
吉祥寺はアビ子の方を見ると、アビ子は椅子の上で頭を抱えていた。鮫島アビ子、現在の年齢は22。なんとカナギとは7歳差である。
「アビ子先生、あなた、中学生に手を…!?」
「ち、違います!こ、これには訳が…!」
「あ、掃除始めますね」
「待ってカナギ君!一旦お話ししよう!このままだと先生がとんでもない勘違いをしちゃう!」
「知りません」
「何か冷たくない!?ご、ごめんライン気付かなくて!」
「それはいいです。しょっちゅうなので」
「じゃあ何で!?」
カナギはアビ子をジッと見ると深いため息を吐く。
「約4ヶ月…私が待った時間です」
「え?」
「約束、忘れたんですか?」
「………あ゛」
吉祥寺が何だ何だと二人の顔を交互に見ると、アビ子が「ちょ、ちょっと待ってて!」と言って仕事部屋を出て行き、直ぐに戻って来ると、その腕には花束が抱えられていた。
「け、剣道の大会優勝おめでとう…!」
「…ありがとうございます、贈り物まであったのは予想外でした…じゃあ、大会優勝したら褒めてくれる約束を四ヶ月も遅らせたのはこの花束に免じて許します」
「よ、良かったぁ…」
ホッとするアビ子と花束を受け取って少し嬉しそうにしているカナギ。二人のやり取りを見て吉祥寺は思った。
(完全に蚊帳の外だわ、私)
「あ、思い出しました。主将…ああいや、今は元主将でしたね…そう言えば彼のスマホの待ち受けにツーショットで写ってましたね、アビ子先生」
一方クリスは京都で思い出してそう呟いていた。
祝、主将君の名前が判明。もう今回は最後らへんのやり取り書ければ満足でしたわ。