災いの子   作:猪のような

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うへ〜、アニメが終わってモチベがダダ下がりしていたけど、なんとか戻って来たよ〜。遅れてごめんね〜。


第十六話 対話

 

 

 

 

「大きくなったら、アビ子姉さんと結婚する」

 

これが、鮫島アビ子と陸亀カナギが付き合うキッカケだった…

 

「まだ小学校2年の時ですね、中学生だったアビ子さんにそう言ったんです」

 

カナギは部屋を片付けながらそう語り出す。アビ子とのアレやこれやを話し出す。

 

 

 

 

 

 

二人の最初の出会いは、なんて事はない、ただのご近所付き合いから始まったものだった。カナギは当時年相応の元気溌剌な子供で、活発的だったが、その時から既に人付き合いが苦手なアビ子はそんなカナギに苦手意識を持っていた。カナギも、何度か接する内に子供ながらも、アビ子に対して遠慮するようになっていた。

 

しかし、そんな二人の関係が変わったのは、カナギが絵を描くアビ子を目撃した時だった。

 

「衝撃を受けました、アレが所謂…ギャップ萌え、ですね」

 

「そんな例えしないで…」

 

「いつも不安気で、親の背に隠れ、人に怯えていたアビ子さんとは違う、妥協せず、真っ直ぐ真剣にペンを握り、絵を描くその姿に、私は感動したんです」

 

カナギは、アビ子が絵を描く様子を見るのが好きになった。最初はアビ子も困惑していたが、そんな日々が続き、カナギがアビ子の絵を褒めれば喜び、やがてアビ子からカナギに会いに行く事も増え、二人は仲を深めていった。

 

「そんなある日、母さんに言われたんです。カナギはアビ子ちゃんに恋してるの?と……そこで自覚しました…私はアビ子さんに恋をしていると、そして最初の宣言に繋がる訳です」

 

「おかしいわね、子供のそういう宣言ってもっと軽いものじゃない?既に内容が濃いんだけど」

 

「そして自分を磨く為に剣道を始め、そして小学六年生の時にこう言いました…大会に優勝したら正式に付き合ってくださいと」

 

「それ高校生がやるやつじゃない?」

 

「そうして私は無事優勝し、アビ子さんと付き合うに至った訳です」

 

「……待って、アビ子先生はそれを受け入れたの?」

 

「そ、そんな訳無いじゃないですか!最初は普通に断ろうとしましたよ!けど、両親が…!」

 

『正直高校生の時点でコレじゃカナギ君以上に良い男は見つからないと思うから付き合いな』

 

「とか言うから…!カナギ君のご両親にもめっちゃ押されて…!」

 

「な、なるほど………というか待って?つまり私のアシスタントやってた時には既に彼氏持ちだったって事?」

 

「は、はい…」

 

「とんだ裏切り者じゃない!はーっ知ってれば根掘り葉掘り聞き出して漫画のネタに使ってたのに!!」

 

「や、やめてくださいよそんな事!?」

 

「…そう言えば、吉祥寺先生は何故こちらに?アビ子先生の手伝いに来てくださったのでしょうか?」

 

「あー…いや、手伝うのは次いでみたいな感じでね〜…アビ子先生とちょっと話をね……」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞台の脚本を自分で書く?週刊連載してる身で?しかもアシスタントも雇わずに?」

 

「いや、その…」

 

「手を止めない」

 

「ハイ」

 

座って作業しているアビ子に背中から仁王立ちで圧を掛けるカナギは、ため息を吐いて頭を抱えた。

 

「よりによって先輩が出てる舞台で…!」

 

「え、せ、先輩…?」

 

「星野クリスタル…私の先輩です。大恩人です」

 

「ええ、あの子が!?あの背が高くてめっちゃイケメンな子!?」

 

「そうです…はぁ…舞台の脚本に納得出来ず、ですか…まぁ、アビ子先生、脚本家の方とちゃんと話し合ったんですか?」

 

「な、何回も修正はお願いしたよ!けど、全然思ってたのと違うし…アレじゃ納得出来ない!」

 

「そうではなく、ちゃんと、直接、面と向かって、脚本について話し合ったのか。と聞いたんです」

 

「……それは…」

 

「文面や人伝の言葉では自分が本当に伝えたい事が伝わらない事はよくあります。脚本家の方の意思を尊重せずに、ただ自分の気持ちだけを押し通してはいけません」

 

「け、けど…」

 

アビ子はチラッと作業をしている吉祥寺の方を見る。それだけでカナギは理解した。

 

「今日あま。ですか、確かにドラマの出来はお世辞にも良いものとは言えませんが」

 

「ぐはっ…唐突な、流れ弾が…!」

 

「今日あまの二の舞は嫌だ、だからちゃんと自分の意思を前面に出して舞台を作りたい…そういう事ですか?」

 

「……うん」

 

「だったら尚更です。ちゃんと脚本家の方に話すんです。こういう舞台にしたいと」

 

「け、けどそれで分かってもらえなかったら…」

 

「その時はその時です。勿体無いじゃないですか。アビ子さんがこんなに真剣なのに、それを共有できる人がいないのは…分かってくれるかもしれませんし、理解されないかもしれない…けれど、アビ子さんがどれだけ本気なのかは、きっと分かってもらえますから…」

 

「カナギ君…」

 

「先輩はいつも私に話していました。相手を理解する事の重要性を…相手の事を許容するか、拒絶するか。判断するのは相手を知り尽くしてからすべきことだと。アビ子さん、脚本家の方の事は殆ど知らないでしょう?」

 

「………うん」

 

「きっと相手の方もそうです。だから話しましょう、どう転んでも、間違いなく舞台を良くするキッカケになります」

 

「カナギ君………」

 

長い沈黙が続く。カナギは言いたい事は言い切った、アビ子はペンを走らせながら考える。しかし、数分の時が経ってもアビ子は決心出来ずにいた。

 

「……分かりました、私からはもう何も言いません」

 

「…いいの?」

 

「そもそも私は部外者ですから。それに吉祥寺先生をあまり待たせる訳にも、いきませんからね…」

 

カナギはそう言うとアビ子を背中からギュッと抱きしめる。

 

「っ!」

 

(リアルあすなろ抱きっ!?)

 

吉祥寺が一旦手を止めて二人の方を横目で確認する、二人はそんな吉祥寺を気にせずに話し始めた。

 

「…その、作業出来ないから、離れてもらえると嬉しいかな…」

 

「アビ子さん…私、アビ子さんがアシスタントを雇っていないと知った時…問答無用で寝かせようと考えたんですよ」

 

「え、それは、困る…」

 

「そう言うと思って、必死に我慢したんです。分かりますか?()のこの気持ち…」

 

アビ子は自分を抱きしめる力が少し強くなったのを感じる。

 

「アビ子さん、俺はアビ子さんの邪魔はしません。アビ子さんのしたい事は全力で応援しますし、アビ子さんの為ならなんだってします、けれど、これだけは言わせてください…」

 

カナギはアビ子の耳元に口を寄せ、少し震えた声でこう言った。

 

「あまり心配させるな……アビ子に何かあったら、その時は……」

 

「分かってるから…大丈夫…」

 

アビ子は自身を抱きしめるカナギの腕にそっと手を添えてそう言う。

 

「…ならいい…」

 

そしてカナギはゆっくりとアビ子から離れた。

 

「片付け終わったから私はもう寝ます。吉祥寺先生、後はお願いしますね」

 

「────」

 

「……吉祥寺先生?」

 

(一体私は何を見せられているんだ?え、すっごいドキドキしたものこの二人がモデルの話を絶対描いてやる)

 

「?…とにかく、おやすみなさい」

 

「うん、おやすみ」

 

カナギはそう言って作業部屋から出て行った…

 

「ふぅ…」

 

アビ子の寝室に入ったカナギは、部屋にあるタンスの引き出しを開けると、自分の寝巻きを取り出し、着替えてからベッドに入る。

 

(アビ子さんの匂い…)

 

「──────!?」

 

「────!!」

 

アビ子の匂いに包まれながら目を閉じていると、やがて作業部屋の方から何やら言い争いをしている声が聞こえてくる。カナギはそれを聞きながらゆっくりと眠りについたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふふ…!」

 

数日後、カナギとアビ子はある2.5次元の舞台を一緒に見に来ていた。吉祥寺がアクアからチケットを渡すように頼まれたらしく、アビ子も脚本を書く上での参考になると思い、カナギもなんとかチケットを確保して見に来ていた。

 

「カナギ君、嬉しそうだね…?」

 

「それは勿論、今のアビ子の忙しさを考えれば、デートが出来る機会は凄く貴重です…!さ、行きましょう、アビ子さん!」

 

(テンション高いなぁ…そういえば二人だけで出かけるのいつ振りだろ…)

 

二人は手を繋いで一緒に劇場へと足を運んで行った……

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜〜ん…」

 

「雷田さん!大変です!!」

 

「ふぇ、何々!?」

 

その劇場の関係者の部屋で机に突っ伏し、魘されながら休んでいた雷田はスタッフの慌てた声に飛び起きる。

 

「帰りのお客さんの中に『東京ブレイド』のアビ子先生が…!」

 

「っ〜〜〜〜!今すぐ連れて来て!おもてなしおもてなし!」

 

そうして、その部屋にアビ子とカナギが招かれた。二人は座って雷田と対面する。

 

「いや……まさか先生にお越しいただけるとは…!言ってもらえればチケット用意しましたのに…えっと、そちらの方は…?」

 

「ああ、お気になさらずに、私はアビ子さんの付き添いですので」

 

「そ、そうですか…!そ、それで、うちの舞台はいかがでしたか…?」

 

雷田はハラハラしながらアビ子にそう訊く。

 

「今の舞台ってこういう感じなんですね、思ってたのと全然違いました。脚本を書く上でとても参考になりました」

 

「そっ……それは何よりで…いやぁ先生直々の脚本なんて楽しみだなぁ!原作者書き下ろしだったら現場の皆も喜んで…!」

 

アビ子にゴマを擦る雷田、しかし、ふとそこでアクアに言われたある言葉が頭を過ぎる。

 

『でも、どうにか出来るのは雷田さんだけですよ』

 

「……」

 

すると雷田は手を組んで両肘を机に着け、アビ子を見据えた。

 

「先生、腹割って話しませんか?」

 

「!」

 

「僕は今凄く弱い立場にいます。今後も出版社との良好な関係を続けなければ仕事が貰えないし、著作者人格権には同一性保持権ってのがあって、先生の許可無しに『東ブレ』の舞台をやる事は()()()()()()()

 

著作者人格権とは著作者が精神的に傷つかない為のルールであり、同一性保持権とはその中の一つ。簡単に言ってしまえば、アビ子の許可無しに東京ブレイドの改変などは許されないという事。

 

「同一性保持権を行使するのは先生が持つ当然の権利なんです。だからこそ頭に入れといてください。先生が書いた脚本はマジのマジでそのまま使う可能性があるという事を」

 

「それは…私的には全然構わないんですが」

 

「いいえ、ちゃんと考えてみてください。もし先生の書いた脚本がヤバくても役者の稽古期間を確保するためにそのまま通す可能性があります。仮に天才小説家がいたとして、そいつが初めて描いた漫画のネームが100点になりますか?」

 

「なるわけないです」

 

「舞台脚本だって同じです。いくら天才漫画家でもいきなり最高の舞台脚本は書けないんです!でも、先生が著作者人格権を振り翳すなら僕等はそのまま採用する可能性がある。()()()()()()()()()()()になるでしょうね」

 

「脅してるんですか?」

 

「お互い様ですからね…これくらいの駆け引きは何度もしてます!僕は100人以上の仕事を守らなきゃいけない…!こっちはジジイのチn」

 

瞬間、雷田は自分の首に刀が添えられている様な錯覚を覚えた。ギギギ…!と顔をアビ子から僅かにカナギの方へと向けると、彼は無表情で雷田をジッと見ていた、その視線はまるで深海の様に暗く、そして絶対零度の如く冷たさだった…。

 

「…と、とにかく、こっちはなんだってする覚悟で仕事をしているんです!」

 

雷田は必死に言葉を捻り出すと、カナギからの殺気は霧散し、雷田はホッとしながら続けた。

 

「この舞台、見てくれたんですよね?今回の脚本はGOAくんのものです!彼の仕事を、信じてくれませんか…?」

 

「………」

 

アビ子は雷田のその言葉に少し考え、そして吉祥寺とカナギの言葉を思い出した。

 

『歩み寄りなさい、メディアミックスは他人との共同制作。自分だけでは出来ない事の集合体なんだから』

 

『勿体無いじゃないですか。アビ子さんがこんなに真剣なのに、それを共有できる人がいないのは』

 

二人の言葉を思い返し、そしてアビ子は意を決した表情で、雷田の顔を見る。

 

「分かりました、私もプロの仕事を信じます」

 

「!」

 

「ただし、一つ条件が」

 

 

 

 

 

 

後日、アビ子が住む部屋のリビングで、アビ子とカナギは食事を摂っていた。

 

「ごめんね、無茶言って」

 

「いえ、ご飯くらい。頼まれればいつでも作りますよ」

 

「ありがとう…気合い入れたい時は、カナギ君の手料理って決めてるんだ」

 

「だったらもっと呼んでほしいものですね」

 

「あはは、ごめんなさい…あ、この唐揚げ美味しい…」

 

「……少し、ホッとしてますし、嬉しかったです」

 

「?」

 

カナギは少し微笑みながらそう言って、話し始める。

 

「アビ子さんが対話を選んだ事…私は部外者ですが、東京ブレイドの舞台を本当に楽しみにしています。アビ子さんが描いた物語の舞台を、星野先輩が演じる…私にとってきっと、一生忘れられない思い出になる……これ以上を望むのは少し贅沢かもしれませんけれど…」

 

カナギは天井を見上げ、本当に幸せそうにしながら、ゆっくり言葉を出した。

 

「今まで見たどの舞台…それこそ、先日の舞台をも超えるような、凄い舞台が見たい…大好きな二人が関わる舞台が、そうであって欲しいと、願わずにはいられなかった…」

 

「……カナギ君…」

 

「…すみません、今のは忘れてください。あ、そうだ、実はこの前…」

 

そこから二人は他愛のない雑談をしながら、夕飯を食べ終えた…

 

「もうすぐ時間ですね、家の事を済ませたら私は寝ます」

 

「うん、ありがとう」

 

皿を洗うカナギの背中をチラッと見ながら、アビ子は作業部屋の扉の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。そしてそこで一旦、カナギの方へ振り向いた。

 

()()()

 

アビ子のその声で、カナギも皿を洗う手を止めて、アビ子の方へ振り向いた。

 

「待っててね、絶対に、最高の舞台にするから」

 

「───うん、待ってる」

 

アビ子はカナギからの返事を聞くと、作業部屋に入って行った。そしてカナギは、再び皿を洗い始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、新しく脚本が出来たと出演者達に連絡が入り、演者達は稽古場に集合していた。

 

「ねぇ、アクア。まだクリス来ないの?」

 

「間に合うって連絡は入ってるし、まだ時間も余裕だろ。さっきからその質問何度目だよ…」

 

「だって…」

 

かなはある方向に顔を向ける。アクアもそれを追うように視線を動かすと、そこには体育座りで顔を膝に埋めているフリルの姿があった。明らかに雰囲気が暗く、あかねなどの他の女性役者が励ましている。

 

「…どうしたんだ、アレ」

 

「どうもこうもクリスの奴、京都に行ってる間にフリルと連絡取らなかったらしいのよ」

 

「…確かに、俺も昨日メール出して今朝返事が来てたくらいだからな…」

 

「ていうか、何でそもそも役者として成長する為に京都に行く必要があるのよ?」

 

「俺も知らん。まあ来てから聞いてみれば良いだろ」

 

すると稽古場の扉が開く音がする。クリス以外の役者は全員来ているので、雷田などで無ければ入ってくるのはクリス。フリルかバッと顔を上げ、他の皆も扉の方に注目すると…

 

「ひっさし振りーーー!!皆元気ーーー!?!」

 

 

『!?!!?!?』

 

入って来た時の大声量は勿論、皆はその言葉を放った人物に酷く驚いた。何故なら…

 

「いやー!!京都楽しかったー!あ、お土産持って来たよー!」

 

その言葉を放った人物は、何時も穏やかで礼儀正しく、クールだった星野クリスタルであったから。

 

「──く、クリス…?なのか…?」

 

アクアは混乱しながらも、クリスに問いかける。するとクリスは首を傾げる。

 

「もぉー何言ってんの兄上ー!ちょっと会わなかっただけでこの顔を忘れたの?ほら良く見て!ほらほら!」

 

クリスはたたたっとアクアに近寄り、顔を寄せる。

 

「この顔が一体兄上の弟…そう、この星野クリスタル以外の誰に見えるって言うのさ!」

 

「お、おう……ちょっとタンマ」

 

「?」

 

アクアは一旦クリスを止め、かなやあかね、メルトを集める。

 

「いや誰!?」

 

「く、クリス君…なんだよね!?」

 

「あ、あの顔は間違い無いだろ…!な、アクア…!」

 

「ちょっと今から霊媒師呼ぶか…」

 

「「「アクア(君)!?」」」

 

四人が混乱しながら話している横で、クリスは他の役者達にお土産の八つ橋を配っていた。

 

「ほら見なさいよ、不知火フリルのあの顔…!」

 

かなのその言葉に三人もフリルの方を見ると、立ち上がり、クリスの方を見て宇宙猫状態になってフリーズしていた。

 

「いやアレは仕方ないだろ。俺も一瞬ああなった」

 

「きょ、京都に行ったんだよな…?京都で一体何があったんだよ…」

 

するとクリスはフリルの方を見る。二人の視線が交わると、クリスの表情がパァっと明るくなり。

 

「フリル!会いたかった〜!!」

 

そう言って満面の笑みでフリルに突撃した。フリルはビクッとするも身体が動かない。あまりの情報量の多さに脳が完結せず、動けなかったのだ。

 

(──顔良、笑顔、可愛い、呼び捨て、最こあっ)

 

最後にフリルが感じたのは、ギュッと抱きしめられた全身から感じるクリスの温もりであった…

 

「ごめんね、連絡出来なくて!向こうでの修行に集中したくてさ、あ、けど事前に連絡は入れておくべきだったよね、ごめん!!」

 

「───」

 

「…フリル?も、もしかして怒ってる!?え、えっとお、お土産の八つ橋食べる!?美味しいんだよコレ!」

 

「───」

 

「……う、うぅ、本当にごめんねフリル…そうだよね、こんな僕の事、許してくれないよね…グスッ…」

 

「……なぁ、それ気絶してね?」

 

「えっ?」

 

姫川大輝の言葉を聞き、クリスがフリルの顔を見ると…

 

「…なんか凄い笑顔で気を失ってるんだけど…」

 

フリルは、とても満足そうな顔で気を失っていた…

 

「……なんか幸せそうだしいっか!!」

 

『えぇ……』

 

「えーこほん!という訳で改めまして!」

 

クリスはフリルを優しくゆっくり床に横にすると。バッと立ち上がって他の役者達を見渡す。

 

「情撰役こと、星野クリスタル!京都での修行を終え、役者として一皮剥けて参りましたので!皆、改めてよろしくねっ!キラっ☆」

 

左目でウィンクし、右目にピースサインをしながらクリスはそう言ったのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「あ、起きた」

 

「……有馬さん…」

 

「はい、これ、新しく上がって来た脚本よ」

 

目が覚めたフリルは有馬から新しい脚本を受け取る。

 

「…聞いて有馬さん、私とんでもない夢を見たの…」

 

「へぇ、どんな夢?」

 

「クリスがめっちゃ可愛い笑顔を向けながら私に向かって来て抱きしめてくれる夢」

 

「それ夢じゃないわよ」

 

「え?やっぱり?アレ現実だった?」

 

「そうよ…取り敢えず脚本読みなさい。とんでもないのが上がってきたから」

 

かなのその言葉でフリルは脚本を開き、目を通す。

 

「…なるほど、説明台詞を大幅に削って動くシーンを増やす…役者の演技に丸投げのキラーパス脚本か…面白くなってきたね」

 

「全くよ、無茶振りにも程があるっての…」

 

「情撰なんかは特に大変な筈…クリスは大丈夫?」

 

「…正直…

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……どういう事?」

 

「詳しくは実際にアイツの演技を確認する事ね」

 

かなはそう言ってフリルから離れて行った。そしてフリルは考える。

 

(……気絶する前、稽古場に現れたクリスの豹変振りに凄く驚いたけど、冷静になって考えれば直ぐに分かる…あの時のクリスは情撰の人格の一つ『真昼』になっていた…あの時それに気づけなかったのは…演技だと分かる筈なのに、演技だと全く思えなかった…まるで、元からそんな人物であると思わせる程の、自然さがあった、そう、まるで…)

 

「クリスの中にはそういう人格もある、みたいな……一体、クリスに京都で何があったの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都 某所にて

 

「…帰ってしまったのぅ……はぁ、不思議じゃ、別れた時から少ししか経っておらぬというのに、あやつが死んだ後の年月と同じ程の寂しさを感じる…」

 

その男は手に持つ酒瓶を傾け、ごくごくと酒を飲み込む。

 

「──ぷはぁっ!!しかし、生まれ直してなお我との再戦を望むとは…あやつにも愛い一面があったものじゃ!」

 

男はそう言うと部屋の壁に飾ってある()()()()を見てそれに近づき、手で優しくなぞる。

 

「──ああ、今でも鮮明に思い出せるぞ、お主がこの何の変哲も無いただの槍で、この我を貫いたあの日の事を…くっくっく…」

 

男は舌なめずりして部屋を出て縁側に出ると、快晴の空を見上げる。

 

「機会があれば、またこの龍の身を貫いてくれるか?のう、夜叉……いや、星野、栗栖樽…!!」

 

 

 




この回ただただカナギ君とアビ子先生がイチャイチャしていただけではないか?作者は訝しんだ…
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