「えっと……」
突然不知火フリルから握手を求められたクリス。少し困惑しながらも差し出された手を握った。
「ありがとうございます、もうこの手は一生洗いません」
「いや、洗ってくださいね……それにしても、貴女、どこかで見たような、確か………そう、不知火フリルさん。確か月曜の9時からのドラマに出てらっしゃる方でしたよね?」
「はぁっ、推しに認知されてる…!?やばい、幸せ過ぎる」
(大丈夫でしょうか、この人…)
先ほどからクリスに真顔で限界化している不知火フリル。クリスは初めて会った自分のファンという存在にどうすれば良いのか分からないでいた。
「えっと…ご存知のようですが、私、苺プロ所属の星野クリスタルと申します。よろしくお願い致します、不知火フリルさん」
「!こちらこそ、不知火フリルです。よろしくお願いします、星野クリスタルさん」
「えっと、それで…何故、私の事をご存知で?」
「……最初はニュースで偶然、弓道をしているところを見てうわっ、顔良いな〜って思いながら見てたんですけど、そこから戦隊モノに悪役で出演してるって知って…試しに見たらどハマりしました。あ、今年の剣道の大会優勝おめでとうございます。実際に試合見ましたけどホント最高でした。ていうかもしかして高校はここの芸能科受けたんですか、だとしたらこれからは武道ではなく芸能界をメインに活動するんでしょうか。もしかして次の仕事とかもう決めたりしてますか?もし決まって無くて予定が空いてるならちょっとお話しが」
「あ、兄上と姉上を待たせてはいけませんね!申し訳ありませんが不知火さん、私もう行かなくては!お互い受かったら次は入学式の日に会いましょう!」
「あっ…」
このままでは不味い、そう判断したクリスは縮地を駆使してその場から瞬時に去っていった。
天才子役こと、有馬かなと再会したアクアとルビー。しかし、かなはアクアが芸能科では無く一般科を受けた事に驚愕していた。
「ウチの弟と妹が芸能科受けて…弟はともかく妹が心配だから、ここ受けただけ」
「はぁっ!?」
「ウチの兄シスコンなのー」
「キモっ!!」
アクアのシスコンぶりにかなが引いていると…
「兄上、姉上、お待たせしました」
「あ、クリス」
「申し訳ありません、少し油を売っていました……おや、そちらの方は…」
「!」
合流したクリスがかなを見ると、かなはクリスの見下ろす姿に少し身体を震わせる。
「確かそう……重曹!炭酸水素ナトリウム、ですよね!もう覚えましたよ!」
「そうそう、重曹は炭酸水素ナトリウムって違うわよ!!」
「え、間違えましたか?」
「いやそうだけど私は重曹じゃないわよ!10秒で泣ける天才子役よ!」
「…ああ、そうでしたね!すみません貴女との記憶で一番印象に残っているのが重曹という単語でして…」
「何でよ!?」
ルビーにだけでは無くクリスにまで重曹で覚えられていた事に腹を立てているかなは、怒りながらもクリスを見上げて思う。
(ていうか、コイツデカすぎでしょ!TVでちょくちょく見かけるから分かってたけど、実際に目の前にいると存在感がまるで違う…!)
かなが高身長になっていたクリスにビックリしていると、アクアとルビーが密かに話している。
「私この人昔から好きじゃないのよね…」
「でも受かったら後輩になるんだぞ」
「聞こえてんぞ!」
「はー…仕方ないなぁ仲良くしましょうロリ先輩」
「いびるぞマジで!!」
ルビーがやれやれといった様子で対応する様子に更に憤慨し、怒りの表情を露わにするかな。
「じゃあ、俺監督のところ寄るから」
「あ、うん」
「!ちょっと!」
するとアクアが監督の所に向かう為その場を離れ、ルビーとクリスが軽く手を振って見送ると、かなは慌ててアクアを追い始めた。残された二人はその様子を眺め…
「…帰りましょうか」
「そうだね」
帰宅する事にしたのだった…
「えっ!?アクアドラマ出るの!?」
「おお」
試験から数日、なんと裏方志望であったアクアがドラマに出るという話をミヤコが言い出し、ルビーとクリスが驚いていた。
「何で言うんだよ」
「だってあなた自分からは言わないでしょ?所属タレントの広報活動は事務所の仕事よ」
「ママ言ってたもんね…私は将来アイドルで…アクアは将来役者さんかなって… あの言葉忘れてなかったんだね…」
ルビーが嬉しそうにそう言うのを見てアクアはアイの願いの為じゃないと心の中で否定していると…
「はい、兄上。素直じゃないのは禁止ですよ」
「…クリス」
ルビーとミヤコさんがアクアの出るドラマについて調べているのを横目にクリスはアクアに話しかける。
「分かっています、何か理由がある事くらいは…けれど、兄上が演技をしたいって思っている事も分かっています。何か目的があるとしても、演技の時はそれは忘れてください。良いですね?」
「…はぁ…分かってるよ…というかお前は忘れすぎじゃないか?」
「あはは、それを言われると耳が痛い限りです」
(母上は生きている。となれば父上はまた母上を殺しに来るかもしれない。対策はしてあると言ってもそれもいつまで続くか分からない…早急に父上を見つける必要がある)
「兄上、頑張ってくださいね」
二人がそう会話していると、アクアが出演するドラマである「今日は甘口で」に対してルビーがストレートに苦言を呈していた。どうやら役者の大根振りが酷いらしい。
「……色んな意味で」
「ああ、うん…」
「カット!!クリスタルさん、OKです!」
そしてその数日後、クリスタルは現在の唯一の仕事である戦隊モノの仕事をやっていた。
「相変わらずアクションシーンキレキレだねぇ」
「監督、ありがとうございます…最近出番増えて来ましたね」
「それだけシュラムの人気が高くなってきたんだよ。グッズ化も決まったし、多少脚本の変化はあるさ。そういえば聞いたけど、芸能科の高校に行くから仕事増やそうって思ってるってホント?」
「はい。中学の部活とかも引退しましたし、受験も終わりましたから。これからは増やしていこうかと」
「そっかそっか!じゃあそんなクリス君にちょっと仕事の話をしたいんだけど…」
「?何でしょう」
「ヒーローショーに出てみない?」
「…ヒーロー、ショー?」
「そう。遊園地でヒーローショーをやるんだけどさ、シュラムを出したいんだけど…ほら、シュラムは素顔を出してるから代役が出来ないでしょ?だからクリス君に直接出て欲しいんだ」
「なるほど…分かりました。引き受けます」
「やった、ありがとー!じゃあ後でまた」
こうして、クリスは遊園地でのヒーローショーに出演する事になったのだった…
「兄上、ドラマ見ましたよ。最終話だけですが…良い出来でしたね」
「ん、まぁな」
今日あまの最終話が放送され、ドラマを見たクリスがアクアにそう言う。アクアは何とも無いような表情だが、クリスは分かっていた。
「何やら満足そうですね、そんなに演技出来たのが嬉しかったのですか?」
「…お前家族の事なら何でも分かるのか?ま、有馬も思いっきり演技出来たし、満足っちゃ満足だよ…そういえばお前は遊園地のヒーローショーだっけ?頑張れよ」
「はい……そういえば、これから打ち上げですか?」
「ああ、今から出るとこ」
「楽しんでくださいね、父上に関する事も無かったのですから」
「分かってるよ。今日は忘れる…じゃあ行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
クリスはアクアを見送り、ヒーローショーでの動きを確認しようと部屋で流れを確認し始めた。
数時間後……
「恋愛リアリティショーに出る事になった」
「…?」
アクアの一言でクリスの表情が宇宙猫になってしまった…
何やかんやあったが迎えたヒーローショー当日。クリスは暗黒騎士シュラムの衣装である黒い腰布を靡かせた鎧に身を包み、禍々しい刀を腰に差していた。何時もと違う点があるとすれば、今日は口元にマイクがある程度である。
(兄上の色恋沙汰のアレな番組に出る事になった件については気になりますが…今は仕事に集中しなければ…私の役目は人質を取られ、ヒーロー達が苦しんでいる状況を舞台裏から現れ、人質を捕まえている雑兵共を切り裂く)
「ふはははは!!どうやらここまでのようだなシュヴァリエジャー!」
「くそ、人質とは卑怯な…!」
(そろそろか…)
「ど、どうしよう!このままじゃシュヴァリエジャーが負けちゃうよー!」
「シュヴァリエジャー!」
「頑張れー!」
子供達の声援が聞こえる中、クリスはゆっくりと歩き出し…
「よくも散々苦しめてくれたなシュヴァリエジャー、そろそろトドメを…!」
「おや、何やら楽しそうですね。ゼルドナ」
トドメを刺そうとしていた怪人にそう呼びかけながら舞台に現れる。
「あ、あなた様は…!幹部の一人…!」
「貴様は、暗黒騎士、シュラム…!?」
「シュラムだー!」
「カッコいいー!」
(いや、何で悪役なのに子供達は私を見て笑顔になるのでしょう)
「シュラム様ご覧ください!人質を取ったお陰でシュヴァリエジャーは最早虫の息ですぞ!」
「なるほど…」
クリスは舞台上の状況を確認すると腰に差した刀を握る。
(暗黒騎士シュラム…聖騎士戦隊シュヴァリエジャーに立ちはだかる強大な宿敵であり、ライバル…それは戦い方にも表れている。派手な動きや技が多い主人公達に対してシュラムは最小限の動きや技術で戦う…いわば動と静)
そしてクリスは刀を抜刀した。それは正しく神速の剣速。会場に居た全員がまるで時間をスキップしたような錯覚を覚えた。そして刀を振り抜いたクリスは、ゆっくりと、美しい動きで刀を鞘に戻す。観客も、役者もその動きから目を離せず、子供達ですら先程までの大声が嘘のように黙ってクリスを見ている。そして刀が完全に鞘に収まり、カチャリと音がした瞬間…
ドサドサ…
「なっ…!?」
人質を捕まえていた雑魚敵達が次々と倒れていく。当然これはただの演出。ただ刀を抜いて納めただけ……しかし、暗黒騎士シュラムが斬ったと思わせるほどの演技だった。
「しゅ、シュラム様、何を…!?」
「私は私の信念に則ったまで…何か問題が?」
「!皆、今のうちに子供達を!」
人質が解放され、主人公達が子供達を観客席に戻していく。
「くっ…!暗黒騎士シュラム、貴様、よくも…!」
「まだ気付いていないのですか?」
「な、何?」
「はぁ…私が、一番近くにいたあなたを斬らないとでも?」
「ま、まさ、か……」
ドサリ…
怪人の隊長格であったゼルドナもその一言を最後に倒れ伏した。クリスは刀を再び抜き、自身の前に立つ主人公達に向けて構える。
「シュラム、貴様、何故…」
「私は私の騎士道に則ったまで…あなた達との決着に人質など邪魔でしかない…では、始めましょうか」
そこからはシュラムと主人公達の戦いが始まる。剣と刀をぶつけ合う攻防戦。1対5にも関わらず主人公達と互角の戦いを繰り広げる。
「頑張れ、シュヴァリエジャー!」
「負けないで、シュラムー!」
互いの声援が観客席の方から響き、最終的に勝負は必殺技のぶつけ合いになる。しかしそれでも勝敗は決まらず…
「……これ以上は子供達を巻き込んでしまう。今日はここまでにいたしましょう」
「待て、シュラム!」
暗黒騎士シュラムはその場から引いていき、ヒーローショーは終わりを迎えた…
「クリスタル君、お疲れ様」
「ありがとうございます…ふぅ…さて、ここからですね」
クリスがそう言いながら舞台の方に目を向けると…
「シュラムを追う為に皆の力を貸してくれ!」
子供達に対してシュラムを遊園地内で見つけるように呼びかけるシュヴァリエジャーの姿があった。
(この後はヒーロー達と握手や一緒に写真を撮る時間…そして今回は暗黒騎士シュラムにもその仕事がある。そんなに人気なんですか、シュラムって…)
自分の役なんだからちょっとはエゴサしろお前は。
(ですが私はヒーロー達と敵対関係…同じ場にいるのは少し気まずい…ので、子供達に追跡という名目の下、遊園地で歩き回っている暗黒騎士シュラムの元に来てもらい、そこから握手や写真をこなしていく。私は背も高いから見つけやすい)
「では、行ってきます」
「行ってらっしゃい、クリスタル君!頑張ってね!」
こうして暗黒騎士シュラム事クリスは遊園地内を歩き回る事になったのだった…
「撮るよー!3、2、1」
パシャ、と音が響き。クリスは抱えていた女の子をそっと地面に下ろす。
「満足いただけたかな、レディ」
「はわ、お、お腹いっぱいでしゅ」
「それは良かった」
クリスが手の甲を取りそっと口付けすると女の子は顔を赤ながら母親の足元に戻って行き、手を振りながら別れを告げて離れていった。
「ふぅ…」
『現在、暗黒騎士シュラムは○○エリア───』
(幾ら私が見つけやすい容姿でも人一人を遊園地から見つけ出すのは運が悪ければかなり手間取る。だから園内アナウンスで私がいるエリアを定期的に子供達に向け発信している)
「お陰でかなりの頻度で見つかってますよ…!」
「あはは、思ったより大変だね…」
クリスと一緒に居るのは写真を撮る係であり現在中学生のクリスを一人にしまいと引率役でもある男性スタッフ一人だけである。
「そろそろ、お昼時ですね…」
「あ、何か買ってこようか。暗黒騎士が食べ物買いに行く図はちょっとシュールだし…」
「そうですね…では、お願い出来ますか?」
「うん、分かった。何にする?」
「スタッフさんと同じもので」
「OK、ちょっと待っててねー!」
男性スタッフはその場を離れ、昼食を買いに行った。クリスはその場でアトラクションの様子などを眺めていると…
「すみません、写真撮影良いですか?」
「!ああ、はい。分かりまし…た…」
クリスが声をかけて来た人物の方を見ると、その人物には見覚えがあった。
(し、不知火さん!?)
そう、クリスのファン事不知火フリルである。帽子を被り、伊達メガネとマスクをしているがクリスは即座に気付いた。
(お、落ち着きなさい私。今の私は暗黒騎士シュラム、星野クリスタルの部分を見せてはいけません…!)
「取り敢えず、自撮り棒があるのでツーショットを一枚」
「ええ、分かりました」
自動棒を使って写真を撮るフリルとクリスタル。
「じゃあ次はスタッフさんが戻って来るまでポーズを取ってもらってもいい?」
「え、あ、はい」
そこから本編でやったポーズやセリフなどを撮影され、クリスが流されるまま撮影会をしていると…
「お待たせーって、何か滅茶苦茶写真撮ってる…?」
「あ、スタッフさんすみません。写真撮ってもらえますか?」
「え、あ、分かりました」(あれ、ていうかこの子どこかで…)
「じゃあ先ずは肩に手を回してもらって一枚」
(し、不知火さん、とことんやるつもりでしょうか…!?)
「次は手の甲にキスを…」
「次はお姫様抱っこを…」
「次はハグを…」
「うん、満足」
「それは良かったです、レディ…」
「はぁ、私の推しカッコ良すぎ、ヒーローショー私が人質になれば良かった…」
「喜んで人質になるのは貴女くらいでしょうね…」
(凄く疲れた…20分くらい撮られ続けたでしょうか…)
「じゃあ、私行くね。頑張ってねシュラム」
「ありがとうございます…」
「あ、最後に握手良い?」
「ええ、喜んで…」
フリルとクリスは最初に出会った時の様に握手した。するとクリスが何かに気付く。
「じゃあバイバイ」
フリルはそう言って今度こそ去っていった…クリスはその後ろ姿を暫く見つめると、フリルと握手した手を見る。そこには紙が一枚握られていたのだった…
「ただいま帰りました」
「おかえり〜ヒーローショーどうだった〜?」
「何時もと大して変わりませんでしたよ、姉上。まぁ、シュラムの子供達からの人気には少し驚きましたが…」
「ふーん…あ、ご飯出来てるよ」
「分かりました。着替えてから食べますね」
クリスはそう言って一旦自室に入ると、スマホを取り出し、不知火フリルから握手の時に渡された紙に書いてある番号に電話を掛ける。
プル『もしもし、不知火です』
(早いですね…)「もしもし、星野ですが」
『はぁ、推しの声が耳元から…幸せ…』
「不知火さん…こういうのはあまり褒められた事ではありませんよ…」
予想通り、不知火フリルが電話に出てきて頭を抱えるクリス。
『ごめんなさい、溢れる感情からつい…反省はする』
「はい、是非そうしてください」
『けど後悔はしてない』
「強かな人ですね…」
『はうっ、推しから褒められた…』
(面白いですねこの人…)
一々限界化するフリルにクリスは苦笑しながら内心そう思う。
「……まぁ、取り敢えずああいうのは程々にしてくださいね。私や貴女の為にも」
『うん、分かった…電話は良い?』
「……夜なら良いですよ」
『やった』
「では私、ご飯食べますから今日はここまでです」
『分かった。じゃあね』
「はい。それではまた」
クリスは電話を切り、ふぅっとため息を吐くと着替え始めたのだった…
「ふふ…推しと写真撮って連絡先交換…最高過ぎる…」
そしてフリルは電話を終了すると今日撮ったクリスの写真を見返してニコニコしていた。ホーム画面も自分とクリスのツーショット写真にしている。
「はぁ、ホントにカッコいいな、クリスタル君…こんなの顔面国宝だよ…」
一通り見返し、ベッドの上で天井を見上げながらそう言う。フリルの部屋には壁一面にクリスの色んな写真があり。棚もシュラムのグッズの数々。更にはクリスタルの写真集というタイトルのファイルなどがあった。やべーなこの女。
「二人とも芸能科に受かっていたら、高校生活はずっと一緒…私、耐えられるかな…クリスタル君との高校生活……ッ〜〜〜!」
クリスとの高校生活を妄想し足をバタつかせるフリル。枕をギュッと握りしめ、妄想に浸る事数分……
「……クリスタル君と一緒に仕事したいなぁ…」
そんな事をフリルが願っていた頃…
「クリス、ちょっといいか?」
「ん、兄上、何でしょう?」
「スゥー…俺と一緒に、恋愛リアリティショーに出てくれ」
「……あー…何だか、このようなやり取りを過去にした事があったような…」
クリスは、とんでもない事に巻き込まれようとしていた…どうなるクリス!恋愛リアリティショーに出てしまったら
予想以上に不知火フリルがクリスタル君の厄介ファンになってて草ぁ。アンケートで決められたヒロインの姿か、これが?