有馬かなをアイドルに誘う話が出た翌日、ルビーは廊下でかなを観察していた。
「よく手入れされたツヤツヤの髪、あどけなさの抜けない童顔、天然おバカっぽいキャラクター… たしかに長年アイドルを追ってきた私の経験上ああいう子はこってりしたオタの人気をめちゃくちゃ稼ぐ!」
「視点も分析も何か嫌だなぁ」
「あはは…」
かながどれくらいアイドルに向いているのかを分析していたルビーを後ろからアクアとクリスが見守っていた。
「人気でそうならいいじゃん。誘うだけ誘ってみたら?」
「いやまぁ、そうなんだけど……ほら、私とロリ先輩はただならぬ因縁があるじゃない?」
「あったか?」
「だってあの人なんか私に対して感じ悪くない!?」
「お前が何度も重曹とか言うからじゃねーの?」
「それはクリスも一緒じゃん!」
「クリスは有馬の事別に苦手って思って無いからな… とにかく呼び出しておくから話だけでもしてみろよ。その上で仲良くできないと思うなら無しでいいし」
「うん…」
こうして放課後にかなを公園に呼び出し、アイドルに誘う事になったのだった…
放課後、アクアに大事な話があると呼び出され内心ドキドキしながら公園訪れたかな
「お待た…」
「待ってたわ、遅いじゃない!」
「は?永遠に待ってろ」
てっきりアクアだけかと思いきや、ルビーとクリスも居た事により胸の期待が一瞬で消え去ってしまった…
「何で二人もいるのよ」
「話があるのはルビーの方だからな」
「はぁ……気負って損した…」
かなはそう言うとベンチに座ってスマホを弄り始める。
「で…何?私も暇じゃないんだから20秒で済ませて」
「態度露骨ぅ…!お兄ちゃん!ここでアイドルやらないって誘ったら君はアイドル級に可愛いよって言うようなものじゃない!?すんごく癪なんだけど!」
「何のプライドなんだよ… 一刻も早く活動を始めたいんだろ?意地張ってる場合なのか?」
「……そうだよね、確かにそうだ…」
「姉上、頑張ってください」
アクアとクリスに促され、ルビーはかなの前に立つ。
「有馬かなさん、私とアイドルやりませんか?」
ルビーから突然真剣な顔でそう言われたかなは一瞬思考が停止してしまう。
「あ、アイドル?何よ、急に…」
「苺プロでアイドルユニット組む企画が動いてるの。そのメンバーを探してて… 有馬さんフリーって聞いたから…まぁ有り体に言うとスカウト?」
「……これ、マジな話?」
「大事でマジな話」
「……ちょっと考える時間頂戴」
かなはそう言って黙って考え始めた。
「兄上はいけると思いますか?」
「ま、普通は無理だろ。若手役者っていう安定した立場から不安定なアイドルになるっていうのは。有馬ならそこら辺もちゃんと分かってるだろうし」
「なら、無理だと?」
「いや…方法はある」
少し離れた場所から見守っていたアクアはかなに近付いていく。
「…悪いけど「頼む、有馬かな。妹とアイドルやってくれ」っ!」
アクアはかなの前で膝を着いてそう頼み込む。
「あ…でも私、そこまで可愛く「いや可愛いだろ」んぐっ!?」
「俺も酔狂でアイドルやってくれなんて言わない。有馬は、そこらのアイドルよりずっと可愛い。有馬になら、大事な妹を預けられると思っている」
「えっ、でも…」
「頼む、アイドルやってくれ」
「む、無理!」
「頼む」
「やらないって!」
「有馬の事、信頼して頼んでいるんだ」
「もう!何度も言われても無理なものは無理!絶対やらないから!!」
「苺プロへようこそ、歓迎します」
あれだけ無理と言っていた有馬かなであったが、まるで即堕ち二コマのように数時間後には壱プロの契約書に判子を捺していた…
「頭ではダメって分かってるのに!何で私はいつもこう…!」
「一緒に頑張ろね、せんぱーい」
「有馬さん、これからは同じ事務所の芸能人同士頑張りましょうね」
かなが頭を抱える中ルビーとクリスは歓迎の言葉を投げかける。
「まさか本当に引っ張ってくるなんて…どんな手を使ったの?」
「別に、ただの人読み…有馬かなは共感力が強くて押しに弱い。性格上、泣き落としやゴリ押しが有効かなと思って試したら、案の定だっただけ」
「アンタねぇ…そういう事ばかりしてると、その内酷い目見るわよ。夜道には気をつけなさい」
ミヤコが呆れながらアクアに忠告するが、アクアは悪いとは思っていないようだ。
「ま、元天才子役っていう今や何の意味も無い肩書きが、元天才子役のアイドルに変わっただけ…どのみち何かしらのカンフル剤は必要だったし…」
「自分を納得させるのに必死だねー」
「それに、アイツと同じ事務所になれば一緒に仕事する機会も増えるし何か盗める技術があると思うのよね…」
「そうなの?」
「む、私の技術も盗むおつもりですか?」
「アンタから盗める技術なんて無いわよ。アンタはそのルックスと運動神経が売りなんだから、私が真似出来る訳無いじゃない…… ねぇアクアって次の仕事とか入ってないの?」
アクアが部屋から退室したタイミングでルビーとクリスにそう訊いたかなに対して、ルビーは渋い表情をする。
「あるにはあるよ?ていうかクリスも一緒だし…」
「何か渋い顔ねぇ…」
ルビーはパソコンの画面を操作してかなにアクアとクリスの次の仕事を見せる。するとクリスも少し気まずそうな表情で退室して行った。
「これ…」
「………えっ!?アクアとクリスが恋あ…不知火フリル!?」
そこには、アクアにクリス、更に不知火フリルが出演する恋愛リアリティ番組が映っていた。二人はメディア用の告知動画を再生する。
<今回参加する8人のメンバーは……>
『えと、鷲見ユキです。高一です』
「スタイル良い〜」
「上から下まで整ってるわねぇ…」
『熊野ノブユキです。ダンスが得意です』
『黒川あかね。高校二年生、役者です』
「うわ、出た…!」
「え、知り合い?」
「まぁね…」
『高三のMEMちょです!YouTubeで配信やってます。よろしくね!』
「こういうのも出るのね…」
「可愛い〜!」
『森本ケンゴ。バンドやってます、よろしく』
「なるほどね、芸能活動をしている高校生達が週末色んなイベントを通じ交流を深め、最終的にくっつくとかくっつかないとかそういう番組」
紹介された五人の学生達が教室で話し合っているのを見てかなは番組のコンセプトを理解した。
「鏑木Pの番組ってだけあってみんな顔はいいわねー」
「あ、お兄ちゃんだ」
すると教室の扉が開き、アクアが入ってくる。
「アクアです。何かめっちゃ緊張するわ〜…皆、よろしくね!」
「「いや誰!?」」
普段見ているアクアとの変貌ぶりに驚愕する二人。
「お兄ちゃん陰のオーラ発してる闇系じゃない!」
「キャラ作りすぎ!」
『えぇ~かっこい~。役者さんて憧れるぅ』
「あーあお兄ちゃんこういうぶりっ子タイプには厳しいからなぁ…この子はないなぁ」
アクアに対してぶりっ子を発動したMEMちょを見てルビーは無いなと思ったが…
「MEMちょも可愛いね。めっちゃ照れる…」
「「は?死ね」」
「何だあいつ…私には可愛いなんて勧誘の時しか言わなかったくせに…」
「女に囲まれて浮かれてんな…帰ったら説教だわ……あ、クリス」
二人が画面越しにアクアを罵倒していると、次にクリスが入ってくる。
『クリスタルです。役者をやっております。気軽にクリスとお呼びください』
「こっちは普通ね」
「良かった…クリスまで変なキャラ作ってたらどうしようかと…」
「ま、アイツ素で変なキャラじゃない』
「…そうかも…」
『え、お二人は兄弟なんですか?』
『そうそう、俺が兄でクリスが弟なんだ』
『兄上共々、よろしくお願い致します』
アクアとクリスが共演者達に自分達が兄弟である事を説明していると、最後の一人が教室に現れる。
『不知火フリルです。高校一年、役者をやっています。皆さん、よろしくお願いします』
「きゃ〜!不知火フリル来た〜!」
「何でコイツこの番組出てんのよ……」
告知動画はその後少しだけ続くと終了した。
「はぁ…ていうか、結局お兄ちゃんもオスなんだね」
「チョロそうなメス見つけたらすぐこれだよ」
かなのブーメラン発言はともかく、二人はキャラ作って出演しているアクアに大層ご立腹の様だ。
「二人とも、これメディア用だから落ち着いて… そうしないと番組が成り立たないでしょ?身近な男が女にデレデレしてるところ見ると腹立つのは分かるけれどね。アクアも役者、そういう男を演じる気持ちでそこにいるんじゃないかしら?クリスは演じてないみたいだけど」
「演技…」
ミヤコがそう説明するが、かなはやはり何処か納得がいかないようで…
「分かってるけど…これ最後本当に告白して恋人になったりするんですよね」
「そうね。形式だけでもそこの筋は通すことになるでしょうね」
「告白成功したらキスとかするんでしょ」
「まぁ、定番ね」
「…こんな番組なんで受けたんだろ…」
かなは膝を抱えて落ち込みながらそう言った…
「あなただって女優を続けるなら、いずれキスシーンとかも求められる。ここを割り切るのも仕事のうち。この業界でガチガチの貞操観念持ったままだと後々辛いわよ」
「分かってるけどさ…」
かなはこの日から暫くモヤモヤしたものを抱えながら夜を過ごす事になったのだった…
今ガチの収録日、アクアはMEMちょと共にベンチで座りながら話し合っていた。
「で〜、うちの犬!」
「うんうん」
「ほら可愛くて、見て見て!」
「うんうん、可愛いね」
(だる。若者特有の共感し合うだけの会話キツぅ…なんで俺がこんな…)
MEMちょとの会話を適当にこなしながらアクアは内心そう思っていた。しかしこれも鏑木Pからアイの男性関係を聞き出すためと堪えていると、その様子をクリスとフリルが遠くから眺めている。
「正直今の兄上に慣れないのです」
「分かる、学校と全然違うもんね」
「不知火さんも何時もより落ち着いてますね」
「流石にカメラの前で限界化するのは不味いかなって。頑張って抑えてる」
(アイツら二人してこっちを真顔で見ながら何話してんだ…?取り敢えず、この番組の流れはこうだ)
アクアは最初に説明された番組の流れを思い出す。
「えー皆さんは各々の自由に会話していただいて構いません。ただ定点カメラのアングルにだけ気をつけてください。カメラマンが寄った時はできたらでいいんで、その時してたやりとりを要約した会話をしていただけると助かります」
(恋愛リアリティショーの歴史も20年になりある程度のノウハウが蓄積されている…番組としてのエンタメ性を担保しつつ各々の個性に任せたリアリティの演出方法)
アクアやクリスにとって初めての経験となる恋愛リアリティショー。アクアは普通とは違う番組の流れに少し慣れないでいた。それは他の出演者達も一緒で、黒川あかねはディレクターにアドバイスを貰いに行っていた。すると鷲見ユキがアクアの隣に来る。
「本当にこういう番組って台本ないんだね。どんな話していいか全然わからない」
「分かる〜」
(リアリティショーに台本は無い… だが演出はある。ディレクターの話をアドバイスと取るか指示と取るかは人それぞれ)
「あたし臆病でガシガシ前に行けないしあんまりトークうまくないしきっと埋もれるんだろうなぁ」
「何で君はこの仕事を受けたの?」
「うちの事務所の看板の人が仕事を断らない主義でね。事務所に来た仕事を全部持っていくから年中ヒマでさぁ…何か足掻きたくて…そしたら鏑木さんが…」
「あぁ…」
「渡りに舟っていうか。恋愛とか今までしてこなかったから」
「嘘だぁ」
「やだな嘘じゃないよ。私まだ高一だよ?タレントだからってみんながみんな恋愛してると思ったら大間違い。君は恋愛に興味無いの?」
「ないわけないじゃん。僕も男だし… でも僕は過去の恋愛引きずってて…」
そう言うアクアの脳裏に浮かんだのは今も眠っているアイの姿だった。
「いや…思えばあれが恋だったのかも分からない。消化しきれてないから…なんとも…」
「ふぅん複雑なやつだ?あ、学校の先生を好きになったとか?」
「割と近いかも」
「じゃあ乗り越えないとだね… 知ってる?前シーズンのカップル最後にキスしたんだよ」
「まぁ、一応予習はしたし」
「良い人がいるか不安だったけど…私、君にならキス出来るかも」
「なっ…」
ユキがアクアの耳元でそう囁き、アクアが驚いた顔を見せるとユキは上目遣いでアクアを見ながら言う。
「後ろ、カメラマンさんが撮ってるよ」
「!」
「カメラに視線を送っちゃダメ」
咄嗟にカメラに目を向けそうになったアクアをユキは止める。
「ここはきっと使われるよ。仲良くしようね♪」
ユキはそう言ってアクアの元から去っていった…
(…いい性格してるな。何が臆病だよ…なるほど、これがリアリティショー…っていうか…)
アクアは目線をある方向に向けた。
(アイツらずっと一緒にいるな…)
視線の先には何かを話しているクリスとフリルが居た…
クリスとフリルは収録が始まってから殆ど離れていない。というのも、フリルが絶対に離れようとしないのが原因でクリスも別にその事に対してどうこうするつもりは無かった。カメラが向けられる中、二人は適当に近況を話し合っていると…
「そういえば、ずっと疑問に思っていた事があったの」
「何でしょう?」
「どうして武道に進まなかったの?」
フリルのその言葉にクリスは少し目を見開く。そんな話がフリルから振られるとは思っていなかったからだ。
「クリス君は…正直役者としてより武道家としてのキャリアがメインだと思っていた。実際、剣道、弓道、空手…クリス君は種類問わずに凄い活躍をしていた」
「…まぁ、そうですね」
「きっと、武道を志すあらゆる人達がクリス君を求めたと思う。それなのに、どうして役者の道を選んだの?」
「……理由は、二つあります」
クリスは空を見上げ、中学時代の事を思い出しながらフリルの質問に答える。
「要らない、と思ったからです」
「…要らない?」
「はい…確かに、武道界の様々な人達は、私を欲していました…けれど…私は、武道で得る物が無かった。中学の3年間でそれが良く分かりました」
クリスは申し訳なさそうな顔をして続ける。
「武道が私をどれだけ欲し、求めようとも、私の人生に武道は不要だったから…私は…自分の知らない道を、歩いてみたかった。それが一つ」
「……」
「もう一つは、私より武道界にいるべき人達に目を向けて欲しかったのです」
クリスはそう言うと微笑みながらフリルを見る。
「中学の三年間、中学の武道に関するニュースはどれを見ても私ばかり。まるで私が主役、他の方々が脇役…そのような状況でした…けど、彼等を三年間見てきた私だから言えます。彼らは私なんかより純粋に武道に向き合い、胸を張ってその道を歩み、人生を賭ける事が出来る。だから…」
「その人達の為に、身を引いた?」
「自分勝手で傲慢…彼らが聞いたら怒るでしょうね…けれど私は後悔していません」
クリスの脳内に中学の三年間、クリスに挑み続けて来た人達の顔が、眼差しが思い出される。
「……きっと、これで良かったのです」
少し寂しそうにしながら、そう言った。
「…そっか……じゃあ、役者になったのは何で?」
「おや、それも聞きますか?」
「うん、気になるから」
「不知火さんは大胆な方ですね。ですが、役者なった理由ですか……そうですね、それは…」
クリスは右手の人差し指だけを立てて口元に寄せる。そして妖しく微笑み…
「秘密、です」
そう言った。
「……クリス君」
「はい」
「そんな顔すんの、反則」
「不知火さん?」
若干キャラ崩壊しかけたフリルをクリスは慌てて元に戻そうとする。割とすぐ簡単に戻ると、フリルは次の質問をする。
「クリス君は今気になってる子とかいるの?」
「それは…異性として?」
「そう」
「でしたら簡単です。
「…本当に?」
「はい。居ませんよ?」
「…クリス君って、恋愛に興味無いの?」
「む、難しい質問ですね…」
クリスは少し考え、やがてある話をする。
「恋愛に興味を持った事はあります。何せ私、恋をした事が無いので、恋をするというのはどういった事なのか、知りたいと少なからず思っています…ですが…私、割と、なんというか…」
「なんというか?」
「恋愛に向いてない性格、らしいのです…」
「…そう、なの?」
クリスの言葉に今度はフリルが目を見開いて驚く。クリスは苦笑しながら続けた。
「そうですね…簡単な話ですが、私は…家族以外には、基本的に誰にでも態度が変わりません。他人に向ける感情が、全て同じになるのです」
「……感情が、全て同じ…」
「そうです。例え数年の付き合いであろうとも、数日だけの付き合いでも、どちらに向ける感情の大きさは等しいと…」
「………」
「唯一の例外は家族。家族だけは他人より特別に思える。けど家族は恋愛対象として見れない。だから…」
「恋が分からない」
「そうですね」
「………」
ふと、フリルは自分が拳を握りしめているのに気付く。しかし視線はずっとクリスの方を向いていて、クリスの穏やかな横顔を見ながら、フリルは気付いた。
(私、今凄くイライラしてる?)
フリルは今まであまり感じた事が無いほどのイラつきが湧き上がってくる事に気付き、原因を考える。
(──ああ、そうだ、クリス君にイラついてるんだ)
答えは、直ぐに見つかった。
(私はクリス君を強く想っている。他人に向ける感情なんて比じゃないくらいの感情をクリス君に向けてる。それなのに…クリス君はそうじゃない。私と他の人に向ける感情の大きさは一緒って言った)
そう、答えはフリルはクリスを特別に思っているのに、クリスはフリルを特別に思っていないから。自分の気持ちが一方通行だと気付かされたからである。
(…ダメ、このままではダメ)
フリルはその事に気付いた瞬間、ある強い決意が心の中で芽生える。
「不知火さん?どうかされましたか?」
「………決めた」
「はい?」
フリルはいつも通りの表情だが、クリスはフリルが何時もより不機嫌になっている事に気付いた。
「星野クリスタル。特別が分からない、って言ったね」
「?……はい」
「だったら私がなってあげる」
「!」
「覚悟して。あなたの人生、家族以外で初めて特別な存在になるのはこの私、不知火フリルだから」
こうして、不知火フリルの星野クリスタルの特別になる大作戦が始まったのであった。不知火フリルの勝利条件はただ一つ。
──星野クリスタルに、恋をさせる。
ていうか不知火フリルも出番少なすぎて書きにくいんだよね。けど好きなので問題は無い。感想、お気に入り、高評価、お願いします!