「好きな女性のタイプについて──」
「ほう、気になるか?」
「とても」
よく晴れた昼下がり、トレーナー室でのふとした何気ない会話。
もう9月だというのに、開け放した窓から入ってくる風は熱く、不幸にもエアコンの調子が悪く扇風機一台しか無い地獄のような部屋で、トレーナーはだらしなくソファに腰掛け、天井を見上げる形で背もたれに首を預け、顔には冷感タオルをかけていた。
そんな今にも死にかけのトレーナーのもとまで歩いて行き、汗はかいているものの、いつもとさして変わらない表情でミホノブルボンは目の前のトレーナーを見下ろす形で立っている。
「そうだな」
トレーナーは顔にかけてあったタオルを右手で取ると、真上から覗き込んでいるミホノブルボンと目を合わせ、揶揄うように笑った。
「よく笑う娘、とか?」
「インプットしました。『笑顔の練習』をトレーニングに取り入れます」
「いいね」
× × ×
「マスター」
「どうした、ブルボン」
「好きな女性のタイプについて──」
「なるほど、答えよう」
ざぁざぁと雨が降る昼下がり、電気を点けていても薄暗いトレーナー室でのふとした何気ない会話。
カップのバニラアイスに市販の黒蜜ときな粉をかけ、自作の黒蜜きな粉アイスをパクパクしていたトレーナーに、「ついで」と言って作ってもらったうさぎの形のりんごを食べながら、ミホノブルボンは自分が座っているソファの、机を挟んで向かいのソファに座るトレーナーに問いかけた。
「ありがと──」
返答を貰えることに感謝の言葉を述べようとした瞬間、ピカッと空が光り、すぐあとに大きな雷の音が響いた。
ミホノブルボンは手にしていたフォークをお皿の上に置くと、両手で尻尾を抱えて身体を丸めた。
そんなミホノブルボンの様子を微笑ましく眺めながら、アイスを一口食べたトレーナーは、
「雷にも負けない強い娘、とか?」
揶揄うように笑った。
× × ×
「マスター」
「どうした、ブルボン」
「好きな女性のタイプについて──」
「そうだなぁ」
雪の降る寒い昼下がり、カフェテリアで2人向かい合って昼食をとりながらのふとした何気ない会話。
カレーライスとラーメンという微妙な組み合わせを食べ進めるトレーナーと、ど定番であるにんじんハンバーグ定食を食べるミホノブルボン。
トレーナーは、デザートにはプリンかケーキ、どちらを頼もうか、などと呑気なことを考えながら紙ナプキンに手を伸ばす。
そのまま左手に紙ナプキンを取ると、目を凝らさなければわからないほどの、ミホノブルボンの口元についたソースをぐしぐしと拭った。
「髪が真っ直ぐでサラサラで、ポニーテールがよく似合う娘、とか?」
「……ヘアアイロン、つまり機械に触れない私には『サラサラな髪』というのは困難を極めます。美容院でなら……?」
「人工的なのは好きじゃないかな」
「…………」
トレーナーは、揶揄うように笑った。
× × ×
「マスター」
「どうした、ブルボン」
朝焼けに染まった桜の花びらがふわふわと風に揺られて、2人に降り注いでいた。
早朝トレーニングを始める前に、学園の門前でばったりと出くわしたトレーナーに向けてミホノブルボンはその気持ちを投げかけた。
「私は、マスターのことが好きです」
決して、受け止めてくれることを願っているわけではない。
期待をしているわけでもなければ、かといって捨てられてしまうことを望んでいるわけでもない。
「しかし、私はマスターの『好きな女性のタイプ』とは異なります。どころか正反対と言えるでしょう」
ただ──
「それでも、私がマスターのことを好きでい続けることを……許可して頂けますか?」
それだけは許してほしかった。
「……君の質問はいつも『好きな女性のタイプ』ばかりで、俺の好きな娘については一度も訊かなかったね」
「……?」
「ははっ。鈍いな、君は」
「エラーです。マスターのおっしゃる言葉の意味が理解できません」
「理想の『好き』と、現実は必ずしも一致するわけじゃない。俺は笑顔が絶えない黒髪ストレートのポニーテールが好きだし、貧乳だとなお良い」
まだ太陽が顔を出し始めたばかりの早朝には、向かい合う2人の横を通り過ぎて行く者はいない。
冷たい風だけが2人の間を通り過ぎ、ジャージ姿のミホノブルボンの身体を震わせた。
「でも──」
トレーナーは1歩前に出ると、着ていた上着をそっとミホノブルボンの肩にかけて、揶揄うように笑った。
「俺が好きになったのは君だ」
「…………っ!?」
「感情を表にうまく出せないブルボンが好きだ。雷が鳴ると尻尾を抱えて丸くなるブルボンが好きだ。ふわふわで癖っ毛のある髪をしているブルボンが好きだ」
左手を、ミホノブルボンの右頬に添えて、
「君が────ミホノブルボンのことが、俺は大好きだ」
目を丸くして、朝焼けのせいなのか、頬を赤く染めたミホノブルボンの瞳を見つめて……トレーナーは照れくさそうに笑った。