ちょっと時間が空きましたが、本編の方の筆が進んだので投稿。あと目次の状態を整理。
今回は日常回。いずれ登場人物紹介で纏めますが、なんとなく普段の立香とアイの現時点での関係性が伝わればいいなぁ。伝われー(怪電波。
断章の方はコメントで蛇足扱いされて、必要ないかなぁと思いつつも、少しずつ書いてます。せめて今書いてる部分と地獄の二年間の勉強会の導入は書きたいんじゃ……せっかくマテリアルというか、教科ごとのサーヴァントの設定とか作ったし(本音。
特殊タグとか、フォントとかに苦心してますが、お楽しみいただければ。
星野さんに名前呼びを許された日から二年が経った、夏のとある一日。
日々健やかに過ごしていた俺達は――――正確には彼女は、とある強敵と戦っていた。
其れは人であるならば誰しもが拒絶を望む難敵。しかして立ち向かわざるを得ない障害・試練にして、時が経つほどに脅威を増す大いなる悪。
人は、誰しも其れと戦ってきた。故にこそ人間はその経験を活かし、有効な戦法・戦術を考案し確立していくことができた。
――――己が安寧のために拙速であっても打倒せんと励み、見事打倒を果たした勇者がいた。
――――包囲殲滅が有効とみて少しずつ削り取り、勝利をその手に掴んだ知者がいた。
――――遅滞戦術を駆使し一挙に反攻に転じ、暁の光に勝鬨を咆える英雄がいた。
――――己だけでは果たせぬと泣く者に手を差し伸べ、互いの背を支え合う者たちがいた。
そこに、一人足りとて例外はない。たとえ綺羅星のような少女であっても、この敵からは逃げられない。
見よ。星を宿すような瞳は暗く淀み、涙を湛えている。微笑めば誰をも魅了するであろう美しい
しかし、逃げることは――――それだけは、許されない。
いかに相手が強敵であっても、どんなにその手に握る武器が弱弱しく見えても、例えしばしの休息を挟めたとしても、今だけはそこから逃げ出してはいけないのだ。
「り、立香ぁ……」
「――――ダメだ」
助けを、いや、諦めの肯定を求める声が聞こえる。しかし俺はその声に応える訳にはいかない。
どんなに彼女のすぐ傍にいると言えど、俺にはそれを打倒する手段がないのだ。手助けはできても、それを打倒するのは彼女自身の手でなくてはならない。
彼女にも、俺にも、できることはただ一つだけ。
一歩一歩、着実に。できるところから、少しずつ。前へ、前へと進むこと。
そして、そうやって進む勇者の背中を支えてあげることだけなのだから。
今一度、言おう。其れは人類が自ら生み出した難敵。避け得ぬ障害・試練にして、時が経つほどに脅威を増す巨悪。
即ち――――
――――である。
「……うぅ、もう疲れたよぅ。休憩しようよぉ」
「はいはい、まだ一時間も経ってないよ。がんばれがんばれ」
ペショーン……、と擬音が聞こえてきそうな様子でシャーペンを握る手と頭を机に投げ出すアイ。その姿に苦笑が浮かぶが、ここで甘やかすわけにはいかない。夏休み終了一週間前になって課題プリントに立ち向かう、という去年の悲劇を繰り返してはならないのである。
その代わりというほどでもないが、手を伸ばし頭を撫でてみる。二年経っても変わらない、絹糸のような手触りがなんとも指に心地よい。止まることなく黒髪を梳ることで、多分に表情を緩める彼女だったが起き上がる気配もなく愚痴をこぼす。
「がんばってるよー。でも、もう疲れたよー。……という訳で、先にお菓子食べよ?」
「そっちは休憩中のご褒美だってば。とりあえず今やってる分が終わったら、ね」
「脳が糖分を欲してるんだよー。これじゃあ、頭が働かないよぅ」
「そういう知恵が回るんなら、まだ大丈夫。いけるいける」
「……立香って脳筋って言うか、スパルタなとこあるよね」
「脳筋なのは否定しないけど、この程度はスパルタとはほど遠いよ。…………それともガチスパルタが良い?」
「のーせんきゅー!」
そう言ってにっこりと笑ってあげると、ガタガタと音を立ててアイが上体を起こす。…………そんなに嫌らしい。
とは言ってもケルト式に比べれば、スパルタ式はまだ楽な方…………ではないな、うん。
スパルタ式は「よし、貴方の今の限界は分かりました。なのでその限界ギリッッッギリまで責め抜きますね!」って感じだが、ケルト式は「この場で今すぐ限界を超えろ。さもなくば死ね、むしろ殺す」という具合だ。
どちらが良いかと言われたら(生命的に)死にたくないので前者を選ぶが、前者は前者で(精神的に)死ぬ思いをする。
では、ギリシャ式は? というと「大丈夫、殺したりしませんよ。むしろ授業で死ぬことなど許しません(ニッコリ」という、万全にして充実のサポートが付いてくる。というか死に間際でも強制回復されるので、地獄にすら行くことができなくなるパターンである。泣きたい。
さらに言えば鞍馬式は「大いに学び、大いに遊べ!」という、一見一番よさそうに見えるが、そもそもの基準がおかしい。鬼ごっこ一つ取っても、薄暗い森の中で、でっかい猪とか山犬の群れが相手という。せめて
………………この四つが悪魔合体というか、超融合を果たした二年間の
『もう戻れない』とか『最後まで走り続けるしかない』とか、そんなこと考える暇というか『考えてたら死ぬぞ』的な状況だったもんなぁ。
イマジナリーパツシィがいなければ即死だったとはいえ、そりゃあ日常に戻るきっかけを探す方が楽ってもんである。…………降りしきる
「ほら、小休止はお終い。続き続き。……お茶のおかわりは?」
「うー、アイスココアが良いー」
「だってさ、先生。あ、俺、冷たいカフェオレで」
「いや、私は小間使いじゃないんだが…………そもそも、何で二人とも医務室で宿題を広げているのかね??」
そんな身も凍るようなトラウマ、もとい厳冬の雪景色のような美しい思い出に思いを馳せながら注文を入れると、困惑をにじませた声が返ってくる。
俺たちが二人使っているテーブルの向かい側、そこにある業務用のスチールデスクとゲーミングチェアに座った先生が、胡乱げな顔でこちらを見ていた。
その視線を受けて俺とアイは互いに目を合わせると、以前から示し合わせていたように口を開く。
「なんでって言われても、ねぇ?」
「うん、お互いの部屋で二人きりは駄目だし」
「図書室は宿題溜め込み勢で埋まってたし」
「談話室はちっちゃい子たちが立香にじゃれついちゃうし」
「外に行くと途中で雨降りそうな天気だし」
「ここならエアコンも効いてるし」
「お茶もお茶菓子も揃ってるし」
「用がなければ人も近寄らないし」
「「宿題を進めるには完璧な環境だよね」」
「「ねー」」と声をそろえてうなずき合う。うん、この二年で本当に仲良くなったものである。
最初はアイの方がおっかなびっくりとした様子だったが、休日にお菓子やご飯を作ってあげたり、テスト後とか、運動会とかの行事の後で
やはり餌付けと人肌の温もりは、心のケアに効果抜群である。以前と比べても、遥かに明るく元気な様子で暮らしており、友人もそれなりに増えたようだ。
しかし、買い物や勉強などで、俺と一緒に行動することが一番多い。休日になるとより顕著で、ちょっと依存気味というか、ブラコン気味というか。
来年、アイが中学に上がる前にちゃんと折り合いをつけるべきなのはわかっているのだが…………ただまぁ、俺は俺で、どうにも交友関係がうまくいかず薄くなりがちなので、素直に甘えてくれる彼女を甘やかしてしまっていた。
「いやぁ……随分と仲良くなったねぇ…………」
「そりゃもう一番の友達ですよ。アイ、
「? なにそれ?」
「こう、愛情ではなく友情を示す挨拶的な?」
「
イエーイ、とハイタッチを決める俺たちの姿を、なんとも微妙な温度の眼差しで見据えてくる先生。一体何ですか。
「いやまあ、うん。君たちがそれでいいなら、それでも構わないんだがね………………そういえば、この間渡した水族館のペアチケットはどうしたのかな?」
「ちゃんと使ったよー先生」
「っていうか、娘さんを
「フッ、聞いて驚きたまえ。…………十七回目ぇ」
いい加減諦めたら? と口にしかけるが、五十路の男の滅茶苦茶情けない声が上がったので武士の情けということで心に留めておく。
この辺りのやり取りも二年ほど前からだ。
先生は血の繋がりない少女を養子に貰っており、しかも中々の溺愛ぶりのようで、あの手この手でその子と一緒に出掛けようと画策している。
しかし、その少女は
チケットを渡しても大体、「いや」「だるい」「めんどい」の三言だけで突き返されるらしい。ざまあ。
で、チケットは希望者がいれば職員間で、いなければ子供たちに回って来る。なお、チケットは購入したのではなく、知人から貰ったものが大半だそうだ。
……それなりにお高いチケットをくれるとか、どんな知人だろう? と思うことはあるが、詳細は聞いてない。『ヤ』のつく自営業とか言われたらどうしろというのか。こっちは現在、只の中学二年生である。社会の汚い裏側なんて知りたくありません。
「シャチのショーが凄かったよねー」
「凄かった凄かった。アイは水槽の水、バシャーってされてずぶ濡れになったもんね」
「それを言ったら立香はエサやりと触れ合いだったはずなのに、シャチにめっちゃ嘗め回されてたじゃん! 飼育員さんたち、唖然としてたよ」
「いや、アレは俺もビックリした……。噛まれるかと思ったら、舌が迫ってきてベロン、だもの」
ワイワイと水族館での思い出話を語る。ついでに言うと水槽に引っ張り込まれて、シャチの背中に乗せてもらったあたりで、再起動を果たした飼育員さんに連れ戻され、「高校卒業後は是非ウチに」とスカウトも受けた。
「前に猫カフェに行ったときもそうだったよね。お店の猫がみんな、立香のとこに行ってクリスマスツリーみたいになってたし」
…………そっちは半分くらい狙ってやったのは秘密にしておこう。
フォウ君や神祖の狼、ハベにゃん、アウラードたちを相手に培った撫で撫で技術と、動物会話スキルの併せ技で、人間に懐く生き物なら大体すぐに懐いてくれる。
それを使って近くに来る猫、来る猫を撫で回してたらいつの間にかあんな風になってた。アイは大笑い、店内はカメラのフラッシュが飛び交い、俺は全身が猫の毛だらけになった。
ちょっと洗濯が大変だったが…………ま、アイは笑っていたし、良い思い出だろう。
「そっかぁ…………そうなったかぁ………………。…………話は変わるけど、藤丸君の課題は良いのかな?」
「もう大部分は終わりました。あとは自由研究くらいですかね」
「自由研究かー。何をやってるのかね?」
「外国飯、いや、歴史飯? ……とにかく、『わくわくご飯チャレンジ』的なヤツです」
正確には「世界各国の料理とその歴史、及び類似点・相違点」を纏めるつもり…………という名目の下、好き勝手に包丁を握らせてもらっているだけ、というのが実情だが、まあそこはご愛嬌ということで。
なお、助手兼味見役はアイ。彼女は彼女で一緒に作ったご飯のカロリーや栄養バランスなどを纏めており、課題の中では進捗状況が一番よかったりする。
…………先日体重計に乗ったときに「………………ピエッ!?」とか言ってたことと、俺の早朝ランニングについてくるようになったことは関係ないはずだ、多分。
話を戻すが、今日のご褒美おやつもその一環である。
今日のおやつは、ベーキングパウダーの代わりに先生に購入してもらったビールを使い、半日冷やしてしっとりとさせた『バターケーキの生クリーム添え』。
中に市販のドライベリーミックスを放り込んでおり、今アイが手にしているケーキの表面に、ドライフルーツの赤や紫がにじみ出し中々美しい。味も見た目も正直、会心の出来だと思ぅ…………………………………………………………オイコラ。
「没収」
「ああ!? 私のケーキが!?」
「ご褒美だって言ってんでしょうが」
容赦なく取り上げて、ブーイングを背に受けながら保冷剤と共にケーキを箱に放り込む。まったく、油断も隙も無い。
――――これが今の俺の日常。ささやかで、くだらなくて、とても大切な日々の記憶。
施設を出るまでの残り数年は、形を変えながらもきっと根幹は変わることない安穏とした生活だ。
――――――――――そう思っていた。とある、一通の手紙が届くまでは。
おや、なにやら様子が…………?
所で話は変わりますが、拗れたいちゃラブには何が必要だと思います? 作者は遠距離恋愛というか、物理でも精神でもいいのですが、会うに会えない距離感が必要だと思います(愉悦スマイル