夜空の綺羅星は、青空に癒されたい   作:アッド・ウィステリア

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台風によるフェーン現象 → クソ暑い → 暑さで寝不足 → 仮眠をとる → 夜に眠くならないし暑くて眠れない → 以下、無限ループ

と言う感じで、生活リズムが滅茶苦茶だぜ! 皆様もご自愛とご注意を!!


今回はアイ視点。そしてサブタイトル通り、藤丸の弱音も。

正直、上記のループ中+上がり下がりの激しいテンションで書いたためクオリティは低いかも。
それでもよか! と言う方はどうぞお読みくだされ。



13. 星へと溢す空の弱音

(…………眠れない)

 

 布団に潜り込んでどれだけ経っただろう。時計の秒針が進む音がいつも以上に耳に残る。

 

 立香と彼のおじいちゃんの話し合いが終わってからずっと────ううん、立香がおじいちゃんと会うと聞いてからずぅっと、頭の中でぐるぐると考えが巡り、胸の奥でモヤモヤとした思いが浮き沈みを繰り返している。

 

 …………ケーキ食べてる間は忘れちゃったけど。

 

 いやでも、アレはしょうがないと思う。ドーナツセットも、物珍しさから頼んだスモモのケーキも、立香から一口貰ったフレンチトーストもうっとりするほど美味しかった。また連れてってくれないかなー。

 

 昼間の衝撃すら覚えた甘味を思い起こし暫く顔がにやけるが、次第にそれもふたを開けたまま放置した炭酸ジュースの炭酸のように抜けていく。そうして頭がグルグル、胸の奥でモヤモヤがまた顔を出す。

 

(……立香が、あんな風に考えてるなんて知らなかったなぁ…………)

 

 そんな中で今日の話し合いの中の一幕を思い返す。

 

 普段の笑みとは違う申し訳なさそうな、困ったような、寂しそうな笑み。両親にちゃんとお別れがしたいと、強い意志を秘めた眼差し。途中で口にした流暢な英語(多分)。…………そのどれもが、私の知らない立香。

 

 思い返して胸の奥のモヤモヤがまた大きく、黒くなって浮かび上がってくる。掛布団代わりのタオルケットをモヤモヤに見立てて胸元で抱きしめて押しつぶす。それでもモヤモヤは消えてくれず、今度はチクチクとした痛みまで。

 

(…………水でも飲もう)

 

 相部屋の子を起こさないように、静かに部屋を抜け出して食堂へ向かう。冷たい水かお茶でも飲めば、少しは暑さと一緒にモヤモヤも流れていくだろう。

 

 そんなことを考えながら非常灯と窓から差し込む街灯、月明かりで薄暗い廊下を進む。耳をすませば聞こえてくるのは虫の声と水が流れる音────

 

(────誰か、いる?)

 

 夏である以上、夜になってもそれなりに暑い。だから誰かが飲み物を飲みに来たり、顔を洗いに来ても不思議ではないが────今は、人に会う気分ではなかった。

 

『誰がいるか確認だけしたら、出入り口付近に隠れていなくなるのを待ってよ』…………そう考えて、そっと食堂の中を覗いてみたら、

 

「立香?」

 

「──アイ?」

 

 ────そこには立香がいた。

 

 冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出そうとした姿勢から、こちらを振り返る立香の肩にはタオル、髪はしっとりと濡れていた。顔を、というか頭を文字通り冷やしてたのだろう。

 

 しかしそれ以上に彼の剥き出しになった上半身に目が行く。

 

 

 

 厚みはないが引き絞られた筋肉で綺麗に分かれたお腹と胸部。肩から二の腕にかけては普段の服装から想像できる以上にがっしりとしている。肘から先の前腕、パジャマとして使っているハーフパンツから伸びる足は長くほっそりとしているようで、よくよく見れば筋肉の陰影がうつり込んでいて背中の方も背骨に沿って真っ直ぐ凹凸が伸び腰周りに無駄なぜい肉はなくしなやかでくびれがありながらも細いという印象はない何よりも腰骨に沿って下半身へと斜めに伸びる腹筋の外縁部のラインがとっても────

 

 

 

 そこまで考えたところで、落ち着かない様子の立香に気付く。その視線を受けて何故かはわからないが、途端に恥ずかしくなってしまった私は慌てて目を逸らし服を着るように言う。

 

「ゴメンね? 変な物見せて」

 

「……そんなことなかったよー」

 

 自分の耳にも聞こえないくらい、小さく小さくつぶやく。成長期に入った春頃に「うーん、身長の伸びを考えるとこれ以上筋肉は付けられないかな?」とお腹や腕を揉みながら口にしていたけれど、ついさっき見たアレでも足りないのだろうか。

 

(普段、アレでハグしてもらってたんだ……)

 

 そう思うとモヤモヤもグルグルも途端に引っ込んでしまったが、今度は心臓が高鳴って仕方がない。立香の着こんだTシャツに書かれた【えくすとら あたっく】の文字を見て、何故か【おーばーきる】と言う言葉が脳裏に浮かぶ。…………なんというか、とにかくすごかった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「………………麦茶飲む?」

 

「………………うん」

 

 とりあえずは座ってみたものの、炎天下の下にいたという訳でもないのに火照る顔と頭に昇った熱で、考えがまとまらず口ごもる。渡された麦茶を一気に呷ってしまいたいが、そうすると立っている立香のことが目に入り、さっきの、その、は、裸のことを思い出してしまって妙に恥ずかしい。

 

 それでも意を決して話しかけてみたら、拍子抜けするほどいつも通りの掛け合い。軽口を叩き、揶揄い、冗談交じりに怒ったふりをしたスキンシップ。にゅーん、という音がしそうなくらい頬を伸ばされ、それに抗議の声を上げて、しかし内心で自分の手指より少し硬く節くれ立った指の感触を楽しむ。

 

 頬をもみくちゃにされうにゅうにゅと唸っていると、ふと、頬に手を添えられる。見上げた先には青空色の瞳。それがこちらを真っ直ぐ見下ろして──

 

 

 

「…………夏休みが終わる前に、俺は施設を出る」

 

 

 

 ────続くその言葉に、胸の奥の黒いものが溜まっているところが刺し貫かれた。

 

 

 

「…………うん」

 

 途端に溢れかえるモヤモヤを何とか押し込め、言葉にできたのはたったそれだけ。

 こちらを見つめる青い瞳からも、胸に渦巻く黒々とした思いからも、目を逸らしてしまいたい。でも、頬に添えられたぬくもりが、許してはくれなかった/手放したくなかった。

 

「……………………こうやって話せるのも最後になるかもしれない」

 

「……………………うん」

 

 分かってるよ。だから『ここで私がどうすればいいのか』も、分かってる。

 

 聞かなくちゃいけない/聞きたくない

 

 言っちゃいけない/言葉にしたい

 

 ちゃんと、分かってる、のに────

 

 

 

「だから────言いたいことは、ちゃんと言って欲しい。…………君の本音を聞かせて?」

 

 

 

 ────本当に、ズルい(優しい)んだ、君は。

 

 

 

「────────────────────────────────────────────ゃだ」

 

 せき止めていた思いが、言葉が、涙が溢れ出す。

 

「行っちゃやだぁ…………!」

 

 零れる涙に視界がにじみ、輪郭と色がぼやけているのに、真っ直ぐにこちらを見るその()だけがやけに鮮明だった。

 

「いなくならないで…………、そばにいて…………! 私が呼んだら、すぐ来られるところにいてよ…………! …………寂しいのは、もうやだよ…………!」

 

 本当は、立香のおじいちゃんに言いたかった。「立香を連れて行かないで」って。

 

 子供の癇癪だって分かってる。でも、嫌なの。……(立香)がいないのは寂しいの。苦しいの。

 

「…………ゴメン。それはできない」

 

 ────だから、こう言われるのも分かってた。

 

 けれど、止まらない。一度、溢れ出した思いも、言葉も、収まりがつくまでは止まることなく吹き出し続ける。

 

「なんで……? 施設にいるのが嫌になったの……? 私、たちと一緒にいたくなくなったの? それともおじいちゃんが、血のつながった家族が迎えに来てくれたからどうでもよくなった? 私には誰もいないのにっ!?」

 

 立香が悪いわけじゃないのに、思わず声を荒げてしまう。……ごめんなさい。こんなことが言いたいんじゃないの。ただ、寂しくて、苦しくて、痛くて、どうしようもなくって。こんなワガママを言っていたら嫌われるって、分かってるのに、止まらないの。

 

 ヤダ、ヤダヤダ。行かないで。嫌わないで。ごめんなさい。言葉にすればそんな思いが、ぐるぐるグルグル頭と胸中を巡る。少しでも止めようと瞼を閉じるけれど、思いと共に涙はとどまることなくこぼれ出る。

 

 

 

「────────分からなく、なったんだ」

 

 

 

 そんな私に、投げ掛けられたのはそんな言葉だった。

 

 スン、と鼻をすすり瞼を開けてみれば、決意を秘めた眼差しは変わらず、しかし途方に暮れたような────弱弱しい笑い方をする立香の姿。

 

 おじいちゃんに見せたものとは違う、けど私の知らない立香がいて、こう続けた。

 

 

 

「どう進めば────ううん、どこを目指して進めばいいか、分からないんだ」

 

「戻ってこないはずの昨日(過去)を、求めてる。たどり着けない、どこにも無い場所を探してる」

 

「────もう二度と、会えない人に会えるんじゃないかって、心のどこかで思ってる」

 

「…………けど、ダメなんだ。それはきっと、よくないことなんだ」

 

「何を零して、失って、無くしたって。どんなに嘆いて、立ち尽くしていたくても」

 

「俺は、前を向いて────この世界(いま)を生きなくちゃダメなんだ」

 

 

 

 何処か絞り出すような言葉を口にして、それでも立香は笑みを形作る(演じる)。……立香の作られた笑顔はちょっと嫌だったけど、でも衒いのない言葉を受けてモヤモヤグルグルした思いは少しずつ落ち着き始めた。

 

 私の目元に浮かぶ涙を指でぬぐい、立香は言葉を続ける。

 

「難しく言ったけど…………要は『俺は何がしたいんだろう』ってこと。君がアイドルに希望(ユメ)を見たように、俺も俺自身の願望(ユメ)を探さないと」

 

「…………また、夢の話?」

 

「うん。……覚えててくれたんだ」

 

 コクリとうなずく。……忘れられるはずもない。寝ている時に見ることは無くなったけれど、それでもあの日のことを思い返すたびに、お母さんのことも、思い出す。

 

 悲しいのも、寂しいのも、苦しいのも、全部全部覚えてる。それでも、ほんの少しだけ温かな気持ちになれるようになったのは、立香のおかげなのだから。

 

「…………そっか。じゃあ、ちょっとだけ続き、というか応用? かな。今回のは」

 

「応用…………?」

 

「誰だって夢を見る。善悪も、貴賎も、大小も問わず、人は何かしらの夢を持ってる。────生きる()()なら、夢なんて必要ないのにね」

 

 立香は言う。夢も希望もなくたって、生きるだけなら出来るのだと。例えば野生の動物、野良犬や野良猫と同じような生活だとしても、生存することは可能だと言い切った。

 

 ……………………なんだろう。私はその言葉がとても────とても、嫌だと思った。

 

 でも同時に、疑問にも思う。どうしてこんなに嫌なのだろう?

 

「それでも人が夢を見る理由はさ、きっと────()()()()()()()()なんだ」

 

「………………………………うえぇ……?」

 

 コイツ、台無しにしやがった。

 

 そう内心で思わず口調が乱れてしまうくらいの、肩透かしな言葉(答え)に口から困惑の声が漏れる。あと、涙が完全に止まった。私の感動とか、気持ちの高ぶりとか。そういうの、いろいろ返してほしい。

 

 しかし、立香は構わず「どうでもいいことなんだよ」と言う。先ほどの作り物の笑顔とは違う、私が■■な本物の笑顔で。

 

「理由なんて『どうでもいいこと』で充分。小っちゃい子達が警察官とか、モデルとか、なりたい職業に特別な理由がある? アイだって『愛してるって本心から言いたい』っていう願いは切実でも、特別な理由がある訳じゃないし」

 

「それは、そう、かもだけど…………じゃあ、立香は? 夢がないって言ったけど、本当にないの?」

 

「…………あるにはあるんだけどね」

 

 お茶を濁すような苦笑いを浮かべる立香を追及はしない。その代わり頬を包む両手を掴んで、今度は私が立香を逃がさないようにじっと目を見つめて続きを待つ。

 

「………………………………胸を張りたい、かな」

 

「……誰に?」

 

「分からない────いや、全部に、だと思う」

 

「全部……」

 

「両親に、おじいちゃんたちに、施設の皆に、今まで出逢った人に、俺の弱音を聞いてくれてるアイに。そして、何よりも自分自身に────胸を張れる生き方を、したい」

 

 掴まれた腕をゆっくり下ろしながら、うつむき気味に立香が口にした夢は、素朴なのにやたらと規模が大きかった。

 

 欲張りだね、と言ったら、そうかなぁそうなのかも? なんて首をかしげる立香だけど、欲張りを自認する私より欲張りだと思う。

 

 でも────うん。少し、ほんの少しだけだけど理解した。

 

 立香はきっと、止まらないだろう。このままだとそれこそ立香のお母さんみたいに、誰も知らないうちに、誰も知らないどこか遠くまで行っちゃうんじゃないかって思えた。

 

(……やだなぁ)

 

 それは、嫌だ。さっきの癇癪と同じ、けれど違う思いを抱く。

 

「……おじいちゃんのとこに行けば、それはできるの?」

 

「……分からない。でも、きっかけになると思う」

 

「…………帰ってくる?」

 

「…………それも、わからない」

 

「じゃあ、約束して」

 

 けれど、どうすることもできなくて。代わりになるようなことも思いつかないくらいには、まだ子供の私にできることなんてこのくらいだった。

 

「会いに来て。私がアイドルになっても、なれなくても。立香の夢が叶っても、叶わなくても」

 

「…………それが君の願いなら。なんなら指切りもしようか?」

 

「……ん」

 

 なんとなく突き出した私の()()()()()に合わせて、立香も左手の小指を出して絡め合う。…………なんだろ。頬に手を当てられていた時よりふわふわポカポカする。

 

 恥ずかしいのを誤魔化すために、指切りが終わった瞬間、立香の胸に飛び込む。立香の半裸姿がフラッシュバックして、さらに恥ずかしくなったが構わない。施設を出るまで思う存分、甘え倒すのだ。

 

 何より納得はしてないので! なので、さあ。構え。撫でれ! ハグれー! っていうか、私も一緒に寝る!!

 

 ……………………この時、私は忘れていた。

 そう、私は私でスカウトさん、ではなく社長さんに身元を保証してもらうため、色々とやることがあり、立香と遊べる時間が少なかったということを…………!

 

 ううう、千葉にあるのに東京と名前の付く夢の国とか、それの海の方にも行きたかったのにぃ!!

 





もう一つのサブタイトル案:乙女心ジェットコースター

さて、次回は施設編ラスト。離別の時だ。けどその前にサバフェス2を回させていただきたく。

ンンン、感想・評価は随時受け付けておりまするぞ!
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