夜空の綺羅星は、青空に癒されたい   作:アッド・ウィステリア

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 ハーメルンよ、私は帰ってきた――――!(半年ぶり)




再会編 The stargazers rhapsody
01. 再会のサマーバケーション


「こ、これ……、よかったらどうぞ……!」

 

「わ、いいの? ありがとー! これからも応援、よろしくね☆」

 

 

 差し出されたプレゼントを受け取り、ニッコリ笑って握手。感極まったように去っていくファンの一人を横目で見送り、視線を戻すと握手待ちのファンの待機列がまだまだ続いていた。

 

 社長にスカウトされアイドルとなって、この夏で三年目。もう少しで学生は夏休みに入る時期。そんな中でも『B小町』のアイこと、私、星野アイは今日も今日とてアイドルとして精力的に活動中! もうすぐ出される夏休みの宿題は憂鬱だけどね! 

 

 ……今年は早めに皆を拝み倒さないと、またお説教が…………。

 

 去年のミネちゃんとミヤコさんのお説教攻勢を思い出し背筋がゾクリとするが、今はお仕事中なので微塵も面には出さずに握手を続ける。

 

 とは言え、一度下がったテンションが簡単に上がることもなく、内心でため息を零す。

 

 

(………………今年も戻ってこないのかなぁ)

 

 

 アイドルになって三年目。つまり立香が立香のおじいちゃんたちの所に行ってから三年目だ。その間、立香は一度も日本に帰ってきてはいない。

 

 最初の年、私の誕生日が近づくと立香から手紙と一緒にプレゼントが届いた。届けてくれたのは胡散臭いサンタクロース、もとい施設の先生だ。どうやら立香に「何かあれば連絡をよこしなさい」と、自分の住所などの連絡先を教えていたらしい。

 

 直接送ってくれればいいのに、というか先生ズルい! と文句を言うと、芸能人にとって個人情報の流出は文字通り死活問題だ、と具体例まで出されて完璧に論破され、歯噛みするしかなかった。丁度、同席していた社長は先生の味方しちゃうし。

 

 ちなみに、その時届いたのはシンプルなポーチ付きスキンケア用品と北欧風のブランケット(なんと誕生日とクリスマスで別々のプレゼントだった!)。特にスキンケアの方は『何とかクラフト』と言うブランドのようで、ミヤコさんに聞くとかなりいい物なのだそう。

 

 とはいえ手紙が届いた以上、こちらからも連絡が取れるようになった。電話番号もメールアドレスも書いてあったけど日本とイギリスでは時差もあるし、立香は立香で何かと忙しいみたいなので、自然と文通になった。

 …………社長の家に居候中、メールの返信が気になって二時間以上ケータイの前から動かずにいたら叱られたのは立香にはナイショである。

 

 

 でも『冬期休暇がリアル【ホ●ム・アロ●ン2】になるとは思いもしませんでした』とか『射撃体験に行ったら、何故か空挺降下の訓練になった件について』とか、書かれてるんだけど一体何してるの? というか、何をさせられてるの?? 

 

 

 そんな風に握手の合間合間に立香との手紙のやり取りや、【B小町】の皆と一緒にお返しのプレゼントを買いに行った時のこと*1を思い出して、気分を少しずつ高めていると

 

 

 

 

「────────ぁ」

 

 

 

 

 思わず声が出た。また一人、ファンの人たちを見送り、今、目の前に立った青いアロハシャツにサングラスをかけた少年はどことなく似ていた。違うのは薄い黄金色の髪と日に焼けた褐色の肌くらい。

 

 それ以外はどうにもよく似て

 

 

 

 

「давно не виделись! Как дела?」

 

「? ? ? ?」

 

 

 

 

 …………なかった。

 

 …………え、なんて? どこの言葉?? っていうか、外人さん!? 

 

 思わずフリーズしかけるが、私だってお金をもらって仕事(アイドル)をしているプロだ。動揺を最低限に抑え込んで、ニコニコと笑みを浮かべつつ小首をかしげる目の前の外人さんに向けて、うろ覚えな英語で簡単な英語で話してもらうようお願いする。

 

 外人さんは一度、照れたように苦笑すると、次いでこう口にした。

 

 

「──── I really like you」

 

「! センキュー! ミー、トゥ!」

 

 

 今度は私でも聞き取れたので、笑ってそう言うと今度は苦笑したようだ。サングラスでよく顔が見えないけど、社長で慣れてるので判別はできる。……発音がおかしかったかなぁ? 

 

 それから「Here you are(はい、どうぞ)」と手渡されたプレゼントを受け取り、他のファンと同じように握手をして見送る────

 

 

 

 

「────あんまり無茶しないように。……また後でね」

 

 

 

 

 懐かしい、響きを聞いた。

 

 記憶とはちょっと違う低くなった声。けれど聞き覚えのある優しい音に、思わず目を見開きぱっと顔を見上げる。外国人だと思っていた少年は握手をしていた両手を離すと、その手でサングラスを位置を直すふりをしながら僅かにずらす。

 

 その下にあったのは、青空の色。それと一緒に唇がニッと悪戯げに弧を描く。

 

 

「…………────、~~~~~~~~っ」

 

 

【B小町】の皆でも、社長でも、ミヤコさんでも、誰でもいいので、この場で叫ばなかったことを褒めてほしい。我ながら素晴らしい自制心だと、心の片隅で冷静な私がつぶやく。

 

 先ほどまでの考え事も悩み事もどこかへ消えてしまった。「どうして日本にいるの?」「いつの間に?」「というか、なんで連絡もなしにいきなり来るの!」という、よくわからない怒りも含まれた疑問が心を占めて、しかしそれらを塗りつぶして余りある高揚感が溢れてくる。

 

 後で社長の怒られるだろうけど、あふれ出す思いのままに名前を口にする。

 

 

「り「お時間でーす。次の方、どうぞー」……」

 

 

 ……………………思わずスタッフさん(ミヤコさんや社長とは違う人)をにらみかける。いやもちろん、それがこの人のお仕事なんだけどさぁ! もうちょっと、こうさぁ! タイミングがさぁ!! 

 

 そんな私の思いを知ってか知らずか、「See you again(じゃ、またねー)」とか言って呑気に立ち去るトーヘンボクの背中を恨めし気に横目で見つめながら、行き場のない感情を無理やり原動力にして私は目の前のお仕事に没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「佐藤社長、あそこあそこ! ほら、あそこの駐車場! 早く早く、はーやーくー!」

 

「う る せ え」

 

 

 後部座席から身を乗り出してバシバシと助手席を叩きながら、社長に進路を指示する。

 

 握手会が終わった後、控室に駆け込むように戻った私は即座にもらったプレゼントを確認した。軽く積み重なったプレゼントの中から目当てのものを見つけると、そのまま中身を引っ張り出す。

 

 出てきたのは一つの白いぬいぐるみ。これを持っているのは、私以外に多分、たった一人だけ。そのぬいぐるみの首に巻かれたマントのような部分に、メモが一枚挟まれていた。

 

 

『お、おい。どうした、アイ? 具合でも悪『社長、ごめん! 今、急いでるからあとでね!』……は? いや待て、どこ行く気だ? どこか寄りたいなら車出してやるからって、待て待てちゃんと着替えろ、ちょっ待て話聞けってオイ待て!? 

 

 ──────せめてサングラスと帽子つけろ、バカアイドル!!』

 

 

 控室のドアの隙間から心配そうに顔をのぞかせた社長を尻目に、私は上着代わりのパーカーだけ引っ掴むと関係者用の出入り口に進もうとした。けれど、社長によって止められ(叱られて)渋々ながら大急ぎで着替える。そして、会場のスタッフさんへの挨拶もそこそこで済ませて回してもらった社用車に乗りこんだ。

 

 メモに記されていたのはとある住所と『ここで待ってるね』の一言。

 

 最初はホテルの住所かなとも思ったけど、車から過ぎていく景色を見て()()()()を思い出す。…………思い出すのが遅れて通り過ぎたり、Uターンしようにも一方通行だったりしたけど、やっと目的の場所の最寄りの駐車場にたどり着いた。

 

 完全に停車する前に車を飛び出し(「危ねぇ真似すんなっ」と社長の声が聞こえたけど今はスルー)、サングラスと帽子がずれるのに構わず駆け出す。この三年の間に少しだけ変わってしまった街並みを、覚えている限りの記憶を頼りに走った。

 

 右に曲がって、左に曲がって、直進して。分かりづらい路地に入り込んで懐かしい()()を見つけた。

 

 三年前、初めて立香のおじちゃんと会った時のお店。立香がイギリスに行くことを決意したお店。…………今、思えばあの日のうちに押し倒しちゃえば良かったかな? とも思うが、当時のことを考えるとそのまま一緒に寝るくらいしかできなかっただろうけど。

 

 ともかく、目的の場所にたどり着いた。トクトクと少し早い鼓動を抑えるように、軽く呼吸を整えて店先に立つ。

 

 

「わっ」

 

「……ん?」

 

 

 ドアノブに手をかけようと手を伸ばしたら、ガチャリと音を立ててお店から女の子が出てきた。思わずお互いにまじまじと見つめあう。

 

 染めていないのであれば日本人としては珍しい薄茶色の、毛先が緩くウェーブのかかった髪の少女は上から下まで私のことを見るとなぜか胸に手をやると、

 

 

「私より小さいのに、私より大きい……だと……?」

 

「どこ見て言ってるのかなぁ!?」

 

「身長と胸」

 

「ストレートにセクハラ!」

 

「ふっ。だが、腰から脚にかけてのラインは負けていない────ふぎゃっ」

 

「何をしているのかね君は、と言うかまた女性のお客様に絡んで…………む?」

 

 

 最初は愕然とつぶやいたと思ったら、堂々とセクハラ発言に移る女の子*2の後ろから、色黒の手が伸びた。かと思えば、そのまま頭をわしづかみにすると、ギリギリと音を立てそうなくらいに力を込めていく。

 

 女の子の方も「ぐぅぇええ……!」と女の子が上げるには残念なうめき声をあげる*3が、それを無視して店内から出てきた色黒の男性は溜息を吐き、私の方を見るといぶかしげに眉を顰める。

 

 その鋭い視線に思わず身体を固くするが、ふと眉間のしわが薄れぎこちなげに微笑まれた。

 

 

「いらっしゃい、お嬢さん。二年……いや、三年ぶりかな?」

 

「え、あ、その、はい。えっと、りつ、じゃなくて、待ち合わせなんですけど」

 

「ああ。彼なら中に居るとも」

 

 

「さぁ、どうぞ」と、少しからかうような、微笑ましそうな口調で店長さんは(アイアンクローを維持したまま)スッと身を引く。

 

 店内に入る前に、一度さっと身だしなみを整えてからドアをくぐる。自然と口角が上がるが、抑えようもなく。フワフワと弾む心も、抑えることもなく。

 

 ────ただ、懐かしい名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

「────立香!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……………………くぅおおおぉ、来た~!」」

 

 

 ……………………なんか、でっかいかき氷をほおばって苦悶している。隣にはさっきの女の子に似た男の子が一緒に頭を押さえている。

 

 なんか見たことあるなぁとか、やっぱり血のつながりがあるんだなぁとかも思ったが、それ以上のやるせない気持ちを込めて、私は全力でカバンに入れておいたぬいぐるみを投擲した。

 

 フォウ君、このスカポンタンに鉄槌を与えたまえ―!

*1
ミネちゃんが芋娘スタイル(私の服装)にダメ出しして、急遽ファッション教室開講

*2
無表情である

*3
なおも無表情である





 というわけで、お待ちいただいた皆様、半年ぶりでございます。恥ずかしながら駄作者は帰ってまいりました。

 書きたいことと書かなければならないこと、登場させなければならない人物と登場させたい人物。
 それらのかみ合わせを考えていたら、リアルでコロナの再流行だ、シフトの急遽変更だ、今度はインフルだと、あれこれ面倒なことが起き、執筆作業というか娯楽に身が入らず離れておりました。

 落ち着いた後も勘が戻らず、感想返しもろくにできずにおりましたが、メフィストをヘビロテしながら二度三度書き直しつつ、とりあえず投稿させていただきます。
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