夜空の綺羅星は、青空に癒されたい   作:アッド・ウィステリア

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長くなり過ぎたので前中後編の三部に分けます。後編はちょっと推敲に時間かかりそうなので中編を緊急投稿。
あと前回明らかにすると言ったが、まだ伏せ字だ。すまぬ。



Ⅱ. 疑似■■■■モデル ■■■■・■■■■■■■②

 ややあって、場が落ち着きを取り戻したところで、ゴルドルフ新所長から場を譲られて半人半馬(ケンタウロス)の賢者、ケイローンが前に出て話し始める。

 

「さて、この場をお借りして、マスター。英霊を代表して私から貴方へ言わせていただきたいことと聞かせていただきたいことがあります」

 

「――えっ」

 

「そう構えずとも大丈夫。授業やテストの時のようにアドバイスや評価、反省点の聞き取りではありませんから」

 

 思わず身構えてしまったが、その言葉にほっと息をつく。後ろで「大賢者の授業っ!?」とロリ所長が唖然としている気配がするが、ケイローンへ意識を集中する。

 

 真っ直ぐケイローンの目を見上げる俺を見て、彼は満足そうに微笑み、そのまま片膝をつき頭を垂れた。やめてほしい、という思いは――

 

 

 

 

「集いし英霊を代表し、不肖ながら私、ケイローンが奏上させていただく」

「我らが今生の主よ。御身がマスターであったことを我ら英霊一同、心の底から誉れに思います」

「――貴方が我々のマスターで、良かった」

 

 

 

 

 ――溢れんばかりの敬服の念が込められた言葉と、顔を上げた時に見せるそれ以上の親愛を覗かせる瞳を前に、言葉にすることはできなかった。

 

「……俺は何もしていないよ。特異点でも、異聞帯でも。人理焼却も人理漂白も、全部、皆がいたからできたことだ」

 

「ええ、そうですね。途中から参陣した私が言って良いものではないのでしょうが、あえて言葉にしましょう。

 ――貴方はこの場の誰よりも、無力だ」

 

 僅かに遅れた俺が口に出した本音(弱音)を、ケイローンは軽やかに肯定し、罵倒の言葉を吐き出した。カルデアのスタッフがざわつき、しかし英霊たちは涼やかに眺める。……いや、一部いきり立ってるけどって、あ、鎮圧された。

 

 鎮圧されたサーヴァントを尻目に、いかに英霊と言えど今の発言は看過できんと困惑と怒りをにじませてカルデアのスタッフが前へ出る。

 

「い、いきなり何を言いだすのだね、賢者ケイローン!?」

 

「ただ事実を。……続けますよ。英霊は言うに及ばず、通常の聖杯戦争であれば必須の魔術師としてのスキルも何一つ備えていない。他のスタッフのような専門的な技術も技能もない」

 

「そりゃ当たり前だろうが! コイツはな――っ!」

 

「そう、数合わせのためだけに、いきなりカルデアへと連れて来られた補欠同然――それが貴方です、マスター」

 

「ケイローンさんっ! 何故そんな――「いいよ、マシュ。全部、事実だから」いいえ、良くありません! だって、先輩は、マスターは!」

 

「うん、分かってる。だから、大丈夫」

 

 いきり立つマシュを宥めながら、ただ真っ直ぐケイローンの目を見据える。……うん、やっぱりそうだ。言葉は侮るようでも、ケイローンの瞳には侮蔑の色は浮かんでいなかった。

 

 それを察した俺の心を察したのか、ケイローンもほうっと満足そうに息を吐き、そして微笑んだ。

 

「ああ。本当に成長なさいましたね。マスター」

 

「成長っていうか、さ。ちょっとだけ、開き直ることにしたんだ」

 

「ええ、そうなのかもしれません。ですが、それが難しいのです」

 

 そう口にするケイローンは自嘲するように、実際に悔やんでいるようにさえ見える調子で口を開く。

 

「長い時を過ごすほど、道を突き詰めれば突き詰めるほど、そこから外れることは難しくなるものです。……我々英霊など、特にそうだ。

 生前抱いた信念と諦念。そこから端を発する聖杯にかける願望。聖杯を巡った闘争の因果から逃れようとすら思わなくなる。

 ですが――――貴方は我々の信念に寄り添い、諦念に向き合い、願いを否定することなく、因果を断てずとも懸命にそれを解きほぐして、手を取り合うことはできなくとも背を預けることができる未来を模索してくださいました。

 その行いがどれだけ我々の救いとなったか…………きっと貴方はわからないのでしょう。ですが貴方のその当たり前のような優しさ、平凡な善性こそが、我ら英霊にとって何よりの標となったのです」

 

「それは……買い被りすぎじゃない?」

 

「いいえ、そんなことはありません。我々が貴方の旅路を導く『星』ならば、貴方こそ我々の足下を照らす『灯』だったのです。……少なくとも、カルデアの方々にとってはそうだったはず」

 

 「そうでしょう?」と、俺ではなくカルデアのスタッフたちに向けられたその言葉に、そっと後ろを振り返る。マシュが、所長たちが、ムニエルたちカルデアのスタッフが怒りを鎮めて、照れたようにそっぽを向き、あるいははにかみながら首を縦に振る。

 

 ケイローンに向き直れば、その後ろに見える英霊たちも誇らしげに俺を見据えていた。中にはにやりと笑みを浮かべたり、グッと親指を立てている者たちもいた。

 

 その視線に耐え切れず、思わず緩みそうになった口元と涙腺を隠すように俺は片手で口を抑える。……ヤバイ、顔(あっつ)い。今、俺真っ赤だ。

 

 恥ずかしさと誇らしさで溢れそうな胸中を、必死に抑えて口を開く。

 

「……そっ、か。じゃあ、俺も少しは誇ってもいいのかな?」

 

「勿論ですとも。大いに胸を張り、誇っていただかなければ。そうでなくては我々の立つ瀬がありません」

 

「プハッ!」

 

 おどけるようなケイローンの挙動と実に困ったと言わんばかりの声音に、思わず吹き出して、そのままクツクツと笑ってしまう。

 

 ――――嗚呼、全くこんな不甲斐ないマスターについて来てくれた英霊(ヒト)たちに、本当は自分から感謝を伝えるべきなのに、こんなことを言われてしまっては誇らざるを得ないじゃないか。

 

 溢れそうな涙を何とか押し戻し、顔を押さえていた手を外してしっかりと向き合う。

 

「あーもう……分かったよ。その誉れはありがたく頂戴します……でいいかな?」

 

「はい。これを、まずあなたに伝えたかった。続いて、ええ。聞きたいことになります。()()()()()()()()()()()()()()のですが、よろしいですか?」

 

「うん、何かな?」

 

 

 

()()()()()()()?」

 

 

 

 ――――嗚呼、全く。本当に不甲斐ない。

 

 人類最後のマスターだとか、汎人類史の生き残りだとか、そういう重圧(プレッシャー)が無くなって、油断した。

 

 僅かでも心を透明に、感情を少しでも凍り付かせるが――器で言えば溢れかえる直前、表面張力ギリギリでせき止めていた(思い)が凍りついたらどうなると思う?

 

 ………………まだ凍っていない部分から、零れるんだ。

 

「……何が?」

 

「汎人類史は確かに取り戻しました。であるなら、次はマスター。貴方が()()()()()()()()()()()()()、と言ったのです」

 

「……まだ帰れない。まだ人理が安定している訳じゃないからね」

 

「ではその後に? 人理焼却の時は一年ほどで事件が起き、その一年後に漂白された、と聞き及んでいます。であれば二年も勤続すれば十分でしょう。ミスシオン、そちらの計算結果は?」

 

「あ、()()私に振っちゃうんですね。いやまぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。実に合理的ですが、もうちょっと人の心とか考えてほしいところです。私が言うな、って言われるかもしれませんが。

 …………私の演算でも、トリスメギストスⅡの方も、人理存続に関わるほどの出来事(アクシデント)は年単位でシミュレートしても、今後百年は見当たりありません。言うまでもありませんが、運命とは変動するものですし、最初の一年はまだ揺り戻しのようなトラブルはあると思います。…………ですが、『人理漂白』という重大な問題(ロジックエラー)に限って言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――とのことです。マスター、どうされるつもりですか?」

 

「どう、と言われて、も…………」

 

 必要もないのに、口の中が渇く。ジクジクと、胸の奥で何かが騒めく。

 

 

 

 思考が、纏まらない。

嘘を吐くな

 

 

 

 心を透明にできない

もう必要ない

 

 

 

 感情が止まらない。

止めなくていい

 

 

 

 それでも俺の口が溢したのはマスターとしての言葉だ。

 

「…………俺は、カルデアのマスターだよ……? 帰る訳には、行かないんじゃない、かな?」

 

「………………それで、良いのですかマス「そこまでにしておけ、汎人類史の賢者よ」――始皇帝殿?」

 

「……始皇帝? って、うわ!?」

 

 いつの間にかうつむいていた俺の視界の端に映る、青を()()()ような銀。顔を上げて目を向ければ、男とも女とも見える、あるいは性の別を超えた、ただ『人』と呼ぶにふさわしい英霊が俺の傍に立っていた。

 

 始皇帝。中華全土を初めて統一し、世界で初めて『皇帝』を号し――――異聞帯において不老不死を実現し世界全土を征服、統治し続けた絶対君主。

 

 そんな『人』が大分、猥雑に俺の頭を撫で繰り回し始める。

 

「こういう聞かん坊に言葉など届かん。聞かん坊にはな――――こうするもの、だっ!」

 

 撫でるというよりかき混ぜるといった方がいい乱暴な手つきの感触が消えると――――ガツンッッ、と衝撃が降って来た。頭頂から脊柱を紫電のように貫いていき、次いで熱、痛みが脳天を焼く。

 

「――――――――っ、~~~~~~いっっったぁ!? 何するんだよ!?」

 

「ド喧しいわ、莫迦者がっ! なんだその情けない姿は!!」

 

 振り落とされた()()の余りの痛みに頭を押さえて呻き、抗議の声を上げるとそれ以上の大喝が返って来た。

 

 そのまま胸ぐらをつかまれ無理やり立たされると、先の剣幕を保ったまま捲し立てられる。

 

「よいか、其方は『真人』たる朕と覇を競い、打ち勝って見せた『人民』、その代表である! そして『異星の神』――「終末を齎す」とかいう、怪しいセールス染みた触れ込みの『獣』を討つ、という大義を見事果たしてみせたのだ! それを理解しておるのかっ!?」

 

「っ、そんなの分かって――」

 

「分かっておるのなら、何故褒美を受け取らぬ! 何処(いずこ)の凡百共ならいざ知らず。この朕をもってして唯々、『見事』と言わざるを得ん偉業を成し遂げておきながら、褒美を受け取らぬなど! 『不敬』という言葉を遥か斜め上空、成層圏を亜音速でかっ飛ばして地球を三周させても足りんわ!!」

 

「いや、この状況で褒美もなにも」

 

「一言、口に出せば済む話であろう! 『()()()()()()』と!!」

 

 

 

「――――――言えるわけがないだろうが、そんなことっ!!」

 

 

 

 





藤丸、激昂。
しかし、誰かを言葉で泣かせるには、誰かに言葉で泣かされる経験が必要だ。感情を爆発させる経験も。

というわけで次回、藤丸くんには思いっきり泣いてもらいましょうね(ニッコリ
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