夜空の綺羅星は、青空に癒されたい   作:アッド・ウィステリア

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前提:星野アイは嘘吐きである




2. 空は後に回す、星は未だ惑う

 しばらくの間悶絶し、ようやく落ちついたところで職員さん呼ばれて夕飯のお時間である。

 

 カルデアの記憶に関しては考えても考えても答えが出なかったので、いったん棚上げすることにした。記憶の齟齬に何か変化があれば、あるいはさらに思い出すことがあればその都度考えようと思う。

 

 施設での食事は5~6人くらいで集まってテーブルを囲む形だ。決まったグループはない。時折、職員さんたちも混じるが、基本的には年長の者が年少の子供の世話を焼きながら食事を共にする。

 

 とはいえ、それぞれの理由があって施設へと預けられてしまった子供たちだ。親を思い出して泣き出してしまう子、偏食で好き嫌いのとにかく多い子、他の子の分にまで手を出して喧嘩してしまう子達だっている。

 

「ねぇねぇ、ふじまるお兄ちゃん、今日ね――」

 

「へぇ、そんなことがあったんだ」

 

「へへ、これもーらい!」

「ぅ、うわぁぁぁん! 私のおやつとられたぁぁ!」

 

「はい、オレの分あげるから泣かないでミミちゃん。タツも今日はおかずのお代わりもあるからそっちも食べなよ?」

 

「…………」

 

「ユゥ? ご飯だけじゃなくておかずも食べないとだめだよ? はい、あーん」

 

「……あむ、モグモグ」

 

 その中ではオレが座ったグループは比較的おとなしい方だと思う。現在、施設にいる子供の中では今の自分は年長の方で、食事のグループのまとめ役になることが多い。自分より年上の人と一緒になることもあるが、それでもお世話役をやっていることが多い。

 

 ナーサリーやジャックたちとの交流の結果、どうも子供たちに懐かれやすくなってしまった。勿論、入りたての子とかの例外はいるけれど、大体自分が囲うテーブルはこんな感じで和気藹々とした雰囲気だ。

 「藤丸君がいるところは大人しくて助かるわー」と言っていた職員さんもいる……が、あまりそういうことを言わないで欲しい。直接俺に言うのは良いけど、他の子どもに聞かれたらどうするのかまったく。

 いやまあ、衣食住はしっかりしてるし、職員さんも親切だし、カルデアの記憶がなければ気にも留めていなかったんだけど。……俺、カルデアですごく守られていたんだなぁ、と身に染みて実感する。

 

 今日の夕飯である生姜焼きに箸を伸ばす。……うーん、生姜焼きとか好物なんだけどなんか物足りない、と思えてしまうのも、記憶が二つある弊害と言えるだろうか。マヨネーズが添えられたキャベツの千切りとスライストマトはまあ良いけど、お味噌汁はだしの風味がいまいち。

 ……あー、エミヤとかキャットのご飯食べたい――紅女将は流石にだめだ、職員さんに失礼過ぎる――むしろキッチンに立たせてほしい。帰るまでの最後の二年で叩き込まれた、ヘルズキッチン仕込みの包丁捌きが唸りをあげるよ? 

 

「…………………………………………」

 

「――、星野さん?」

 

「うん? どうしたの藤原君?」

 

「…………ううん、何でもない。あと俺『藤丸』ね」

 

 ふと感じた視線が気になりそちらに視線をやると、とある女の子と目が合った。

 

 光の加減で紫色がにじむ艶やかな黒髪に、まだ幼いながらに整った美貌。

 これだけでも人目を引きつけるところへ、()()()()()()()()輝きを宿すその瞳で見つめられればふらふらと思わず引き寄せられてしまいそうだった。

 

 彼女は、星野アイ。

 

 俺から見て二歳年下の彼女のことで知っているのは、名前と人づてに聞いた()()()()()()()()()()()()()()()の二つだけ。

 

 今日のようにテーブルを囲めば談笑することもあるけれど、それ以外の時は特に関わりを持たない知人ではあるが友人とは言えない間柄で――――というか、避けられているような気もする。

 

 いや、誓って言うが俺が彼女に何かした、ということはない。少なくとも俺に心当たりはない。

 

 もちろん施設の中には折り合いが悪い相手もいるのだが、彼女とはそもそも接点そのものが少ない。

 

 彼女自身はあのルックスだし、如才なく人と付き合う。俺と共通して仲良くしている子もいるのだが、なんとなく顔を合わせる機会が少ないのだ。

 

「…………」

 

「……そんなにじー、と見られると照れちゃうなぁ」

 

「っと、ゴメン。嫌だった?」

 

 ふるふるとかぶりを振ると、星野さんは食事に戻る。俺も食事に戻ろうとして、ふと思い浮かんだことを口にしていた。

 

「星野さん」

 

「むぐ?」

 

「ご飯、苦手だったら()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 


 

 

 

 

「苦手だったら、()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に思わず、苦手な白米を掬おうとした箸が止まった。

 

 彼を見る。白米と同じか、ある意味ではそれ以上に苦手な彼。

 

 名前はふじ……ええっと、確か『藤原』君。

 

 私の二つ年上。黒髪には少し癖があり、顔立ちはどちらかというと童顔だけど、感情の変化で受ける印象の差が激しい。

 

 でもそれ以上に私が印象に残っているのは、日本人としてはあまりに珍しい青い瞳。

 外国人の血が混じっているのだと、職員さんに聞いた。女の子たちは『宝石みたい』だと言う。

 

 けれど、私は、彼が向けてくる『青』が苦手だった。

 

 

 

『――あんまり無理しなくていいんだよ?』

 

 

 

 施設に入所したばかり、先にいた子達と仲良くなろうとしていた時に目を合わせて彼はそう言った。そして言葉以上に、雄弁な『青』は今もはっきりと目に焼き付いている。

 

 あの『青』で見られると、私の『本当()』が全部浮き彫りにされそうで、不安になる。『全部わかってるんだぞ』と言われているようで、怖くなってしまう。

 

 『青』に見つめらないように、私は彼の行動には注意を払った。『青』に見つからずに行動できるように観察しているうちに、彼の言動はとても『誠実』なのだと思うようになった。

 

 勉強している時の真面目な表情、小さい子たちと遊んでいる時の優し気な微笑み、男の子たちとサッカーをしている時の負けん気がにじみ出る笑顔。表情のすべてに血が、心が通っている……周りに合わせた(『嘘』で形作られた)私の笑顔と違って。

 

「別にそんなことないけど……いきなりどうしたの?」

 

「ん、いやなんとなく食べづらそうだなって思って。それに今日の生姜焼きのタレはパンに合うと思う」

 

「いや、でも生姜焼きは和食じゃない?」

 

 けれどそんなところは彼の前ではおくびにも出さない。一部の隙も無いように私は笑顔で彼に答える。……後、生姜焼きはご飯がいいと思う。苦手だけど。

 

 彼は茶碗の中の白米を平らげるとキッチンへ向かい、戻ってくるときに食パンの入った袋とスプーンを携えていた。

 

 食パンを一枚手に取り、添えてあったマヨネーズを塗って片面にキャベツとトマト、もう片面には生姜焼きを乗せて半分に折る。出来上がった即席のサンドイッチは意外と美味しそうだ。

 

「…………じゅるり」

 

「アハハ、ユゥも食べてみる?」

 

「……味見」

 

「あ! りつかにーちゃんたち、うまそうなのたべてる! ズルい!」

 

「えー、でもタツはトマト嫌いだよね。これは食べれないんじゃないかー?」

 

「べ、べつにきらいじゃねーし! トマトなんてすげーすっぱいだけでよゆーだし!?」

 

「ふじまるお兄ちゃん、あたしも食べたい!」

 

 なんて思っていたら瞬く間に彼の周囲は騒がしくなる。人当たりがよく、根気強く接してくれるからか、彼は年下の子達からはとても人気がある。なのでこういう夕食時とか、学校が休日の時とかは大体わちゃわちゃと群がられている。

 

 まあ別に、私としては、彼の()が離れるので、丁度いいのだけど。

 

「星野さんはどうする? 一つ食べてみる?」

 

 …………訂正、離れてなかった。いや、うん、六人掛けのテーブルで、私は彼の斜め向かいにいるから当たり前だけど。

 

 その日の夕食で最終的に、私は生姜焼きはサンドイッチ派に転向した。

 

 私が残してしまったご飯は、「食べないと大きくなれないから」と言って彼が食べきってしまった(残すと体調や偏食を心配され、職員さんに何かと介入されるのだ)。

 

 ああ、もう――

 

「――本当に、苦手だなぁ」

 




早くイチャつかせたいけど、めんどくさい部分も書かないとイチャイチャ中の温度とか湿度とか、粘度が上がらないよね、ということでまだ導入。
我ながら書いてて拗れてんなぁ、とか思った。

ちなみに作者としては藤丸が12歳、アイが10歳くらいのイメージで書いてる。正直、自信はないけど許してくれぃ。

他のチョイ役子供たちはタツとミミだけFateから流用、もう一人は適当に名前を付けた。一応設定としては言動が粗暴で周りから奪おうとしてしまうタツ、情緒不安定ですぐに泣きだしてしまうミミ、無口無表情ほっとくとご飯やパンばかり食べる偏食のユゥ。名無しの子は赤ん坊のころから施設育ちで純粋な天使。多分全員もう出てこない。

本文には書かなかったが、どんなに天才的なアイドル(噓吐き)と言ってもまだ子供の時分なので、職員さんはアイの行動に気づいて(ニヤニヤして)いる。

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