アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:レポートの締めと色々自覚していくうちの子とお詫びの品の調達と。
どうしても他で出てる情報との擦り合わせを考えると、色々弄らにゃならないこのエリア。ほうれんそうどうなってんや?
で、アニメ編の終わりが見えてきた今日この頃、この調子だと第二部は相当不定期だろうなぁと…気力の続く限りでよければ、お付き合い頂ければ幸いです。
ちな今回もゲストあり。


置いていかれたモノ

「あれ、雪華?」

 

「やっほ、その調子だと問題なさそうだね」

 

 翌朝、そういえば結梨ちゃんの検査今日もあったっけと、医務室の前の壁にもたれて少し待てばお目当てのお姫様が飛び出てくるので、片手を上げてご挨拶を。

 

「うん。ところで梨璃たちは?」

 

「なんかさっき梅から『面白いところ見付けた』って連絡来たし、多分そこかなぁ?」

 

 いつにも増して要領を得ないというかふんわりとした表現だったけど、どうせ猫を追ってたらたどり着いたとかそんなとこだろう。

 

◆◆◆

 

「で、梅は朝っぱらから何してんのさ。二股かい?」

 

 林を抜けた崖際に柵とベンチだけポツンと置かれている、休憩所のようなところ、そこに結梨ちゃんを連れてたどり着いてみれば、見慣れた緑髪が左右の腕でベンチに座ってる二人を後ろから抱き寄せてる様子が。

 その被害者は、色的に二水ちゃんと鶴紗ちゃん? なんだその組み合わせ。てか、二水ちゃんに手ぇ出したら日羽梨が泣くぞ。

 

「んー? いや、梅は当分シルトを取るつもりなんてないゾ? こんぐらいレギオン内のスキンシップだろ」

 

「……にしては、なんか湿度高かったですけど」

 

「わ、わたしは久しぶりに妹なんだなって実感が……」

 

 じとーっと咎める鶴紗ちゃんと反対に、二水ちゃんの方は大分照れが入ってるけど、その正反対な対応を受けても、梅は両手を腰に当ててあっけらかんと構えている。

 

「アハハ、そりゃあ梅の方が二人より『お姉ちゃん』だからナ、もっと普段から甘えてくれていいんだゾ?」

 

「お姉ちゃん、ねぇ」

 

「ところで梨璃、夢結はどこ?」

 

 そんなやり取りには我関せずと、鶴紗ちゃんを挟んで二水ちゃんの反対側、私から見てベンチの奥側に座っている梨璃ちゃんの膝上に結梨ちゃんがちょこんと乗りながら訪ねているのを見て、確かに何人かいないというのに気付かされる。

 座ってる三人とそれに絡んでる二人、後ろから見守る位置に神琳さんと雨嘉ちゃん、そしてなんか怨めしそうに茂みから覗く──

 

「いや、なにそのへんたいふしんしゃさんムーヴ?」

 

「だーれが不審者ですって!?」

 

「あ、楓だ」

 

 プンスカと飛び出して来た楓さんと私を入れて九人、残りは……まあミリアムちゃんは昨日の騒ぎからどうせ百由とエナドリ浸けの日常としても、梨璃ちゃんがいるのに夢結がいないというのは確かに意外だ。別に、今日は誰かの誕生日ということもあるまいに。

 

「となると、梨璃ちゃんは夢結探してたらこんなところに?」

 

「……はい。美鈴様のところかな、と思ったんですけど」

 

 なんで美鈴? ああいや、あの柱(?)見えるしここからお墓結構近いか。にしても今更あいつのところって……

 

「くんくん……梨璃?」

 

「うん、ちょっとね……」

 

 何かを察したのだろう結梨ちゃんの頭を撫でていても、どうにも元気のない様子からして、昨日帰ってから夢結と何かあったのかとわざわざ梨璃ちゃんに聞くよりは、本人を捕まえた方がいいかな。

 

「さて、そろそろ午前の講義だし、戻らないとね」

 

「えー、もうちょっとくらい景色眺めててもよくないかー?」

 

「冗談。梅のサボり癖に後輩たちまで付き合わせてられるかっての、はい立った立った」

 

 梅と鶴紗ちゃん、結梨ちゃん……以外にも神琳さん辺りにはそろそろバレるだろうとしても、とにかく自分に気を取られてて学業を疎かにしたとか、夢結の方こそが気にしかねない状況にはしてられんなと、無理矢理スイッチを切り替えろと手を叩いて急かす。

 

 さて、一難去って今度は何がどうなってるのやら……嫌な予感は『まだ』しないけど。

 

◆◆◆

 

「……コーヒー豆、ですか?」

 

 昼休み、学食で一柳隊の一年一同が昼食中なところに押し掛けて『一応昨日の内に送っといたぞ』と講義終わりに姉さんからメッセージがあったからと、裏門の方へ受け取りに行ってた例のブツを鶴紗ちゃんへポイっと渡せば、中身を確かめた彼女の隣に座っていた梨璃ちゃんも当然反応する訳で。

 

「鶴紗ちゃん、コーヒー淹れられるの?」

 

「……まあ、嗜む程度には。ところで、いきなりなんなんです?」

 

「何が?」

 

 鶴紗ちゃんの問いにはわざとらしくとぼけてみせるけど、いきなり物を渡して何もないなど我ながら苦しいなとは思ってる。

 

「……昨日のことなら、わたしは気にしてないですから」

 

「あたしの方は気にしてんのよ。ま、趣味に合わないようなら折角だし皆に淹れてあげたら?」

 

 さて、これで最低限用事は終えたけど、一年全員ということは朝いなかった顔もいるわけだし、一応の確認を。

 

「ところでミリアムちゃん、今日夢結見なかった?」

 

「ん? いや、百由様の所には来てないはずじゃが」

 

 こっちは空振りだし、鶴紗ちゃんに渡した袋の中を結梨ちゃんと左右から覗いてる梨璃ちゃんも、朝と変わらずどうにも空元気っぽさが否めない……んー。

 

「しゃーない、行きますか……」

 

「あら、ランチは食べて行かないんですの?」

 

「ちょっとやることがね、かったるいけどさ」

 

 面倒だからとやらない訳にもいかないし、楓さんへの返事に手を振りながら学食を後にする。生憎、こうしてやる気になったからにはレギオン内のトラブルくらいは解決しに動かないと、満足出来ないんでね。

 とはいえ、学校で一人になりたがる時に行く場所ってなると……わりと多いな。

 

◆◆◆

 

 結局心当たりを虱潰しにしても昼休みの残りでは見付からず、午後の訓練もレギオンごとの日なら、悪いけど抜けさせてもらって夢結を探すのを優先するかな。

 当然梨璃ちゃんに直接話をしたら理由を聞かれるのは目に見えてるし、梅を伝言役に挟む形にはなるけど。

 

「で、こんな時間にサボりですか?」

 

「いや、この調子だと夢結はお昼も食べてなさそうだし、実際あたしもあの子探してたら抜く羽目になったしで、最低限お茶とおにぎりくらいは……っと、私はこれにしよ」

 

 その前に先立つ物がないとままならないなと購買部での補給から入ることにはしたけど、当然本来訓練中であるはずな時間の来客に店員さんには色々言いたそうな感じにはされても、しょっちゅう周りの奇行に振り回されてるせいで聞き慣れてしまった発狂モード(あー困ります!)じゃないのなら、別に誰にナニを言うこともないだろうと夢結に渡す分とは別に、自分用にはカツサンドとオレンジジュースを取ってカウンターへ。

 

「えーっと……よし、小銭足りた」

 

「はーい、お買い上げありがとうございますー。にしても雪華さん、少し雰囲気変わりました?」

 

「……そう、見えます?」

 

 お会計を終えてそんなことを言われるけど、高等部上がってからずっとちょこちょこ顔を合わせてる店員さんが見て感じたのなら、まあそうなんだろうね。

 

「具体的にどう、とは言えませんけど、何かを背負ったような空気が」

 

「むしろ、多すぎる背負い物を減らしたくて動いてるつもりなんですけどねぇ」

 

 もう今年も7月、あと半年とちょっとで私が百合ヶ丘にいれる時間は終わってしまう。だから、なるべく心残りが少なくなるように、動ける内にやれることはやっておきたい……というだけの話。

 

「とりあえず、この辺りで夢結さんの目撃情報がないってことは確かです。朝から何人かちょくちょく探しに来てましたけど、空振りだったみたいですし」

 

「ま、そうですよねぇ。ホント、あの子にもいい加減『孤高』と『孤独』は違うって分かって欲しいんですけど……ハハ、あたしに言えたことでもないか?」

 

 今更ぼっち気取りなつもりはないけど、前のレギオンを自然消滅させた言い訳には使ったし、今もこうして周りに黙って一人動いてる時点で、そこまで偉そうには言えないだろう。

 

「でも、雪華さんだってこの間東京からわざわざ救援が来てくれたって話じゃないですか」

 

「あれは大分インチキ使ったというか、手段は姉さんがなんとかしてくれただけっぽいんですよねー」

 

 流れはともかく形式上は烏丸重工、その就任したてな新社長からダイレクトの依頼だなんて立場と経路で色々と黙らせた感じだし……まあ、使えるコネは全て使えと、誰に話してもそんな感じのことを言われるんだろうけど。

 

「零夜さん、まさかの卒業して数ヶ月で社長就任ですもんねー。何か聞いてました?」

 

「元からおじさま……前の社長な刀夜さんが婿養子だからその内『本来の持ち主に返すつもり』みたいな話は聞いてましたけど、大分急ぎになっちゃったとは思いますね」

 

 あんな急に動かないといけなくなったのも、政府の行いが想像以上に愚か過ぎたから絶好の隙だって以上に、今行動しなきゃ色々取り返しが付かなくなるラインを越える状態になってしまってたんだろう。

 姉さんたちのやり口にしては意外なくらいゲヘナへ直接の追及を避けたのも、証拠だとかの都合で文句も言わせず潰せるのが政府内部の過激派だけだったから。でもなきゃ、あの姉さんが──烏丸零夜がゲヘナを被害者のように扱うもんか。万が一そうだったとしても、被害者面出来るラインなどとっくに越えていると、誰よりも知っているあの人が。

 

「まあ、軍を正当な理由もなく動かしたなんて、そんな無法を通してしまったら世も末でしょう」

 

「だからそいつらを処罰することで、やらかせばお前らもこうなるぞって威嚇に……いや、首謀者を逃がした? 姉さんが?」

 

 こういう時、姉さんならふん縛って何処かの敵対勢力にポイが基本だし。社会的正義って御旗の下に『始末』したにしても()()()は逃亡したんで行方不明ですねとすっとぼけてるだけな方が、あの人の元シルトとしてはしっくり来る。最早死んだことすら公開されないぞと、暗に示すために。

 

「なんか悪化してないかなぁ、霊奈さんとか今更ブレーキになるはずもないし」

 

「二人でラボへの襲撃計画しょっちゅう立ててるの、百合ヶ丘じゃ公然の秘密でしたからねぇ」

 

 しかも寮の部屋やレギオンの控室なんてプライベートな場どころか、購買や食堂で何か食べながら雑談感覚でやってるなんてのもザラだったんだから、なんというか。

 

「……って、今はこれ以上姉さんたちのことはいいや。じゃあ先にサボってる子探して来るんで」

 

「はい。いってらっしゃい」

 

 一応店の体を取っているところを出る挨拶にはおかしいかもしれないけど、嫌な気もしないのだからまあいいかと去り際にサムズアップを返しておこう。

 

◆◆◆

 

「さて、空き教室とかベタなとこは粗方回ってみたけどなぁ……なんか知らない?」

 

 しばらく校舎内を探してみても特に誰の姿も見えないから、懐から出した認識票──当然私のではなく、いつぞや百由から預かったはいいもののしばらく部屋の引き出しにしまったままだった美鈴のそれに、答えなんて返ってくるはずもないのに尋ねてしまう。

 

「……やれやれ、こういう時面倒なのは姉妹揃ってか」

 

 勿論そんなことの責任が美鈴にあるはずもないけど、八つ当たり半分でチェーン越しに指で振り回すくらいならバチは当たらな……あっ。

 

「だぁもう、面倒増やさないでってば」

 

 ダメな時は何をやってもダメだと言わんばかりに、すっぽ抜けた認識票を落とさないように少し駆け足気味にキャッチすると、そこへ曇り空故に弱めとはいえ、外からの光が差しているのは──

 

「……屋上?」

 

 なるほど、ベタと言えばベタな場所ではある。なんて変な納得をしながら階段を登って半開きになっていた屋上のドアを開ければ、そこでお探し中だった黒の長髪が所在無さげに風に揺られていた。

 

「……雪華様」

 

「随分くたびれてるねぇ。はい、とりあえず何か入れとかないともたないよ?」

 

 今度は何があったのやら、またもや大分メンタルが弱っているように見える夢結に差し入れを押し付けながら、私は私でカツサンドの包みを開ける。

 

「…………」

「…………」

 

 強引な形になろうと、夢結も人からの好意を無視するような礼儀知らずではないから、しばらく二人で黙々と食べる光景が続き、渡したペットボトルのキャップを閉めた後、夢結の方からポツポツと語り出す。

 

「雪華様は、『ラプラス』のことをどこまでご存知ですか?」

 

「ラプラスぅ? 噂以上のことは知らないし、正直眉唾物だと思ってるけど」

 

 前に百由辺りから聞いた覚えのある、まだ色々と存在すらあやふやな代物。そもそも覚醒者が少なくまともなデータもほとんどない『カリスマ』の上位スキル──なんて物がなんで既に認知されてんのか、って話である。

 というか、それならカリスマをサブスキルと分類してなきゃおかしい訳で、どうにも色々と『妙』だとしか言えないレアスキル、それが私からしたラプラスとやらの認識。

 

「……美鈴お姉様が、そのラプラスに覚醒していた疑いがあるそうです」

 

「んん?」

 

 ここで美鈴の名前が出るのも、疑いがどうこうとか言われるのも、何もかもが分からん。あいつはもう死んだ、死んだ人間が今更何をやれるというのやら。

 

「近頃の由比ヶ浜ネストからのヒュージの異変、その理由が()()()()()()に目覚めていた美鈴お姉様の影響を受けた、わたしのダインスレイフがあのヒュージに取り込まれていたことにあると……」

 

「……はんっ」

 

 なるほど、昨日上層部のヤツらにでも呼び出されて、噂を真に受けたコトを言われたか──と、急に感情が冷めていくのを感じる。曰く『マギに関わる全てを操る、支配のスキル』だとかいう、馬鹿馬鹿しいにも程がある与太話。

 そんな不確かなネタで夢結を揺さぶった状況を鼻で笑うと、私個人の見解をぶつける。

 

「ま、そういう何も分かってない言い方をするヤツらって、リリィもヒュージもひとくくりに『よく分からん力を使う化け物だー』ってアホなこと言ってる連中だろうし、そういう()()な言い分を想定して動かないと行けないのがガーデンのお偉方だとしても、ねぇ?」

 

 大分感じが悪くなっている自覚はあるけど、いきなり死んだ知り合いのことを好き勝手言われて、はいそうですかと納得する程良い子ちゃんのフリをして生きてきたつもりはないし、これからもしないだろう。

 

「……ですが」

 

「じゃあひとまず、そのラプラスとやらが連中の言うようなマギが関わるならリリィもヒュージも意のままに操れる、さながら〈都合のいい神様〉みたいな全能の力だとしよう。なら、なんでそんなご都合主義の塊みたいな物を持ってるはずな美鈴は、あの夜甲州であっさりと死んだの?」

 

「それは、わたしが「はいダウト」

 

 夢結のせい? だとするならばこの話の前提は即座に崩壊するね。どこの世界に、自分の命の危機だってのに万能チートを出し惜しむ馬鹿がいる?

 本当にマギに関わる物をなんでもかんでも自由自在に操れるのなら、近くのヒュージを盾にでもすればいいし、わざわざ身を投げ出さずとも、直接手を触れなくてもいくらでも夢結を止める手段はあっただろうに……それでもいつかのビジョンでのあいつは、川添美鈴は己が身を差し出してまで『ルナティックトランサー』の暴走する夢結を止めた。

 

「仮にそうだとしたら、その時点で“なんでも操れる”ってそいつらの都合のいい前提ってのは崩れてんのよ。だから誰がなんと言おうと、美鈴が夢結をシルトに選んだのも、夢結があいつをお姉様と慕ったのも、全部二人の本心でしかあり得ない」

 

 なんて言いたいことだけ言ってみた後、呆気に取られている夢結へ向き合って、肩を竦めてみる。

 

「……で、いくら寝てたからって私にはその話されてないの、結局はこういうことでしょ?」

 

 問題児の自覚はあるし、あるいは美鈴と友人だったことに配慮して……なーんて希望的観測も、あいつと同じで正式結成前な初代アールヴヘイムのメンバーかつシルトでもあった、より距離の近い夢結がこんな話をされてる時点でそんなものはなく、単なる信用の問題でしかない。

 

「客観的には正解だと思うけどね。こんな内容を面と向かって言われてたら、その場で『訂正しろ』って斬り掛かってた自信しかないし」

 

「……雪華様は、お姉様の分も怒って下さっているのですか?」

 

 それへの答えは、首を横へ振り、左手の指を三本立てながら。

 

「いや、夢結も入れての三人分、かな? 夢結こそいきなりあいつを悪者扱いされて、まさか何も思ってないなんて言わないでしょ」

 

 私自身もうこの世界というモノを馬鹿正直には信じていられないのもあるが、にしたって急に知り合いへ死人に口なしと責任転嫁をされて怒るなって方が、土台無理な話だ。まだゲヘナの方が最近ちょっかい出して来たばかりだしで、黒幕な可能性は遥かに高いだろうに。

 

「それは、そうですが……」

 

「思い出の中の美鈴を、信じきれない?」

 

 夢結の考えを先読みして割り込んでみれば、思った通りに答えは首肯。

 

「……はい。もっともそれを言い出すと、誰を信用していいのかすら、今はもう分かりませんが」

 

 そうは言っても、こうして何度も不安を吐き出してくれている時点で、私を信じてないとか言われても困る状況なんだけど……なら、ここは素直に特別ゲストの力を借りようか。

 

「だったら、今ここにある『想い』を信じてあげて。それに、嘘はないはずだから」

 

「これは、お姉様の……?」

 

「夢結のダインスレイフの中に隠されてたのを、百由が見付けたってさ。ホント、最期まで素直じゃないよね、あいつ」

 

 手渡すのは、事故みたいな形とはいえここへ導いてくれた、美鈴の認識票。自分のサブタグの存在もあって夢結も真偽を疑いはしないようだけど、どこから出てきたのかには聞かれる前に答えを。

 

「大体、“支配のスキル”だなんだって、都合の悪いことは全てよくわからない何かに押し付けるって考えが、一番信用ならんと思うけどね。『悪魔の証明』は、穴だらけの屁理屈への免罪符じゃねーっての」

 

 腕を頭の後ろへ回しながら屋上のフェンスにもたれ掛かって、ちょっとした憂さ晴らしの言葉を並べるなんて苛立ちを隠しもしない私の様子に、夢結は少し目を丸くして訪ねてくる。

 

「雪華様がここまで言うとは、明日はダインスレイフの雨でも降って来るのでしょうか?」

 

「その言い回し流行ってんの? それともそんなに信用ない、あたしって?」

 

「いえ、美鈴お姉様ならこういう時素直にお礼を言うより、こうされるかなと」

 

 つまりは、あいつの背中見て育った結果がこれですか。あんにゃろ、墓掘り起こしてバッソで刺──あれ、美鈴の遺体って回収されてたっけ? いや、リリィにとっては特に珍しくもない、名前だけ刻まれた空の墓のはずか。

 でも、よく刀傷がどうのこうのって……この間の彼女(戸田さん)辺りの、現地のリリィによる目撃証言? にしたって、現物も無いくせになんともいい加減な……だからこその、証拠不十分か。やれやれ、疑わしきは罰せよってのは、どうにも昔からなようで。

 

「はぁ……まったく、逞しくなったもんだねぇ?」

 

「いえ、シルトだシュッツエンゲルだと、お互いの立場の違いで煽り合っていたおふたりに比べれば、わたしなどまだまだです」

 

 ああうん、確かに高一の頃私が美鈴に「進級早々にシュッツエンゲル結びましたー」って自慢してたら、後日シルト側な私への当て付けのように、中等部への青田買いシュッツエンゲル仕掛けやがったよね、あいつ。女子高にいたらそりゃモテるわなって、いかにもな王子様タイプが即お姉様にまでなったとか、結構な騒ぎになってたし。

 双方の署名と判がある以上事務的に一切の問題なく処理されてしまい、後からその事実が明るみに出ても、実は『お互い生徒会役員同士であるのなら、中高間で契っても問題はない』という、結構使われてる抜け道のひとつに過ぎなかったというオチ付きで。

 

「やれやれ、まあ元気出たなら何よりだよ。このまま顔出してく?」

 

「そうですね、心配を掛けた身ではありますが、あの子たちの様子も見ておきたいですし……ねえ、梅?」

 

「……気付いてたんなら、もっと早くに言って欲しいゾ」

 

 夢結に視線を向けられながら覗きを暴かれれば、観念してドアの陰から飛び出して来る梅。というかまあ、流石に屋上の入り口にピョコピョコする緑髪が見えればいくらなんでも目立つ、夜中の薄暗い墓場とは訳が違うのだよ。

 

「まったく……あなたが皆を見ていてくれてると思っていたから、こうして抜けられたというのに」

 

「もうそこまでヤワじゃないだろ、今の後輩たちは」

 

 確かにそうかもしれない。私はその時海に潜っていたから見れなかったけど、ヒュージの爆発のせいで行方知れずとなった私や結梨ちゃんを探すため、絶望に飲まれず一年の皆から捜索を言い出し動きだしたのは、彼女たちが入学したて、あるいは高等部上がりたての新人という殻を破った証だろう。

 

「これで結成から一月ちょっとしか経ってないなんて、末恐ろしいレギオンになったもんだねぇ、発案者さん?」

 

「その一端が何言ってんだか、ある意味でヤバイ成分は楓と二分してるくせに」

 

「楓さん……しまった、梨璃の可愛いお尻が危ない!」

 

 急にシラフで何言ってんのこの子……いや、おかしいのは隙あらば梨璃ちゃんのお尻狙ってる楓さんの方なんだけども、うん。

 

「ま、そっちはよろしく。私は確かめたいこと増えたからさ」

 

「おう、夢結の担当は梅ってことだろ?」

 

 気も晴れたようなら後は任せていいかなと、私も夢結に続いて校舎へ戻って、階段を駆け足気味に下りる。

 

◆◆◆

 

「で、もう登録上はこうなってると」

 

「まずそれがおかしいのよねー。いくら美鈴様が死亡認定されてたからって、今までが空欄だったっていうのもなんだか都合が良すぎるし、コアの契約変更手段だっていくらでもあるのに、わたしの上げたデータだけでラプラスと断定出来るはずないんですけど?」

 

 今度は工廠科地下は工房区画──毎度な百由のそれへ押し掛け、端末を借りて改めて学園のデータベースを見てみると、既に川添美鈴のレアスキルの覧には「ラプラス」と記されている……しかしそれ自体がおかしい。と感じたのは百由の方も同じようで、ぼやきは続く。

 

「そもそも生徒会や学園上層部のラプラスへの認識も、なんかわたしの知る内容との齟齬ばっかが気になって、皆して狐か狸にでも化かされてるんじゃないかしらーって気分になるんですよね」

 

「齟齬って、具体的にはどんなよ?」

 

 流石に学生の身ながらマギ関連の論文を山程書いてるだけあって、百由の方は色々と知ってるっぽいけど、その上でも今の状況は理解に苦しむというのだから相当だ。

 

「そもそも()()()()()()だなんて言い方がまず違和感だし、なんか使われると相手が使用者に依存するーってのも、戦線単位で影響を受ける広域スキルでそれとか、もし本当だったらマッハで人間関係ぐちゃぐちゃになるでしょってワケで」

 

「……待った。依存がどうこうって、カリスマじゃなくて『ブレイブ』の話じゃないの?」

 

 カリスマもブレイブも同じ浄化系のスキルに分類されはするけど、あくまで周囲のマギを取り込み浄化するカリスマと違って、相手に直に触れて作用するスキルだからこそ、ブレイブを多用すると使われたリリィが使用者へ依存しがちになる……って解釈でいたんだけど、そうなると確かに話題になってるカリスマの進化先らしいラプラスの内容とは、微妙に噛み合わない。

 まさかサブとしてのカリスマに加えて、たまたま未確認なブレイブのサブスキルも持っていて都合良く『ゼノンパラドキサ』のような融合進化をした……なんてこともないだろうし。

 

「確かに、言われてみればそうですね……でも、なんでそんな当たり前のことが皆して抜け落ちてるの? それに、一部とはいえ噂にもなってたのが、なんで今の今まで上層部にだけ認知されてなかったのか……」

 

 結局、その事実に気付いたところで皆の認識がズレた始点は、一体どこにあるのかという問題は──ん、ズレ?

 

「まさか……百由、ちょっと調べてもらいたいことあるんだけど!」

 

「うわ、なんですいきなり?」

 

 そこにいるはずなのに『いない』、いないはずがないのに『いる』。そういう“認識のズレ”を意図的に誘発するスキルには覚えがあったから、ハッと机に手を突いて立ち上がり、答え合わせに使える名前を記憶から絞り出す。

 

「あー、()()()()──(りー)・クリスチーナ・思思(すーすー)のレアスキル発動時のデータ、それと夢結のダインスレイフの受けてた影響だかなんかのデータと比較して」

 

「それって、ルド女の三年生……分かりました」

 

 言ってから確か百合ヶ丘の同学年にも『同じレアスキル』の覚醒者がいた、とは過っても学科が違ったはずだしでどのクラスの誰だまでは咄嗟に浮かばないから、遠征時に話したことのある相手の方が確実かと他校の生徒の名前を出してみたけど、よくよく考えれば工廠科の百由からしたらそれこそ同じ学科の先輩なんだし、そっちの方が早かったな?

 なんて席を譲ってから、キーボードを叩いてデータを比較している百由の様子を見て気付く辺り、どうにも我ながら焦ってるんだなと他人事のように感じていたら、百由が画面を見ながら訝しげな表情を浮かべている。

 

「どういうこと……? パッと見同じスキルなはずなのに、個人差で生まれるズレにしては大きすぎる……でも全く違うスキルじゃ、途中までは合うっていうのがそもそも……」

 

「……なんだかなぁ、外れて欲しい予感に限って、嫌なくらい的確に当たりやがる」

 

 りーさんのレアスキル、それは『ユーバーザイン』──()()()()()()()()()()。そこにあるはずのものがないように、ないはずのものがあるように周囲へ誤認させる能力、それが効果を強めれば、本人が死んで尚残るレベルに深い認識の改変まで行えるというのか。

 

「つまり、美鈴様の本当のレアスキルは……ユーバーザイン、そのS級ってこと?」

 

「あるいは、カリスマに対するラプラスのような、未確認の上位スキルだったのか……何にせよ、それをゲヘナにでも騒がれるのが嫌で隠してたのか、何もかもを『嘘』に出来てしまうスキルなんてものに嫌気が差して、自分からなかったことにしたのか、あるいは他の理由があったのか確かめようにも、もう誰も答えちゃくれないけどね」

 

 どの道、既に悪者ってことにされてるやつの真実なんて上の連中は最初から聞こうともしないだろうから、これ以上の深入りは単なる自己満足だ。そしてどのパターンであったにせよ、私に美鈴の気持ちが分かるだなんて言えない。

 イレギュラーな世代の覚醒者であっても、前例はとっくにいた上で『円環の御手』に目覚めた私に、ひとりぼっちの寂しさや不安なんてのは……

 

「ちっ……ああもう、答え合わせも出来ないのにモヤモヤだけ増やして、何やってんだか」

 

「そういうもんじゃないです? 例えどんな結果だとしても、確かめずにはいられない時って」

 

 苛立ち混じりに頭を叩いてそのまま髪をくしゃっとしていると、研究者的にはよくあることだと言いたげに百由が言ってくれるのは……気にするな、ってことなのか。

 

「ま、真実はどうせ闇の中なら、信じたいことを信じればいい、か……とりあえず、ライザーもらってくよ」

 

「見ての通り整備中ですよ? いやまあ、他のCHARMよりはマシっちゃそうですけど、問題だったのB型兵装回りだったし」

 

 確かにコアをはめる辺りの装備が外されてるなと、昨日部屋で起きてから空だったCHARMケースにライザー一式をしまっていたら、そういえばないなと思ったマギクリスタルコアが百由から投げ渡される。

 

「まったく……本当に、今使えるのその子だけですからね?」

 

「その時は素直に皆を頼るよ。自分だけで戦ってるつもりは、もうないからさ」

 

 とはいえ本気で止める感じはないから、百由の方も何かしら嫌な予感はしているようだけど。なんて答え合わせは、エレベーターを出て地上に戻った時に聞こえた警報と、ケータイに届く通知。

 

「避難しろ……?」

 

◆◆◆

 

「えっと、非常事態なのは分かるんだけど、なんでこんなことになってるの?」

 

 山中の避難経路を学年別に分かれて歩きながら、そもそもヒュージの進攻に備えて高等部の校舎を配置しているはずの百合ヶ丘なはずなのに、『ヒュージが飛んでくるから避難しろ』という状況が腑に落ちない梨璃が隣の二水に聞けば、期待以上の説明が。

 

「うーん、攻撃の規模が不明というのもそうなんですけど、タイミングが悪すぎたのが一番になります」

 

「タイミング?」

 

「はい。まず先日のギガント級との戦いで相当数のレギオンに負傷者が出ていて、大半のメンバーの復帰が間に合っていないこと、それに由比ヶ浜ネストに動きが見られる前にも、大規模なヒュージの群れが百合ヶ丘の守備地域に出ていたみたいで、今動ける主力レギオンのほとんどがそちらの対応に出払っているのもありますから……」

 

 言われて避難の列を見渡してみれば、閑や紗癒たちといった先日出てたらしい面々はレギオンメンバーなのだろう同級生を支えながら歩いているのが目に入るし、工廠科のフード付きな制服を着た生徒の割合も体感多いように見えるのだから、無理をして全滅するよりは体勢を整えるため退避を選んだ、ということなのだろう。

 

「梨璃さん!」

 

「祀様?」

 

 そんな風に眺めていると、どこか慌てた様子の祀が背負うCHARMケースとは別に──いや、梨璃が見間違うはずがない、シュッツエンゲルである夢結のCHARMケースを抱えて後ろから駆けてくるのが目に入り、脇道に逸れて彼女を待つ。

 

「それ、お姉様の……何があったんですか?」

 

「実は、さっき二年生の列から夢結が校舎の方へ戻って行くのが見えて……抜け出して追ったらこれだけが、ごめんなさい」

 

 受け取った夢結のケースの中にはブリューナクがそのまま納まっており、こんな状況で丸腰になるなんて明らかにおかしい、というのは梨璃が抜けたのを見て自然と集まってきた一柳隊の一年生と、祀を追ってきたのだろう梅にも何を言わずとも伝わる。

 

「祀様はこのことを雪華様にも伝えて下さい、お姉様はわたしが!」

 

「り、梨璃さん?」

 

 誰が止める間もなく、グングニルを取り出して地面に円を描いた梨璃が空へ跳び上がったと、反射的に続こうとした楓がジョワユーズを手に取った瞬間、辺りが激しい揺れに襲われる。

 

「うっ……ヒュージが降って来たのか!?」

 

 なんとか倒れないよう近くの木にもたれ掛かった梅が言うように、由比ヶ浜ネストから打ち上げられたヒュージ──大型の反応が三つあったとされるそれらがまとめて高等部の校舎を挟んで反対側に落ちたと、落下の衝撃と出来たクレーターとが示しているが、異変はそれだけに留まらなかった。

 

「これは……?」

 

「なんか、嫌な感じ……」

 

 真っ先に梨璃を追おうとした楓と結梨、二人がCHARMを持ったまま露骨にバランスを崩せば、他の面々も彼女らが手に持つCHARMのコアに光が灯っていないのに気付く。




それはそうと、今回もぽけーさんの小説
もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら https://syosetu.org/novel/259308/
より毎度の店員さんをお借りしました。どうしても話しやすいポジションだから仕方ないね☆
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