新・日本国召喚   作:npd writer

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第10話 衝突

ロウリア王国 王都ジーン・ハーク ハーク城

 

「うむ、侵攻軍の進路は予定通りに。まずは我々との国境に近い、ギムを蹂躙し亜人達を殲滅せよ」

 

 国王ハーク・ロウリア34世は部下からの報告に満足げに頷くと、再び指令を出す。元々のこの戦争には大量の人員を動員し、更には列強からの援助も受けているために絶対的な勝利の確信を持っていたのだが、改めて報告を聞いたことで彼の心に安堵感が漂っていた。

 険しかった彼の表情も徐々に緩んでいる。だが、一方で彼の脳裏には別件がちらついていた。それは約7日前まで遡った日の出来事だった。

 

 この日の夜、部下達と捕虜の扱いについて王城にて会議を行なっている時にそれは突然舞い込んだ。

 

「陛下、捕虜の扱いについてですが……」

 

「うむ、亜人共の扱いについては老若男女問わず好きにするといい。が、人間の男で戦える者がいた場合は、そのまま本国に連れ帰り奴隷として働かせるのもまた良いかもな」

 

「ではそのように対処するよう、軍に伝えます」

 

 部下がいやらしい笑みを浮かべ退出しようとした時、外務部の幹部が飛び込んで来た。その顔には汗も浮かんでおり緊急の要件であることを意味していた。その様子に王もただことではないと感じた。

 

「貴様、国王陛下の前で無礼ですぞ!」

 

「無礼なのは承知でいる!国王陛下、これを!これをご覧ください!」

 

 外務部の幹部が手渡してきたそれは、ロウリア王国で使われるどんな紙よりも上質な材料で作られた純白の紙だ。そこには、大陸共通語で『ロウリア王国によるクワ・トイネ公国及びクイラ王国侵攻に対する非難声明』という題名で始まる、短い通告文があった。

 

『此度の貴国の行動はクワ・トイネ公国及びクイラ王国の主権を踏み躙る行為であり、国連憲章への明確な敵対行為である。日本政府、アメリカ政府、イギリス政府、フランス政府、カナダ政府、アイルランド政府、東方エルサレム政府の総意として、断じて容認することは出来ない。

ロウリア王国国王、ハーク・ロウリア34世に警告する。直ちにクワ・トイネ公国及びクイラ王国への侵攻作戦を中止し、国境より全軍を撤退させよ。警告に従わない場合は非難声明を黙殺したと判断し、友邦であるクワ・トイネ公国軍を支援並びに貴国を攻撃する用意がある。

貴国の聡明な判断を期待する』

 

 大陸共通語で書かれた文章の最後には、各国の首相や大統領のサインが添えられていた。7カ国が本気であることを思い知らせるはずだったのだが、後世国際政治を知らないロウリア王国の反応は違っていた。

 

「……ニホンやアメリカという国は以前我が国に接触してきた国ではなかったか?」

 

「はい。亜人どもが支配するクワ・トイネ公国やクイラ王国と国交を結んでいたため追い返したと聞いております」

 

「低文明の分際で、このロウリアに対して「攻撃を中止せよ」などと上から目線で指図しおって」

 

「私達にも亜人と仲良く友情の歌でも歌えってことですかな?」

 

「全くくだらん。所詮、弱小集落が連合を組んで我々に喧嘩を売ってきたに過ぎん。または、クワ・トイネ公国による威圧工作か……そうだ、これを口実に我が国の安全が脅かされるとして侵攻を早めたらどうだろうか?」

 

「それはいいですな!我が国の交戦口実としても使えそうです」

 

 王城内はどっと笑いに包まれた。この時点でこの警告は黙殺され予定通りに軍の侵攻準備が行われた。それがどれほどのツケか誰も想像することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 時系列は戻り、国連軍連合航空機動艦隊がマイ・ハーク港を出航した翌日早朝

 

 穏やかな海を切り裂くように鉄の巨大船団が進んでいく。一才の風の影響を受けずに進む様子に、またもやブルーアイは驚愕した。

 

(何という速度だ……!我が軍の帆船最大速力を遥かに凌駕している……!そして他の艦との距離が遠すぎる。密集する必要はないのか?)

 

「いい天気ですな。本作戦に絶好の空ですよ、これは」

 

 艦橋のデッキで、唖然と艦隊を眺めていたブルーアイに初老の男性の声で何者かが話しかけた。振り返ると、そこにはカップ片手に朝の朗らかな風を浴びる高杉司令長官がいた。

 

「おはようございます、ブルーアイ殿。昨晩は慣れない鉄の船上での一泊だったそうですが、よく眠れましたかな?」

 

「お気遣い感謝します、タカスギ司令官殿。正直、わたしには未知なものが多すぎて……。船室を探るだけでもかなりの時間を費やして……。よく眠れなかったというのが率直なところです」

 

「戦闘の際には少しの油断が命を奪うことになりますから、しっかり睡眠は取る必要がありますぞ。しかし、我々もあまり眠れなかったというのが本音でしてね。この世界に来ての初めての戦闘に不安なところもあり、小官も昨晩は各国の司令官と遅くまで、作戦会議をしておりました」

 

「勇猛果敢なタカスギ殿でも不安になられることが?」

 

「私に勇猛果敢な言葉は似合いませんよ、ブルーアイ殿。その言葉の裏には、敵を倒したことによって流れる血があるのです。

貴方には受け入れ難いかもしれないが、敵にも家族や友人、守るべき国家があるのです。そのような敵に対して敬意を払い、無用な血は流させない。それが大日本帝国海軍から受け継がれる我々の流儀です」

 

 眼前の海を前に見据えて語る高杉の横顔を、ブルーアイは不思議そうに見ていた。軍人たる者、勇猛果敢であるべきで、情けなしに命を刈り取ることが当たり前とされる世界において、高杉のような慈悲深い人間はとても珍しい。これだけ圧倒的な力を持っていながら、覇を唱えないその性格は日本国の信念から来ているのだろうか。

 

 ブルーアイは手元の紙に、高杉の発した言葉を余すことなく書き記しながら、彼の真意を読み取る努力をした。その光景をどこか懐かしく見つめる高杉の姿があったとか。

 

 高杉、ブルーアイ、ニミッツ…様々な思いを乗せ、国連軍が誇る最強の空母機動艦隊は約30ノットで西への航行を続けた。

 

「司令長官。電探により得られた敵艦隊の最新情報を報告します。

ーー方位340、距離32000。帆船凡そ3000隻が確認できましたが、更に増える模様です」

 

「遂にきたか。船務参謀、あちらさんへの警告のために「海鳥」を出撃させたまえ。あれで退くとは思えんが、念のためだ。ひょっとすると、敵は兵を退かせるかもしれん」

 

 レーダーで捉えたロウリア王国海軍の姿を確認した観測員が、艦橋デッキに立つ高杉とブルーアイへ報告する。

 これから起こる史上最大の艦隊戦に胸躍らすブルーアイの隣で、高杉は冷静に早期撤退を促すための警告を行うため、海上偵察機「海鳥」を発信させるよう命令した。

 

 

 

ロデニウス大陸北沿岸

 

「いい景色だ。美しい」

 

 ロデニウス王国討伐艦隊の指揮官である海将シャークンは、大海原を美しい帆船が風をめいいっぱい受けて進んでいくその姿に思わず呟いた。

 

 4400隻の大艦隊は、大量の水夫と揚陸軍を許容重量ギリギリに載せ、クワ・トイネ公国の経済都市であるマイハークを目指していた。

 あまりの数の船に最早、前方は見えず見渡す限り船ばかりである。6年かけた準備期間、パーパルディア皇国からの軍事的援助を受け、ようやく完成した大艦隊。4400隻をも大軍を防ぐ手立てはロデニウス大陸には存在しない。

 いや、それどころかもしかしたらパーパルディア皇国さえ制圧できるのではないかと、シャークンは一瞬考えた。

 

(いや……。パーパルディア皇国には、砲艦という船ごと破壊可能な兵器があるらしい……)

 

 彼は、一瞬出てきた野心の炎を理性で打ち消した。今の力で第3文明圏の大国に挑むには力の差がありすぎて、やはり危険が大きい。湧き上がる覇の気持ちを押さえつけるように、シャークンは再び東の海を見据えた。

 

 ふと、シャークンが乗船する船の甲板が騒がしくなる。船員たちは手を止めて、高高度からやってくるとある存在に驚いていたのだ。

 

「提督!何かが……何かがこちらに向かって飛んできています!」

 

(何かが飛んでくる……?まさか飛竜か!?いや、違う……なんだあれは!?)

 

 それは、シャークンの視界に入ってくる。正体は空中を飛翔する物体であった。虫のような形をした無機質な物体が一つ、耳にくる甲高い音を発しながらロウリア艦隊上空に飛来した。シャークンはその初めて見る飛行物体に、恐怖が更に増す感覚を覚えた。

 弓矢が届くことのない高度で飛び、やがてそこから大音量で人間の声が海域に響き渡る。

 

『此方は国連軍連合航空機動艦隊である。本海域はクワ・トイネ公国領海であり、貴艦隊は不法侵入している。直ちに回頭し、ロウリア王国へ引き返せ。さもなければ、我々は全火力を以って貴艦隊を殲滅しなければならない。繰り返すーー』

 

 どうやら自分たちの目の前で浮遊するあの飛行物体には、人が乗っているらしい。

 やがて落ち着きを取り戻した兵たちの中には、「それ」に向かって弓矢を射るものもいた。

 

 しかし明らかに高高度を飛ぶ飛行物体に矢が当たるはずも無く、空虚を斬って矢は海に消えて行く。シャークンの目から見れば、あれは竜のような生物でもない見たことのないものだ。

 しかし、悪寒が止まらない。先程の部下の言葉が脳裏をよぎり、その脅威をひしひしと感じていた。

 

 弓矢の攻撃など我関せずと言わんばかりに、暫く空中を漂っていた「それ」は、敵艦隊の方へ引き返して行った。

 

(コクレングンだと……?クワ・トイネ公国海軍ではないのか?大体公国海軍であれば、素直に公国軍と言うはず。公国とクイラ王国が手を結んだとて、そのような名称は用いないはずだ。であれば……あれは何処の軍隊なのだ?)

 

シャークンの心の問いが彼に口に出ていたとて、それに答えられる部下は誰もいないだろう。それだけ彼らは常識外れの軍隊なのだから。

 

 

 

 

 

 ロウリア王国海軍が矢を射ることで示した「撤退意思が無い」という態度は、帰投中の「海鳥」から直ちに連合航空機動艦隊へ通達された。その一部始終は機体に取り付けられたカメラで撮影され、映像は各国艦隊の旗艦を務める空母に送られる。

 

「敵さん、プライドが高い連中が多いようだな。届かないと分かっていても弓矢を射るものも見る」

 

「やはり、というべきでしょうか。以前、外務省の大使がロウリア王国へ国交樹立の交渉に向かった時も、『亜人共はこの世から殲滅されるべき種だ。そんな彼らと国交を結んでいる貴様らと対等な条約で国交を樹立する気はない。クワ・トイネ公国ならびにクイラ王国との国交を断絶しない限り、我々は如何なる交渉も応じない』と門前払いを食らったと、外交官が溢していました」

 

「威勢は良いようだな。だが、一方的な情報のみを信じ、現実に思考を回転させないことは愚策なことだ。我々としては不本意だが、力を行使するほかないだろう。

船務参謀、敵に撤退の意思は確認されずと判断する。作戦に取り掛かろう。対水上・対潜・対空警戒を厳にせよ。通信参謀、ニミッツ副司令に伝えてくれ。「敵に撤退の意思なしと判断した。初手はそちらに任せる」とな」

 

 高杉の司令は、直ちに通信でニミッツが乗船する空母「ハリエット・アイゼンハワー」へ伝わる。艦橋の司令官席に座り前方を見ていたニミッツは、幕僚から伝えられた高杉の指令を聞き終わると同時に立ち上がり、眼下の海を見つめた。そして艦隊全艦放送を通じて、アメリカ人将兵に語りかける。

 

「諸君。敵は愚かにも撤退ではなく攻撃という道を選んだ。我々が軍事的衝突を危惧し艦隊を撤退させれば、公国に打つ手はなく蹂躙される。このまま敵を放置すれば、多くのクワ・トイネ公国の民に死が降りかかるのだ。友好国たるクワ・トイネ公国とクイラ王国を救うため、大統領閣下より与えられた任務を忠実に果たし、侵略者から両国を守り抜け。諸君らの働きに期待する」

 

 短く言葉を述べたニミッツは船務幕僚に指示を与え、艦隊放送を終了する。

 

「高杉司令長官は我々に武勲を与えてやりたいようだな。派手に行かせてもらおう。まぁ、最新鋭艦の性能を見てみたいという思いもあるのだろうが……折角だ!スペシャルな攻撃を敵に浴びせてやれ!」

 

「提督!既に全艦臨戦態勢をとっております!あとは司令のご判断で、いつでも攻撃できます!」

 

 船務幕僚の戦意高揚とした言葉にニミッツは振り返ると、満足そうに一回頷き指令を出す。

 

「これほどまでに合衆国の力を世界に宣伝できる機会はそうそうない。我が合衆国海軍の力を同胞、そして敵であるロウリア王国海軍に見せつけてやろうじゃないか。船務幕僚、「ミッキーマウス」及び「アイオワ」に伝達!本時刻を持って作戦開始。敵艦隊に対するレールガンによる艦砲射撃を許可する。準備完了次第、そちらのタイミングで敵艦隊へ攻撃を開始せよ、以上だ。

航空参謀、待機中の各飛行部隊に作戦開始コード伝達!「賽は投げられた」繰り返す!「賽は投げられた」!」

 

 ニミッツの指示を受け、アメリカ合衆国海軍最大級の全長と火力を誇るイージス戦艦「ミッキーマウス」では水上レーダー/レーザーと連動する32cmR単装砲2基、「アイオワ」では30.6cmR連装砲3基が、中央指揮所搭載の電子コンピューター演算に基づく自動照準により、その巨大な砲身を上に向け始めていた。艦上装備と衛星リンクシステムで捉えた遥か遠くにいるロウリア王国海軍への攻撃命令を主砲の仰角を上げ、今か今かと命令を待ち続けている。

 

「遂に合衆国が誇る世界最大級のレールガン砲を放つ時がきたぞ!」

 

「32cmレールガンの威力……。ロウリア海軍よ、思い知るが良い!」

 

 これから始まる大海戦は、国連史上最大規模の量が相手となる。いくらロストテクノロジー(木造船)とて油断はない。そのために、最新の技術を搭載した戦艦までも率いてきたのだ。

 拳銃の発射速度と同等の速さで砲撃を行うことができるレールガンは、まさに戦場の常識を覆す反則級の武器だ。そのあまりの発射速度は手動照準が行えないほどである。一度攻撃が始まれば最後、戦艦の搭載弾が尽きるまで破壊は終わらない。狙われたら最後の攻撃が、静かにロウリア海軍に向けられる。

 

 何も知らない哀れな敵と、国連軍連合航空機動艦隊との距離が30kmラインを超えた時、遂に殺戮が始まる。

 

「艦長!敵艦隊との距離、30kmを切りました!水上レーダーとGPSによるリンクは良好、いつでも敵艦隊に対して攻撃できます!砲撃の許可を!」

 

「よし、敵の度肝を抜いてやれ!R砲、Fire!」

 

 各艦長の号令を受けて、「ミッキーマウス」と「アイオワ」艦内の中央指揮所の発射要員がトリガーを引いた。即座に32cmR単装砲2基、30.6cmR連装砲3基から砲弾が発射されていく。あまりにも静かで、発射されたことも分からないのがレールガンの恐ろしいところだ。

 煙さえも発生しない新型レールガンの砲撃は、レーダーで捉えることすら困難な速度で敵艦隊へ次々に飛翔していった。

 




アメリカ海軍の戦艦2隻のレールガン砲による攻撃をもって、遂に国連軍とロウリア王国軍は激突した。が、ロウリア海軍の常識では考えられない射程外から一方的に攻撃されることに、王国兵は恐怖を覚え始める。
一方、敵の交戦意欲を完全に奪うため、国連軍は手を緩めない。

撤退か、前進か。シャークンは悩み抜いた末、撤退させることなく玉砕覚悟でクワ・トイネへの針路を進めることを選択する。

これ以上の絶望がないことを祈ってーー
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