突然のお知らせですが、アームストロング上院議員と推しの子のクロスオーバー作品である短編作品を執筆しました。あまり出来の良い作品ではないので、パスワード設定をして限られた人のみ閲覧できるよう設定してあります。パスワードを知りたい方はお申し出ください。
ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城
「そろそろ、クワ・トイネ侵攻部隊がギムを落としたと報告が来るでしょうな」
「海上侵攻部隊は壊滅しましたが、陸上部隊は数がものをいいます。被害は出るかもしれませんが、ギム程度は落とせるでしょう」
クワ・トイネ陸上侵攻部隊がギムを落とす、このことを確信してやまないロウリア王国上層部は今か今かと吉報を待っていた。かつてないほどの戦力差、列強の支援、人的質の向上ーー石橋を叩くだけではない。何度も何度も叩いて、それでも叩いて確認するほどの徹底ぶりで安全を確保して侵攻しているのだ。海上では思わぬ強敵と遭遇したが、それでも数が勝負を決する陸上戦ならば負けるはずがない。
彼らは確信をもっていたのだ。
「ほ、報告します!先ほど、ギムに派遣されていた東部諸侯団情報が入りました!」
飛び込んできた連絡員の言葉に期待に胸を膨らませる幹部たち。だが、彼の汗に塗れた顔を見て様子がおかしいことに気付く。
「どうした?まさか、想定外に苦戦したのか?」
「まあ、それでもギムを落とせていれば問題あるまい」
幹部たちは楽観的な見方をしつつも、報告を待った。
「も、申し上げます!ジューンフィルア伯爵率いる東方征伐軍東部諸侯団先遣隊との連絡が途絶、推測すると部隊は敵に殲滅されたと思われます……!」
長い沈黙。一番想定しておらず、想定することを拒んだ「敗北」という結果。しかも、長い時間をかけて大切に育ててきた数多くの人的資源と東部方面の軍を長年率いてきたジューンフィルアの損失は、想像以上に大きかった。
「は……?殲滅、だと……巫山戯るなぁ!!その報告は確かなのか!?」
「は、はい。現に東部諸侯団の先遣隊からの通信が途絶しています。それと、これは……敵方からもたらされた情報なのですが……」
「どうした!?勿体ぶらずにさっさと話せ!」
クワ・トイネ公国侵攻を決定した後から突如参戦した日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダで構成された連合体、それが国連だ。だが、彼らが主張する海域には文明レベルが低い集落のような国家が存在していたはずだ。到底、軍事力に優れたロウリアに勝てるはずない……そのはずだった。
「本日、工業都市ビーズルに鉄竜が出現し、このような紙を撒いて行きました」
報告員が幹部に渡したのは、東部諸侯団への警告文と同じ上質な紙。その内容は国連安保理決議を要約したものだ。
・ギム防衛戦にて貴国の軍は甚大なる被害を受けた。仮に貴国が戦争を続ける場合、更なる甚大な厄災が貴国を襲うことになる。
・速急にクワ・トイネ公国への侵攻を中止し、侵攻以前の国境線まで軍を撤退させよ。貴国の行動は国連憲章に明確に違反しており、敵対的行為を続けるならば更なる強硬策を取らなければならない。
・和平交渉に応じる場合、此方は追撃しない。貴国の未来と繁栄のため、即刻和平交渉に応じることを要請する。尚、交渉に来る場合は白旗を振ってほしい。
要求は短く、交渉の席に付かなければ更なる攻撃を加えるということ。普段であれば破り捨てるのだが、ギムでの戦いの2万という損失が彼らの判断を迷わせる。
「……どうします?」
「どうすると言われても、この情報の真偽すら不明だ。軍も情報の出所を確認したわけではあるまい?とすれば、戦い続けるしかなかろう」
「左様。宣戦布告している以上、此方が引けば国内の反発を招くことになる。それに、この度の戦いで負った負債をどのように完済すれば良いか。あれは、ロデニウス大陸統一を前提にして組まれたものだぞ!」
「しかしギムでの戦いが真実であるのならば、これは一大事です。仮に、ビーズルや王都ジン・ハークに2万人を一瞬で殲滅できる攻撃が加えられれば、此方は大した抵抗はできずに殲滅されます」
「負ければ我々は奴隷にされるのだぞ!?亜人共の奴隷になるくらいなら、死んだ方がマシだ!当然、徹底抗戦だ!王都は固守されなければならない!」
幹部会は大いに荒れた。多数を占める徹底抗戦派と和平を求める少数派の意見の隔たりは大きく、両者が歩み寄って妥協の道を探ることなど不可能だ。
「王都を固守しても、民がいなければ国は再建しません!今なら、まだ諸侯団程度の犠牲で済み、王国本国への被害は少なく済ませることができます!」
「では亜人共にひれ伏せというのか!?この栄あるロウリア王国が!!」
「そこまで言っていません!!ただ、いたずらに兵を死なせるのは国家の利益にならないと申し上げているのです!!」
徹底抗戦を主張する抗戦派と講和に応じるべきとする和平派の溝は、大きく広がっていた。どちらも国益のことを考えていることには変わらないが、その方向性は全く反対を向いている。議論は加熱するが結論は出ない。
「諸君!議論が二転三転しているぞ!ーーここは軍事面で最も知見のあるパタジン将軍にお聞きましょう。将軍閣下はどうお考えですか?」
中立派の役人の一声で騒然とした議論は一旦収束する。軍関係者の中では最高位に位置するパタジン将軍は、会議において非常に重要な存在だ。国王陛下にも謁見できる立場にある人間は、他の出席者で言えば外交を統括する宰相のマオスぐらいだ。それだけ、重要な彼の言葉を今後を左右する。
「……大王様のご命令は絶対だ。例え、如何なる犠牲を払おうとも完遂することが、我々に課せられた使命だと私は考えている。撤退などせずとも、一度防御を固めたうえで再出撃すれば敵の態勢は打ち崩すことはできるだろう」
「……マオス宰相!国連軍に属する国々はワイバーンを持たない国家だと聞きましたぞ!それ故、軍部は開戦を決意されたと。
ところが、蓋を開ければ海では艦隊の約8割を失うという前代未聞の壊滅的被害、陸ではギムすら落とせずに多くの兵を一方的に殺される始末!!彼らの実力を見誤ったのでは!?」
次に矛先を向けられた宰相マオスも暗い顔を隠せずにはいられない。
「……ワイバーンを持っていない国家だという情報は真実でしょう。彼らはワイバーンに乗ってきてはおらず、存在すら仄めかすことすらありませんでした。
私の判断が開戦の引き金になったことは否定しません。ですが、責任を擦りつけられるのは困ります。私は軍については門外漢でありますゆえ、パタジン将軍や王宮主席魔導師のヤミレイ師の方が知見はあるのではないでしょうか」
動揺はしても凛々しく振る舞う姿は、流石長年外交を牽引してきた重鎮として相応しかった。マオスの判断が開戦を決意させる理由になった以上、その責任からは逃れられない。覚悟を決めた男の表情に、出席者は矛を収めざるを得ない。
一方、マオス自身も彼らの戦力を見誤ったのではないかーーロデニウス沖大海戦の敗北以降、常にその懸念に悩まされ、神経をすり減らしていた。
「ヤミレイ殿は如何お考えですか?博識を持っておられる貴方様ならば、この事態を理解できるのではないでしょうか?」
「うむむ…‥伝承……追ってくる光の矢……空中で爆ぜる光弾……『誘導魔光弾』……まさかっ、国連軍の正体はラヴァーナル帝国なのでは!?」
王国で最も権威のある魔術師の発言に会議室は騒然となる。誰もが恐れた伝説の帝国。強大な軍事力と他を圧倒する技術力によって、全ての種を奴隷とした悪しき国家。その傲慢さをもって神を相手取った。その戦いに勝てないと踏んだ彼らは時空転移魔法で姿を消した。
『世界に我ら復活せし刻、世界は再び我らに平伏す』
帝国が転移する直前に残された石碑には、そう書かれていたそうだ。
「確かに……そうであるならば被害が甚大であることにも説明がつく」
「いや、あのラヴァーナル帝国ですぞ。とても周辺国と国交を結び、友好関係を結ぶような真似はしないでしょう。あの国ならば即座に宣戦布告し、全てを支配下に置こうとする。今回の彼らの行動はそれらとはかけ離れています。それに伝承にある『帝国の復活は昼間一瞬闇に包まれる』とあるが、それを見たものはいないでしょう」
「その真逆の『夜が一瞬光と星々に包まれる』といった現象はあったが……早計だった、すまぬ」
何処からか上がった声をマオスが否定し、発言者であるヤミレイもその発言を訂正した。だが、これで状況は振り出しに戻っただけだ。
「ともかく、情報の真偽すら不明な状態で戦わずして降伏などあり得ない。強大な敵ならば尚更だ。圧倒的な軍事力を前に降伏すれば、待っているのは奴隷の日々。ならば、少しでも戦って我らの意地を見せるほかない」
「しかし、このまま戦えば更なる被害を生むことになります。大王様を今後もロウリア王として在位させることを条件にし、条件付きの講話を結ぶ方が得策だと進言します」
「……先ほどから何だ貴様は!パタジン将軍やマオス宰相の判断が間違っていると申すか!奴隷として屈辱的な日々を過ごすより、戦って一矢報いることの方が国家に対する忠誠心というものだ!それに敵にも弱点があるはずだ。そこをつければ、一気に形成をひっくり返すこともできよう!」
会議は二転三転とするが、やがて国連軍の勧告を黙殺し防御を固めるという案が固まりつつあった。当初はいた和平派も大王に対する不敬罪や臆病者のレッテルを貼られる危険性がある以上、次第に発言量を減らしていった。
「ともかく、現状では国連軍による王都侵攻の可能性も出てきました。早急に防御を固めなければなりませんぞ」
「王都に残ったワイバーン全騎も宿直で防衛に備えさせる」
「王都周辺の監視体制を強化することも忘れてはならん。24時間態勢にすることで、常に防御を固めることにしましょう」
マオスの提案にパタジンやヤミレイも同意し、今後は侵攻から防御に作戦計画を大幅に変更することに合意する。
「しかし今後のクワ・トイネ侵攻作戦を……大王様にどのように報告すれば……」
マオスの嘆きは、まさにこの国の有様を体現したものだった。
同時間 クワ・トイネ公国政治部会
軍務卿からの要請で、首相カナタの権限のもと、緊急政治部会が開催された。
議題は勿論、対ロウリア防衛戦争についての議題である。現在の戦況報告が行われる予定だけあって、政治部会内でも関心が高く、もしも負けた場合はクワ・トイネ公国は絶望的な戦いを強いられることになる。
政治部会の会議場は既に満席になっていた。その中で東方貴族のミルカンは、横に座る中央貴族のナウシに話しかける。
「ナウシ殿、戦況は何か聞いておられますか?まもなく発表されるとはいえ、国の存続に関わると……状況が気になってしまうのです。軍へのパイプが太いナウシ殿であれば、戦況を的確に把握されているのではないかと思いまして……」
「ミルカン殿、私の口からお伝えするより、軍部の正式発表を待たれた方がよろしいかと。その方が確実な報告だと思います」
「と言いますと?」
「私のもとに入ってくる情報はどれも現実離れしておりまして……情報を総合すると勝ったようではあるのですが…‥軍幹部でさえ混乱しているのです」
「軍幹部が混乱するとは、相当な激戦があったのでしょうな……」
「いえ、被害に混乱しているのではなく、戦況があまりにも奇跡的というか」
「ほう!圧倒的な数の敵軍を前に、奇抜な戦略と運が重なって大戦果を上げた、とか?」
「運といえるものではないのです。こちらの被害が…‥」
ナウシがどう説明したものかと頭を悩ませ始めた頃、各軍部の幹部が入室する。陸軍幹部が壇上に上がり、汗を拭きながら戦況報告を始める。
「お待たせいたしました。それでは、今回のギム防衛戦についてご報告いたします。既にご存知の通り、数日前にギム西方4km地点にロウリア王国の兵約2万が現れ、野営地を築きました。この軍は我が軍より少なかったことから先遣隊だと推測されます」
ここまでは知っている者も多い。
「しかし、彼らは昼間夜間交互に騎馬中隊を数個組織し、何度も都市に近づき、威力偵察を仕掛けてきました。これにより、我が軍の兵士が精神的に疲弊しはじめます。そして本日早朝、国連軍より支援攻撃の許可を求められ、西部方面師団の将軍ノウが検知判断に基づき、これを許可しました」
核心に近づくと、幹部の額に汗が滲み始める。
「国連軍は、回転翼機ーーヘリコプターと呼ばれる飛行機械を出動させ、ロウリア王国先遣隊に『2時間以内に撤退準備を始め、ただちに立ち去るように』と警告を発令しました」
「警告だと!?我が国の街を焼き、民を虐殺しようと侵攻した極悪非道の兵に、何故警告が必要か!!警告を行えば、敵が迎撃態勢に入るのではないか!!」
「国連軍は何故敵の数を減らすような、敵に利する行動を取るのか!!」
会議場に喧喧囂囂と野次が飛んだ。幹部の予想はある意味で的中した。
「静粛に!静粛に!!質問時間は最後にありますから、どうかお静かに!今は戦況報告をお聞きください!!」
議長の指示により、場は収まる。幹部は報告を再開する。
「約2時間半が経過しても、ロウリア王国兵は撤退する気がなく、それどころか隊列を整え、戦闘準備を始めました。その後、ですが……信じられない内容となっています。駐屯兵に何度も確認したのですが…‥」
幹部は一拍置いて、ゆっくり口を開いた。
「猛烈な爆裂魔法の投射と思われる国連軍の攻撃により、5分も経過しないうちに約2万の兵は文字通り消滅しました。現地からの報告書には『広範囲が瞬く間に爆発し、ロウリア王国兵はなす術なく殲滅された』、魔導師による報告書によれば『爆発は高威力の爆裂魔法に最も近しいが、今回支援攻撃に参加した国連軍の兵9万人が仮に全員大魔導師だったとしても、作り出せないほどの高威力・広範囲爆発であった』と、記録されています。なお、本戦闘において我が軍及び民間人の死者はなし。また、国連軍の人的被害もありませんでした。ロウリア王国側は先遣隊の約2万人が戦死した模様です。以上が、ギム防衛戦の概要になります」
先程、真っ先に野次を飛ばした議員が手を挙げた。
「……ちょっと質問があるのだが」
「どうぞ」
「国連軍はどのような攻撃を?」
「詳細は不明です。どうやって攻撃を行ったのか、我が軍で見た者はいません」
「では誰も彼らがどうやって高威力爆裂魔法を使用したか、見ていないのか?」
「はい。国連軍総司令官のアイゼンハワー将軍及び国連安全保障理事会に提出された報告書では、『基地から誘導弾や榴弾砲などによる攻撃を行った』と記されています」
数人が顔を真っ赤にして怒りを露わにした。国の存亡をかけた戦いの報告会に、作り話を聞かされたと思い込んでいたのだ。
「何を言っている!国連軍の基地から攻撃地点まで、10km離れているのだぞ!!そんな魔法は、あの古代魔法帝国の御伽噺でしか聞いたことがないわ!!」
「まさか……国連軍とは『古の魔法帝国』の流れを組む奴らでは?」
「いや、それはないだろう。仮に奴らならば、我々はロウリアよりも真っ先に奴隷とされていただろう」
発言が言い終わるのを待って、首相カナタが手を挙げて会場を静まらせた。
「ご出席の諸君、手元の資料を見てほしい」
(ロウリア……首都制圧計画!?)
「国連軍はロウリア王国が降伏しない場合、第二案として我が国から飛び立った鉄竜で王都ジン・ハークを強襲、ロウリア王を人道に対する罪で逮捕したいと提案してきている。併せて侵攻してくる敵に対し、鉄竜と共に地上部隊を投入して撃退したいとのことだ」
思わぬ議題の飛躍に、威勢の良かった議員たちも顔を見合わせる。国連軍を否定するものの、クワ・トイネ単独では戦争にすらならなかったのもまた事実だ。そこへきての侵略戦争の鎮静化ーー損得勘定を始め、自分の立場をどちらに取れば得になるかで冷静に考えを巡らす。
「別にいいのでは?我々にとって損はないでしょう」
「いや、他国の国家連合が侵攻するのは…‥」
「我が国は国連安保理に決議案を提出している。今更、兵を引かせろというのは無責任な話だ」
「それに、うまくいけば戦争が終わる……国連軍が戦うのであれば問題なかろう」
政治部会では全会一致で国連軍の国内及びロウリア領での陸海空全域における戦闘許可を決議した。
「我は死神なり。世界の破壊者なり」
ロバート・オッペンハイマー