新・日本国召喚   作:npd writer

21 / 39
「弱い者ほど相手を許すことができない。許すということは強さの証だ」
マハトマ・ガンジー


第20話 敗北の衝撃

中央暦1639年5月18日 ロウリア王国 ジン・ハーク

 

 緩やかな丘に上に作られた王都。その頂上には王城であるハーク城がそびえ立つ。栄えし王都の外周は、三重の城壁に守られており、さらに外側には丈の短い草に覆われた平原が広がる。平原に敷設された石畳の道路を通ると、城壁の向こうに町が聳え立っている。

 

 三重の城壁は外側から順に、高さ20m、25m、30m。それぞれの城壁が外敵を足止めし、上から弓矢で攻撃して撃退する戦法を想定した構造になっている。

 まさに周辺国家の侵略を許さない鉄壁の守り。幾多の周辺国家を併合し、ロデニウス大陸最大の国となったロウリア王国の首都を攻撃するような国家はもはや無かった。たとえ内乱が発生し、奇襲的に大軍が首都にやってきたとしても、鉄壁の三重防壁と圧倒的な数によって殲滅できるように設計された。ロデニウス大陸の敵対勢力だけでなく、強大な文明圏国家からの侵略に対応するための防衛の役割も兼ねている。

 

 そんな城壁に囲まれたハーク城で緊急会議が開かれようとしていた。

 

 主な参加者は王国防衛騎士団将軍パタジン、王国宰相マオス、三大将軍のミミネルやスマーク、王宮筆頭魔術師ヤミレイなどであり、その他にも多数の軍・行政の幹部が多数出席している。王都防衛騎士団、王都防衛歩兵大隊長、近衛竜騎士団等々、国防の要が勢揃いした。黒いローブを被った男も、傍聴者として席に着いた。

 そんな彼らの表情はいつにもまして暗い。

 

「それでは会議を開催します。まず、始めにパタジン将軍からの現況説明があります。パタジン将軍、どうぞよろしくお願いします」

 

 司会進行係に促され立ち上がったパタジンの表情は、疲れ果てている。以前の自信に満ちていた彼の顔は見る影もない。

 

「皆の衆、緊急会議に集まっていただき感謝いたす。クワ・トイネ侵攻作戦の現状を説明する……率直に言うが、今回の作戦で我々は何一つ得ることができなかった。初陣となるはずだったギム攻略戦では、敵の苛烈な攻撃に遭い、将軍パンドール以下多数の将校が戦死。海上においても、我が軍の軍船4400隻のうち、3600隻が沈められた。指揮官の海将シャークンは行方不明。加えて、航空支援に派遣した竜騎士250騎も同時に失った」

 

 彼は一呼吸置くように、深いため息をつく。

 

「全ては開戦初期に参戦した、国連軍と呼ばれる国家連合が彼らに味方したことから始まっている。日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダの5カ国は、我々の行動が国連憲章なる決まりものに違反しているとし、徹底的な反撃を行なうことを宣言している。正直、今の戦力では国土を防衛することすら危ういとの報告も上ってきている。しかも驚くべきことに、敵の被害はなしであるそうだ」

 

 軍部幹部たちは定かでもない戦闘結果報告を聞いて「そんな戦力差があってたまるか」と真に受けていなかった。だが、この場でパタジンが嘘をつく必要がないため、その報告が事実であることは変わらなかった。

 せめて、相手を一隻でも沈めていれば勝機はあるだろう。しかし、壊滅的被害の傍で戦果がゼロなどと、何をしても無駄だと言われているのと等しい。ロデニウス大陸史に残る大敗北である。

 

「パタジン将軍、これほどの大損害は王国史上前例がありません。立て直す計画はあるのですか?」

 

 国家財政を担当する財務局長の問いに、パタジンはしばらく考え込み、言葉を絞り出す。

 

「……目的遂行のため、必ず立て直すつもりだ。そのためには、あらゆる手段は講ずる覚悟である」

 

「財務局から申し上げさせていただきますが、これ以上の増税は不可能です。ただでさえ、ギリギリの国家財政。今以上の戦費の出費を行いますと、国家経済が崩壊します」

 

 クワ・トイネとクイラの豊かな資源によって、どうにか返済の目処を立てていた財務局にとっては、その計画が事実上困難になった今、怒りの矛先は戦争を主導したパタジンら軍関係者に向かっていた。

 

「……パタジン将軍、国連軍に属する国々は一体どのような敵なのでしょう?『正体不明の攻撃』などと抽象的な表現では、王都防衛すらままなりません」

 

「……ヤミレイ殿、その後何か進捗はあったか?」

 

「さっぱり分からん。古の魔法帝国であることは否定されたが、逆に振り出しに戻ったまで。現地の兵が死んでいる以上、分析などできておらんよ」

 

 防衛軍の幹部の問いにもパタジンやヤミレイは答えられない。会議は重苦しい空気が続いていく。相次ぐ敗北にすっかり弱気になっている財務局長は意を決したように、出席している面々を見渡した。

 

「皆さん。財務局は、クワ・トイネ攻略作戦は失敗したと認めるべきと進言します。我々は防衛に徹しなければならず、予定していた利益は皆無。我々に残されるのは莫大な債務を抱えるのみ。最悪な結果になることは避けられない以上、これ以上の戦争継続に意味などあるのでしょうか?」

 

 財務局長の勇気ある発言に反発する声がすぐに上がるが、内務局長は賛同する意を示した。

 

「財務局長の言い分には一理ある。今度は本当にビーズルに巨大な鉄竜による攻撃が行われることになるやもしれん。そうなった際に、防衛軍は防衛できるのかね?あそこは我が国の産業の生命線だ。万が一、落ちるようなことがあれば、両国軍及び国連軍はすぐに王都に来るぞ」

 

「……全力を尽くして防衛する覚悟です。特に敵が通過するであろう、ビーズルには集中的に戦力を投下。どんな敵が現れても防衛できる準備を行います」

 

 パタジンはそう言っているが、ビーズルへビラを撒いたあの鉄竜は、超高高度から侵入して目的を達成すると、猛スピードで空の彼方へと消えていった。正直、ワイバーンで落とせるような生物でないことは明らかだ。

 

「パタジン将軍。率直に申し上げます。敵の要請に応じて、クワ・トイネ及びクイラ王国から軍を撤収し、侵攻計画を中止する考えはあるか?」

 

 軍幹部を驚かせる発言をしたのは、外交を統括するマオスの右腕的存在ともいえる外務局長ノリオスだ。先の会議でも、他の幹部とは異なる停戦論を主張したのが彼であった。案の定、彼に対する怒声が響き渡る。

 

「何!?貴様、我が国が亜人どもに屈するべきだというのか!?」

 

「確かにクワ・トイネ領内では負け続きだ。それは認める。だが、本土に攻め込まれたわけではないのに敗北を認めては、国民に示しがつかん!中止などありえん!必ず、本土決戦で奴らを負かしてくれるわ!」

 

 彼を襲う怒号の嵐。それが止んだのは、彼が机を勢いよく叩いた時だ。

 

「口で言うのは簡単ですが、ではどうやって強大な魔導兵器を有する国家に槍で対抗できるというのですか!?

ならば、是非とも聞かせてもらいましょう。パタジン将軍やヤミレイ師さえ頭を悩ませる敵への攻略法を!」

 

 ノリオスの真意を突く言葉に非難していた面々は押し黙る。誰も彼もこの状況を打破する作戦など持ち合わせてなかったのである。

 

「ノリオス、その辺にしておけ。彼らの立場というものもある」

 

「マオス宰相……」

 

 上司であるマオスの言葉にノリオスはすぐにその拳を下した。彼にとって、マオスは自分を取り立ててくれた優秀かつ頼りになる上司であり、彼のことは邪険に扱うなどできないのである。

 

「ご出席の皆様。ノリオス局長の発言、どうか許してもらいたい。彼も国を思う気持ちがいっぱいになるあまり、周りが見えなくなっているのだ。それに、彼の考えも一理ある。ここは無視することなく、選択肢の一部として頭の隅に置いておくだけでもいいのではないか?」

 

 マオスの取りなしで、ノリオスと彼に対峙していた軍関係者は互いに睨み合いつつも、着席した。彼らのやり取りが終わったのを見計らった防衛騎士団の作戦参謀が手を挙げた。彼に考えがあるらしい。全員の注目が集まる。

 

「ジン・ハークは知っての通り、三重防壁を突破しなければ王都内部に至ることはできません。しかも防壁は、外縁から侵入するほど攻略が難しくなる構造。鉄壁……いや、神壁といっても差し支えありません。町の外の平原は見通しもよく、敵の早期発見は可能です。まずは監視体制を24時間、交代制に強化いたしましょう」

 

 彼の考えでは、敵部隊が揃い陣形を整えるまでは時間がかかろうという見通しがあった。最も、それは敵が彼らと同レベルであった場合だが。

 

「また、前回の国連軍による爆裂魔法の投射は、魔力通信記録によれば軍が制止している状況で行われたと考えられるため、騎兵で動き回っていれば、そうそう魔法が当たるとは思えません。ワイバーンも150騎、王都防衛に残しています。

光の矢がどのような挙動をする魔法、あるいは兵器かは不明ですが、1箇所からではなく複数の小編隊であれば、軌道の予測、攻撃方法の手掛かりなど掴めましょう。王城の守りはさらに堅い。たとえ国連軍が王都攻略に現れようと、ジン・ハークは落ちません。兵も部隊単位で消滅していますが、まだ手の打ちはあります。王都にたどり着くまでにもいくつか町があり、各地に兵を駐屯させています。後方に敵を残した状態で王都に来ることもないでしょう。万が一来れば、挟撃して一網打尽にすれば良いのですから」

 

 作戦参謀は自信たっぷりに述べだ。一見すると、筋も通っており軍関係者一同は安心する。いくら、国連軍が強力であろうとも、防衛体制を強化した首都は落ちないと自信があったからだ。ただ、この中でノリオスだけは、この防衛計画に安心することはなかった。

 

 尚、会議後にこの方針に反発した財務局長と内務局長は国王に辞任を申し出た。会議の詳細を知らされていない国王はすぐに受理し、依願退職という形で彼らの辞任を認めた。国家の内政を司る2人の辞職によって生じる空白は、確実にロウリア王国を混乱に陥れていく。

 

 家族と共に最低限の荷物をまとめた彼らは、国連軍に投降するためクワ・トイネ公国国境に向かった。

 

 

 

 

翌日 日本国国防省 作戦本部

 

「いよいよ、ジン・ハーク決戦ですな。この戦いが、この戦争を決着させる最後の戦闘となるでしょう。……あの満蒙決戦を思い出します」

 

 国連軍の作戦と夜豹師団の作戦行動を把握するため、大高は国防省の地下に設けられた作戦本部に足を運んでいた。本部には大高の他に国防大臣である東郷、統合参謀本部総長の鈴木康十郎海軍大将、高野軍令部総長、桂鷹三郎陸軍参謀総長、山本元陸軍参謀次長、黒羽晴夜空軍参謀総長、厳田賢章戦略空軍司令長官ら、国防軍の主要メンバーが勢揃いしている。

 

「ロウリア王国は現在、王都周辺の守りを固めております。また、現地偵察部隊からの情報では、ビーズル以下、王都に至る舗装された道に兵を配置しているとの報告がありました。が、特に兵を王都に戻す動きは見られないため、既に我々が王都近辺に移動していることは知らないようです」

 

 東郷が立体モニターを使って示したジン・ハーク及び周辺の航空写真からは、町らしき場所に兵を置いて国連軍の侵入を待ち構える軍の姿があった。

 

「彼らに近代戦の論理を理解しろと言ったところで、実践経験のない彼らには理解しようがありません。これらの部隊が王都に帰還する前に作戦を完了させる必要がありますな」

 

「はい。現在、王都に展開しております国連軍の戦力をもってすれば、正直陥落させることは容易です。しかし、王国との総力戦となれば、当然包囲のリスクが高まりますし、何より必要以上の殺傷を行わなければなりません」

 

 桂の懸念は、国連軍による一方的な殺戮によって必要以上に犠牲者が出ることだ。国連軍による再三の警告は日本が提案したもので、ロウリア王国が戦後に復讐心を抱かずに国際社会に参加できるよう、戦争による犠牲者を軽微にしたい国防省及び参謀本部の思惑があった。

 また、多くの犠牲者の上に成り立つ勝利は、国民感情にとってもあまり良いものではない。故に、早期決着が求められていた。

 

「ロウリア王国の王、ハーク・ロウリア34世の拘束はどうします?彼を逮捕しない限り、戦争は続きますよ?」

 

「その件については東機関及び霞部隊が担当します。また、英国からはMI6エージェントも多数応援に入ってくれるそうです」

 

 黒羽空軍参謀総長の疑問に答えた東郷が提案する、東機関及び霞部隊の投入。第二次世界大戦及び第三次世界大戦では数々の武功を作り上げ、大高の右腕として大活躍したこの二つの集団は、戦後も世界各地で活躍するなど非常に大きな役割を担っている。霞部隊は国防軍の中でも精鋭が揃った優秀な部隊であり、東機関はアメリカのCIA、イギリスのMI6と並ぶ世界有数の諜報機関として名を馳せていた。

 

「それは心強い。彼の国の諜報員は非常に優秀だと聞いています。その力に期待しましょう」

 

「国王ハーク・ロウリア34世には、不当な侵略戦争を行った罪で逮捕状が出ています。本来、国連軍には戦争犯罪人を逮捕する権限はありませんので、国連軍事参謀委員会及び国際司法裁判所から特命を受ける形で逮捕することになります」

 

 ロウリア王の逮捕についての説明が終わり、次に地図と作戦概要が表示される。

 

「当日は陸からの攻撃の他に、国連軍連合航空機動艦隊も上空及び海上からの援護を行います。主目標はロウリア王国を守る対空戦力の殲滅、及び敵海軍基地の破壊です。王城への攻撃は行いません」

 

「国連の戦略爆撃部隊の運用は王都への被害が予想できないことから控える一方、ビーズル郊外に陣を張っている部隊に対しては積極的に運用し、敵部隊の合流を防ぎます」

 

 高野、厳田が説明する国連軍の海上及び航空戦力の動き。現在、ジン・ハーク沖に待機中の国連軍連合航空機動艦隊による大規模空襲で王都の対空能力及び海上戦力を文字通り消滅させる。航空戦力については戦略爆撃機隊をビーズルに派遣し、駐屯する部隊を文字通り壊滅させる算段だ。

 

「これらの作戦の要は、いかにして素早くロウリア王の身柄を確保するかにかかっています。時間が経つにつれて王都内の大量の兵が王城に流れ込むことは確実です。王の発見に時間がかかった場合には脱出は困難になり、最悪隊員の生死にかかわる可能性があります。戦争の早期終結のために、作戦は1回勝負です」

 

「本作戦においては、ロウリア王国に国連が本格的に侵攻してきたと誤認させます。まず、国連軍の『F-35』、『F-38』、『銀龍四型』、『ユーロファイターA2003』、『ミラージュ2005』、『F-34』の制空戦闘機及び攻撃機部隊、及び海上艦隊で、ジン・ハーク北側の港に大量に停泊している木造軍船と敵航空戦力を攻撃、航空戦力並びに海上作戦能力を完全に奪います。

次に陸上戦力を2つに分け、第2軍団主力及び、夜豹師団、第3機甲師団、第1砲兵旅団は王都前の大平原に機械化部隊を展開し、王都攻略を行います。

また、第2軍団の別働隊、第1機甲師団、第10装甲歩兵旅団、及び第10野戦砲兵連隊についてはビーズルへの攻撃陽動部隊として派遣します。尚、国連のクワ・トイネ公国に対する武器輸出要件が大幅に緩和されたことで編成された第1歩兵中隊100名も参戦予定です」

 

「ロウリア王国の注意が国連軍陽動部隊に向きましたら、回転翼機による人員輸送で王城に侵入、少数精鋭で王の身柄を確保します。この際、衛兵と戦闘になると思われますので、交戦規定に基づいて敵を排除。王の間の奥にあります緊急控室にいると思われる王の身柄を確保、全部隊撤収します。

城外の兵が戻る前に王をヘリに搭乗させる必要がありますので、15分以内に身柄を確保、出来なければ作戦失敗とみなし、一度撤退させます。以上となります」

 

 

 

 鈴木、桂、山本らの説明が終わり、続いて質疑応答の時間に移る。王城の見取り図については、潜入していたクワ・トイネのスパイが入手していた情報から作られたもので、信用できる情報であった。

 潜入についても、実戦歴もある霞部隊及び東機関が行うため、人質とそうでない者を一瞬で見分けて射撃する能力がある彼らならば、王を誤射する危険性も少ない。夜間という条件の中、落下傘を使用することも同様に決定されていく。

 詳細を詰めるこの会議は夜まで続き、詳細が綿密に練られた。

 




ロウリア王国に漂う不穏な気配、脱出する政府高官たち、希望的観測によって政治を行う上層部……どこかで見たことがあります。

次回は王都攻略戦です。圧倒的な物量で押し潰されるロウリア王国可哀想、南無阿弥陀。

国連軍「世界のみんな元気〜?僕たちのロウリア攻略作戦始まるよ〜」
ロウリア「しゃーおらぁぁぁっ!かかってこい!!」(震え)
クワ・トイネ「ハークくん、まだ交渉の余地はある。早く投降しよう」(情け)
ロウリア「いやです」(震え)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。