新・日本国召喚   作:npd writer

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第23話 攻撃は予兆なく

ロウリア王国 王都ジン・ハーク 早朝

 

 ロウリア王国王都防衛騎士団の管轄である城壁監視塔は、敵軍出現を警戒し、24時間態勢で監視を続けていた。先日の国連軍による王都と港の奇襲を受け、緊急体制として全監視塔に1人以上の監視員を置いている。

 

 監視員であるマルパネウスは交代の時間のため、仮眠室を出て王都の最も外側にある北監視塔に向かっていた。

 

「ふわあ…‥眠い……」

 

 東の地平線は白み始めているが、まだ建物の影は濃い。周囲を見渡せば、平地に近い城壁付近は白い霧に包まれており、様子を窺い知ることはできない。

 

「今日は特に視界が悪いな……」

 

 発生している霧は外の空気が夜に一気に冷え、川の温度よりも低くなり、川の水が蒸発して霧となって現れたものだ。あと2、3時間は消えない。敵が迫っているのにこれでは発見が難しい。彼は嫌な気配を感じ始めていた。

 

「おっと……交代が近いな。早く行かないと先輩に怒られるぞ」

 

 小走りで向かった彼は交代すると、すぐに平原をぐるりと見回した。監視員は目の良いものから選別されるため、視力には自信があった。北側と東側は敵部隊の接近が予測されるので彼も気が引けない。

 

「ん……!?」

 

 一瞬だけ見えた緑色の塊。平原の色にうまく溶け込んでいるため見えづらいが、確かに何らかの違和感を感じ取った彼はその方向に意識を集中する。

 

 距離にして約4キロ。角張った体を持ち、角を生やしたものや、馬のいない荷車のようなものが多数、王都の方向を向いて整然と並んでいた。

 

「ま……まさか、そんな!」

 

 東部諸侯団の敗北。

 そして港と王都上空を襲い、海軍と王都防衛騎士団に壊滅に近い被害を与えた、正体不明の敵の存在が脳裏に浮かぶ。彼は魔信スイッチを押し込み、送話口に向かって吠えた。

 

「第17監視塔より王都防衛本部!!北側1城壁から約4km地点の平野部に、正体不明の物体を確認!!繰り返すーー」

 

 報告を受けた王都防衛本部の通信士は、すぐに仮眠中の当直司令を叩き起こし、兵舎全域に出動準備指令をかけた。

 

 

 

 

 

日本国 国防省 作戦司令部

 

「ーーでは大統領、敵にあえて姿を見せると……?」

 

「そうです。我々の戦車や迫撃砲であるならば、容易に城壁は破壊できます。しかし、その場合、民間人の被害は避けられません。

 

 国防省地下に設けられた作戦司令部。国家安全保障会議の閣僚や制服組が集められ、ジン・ハーク攻略作戦の進捗を見守っている。その中で大高は王都に立て篭もる王国軍を戦場へと引き摺り出す作戦を説明した。

 

「我々の覇王ならば、容易に城壁を撃ち抜くでしょう。しかし、その場合非戦闘員も巻き添えを受けます。我々は、一般市民に対する攻撃は極力避けなければならないのです」

 

 榴弾砲などの曲射可能な兵器であれば、塔だけを破壊し町には被害を与えない。それで城壁を破壊し、敵が本格侵攻してきたと王国軍に誤認させ、敵を平原へおびき寄せることができる。あとは無慈悲に敵を消耗させ、敵が根負けするまで出血を強要させればよい。

 

「確かにその作戦であれば我々の被害も、ロウリア王国民の犠牲も減るでしょう。ですがロウリア王国は人的資源において我々に優っている。人海戦術にこられたら、我々も手こずりますよ」

 

 非戦闘員の人命尊重を第一に考える大高は、不必要な殺戮によるロウリア王国民の対国連感情の悪化を懸念していた。民間人の大量虐殺(ジェノサイド)を意味し、戦後に大きな禍根を残すからだ。

 一方で、国防大臣の東郷はロウリア王国が人海戦術にうって出て、戦車隊で対処できる以上の物量を投入してくることを警戒していた。何十万という大軍で来られれば流石に対応できないからだ。

 

「それに関しても私は対応を考えています。まず、我々の戦車を敵の囮とします。当然敵はそれを見て我々の大規模侵攻が始まったとして、それを攻撃しようとするでしょう。これに釣られて出てきた敵軍を我々が仕掛けたポケットの奥に誘い込み、米海兵隊の航空作戦部隊に空からのミサイル並びに機関砲で攻撃、一気に叩く戦法です」

 

「戦車を囮に、ですか。最前線で戦う兵士に多大なストレスをかけますね。

しかし、他に作戦もありません。国防省はこの作戦を支持します」

 

「外務省も異論はありません」

 

 大高の提案は、過剰防衛にならない程度のギリギリではあったが、特に他の案が出ることもなく了承されたため、直ちにアイゼンハワーの下へ届けられた。 

 

 各国政府からの無茶振りとも言える指令を受け取ったアイゼンハワーは苦笑し、直ちに前線にいる夜豹師団の第1戦車連隊に同様の旨を通達した。これを受けて、戦車部隊を率いていた瀬戸は日本国防陸軍最新鋭の主力戦車である「覇王伍式」1台を塔至近に接近させる。

 

 これを城門や城壁を破壊する破城槌と勘違いしたロウリア軍は、迎撃のために兵を最も近い北側監視塔に集結させていた。

 

 

 

 

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク 第17監視塔

 

 近づいてくる敵戦車を迎撃するために、城壁頂上には当直兵が集まっていた。大型のバリスタを設置し、弓と矢、落下攻撃用の大きな石を大量に準備することで、どんな敵の攻撃にも耐える準備を整えていた。

 大型の破城兵器が1台だけ接近していることを不可解に思いつつも、配置につく。

 

 敵の姿が露わになるにつれ、緊張が高まってくる。低い唸り声を上げ、既存の兵器よりも速く、特殊な物質で覆われているように見える。

 

「第18から22、発射用意!!」

 

 城壁に並べられた大型弩弓(バリスタ)に速やかに矢が装填され、敵が有効射程圏内100m前後の距離まで接近していたこともあり、風切音と共に発射された。

 

「撃てぇーー!!!」

 

 だが、射出された矢は全て城壁から離れた地面に落下し、その役割を終えてしまった。

 

「馬鹿野郎!何やってやがる!?ちゃんと訓練したのか!?」

 

「無茶言わないでください!コイツに的を狙う精度なんてありませんよ!」

 

 射手が口を尖らせ、横で聞いていた他の弓兵も同情する。

 

「お前らの訓練不足だ!くそ……!相手の強度を見る!射撃用意!!撃てぇーー!!!」

 

 城壁から続けて放たれた50本の矢は風切り音を連鎖させ、何本かが命中した。だが、どれも軽い音を立てて跳ね返された。その直後に敵は急速反転し、即座に弓矢の有効射程圏内から離脱してしまった。

 

「なんだ……?いきなり逃げたのか?」

 

「矢が痛かったのでしょうか?それにしても、やけに速いですね」

 

 生物か攻城兵器なのか、ロウリア兵たちは一切分からず、敵陣へと帰っていくそれを見送った。

 

 敵から明確な意思をもった攻撃を確認し正当な反撃理由を得た国連軍は、直ちに作戦を次の段階へ移行した。攻撃を行った北側城壁の塔に対する反撃を行う。

 

 ここでは、ギム防衛戦でも大活躍した「炎王 三型」がその役を買って出た。主砲を斜めに上に向け、監視塔に目標を定める。

 轟音と共に放たれた砲弾は、塔を粉砕すべく空高く飛翔し、目標に命中した。

   

 

 

 第17監視塔にいたマルパネウスは突如、襲った謎の悪寒に身体を震わせた。彼には死の予感がする。しかし、予感だけで任務を放棄するわけにはいかない。彼が葛藤に悩んでいたとき、身体が押されたような気がした。国連軍が放った榴弾の監視塔を直撃したのだ。爆発をもろにくらったマルパネウスは身体を四散させながら、意識を失った。

 

 榴弾の威力は凄まじいものだった。敵の侵入を防ぐため強固に作られた石壁は猛烈な爆発で粉砕し、崩壊の轟音が王都中に駆け巡る。大きな噴煙が上がり、王国民はその音に飛び起きた。緊急事態を告げる鐘が鳴り響き、通りに溢れた人々の喧騒に包まれていく。

 

「何事か!!状況を報告せよ!!」

 

 王都防衛騎士団将軍パタジンは、爆発音で目を覚ますと寝巻きのまま部屋を飛び出した。詳細を知らない彼は、大隊長からの報告を受け取っておらず、何が起きているのかを把握していなかったのである。近くのバルコニーからの景色を見て、愕然とした。

 

「王都奇襲……だと!?バカな!!ビーズルを無視してきたというのか!?」

 

 パタジンは急いで軍服を着ると、黄金の鎧を身にまとい、緊急作戦室へと向かった。

 

「どうなっている!現状を報告せよ!!」

 

 パタジンが作戦室の扉を蹴破るかの如く開くと、焦りを見せる各方面たちの幹部たちの顔が目に映った。魔力通信士を介して現場と連絡を取ったり、各地の諸侯に招集をかけたりと、走り回っていた。

 

「ご報告します!本日未明、第17監視棟の監視員が平地に展開する敵軍を確認!深夜から濃霧が発生しており、敵の発見が遅れた模様です!!」

 

 以前より敵について報告を受けていたパタジンは、攻城兵器(戦車)の行動の不可解さに怪訝な顔をする。

 

「敵の強大な魔法攻撃により、第17監視塔は完全に崩壊!爆発の規模からして、魔導師中隊が攻城魔法を使用したのと同規模、いやそれ以上です!」

 

「何だと!?では敵は、初撃で城壁に大穴を開けたというのか!?」

 

「……残念ですが、本攻撃により第1城壁はその機能を完全に喪失しました」

 

 予想していたが、ただの一撃の重さにパタジンは唇を噛む。

 

「クソ……国連め、今日で勝負をつける気か……!」

 

 顔色を悪くするパタジン。そんな中、新たに作戦室に入ってくる若手参謀。その額には大粒の汗が浮かばせている。

 

「どうした?何があった!?」

 

「は、はい!たった今、ビーズルより緊急魔信を受信!内容は、『国連軍による大規模空襲、及び地上部隊の軍事侵攻を確認!敵戦力は強大であり、既存戦力のみの防衛は不可能!至急、王都より防衛力の増加を要請する!』とのことです!」

 

 国連軍によるロウリア王国を翻弄する二正面作戦。

 政治の中心地であり王国の首都であるジン・ハーク、経済の中心地であり王国の心臓部でもある工業都市ビーズルに侵攻した国連軍。アイゼンハワーはこの2都市を陥落させることで、ロウリア王国の継戦能力を完全に奪い、最後の降伏勧告を行うとした。

 これにより、ビーズル防衛軍は対国連軍戦を強いられるため、王都に各都市の軍を集結させ防御を固めようとしたパタジンの計画は瓦解することになる。

 

「何!?敵は王都とビーズル同時に大規模侵攻を仕掛けてきたというのか!?ま、まずい!万が一、両都市が落ちればロウリア王国は総崩れとなる!『絶対に落とされるな、死んでも守れ』と命令しろ!死守命令だ!!」

 

 確実に王国の命に止めを刺しにきた国連軍の軍隊はもう目と鼻の先にいる。彼らに残されたのは戦死か降伏の二択のみ。

 その光景を王城から見ていたハーク・ロウリア34世は身体の底から来る恐怖に身体を震わせた。

 




「ひとりを破壊するは法によって殺人者である。…何千という人間を殺害するは見かけのよい名を与えられる。戦争は栄光の技術であり、不滅の名声をあたえる」

エドワード・ヤング 『名声の愛』
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