新・日本国召喚   作:npd writer

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最近、『映像の世紀』をまた見返しています。

特に『第5集 世界は地獄を見た』は何度見ても、深く刺さる名作です。


第26話 終わりへ

「敵に動きはあるか?」

 

「いいえ、夜襲を含め、敵軍に動きはありません」

 

 パタジンらの御前会議が終わった頃、国連軍ジン・ハーク方面軍陣地内で指揮を取るアイゼンハワーは、夜間の奇襲に備えて最大警戒態勢を維持するよう、各部隊へ改めて通達を出した。

 ロウリア王国の自発的な降伏を促すための手札は全て切った。これでダメならば、各国特殊部隊が王都中心の王城へ突入し、最高指揮官である国王ハーク・ロウリア34世を拘束する手筈となっている。

 それと同時に各国戦車隊による王都突入も計画されており、国連軍として数日以内にロウリア王国を降伏に追い込む作戦を攻勢準備段階まで進めていた。

 

 この作戦に、ビーズル攻略で活躍した、第1機甲師団、第12装甲歩兵旅団も合流に向けてジン・ハークに向けて移動中であり、偶発的な戦闘はありつつも順調に進軍しつつあった。

 

 あとは、敵残存戦力が王都に到達する前に勝負を決するのみ。そう心に決めていたアイゼンハワーの元へ、状況を大きく変える出来事が訪れる。

 

「総司令官!緊急事態です!」

 

 外を警戒していた見張りからの報告を受けた参謀が、アイゼンハワーの下に何者かが国連軍陣地内に接近中である旨を報告したのは、間もなく作戦決行のため各国司令官と最終打ち合わせをしようとしていた時だ。

 

「何事だ。敵の夜襲か?」

 

「いえ、王都より旗を持ち鎧を装備した男と、杖を持ち白い髭を生やした老人が徒歩にて接近中とのことであります!」

 

 ブラッドレー、熊谷、ポンピドゥーは既に参集していたが、その他の各国部隊の司令官はまだ到着していない。 

 敵の数はわずか2人。数は少ないが、特攻の大魔法を陣地内で放つ特攻の可能性もある。

 

「参謀、敵の詳細な情報を教えてくれ」

 

「は!敵は数2、服装から見てロウリア王国政府首脳陣と思われますが詳細不明。武装等は剣及び魔法時に使用すると思われる杖を確認。しかし、旗を持った男は必死に旗を振り回しており、敵意はない様子であります」

 

「敵の詳細が分からぬ以上、迂闊にこちらの陣地に近づけることはできない。まずはドローンを飛ばして相手の真意を問う。クマガイ師団長、大至急各国政府に連絡を取ってくれ」

 

「了解した、アイゼンハワー将軍」

 

 熊谷は簡易ディスプレイの設置と、日本国国防省及び外務省を含めた各国にこの情報を伝える。敵がどんな動きをしてくるか分からないが、彼は長年の直感で敵が降伏を申し出るのではないかと考え、その対応を中心に行なっていく。

 

 

 

 パタジンとヤミレイはクオリッチの爆撃により生じた穴を乗り越えて、国連軍陣地が見える位置まで来ていた。新月の夜であるが故、夜襲も効果があったのではないかと一瞬思ったパタジンは、すぐにその浅はかな考えを捨てた。

 もう既に勝負の結末が見えているところで、これ以上兵を犠牲にしてはその不満が王政に行きかねないと意見したのは、パタジン自身だ。今更あれこれ言うのは往生際が悪い。

 

 歩みを進み続ける彼らのところへ羽虫のような音と共に、一騎の小さな飛行騎が空の彼方からやってきた。搭載している箱からは大きな男の声が響いてくる。

 

『止まれ。ここから先は国連軍管轄エリアだ。ロウリア王国は国際連合加盟国と交戦状態にある。許可なく通行することはできない。直ちに引き返せ』

 

「ま、待て!私はロウリア王国防衛騎士団将軍のパタジンだ!』

 

「同じくロウリア王国主席魔導師ヤミレイである!」

 

 箱型の鉄の虫から響く男の声に向かって、2人は叫んだ。それが正解なのか分からないが、とにかく今はそうするしかないとパタジンは続けた。

 

「我々は貴殿らと和平について話すべく参った!ロウリア王国国王陛下であられるハーク・ロウリア34世は、唯一絶対に譲れない条件を貴殿らが受け入れていただけるのならば、降伏する用意があると申されている!

我々は陛下の特使としてここへ参上した!どうか、この軍を率いる将軍閣下にお目通りを願いたい!!」

 

 ドローンのカメラでこの様子を見ていたアイゼンハワーは、驚愕するとともに政治的な案件の舞い込みに頭を悩ませていた。夜になっても敵から降伏する気配もなかったことから、彼自身は最終作戦決行に意識を集中させていたのである。

 だが、その直前になって敵は降伏を申し出た。しかも、1つの条件を国連側が受け入れるという条件付き降伏を。無条件降伏であれば現場判断で交渉に応じることができるが、高度な政治判断が求められる現在の状況では、国連軍司令部が対応できる枠を超えている。

 

「この案件は我々の対応範囲を超えている。各国政府に連絡し、早急に指示を仰ぐ他ないな」

 

 アイゼンハワーは国連の軍事参謀委員会に緊急連絡後、各国政府に即座に連絡をとった。

 報告を受けた各国政府は突然の和睦提案であったが、首脳同士の緊急オンライン会談を開催し、現場に負担をかけぬよう早期に結論を出すことにした。

 

 

 

 

『本日、国連軍総司令官アイゼンハワー将軍より、ロウリア王国政府首脳陣との接触があったとの第一報、そして王国防衛騎士団将軍パタジン氏及び主席魔導師ヤミレイ氏より降伏の用意があるとの続報を受けた。

政治的案件につき、将軍は判断を我々に一任するとのこと。そこで全参戦国で会議を行い、速やかに結論を出そうと思う。各国の意見を聞きたい』

 

 ホワイトハウスはウエストウイング、シチュエーションルームにて作戦会議中だったリーガンは、アイゼンハワーからの一報を受け取ると、すぐに各国首脳に連絡を取り、オンライン会議開催を提案した。大高、サッチャー、ミッテランは官邸や首都にいたため、即座に要請に応じた。

 だが、マクミランとカナタ、それにクイラ国王は諸事情に遅延、若しくは代理人の出席という形になっている。

 

「ロウリア王国が降伏を申し出たのであれば、我々も戦闘行動を中止すべきでしょう」

 

『ですが、騙し討ちという可能性もありますわ。交渉は慎重に且つ敵の真意を見極めて進めなくては。彼らが何を言おうとも、既に信頼など皆無であり、信じられません。イギリス政府は作戦は継続するべきだと考えます』

 

 国防省より同様の情報を受け取った大高は、即時の戦闘行動停止を提言する。一方、ロウリア王国を信じきれないサッチャーはあくまでも正式な降伏宣言までは戦闘態勢継続を主張した。

 

『確かにヘーゼルの言う通りだ。敵が降伏を宣言したのは大変喜ばしいことではあるが、正式な申し入れではない以上、安易に判断すべきではないからな』

 

 ミッテランも同様に大高の提案には否定的だ。彼はかねてよりロウリア王国に対して強硬姿勢であったことから、サッチャー以上にロウリアへの不信感が積もっていた。

 だが、大高はそれでも譲らない。国際平和の恒久的実現と、戦後社会においてロウリア王国が我々の同志となるように変革したいと訴える大高は、相手が譲歩した以上こちらも譲歩すべきであると訴えた。

 

「サッチャー首相やミッテラン大統領のお気持ちは、我々にもよく分かります。一度、矛を交えた者を信用しろと言うのは厳しいという気持ちにもです。しかし、我々は過去ばかりを気にしては生きていけないのです。過去に囚われていては、未来は見えなくなってしまうものですから」

 

 大高の言葉に2人は黙って聞いていた。まだ不信の感情は残っている、だが大高の言葉に共感できる部分がある2人は即座に反論することはせず、その後頷いた。

 

『クワ・トイネ公国のリンスイ外務卿。貴方は今回カナタ首相の代理として出席されている。ロウリア王国と長年戦争を繰り広げ、我々よりも彼の国を理解している貴方の意見を頂戴したい』

 

 より専門的な意見を求めるーーリーガンは地方視察の為欠席しているカナタに代わり、臨時出席しているリンスイに見解を尋ねた。

 モニター越しのリンスイは超大国が出席する国際会議に慣れていないのか、オロオロし時に部下の手助けを受けながら答えた。

 

『ええとですね。あのー、クワ・トイネ公国としては以前カナタ首相が申し上げた通り、ロウリア王国の完全なる破壊や解体は望んでおりません。何しろ、我々には広大なロウリア王国を管理する能力はございませんので。

えー、敵が降伏を求めるのであれば我々も戦闘態勢は解くべきだとは思います。しかし首相不在の中、我々だけでこのような重大な案件の結論は出せませぬ。クワ・トイネ公国は国連安保理の方針に従います』

 

 リンスイに続けて意見を述べたクイラ王国の外務卿も、判断を国連へ委ねる。両国は5カ国の支援がなければ戦争で勝てないことを理解しており、国連安保理ーー事実上5大国の判断に従うとした。意見が一通り出揃ったタイミングで遅れてマクミランが参加し、リーガンに促され意見を述べた。

 

『ロウリア王国が降伏を望んでいるのならば、我々も対話の席へ座るべきです。報告でロウリアは甚大な被害を被っていると聞いています。これ以上の戦争継続は困難になったと見るべきでしょう。カナダ政府はオオタカ大統領の意見に賛成です』

 

 マクミランは三人の意見を聞いたうえで講和に応じるべきだとの立場を明らかにした。これで即時講和に応じるべきと主張する大高とマクミラン、敵が明確に降伏を宣言するまで戦いを継続すべきと主張するサッチャーとミッテランの二対二になった。

 やはり鍵を握るのはアメリカの姿勢ーーリーガンの一声でロウリア王国の運命が決まるというわけだ。全員が彼の言葉に耳を傾ける。

 

『私はロウリア王国がこれまでの姿勢を改め、自由で公明正大な自由選挙が行われる、民主主義国家に生まれ変わる意志を持っているのであれば、講和へ踏み切っても良いと考えている。今、ロウリアは我々に唯一の条件を受け入れれば降伏する用意があると示した。条件次第ではあるが、私は戦闘行為を停止し、講和に応じるべきだと思う』

 

 リーガンはロウリア王国が示した条件にもよるが、アメリカとして和平に応じることに異論はないと結論を出した。リーガンの決定を踏まえて日米英仏加、クワ・トイネ、クイラはロウリア王国の要求がどんなものであるかを尋ねるようアイゼンハワーに命令した。

 

 

 

『貴国の主張は分かった。その上で一つ明確にしておきたい。ハーク・ロウリア34世が要求する『唯一絶対に譲れない条件』とは何だ?』

 

 アイゼンハワーはドローン操作員に会議の結果を伝える。その中で各国が示した降伏交渉に応じる際に提示したロウリア王国の“条件”について敵に問いかけるよう命じた。操作員はこれに応じてマイクを使って問いかける。一瞬の沈黙の後、パタジンはドローンを真っ直ぐ見つめ、王国としての意見を述べた。

 

「わ、我々の要求はただ一つ!ロウリア王国が国家として存続し、民が平和に生活を営む権利を保持し続けられること!これを受け入れていただけるのであれば、我々は貴国らに降伏する!」

 

 この世界ではあり得ぬーー敗戦国に国家主権と人権が保障されるーー要求である。それは列強であれ、ロウリア王国のような地域大国であれ、この世界で容赦ない統治を行ってきた者たちからすれば半ば夢物語のような話だった。

 あまりに虫のいい話であり、王国感情が悪化しているクワ・トイネやクイラが拒否すれば、再び戦うほかない。それこそ国民の総玉砕で国家自体が消滅しようとも。

 

 一方でこの様子をカメラ越しに見ていた日米英仏加の首脳たちは、思わずずっこけたくなる思いだった。彼らからすれば敗戦国にも平等な権利を与え、国家主権を尊重するというのは常識も常識だったからだ。彼らから見れば常識であることも、異世界では常識ではないことを首脳たちは痛感する。

 無論、ロウリア王国の要求は二つ返事で了承された。これを受け取ったアイゼンハワーはドローン操作員の手元にあるマイクを借り、結論を伝えた。

 

『国連軍総司令官、アメリカ空軍のジョン・W・アイゼンハワーだ。只今より、ロウリア王国の要求について国連加盟国が出した結論を伝える』

 

 スピーカー越しに響くアイゼンハワーの声。パタジンとヤミレイはあの箱から喋っている男があの強大な軍隊を率いる大将軍だと知り、無意識に身が固くなる。

 

『ーー緊急首脳会談の結果、ロウリア王国の要求を認め、ロウリア王国の主権及び国民の生命を保障するとのことだ。

なお、ロウリア王国は速やかに武装解除し、降伏を内外に宣言していただく。これを確認次第、我々国連軍も戦闘態勢を直ちに解除する。以上だ』

 

 端的にアイゼンハワーはパタジンとヤミレイに伝え、ドローンへ通じているマイクのスイッチを切り、速やかに作戦室に戻っていく。

 一方、自国の要求が奇跡的に通ったと歓喜したパタジンとヤミレイは、安堵の涙を浮かべながら何度も頭を下げ礼を言うと、足早に王都へと戻っていった。

 

 王城に戻り安堵の涙を浮かべた二人から報告を受けたハーク・ロウリア34世は、直ちに全軍に軍事行動の中止と武装解除、そして王国の降伏を宣言した。ここにロデニウス大陸の覇権を求め勃発した戦争は終結したのである。

 これを受け、国連軍も王都ジン・ハークへ展開していた軍及びビーズルからの撤退開始の準備を始めた。

 

 なお、降伏を受け入れない一部諸侯の反乱を警戒したロウリア34世は、ランド率いる近衛隊の武装解除を行わなかった。国王の()()()()である近衛隊は官憲であり、軍隊には当たらぬとしたのだ。

 これを、ロウリア王国が無政府状態に陥る事を恐れる日米英仏加は、降伏に反発する諸侯から、最高指導者を守ることのみに行動するという条件で黙認した。

 

 実際に降伏に反発した勢力もいたが、王許諾のもと現地に急行した『Coo-pes』が一兵たりとも残さず殲滅したため、諸侯による王都襲撃がなされることはなかった。

 




「Merry Christmas, Mr. Lawrence」

ーーハラ・ケンゴ軍曹、『戦場のメリークリスマス』より
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