転移の混乱は凄まじく、各国は対応に追われている。
地震への耐震補強が為された施設が少ないアメリカやイギリス、フランスと違い、日本においては地震による直接的な被害は少ない。震度7の揺れに見舞われることの多い日本だけに、震度4という小さな揺れに対する対応策は万全だ。今回も気象庁を筆頭に関係各省庁の連絡はスムーズに行き、初期対応は迅速に行えていた。秘書官から第一報を受け取っていない大高は、執務室で揺れが収まるのを待ちながらサッチャーに声をかける。
「首相、大丈夫ですか?」
床にへたり込むサッチャーをソファに座らせた大高は、彼女を落ち着かせるように背中を摩った。
「え、ええ……。それにしても今の揺れは一体……?」
「分かりませんが、恐らく関東沖で起きた揺れでしょう。体感的には震度4から5といったところでしょうか。一先ず、状況確認をしなくてはなりませんな」
大高の言葉の後、慌ただしい足音と共に大統領秘書官が室内に飛び込んでくる。ドアノックを忘れるぐらいの慌てぶりで部屋に入ってきたのは、長年にわたって大高の秘書官を務めてきた山本清乃だ。
「大統領!お怪我はありませんか?」
「2人とも大丈夫だ、山本さん。それより何が起こっているかを説明してほしい。あなたがそれほど焦るとは、単なる地震による被害だけではなさそうに思えますが」
「は、大統領閣下。時間がありませんので単刀直入に申し上げます。
建国史上、前代未聞の緊急事態です。この場で申すには言葉足らずになりますので、至急危機管理センターへお越しください。既に関係閣僚には参集の要請を出しております」
「ーー分かった。内閣府については何か情報が入っているか?」
「既に総理官邸にて情報収集を開始しているとの第一報は入っております。また、与党幹部と会食中でありました西郷総理が官邸に急行しているほか、既に官邸入りしている幣原副総理以下内閣府の長官や局長が対策会議を行なっています。ですが、事態が事態なだけに深刻な混乱を招いていますよ」
山本の言葉に大高とサッチャーは秘書の言葉に一時言葉を失い、続けて二人の政治的感覚が国家存亡に関わる緊急事態ということを認識した。サッチャーの手をとって立ち上がった大高は、すぐに頭を切り替えて行動を開始する。
「よもや、これ程までに切迫していると言うことは類のない非常事態ということですな。首相、申し訳ないですが一緒に危機管理センターの方まで来ていただきます」
「構いません。私もかなりの緊急事態と感じていますから。懇談などしている場合ではありませんからね」
大高、サッチャー、それに山本は応接室前で待機していたSPと共に、官邸危機管理センターがある地下3階への直通エレベーターに乗り込んだ。
大統領府官邸の地下3階に設けられている官邸危機管理センター。万が一の核攻撃にも耐えられるように地中深くに設置され、有事の際には大統領以下主要閣僚が退避し陣頭指揮を迅速に執れるよう、最新鋭の通信機器や医療設備が設けられている。また常に国防省の軍人が数十人規模で常駐しており24時間他国の動向を監視し続けている。
そんな危機管理センターは現在、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。陸海空の制服組や官邸常駐の大統領府職員、情報省の職員が慌ただしく行き交っており、モニターには非常事態を示すマークと世界地図が表示されている。
大高とサッチャーがメインモニターがある大ホールに入ると全員が手を止め注目するが、大高の合図のあとすぐに各自作業に戻る。
「高野さん!ご無事でしたか」
危機管理センターに設けられた緊急対策本部会議室に入室した大高は、日英海軍トップの会談のために官邸を訪れ、大高が来るまで臨時で陣頭指揮を執っていた国防省海軍軍令部総長である高野博太郎海軍大将に説明を促した。海軍の制服に身を包んでいた高野は大高に敬礼すると巨大モニターを背に説明を始める。
「大統領もお怪我がなく安心しました」
「昔から丈夫だけが頼りでしたからな。それで、現状はどうなっていますか?」
「まだ詳しい情報は入ってきておりませんので、総務省、情報省、外務省及び国防省からの第一報からしか情報を察することができません。ですが、前例のない緊急事態だとは言えます。地震そのものによる被害は出てはいますが、マグニチュードと比べると、不可思議なほど軽微なものです」
「一方、地震直後から隣国である人民中国、インド、オーストラリアなどのアジア・オセアニア諸国を始め、イギリスやフランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国、ブラジルやアルゼンチンなどの南米諸国各国との通信が途絶しています。情報省からの報告では国内及び南洋地域の通信も不安定化、一部断絶している地域もあるとのこと。恐らくですが、衛生軌道上にある人工衛星及び海底ケーブルに何らかの障害が生じていると思われます」
「ーーそれは本当ですか!?全ての衛星の信号が途絶しているというのは」
さしもの大高も、想像すらを超えたまさかの事態に驚愕する。全衛星信号喪失という報告は到底信じられるものではなかったが、省庁からの報告なのだから信じるしかない。現にセンターに置かれた巨大モニターは、地球を周回していた日本の人工衛星の信号が消滅したことを示しており、各国の通信状況の一覧には全ての国の上に「Error」の文字が出ている。
瞬時に大高の脳裏には先日国防省から報告を受けた、中華中国が密かに開発していると言われ、戦況を覆す力を持つ新型EMP兵器が日本本土上空で使用された光景が浮かんだ。
「国防軍のみならず民間の衛星までの信号がロスト、海底ケーブルも切断されていることから察していただけたかもしれませんが、我が国は機能不全に陥りました。現在、生き残っている回線を用いて各州都や総務省、国防省、外務省との連絡機能維持に全力を注いでいます。また、大統領も懸念されているであろうEMP兵器による攻撃ですが、国防省としましても他国からの大規模EMP攻撃の可能性も睨んでいます。しかし、直前まで攻撃のシグナルはどの国も見せていませんでした。他国からの宣戦布告なしの軍事侵攻である可能性は低いでしょう。
国防省と情報省に加えて人的資源開発省管轄の量子コンピュータを使って解析を行い、今回の事態に関してあらゆる可能性を探っています。結果が判明するには暫くかかるかと。また、気象庁からの報告では空が急に明るくなるという未知なる現象が確認されたとのことで、既にSNS上でもこのような投稿が次々と上がっています」
高野が持っていたタブレットを操作し、検索エンジンで引っかかった写真のうち数枚を大高に見せる。空が突然明るい光を発した様子以外には変化していないが、その有様に不気味さも感じられる。
「俄には信じられないが……写真や映像の真偽については?」
「は。現在総務省としても映像や写真の調査を行なっていますが、エビデンスとしての判断はできかねます」
「うむ。引き続き調査を頼みます」
総務省職員の答えに厳しい表情で頷いた大高はサッチャーと共にU字テーブルの中央の椅子に座った。この位置からは大型モニターが一望でき、瞬時に何が起こっているかを判断できる。
「とにかく関係各省庁は情報収集に全力を出してもらいたい。特に総務省と情報省には民間提供の情報もしっかりと精査するように伝えてほしい。思わぬところに、事態打開のヒントはあるからな」
「ーー大統領!大高大統領、ご無事でしたか?」
暫くの間、険しい顔でモニターを見つめていた大高は官邸入りしていた、外務大臣である木戸孝典の声に顔を向ける。日英首脳会談準備ため、大統領府官邸と外務省を行き来していた木戸は外務省にて開かれていた事務次官、政務官、審議官らとの会談中に謎の現象に遭い、大高の要請に先んじる形で急遽会議を中止して大統領府官邸に急行していた。
「おお!木戸さんもご無事で安心しました。まだそちらの状況も不安定の中、こちらに来てもらったのは非常に有難い。分かる範囲で構わないので、国際情報を整理して提示してほしい」
「私も大臣官房と国際情報局から聞いている限りなので、詳しい情報は私も確認できておりません。前例のない事態故、私も混乱しています。外務省として、とにかく周辺国とのコンタクトを取れるよう、総力をあげて機能回復を行っています。また国防省にも美保通信所を最大出力で稼働させるよう要請しております」
「うむ。とにかく外務省には即急に海外との通信回線確保に総力をあげて取り組んでほしい。特に英国との回線は早急に回復させるように頼みますぞ」
「分かりました。改めて情報局にそう伝えます」
大高の言葉に頷いた木戸は、本省に連絡を行うため一度危機管理センターを退室する。秘書官である山本からの情報では、国防大臣や大蔵大臣といった国家安全保障会議の常任メンバーである主要閣僚が大統領府官邸に急行しているとのこと。そして、各州都からの情報も途切れ途切れではあるが総理官邸に入りつつあった。
いずれの都市も、瑞穂と同じく眩い閃光の直後、震度4ないし5の揺れに見舞われており、このことは全国各都市で観測されていることを示していた。
続けて緊急内線で宮内省から連絡が入る。天皇皇后両陛下や皇太子殿下の安否については宮内省から無事であるとの一報だ。念のため両陛下はお住まいの皇居地下シェルターへ、皇太子殿下は皇太子妃や子供である内親王殿下とともに赤坂御用地のシェルターにそれぞれ避難しているとの報告も合わせて受ける。
他の皇族の方々の安否については宮内省や内府が引き続き確認しているが、全員の無事が確認されるだろうとの報せに大高は密かに胸を撫で下ろす。
一方で、未だに英国本国と連絡の取れないサッチャーは、事態を受け官邸入りした駐日英国大使館の職員と話し込んでいた。
「ーーですから、どうにかして本国との通信は確保できないのかしら?」
「首相。現在、日本政府が全力で本国との通信回路の確保を目指しています。それまで我々ができることは何もないことをどうかご理解ください」
「しかし、日本政府におんぶにだっこされるのはなんとも……ね。ーー横須賀の駐日艦隊司令部は?あそこから本国へは繋げられないの?」
日本海軍の拠点の一つでもある横須賀は、後世でもアメリカ海軍の拠点として使用されていることに加え、中華中国を牽制する点でイギリス海軍の東アジア地域の拠点としても使用されていた。現在、横須賀には空母「クイーン・マーガレット」を旗艦とする空母打撃群が寄港中であり、その通信設備を使用しての本国との通信回路の確保をサッチャーは提案していた。
「首相。東京から約9000キロ離れたロンドンの官邸までの直接通信を衛星なしに確保するのは至難です。距離的にはハワイにあるアメリカ太平洋艦隊司令部までなら届くかもしれませんが、それ以上の通信は我が国単独では不可能です」
「可能性があるならば、少しでもそれにかけるべきでは?だからこそ、太平洋艦隊司令部の施設を使用してーー」
「首相。ハワイがそもそも同じ状況であるかは不明ですし、本国の所在さえ分からない状況では不可能です」
「とにかく今は待つしかできません。どうかもうしばらく辛抱を」
「そう……。今は彼らに頼るしかないのね……」
スタッフに促されたサッチャーは隣に座る大高の姿をただ見つめることしかできなかった。
「ーーそうか、分かった。ご苦労だった。
ああ、木戸君か。……なるほど了解した。大統領にはそちらから伝えてほしい、こちらは総理官邸に連絡しておく。ああ、頼む」
高野がセンターにて情報省からの連絡を受けていると、それとほぼ同じくして外務省からの最新情報を抱え、再び危機管理センターに木戸が戻ってきた。彼は高野に一言二言告げると、報告を待つ大高の下へ急いで向かう。
「大統領。只今、外務省及び情報省から緊急情報が入りまして、情報省、国防省情報本部及び外務省国際情報局を通じて以下の数カ国との連絡が成功したとのことです。米国、カナダ、東方エルサレム共和国、アイルランド、フランス、英国の6カ国です。その他の国家との連絡に関しては、引き続きコンタクトを続けます」
高野からの情報と情報省からの連絡をメモに殴り書きした木戸は、司令塔である大高とサッチャーの元まで歩み寄って最新情報を伝える。
この報告にサッチャーや周りの駐日英国大使館の職員たちがほっと息をつくように力が抜け、中にはへたり込むように床に座り込む者も出た。本来であれば注意すべきサッチャー自身も、椅子の背もたれに深い息と共に身を沈めた。
これで本国が亡国化し帰れないという最悪の事態を免れたのだから。
「大統領。6カ国以外の国家とのコンタクトですが、美保の通信所の高出力アンテナを使用しての通信で反応があったのが先程の6カ国ですので、これ以上のコンタクトへの希望は望み薄とのことです」
大高に続けて、総理官邸への報告を終えた高野は補足説明を行う。大高としては日本が孤立無縁にならずに済んだこと、何より資源国であり同盟国であるアメリカやイギリス、フランス、カナダとの連絡を確保できたことが、この絶望的な状況における数少ない救いだった。これにより日本は一時的に混乱するとはいえ、壊滅的な打撃を受けずに済むのだから。
テーブルに置かれた麦茶を一気に飲み干した大高は続けて指令を出す。
「木戸君、高野総長、ご苦労様でした。とにかく我が国が孤立状態に陥らなかったこと、それにサッチャー首相が無事英国に帰還できることをまずは何よりも喜ぶべきでしょう。しかし、まだまだやるべきことはありますな。ーー国防大臣はどちらに?まだこちらに向かっている途中か?」
「こ、ここです。大統領閣下、遅れて申し分けありません」
未だに姿を現さない国防大臣の姿をキョロキョロと見回す大高の下へ、額に汗を浮かべ荒く息をしながら一人の女性が入ってくる。彼女こそ、国家安全保障会議に必要な最後のメンバーである東郷美琴国防大臣だ。
まだ30代前半という若手でありながら、国防省随一の頭脳を発揮し省内で存在感を増していた東郷は、大高の目に留まり西郷の推薦もあって最年少で国防大臣に就任した若手ホープの旗振り役の一人だ。
胸元を大胆にも開けたセクシーな服を着こなす美女だけあって、首から滴り落ちる汗が色気を誘う。
「東郷君、急に呼び出して申し訳ないね。だが、国家存亡の緊急事態であるが故の対応なんだ。許してくれ」
「な、何を仰いますか。政治の先生である大高先生の頼み事であれば、即急に駆けつけますよ!‥‥まあ、遅れてしまったのは何も言い訳できませんが」
首元の汗をハンカチで拭い、髪を整えた東郷は早速、鞄からタブレット端末を取り出し、最新情報を報告する。
「えー、現在国防軍の出動準備体制は万全です。大統領閣下のご命令があれば、直ちに出撃が行えるよう緊急待機命令を全軍に下令中です。
陸軍については、日本列島に展開中の全9師団は即応体制に切り替え、予備3師団にも非常呼集中です。
海軍については、日本本土に控えている第一連合航空機動艦隊、米機動部隊との演習中でありました第二連合航空機動艦隊、日本周辺を航行していた対潜護衛艦隊、紅玉艦隊及び旭日艦隊との連絡は取れており最寄り軍港に至急寄港させます。
空軍についても、各航空基地において出動体制を整えております」
「うむ。では、空軍参謀本部に伝達を。那覇・霞ヶ浦・札幌の航空基地より、周辺海域の偵察のために偵察機を出動させるように伝えてくれ」
「その点については心配ありません。先程、外務省からの通信確保の報を受けた際、同様の現象を米国や英国でも確認していることが判明しました。この報告を受け、既に各国空軍偵察機による周辺海域の調査を日米英仏で開始しております。戦略空軍においては、那覇基地に先日配備された航空偵察機「瀬戸」が南西方面に調査飛行を行なっているところです」
「なるほど、分かった。素早い対応に感謝する」
国防省の迅速な対応に満足げに頷いた大高へ、何もできず歯痒い思いをしているサッチャーが遠慮がちに話しかけた。
「ミスター・オオタカ。申し訳ありませんが、我が国の状況について、入ってきている情報を全て教えてはいただけないかしら?」
「ええ。後ほど入りました情報について、木戸大臣から報告を上げますから、その時に改めてお知らせします。現在は英国本土も同様の現象を受けているとの報告が全てですが、更なる情報収集並びに皆様の本土帰還を、日本政府として全力で取り組む所存です」
大高とサッチャーの会話の間にも事態は目まぐるしく進み、大統領府官邸には大高からの緊急参集要請を受けた大蔵大臣、海外協力庁長官がセンターに到着し、大統領府官邸からの徒歩圏内にある内閣府官邸からは、地下に設置された危機管理センターからのライブ映像がモニターに映し出される。
木製のU字型テーブルを囲むようにして座る、内閣の主要閣僚たち。大高弥三郎の戦後改革の影響から、大臣や長官には、政党議員・民間人が半々であり、女性の割合も半分以上を占めている。
『こちらは、内閣府官邸地下の危機管理センターです。大統領閣下、聞こえますでしょうか?』
「よく聞こえる。そちらが無事で何よりだ。西郷総理はそちらにいるかい?」
音声自動認識装置が搭載されたマイクを使ってやり取りを行う大高。彼の言葉に、モニターの向こう側にいる内閣府の面々の中で、U字テーブルの中央に座る若手女性が手を挙げる。
『西郷です。大統領閣下、そちらもご無事で安心しました。こちらも第一報は情報省より聞いています。前例のない非常事態ということは、我々もしかと認識しています』
彼女は、外交・軍事を担当する大高と対を成す、内政を主に担当する内閣総理大臣の西郷美雨だ。大高弥三郎の盟友であり、彼が総理時代には副総理として支えた西郷総理の子孫でもある彼女はがっしりとした体格をしていた祖先とは異なり、艶のある黒の長髪の美女の風格だ。
東郷国防大臣とは同期であり、彼女も大高の推薦によって若くして総理に就任したやり手の1人だ。いずれは、日本国大統領として大国日本を率いることを期待されている逸材でもある。
「うむ。今、我々は建国史上前例のない異常事態に陥っている。全責任は大統領たる私が取るので、失敗を恐れずに矢継ぎに緊急政策を立案してほしい。そちらは若い頭脳が集まる精鋭集団だ、私よりも柔軟な考えが出せるだろう」
『そのお言葉だけでも何よりです。詳しい話は後ほどお伝えしますが、幣原総務大臣が国家緊急特別措置法に基づく国家非常事態宣言を全州に発令し非常事態体制に移行しました。それから私の独断で、大蔵省に同法に基づく株式売買停止と市場の一時閉鎖を直ちに行うよう指令を出しました。大蔵大臣の権限を越権した総理特令でありますので、この場で大臣に謝罪するとともに大臣からも正式な要請をお願いしたいと思います』
内閣総理大臣を支える副総理大臣の1人であり総務大臣を兼任しているのが、幣原玲於奈だ。2人いる副総理のうち政党に所属する議員であり、与党である清貧党所属の若手議員である。国防大臣である東郷、内閣総理大臣である西郷と並び、将来の大統領候補と目されている1人であり、2人に劣るものの勘が異常に働くことで知られている。また、2人に負けず劣らずの美貌の持ち主であり、ファンクラブが設けられているほどである。
「こちら高橋。西郷総理、話は聞いていますよ。私としては大蔵大臣として総理の君の判断に従うまでです。私の方からも大蔵省の方に正式な命令を出しておく。緊急の経済対策も並行して行う必要があります。会議が終わり次第すぐにそちらに向かいましょう。大統領、突然の割り込み失礼しました」
「いや、構わない。国家非常事態宣言発令に伴う会見は、私が行おう。国民には秩序ある行動を要請するとともに、それに伴う経済的損失については政府が責任を持って補償することを国民に伝える。それと、食料・エネルギー分野についての対策も早急に取り組んでくれ』
第三次世界大戦後、危機的事態が発生して来なかった日本本土に起きた異常事態。それでも日本政府は異常事態においても関係閣僚に的確に指示を出していく。
後世日本においては、所謂「平和ボケ」にならぬようどんな非常事態にも即対応できるように常に訓練していたことが、今回にも活かされていた。
内閣の権限を非常時に拡大し、議会への承認は事後とすることが可能となる国家緊急特別措置法に基づく非常事態宣言を全州に発令した西郷美雨内閣総理大臣の指示の下、矢継ぎ早に各方面に緊急指令が出されていく。
「高野さん。桂陸軍参謀総長と黒羽空軍参謀総長に大統領府官邸に招集する様に伝えてほしい。緊急の国家安全保障会議を開催する必要がある。
ーー木戸君、関係各国との通信回線は開けるか?」
「お待ちください。美保通信所は動いていますので、その通信機能を使い何とか……繋げそうです!」
木戸は先程から情報省・国防省共同管轄で日本最大の基地局である、美保通信局を使用し各国外務・国務省との連絡に奔走していた。その甲斐あってホワイトハウスや各国首相官邸が放つ僅かな電波をキャッチし、それをどうにか繋げることで各国との通信を確保しようとしていたのだ。
そして通信が入ったのを確認した木戸が、外務省職員に特別回線に切り替えるよう指令を出すと、先ほどまで世界地図が展開されていたモニターにはアメリカ、フランス、アイルランド、カナダ、東方エルサレム共和国の大統領や首相など各国首脳陣、イギリスからはウォルポールや官邸に到着したばかりの国防大臣らが映し出される。
衛星なしのやり取りのため映像は荒いが、どうにか音声は正確に拾えており、最初にアメリカから報告が入る。
『ミスター・オオタカ。合衆国も貴国と同様の現象を確認している。此方では、カナダ以外の南北アメリカ大陸の国々からの通信が断絶していることに加え、ブリュッセルのNATO本部やモンスの欧州連合軍最高司令部からの通信も途絶している状況だ。世界各地に展開していた陸海空軍と幾つかとは連絡が取れていないが、同盟国に駐屯していた部隊や艦隊とは先程連絡がついた。またこちらの時間で深夜であるが、突然空が明るくなった様子が見られている。現在、全州に国家非常事態宣言を発令し全軍に出動待機命令を下令中だ。いつでも出撃できる準備ができている』
『サッチャー首相。首相が不在中のため、筆頭国務大臣である私が臨時に指揮を執らせていただいております。オオタカ大統領、此方もマドリードやベルリンなどの主要都市との連絡が断絶しており、ヨーロッパ各国との繋がりが完全に消滅した形となっています。現在、国家安全保障事務局と民間緊急事態事務局が連携して情報収集を行うとともに、内閣府ブリーフィングルームに緊急事態委員会を設立し対応を協議しています。また、海軍が周辺海域の防衛を行いつつ我々も哨戒機を東方面に展開し周辺海域の調査にあたっています』
開口一番、ホワイトハウス内、ウエストウイングのシチュエーションルームにて陣頭指揮をとるリーガンが口を開き、続けてサッチャーが不在のため官邸内のブリーフィングルーム内で臨時指揮をとるウォルポールが報告する。二人とも寝巻き姿からスーツ姿に着替えており、多少の寝癖はあるものの二人の目には眠気はすっかりない。
続けてフランス、カナダ、アイルランドからも続々と報告が入る。
『ムッシュ・オオタカ。こちらもアメリカやイギリスと同じ状況で国内の混乱に手を焼いている。現在、内務省が情報収集を行なっており、被害状況を調査中だ。現在の状況を整理すると、大陸側であるグラン・テスト県からの第一報によればドイツからルクセンブルク、及びベルギー国境が消失し、代わりに海が広がっているとのことだ。本来であれば、荒唐無稽の発言であり神経を疑うが、それが事実であることは現地員の写真から把握できることだ。こちらも空母「ジャン・ド・ゴール」を旗艦とした空母打撃艦隊を旧地中海沖に派遣して、詳しい情報を収集中だ』
『カナダ政府としてもこの非常事態に際して、公共安全省を通じて全国に緊急事態を宣言しました。政府オペレーションセンターにて対策会議を行いつつ、今後は日本やアメリカ、イギリスと緊密に連携し情報共有しています。また、カナダ軍全軍に出動待機命令を下令中です』
『アイルランド政府は地理的に近いイギリスと共同で情報収集を行っています。また、近いうちにではありますが連絡の取れた国々による緊急外相・国防相級会談を行うべきと進言します』
フランス大統領のミッテラン、カナダ連邦首相のヴィクター・マクミラン、アイルランド共和国首相であるレイモン・ゴスグレイヴら各国首脳の対応が次々に表示される。
危機管理センター会議室の椅子に腰掛けながら聞いていた大高は険しい表情でモニター上を移動していく「瀬戸」のマークを見つめていた。
(とにかく我々が今、何処にいるのかを第一に知りたい。そうなれば来たる敵にも対抗ができなくなり、蹂躙される可能性が高まる。今はそうならない事を切に願いたいものです)
転移してきた国々の簡易的なまとめ1
大日本合衆国
本作の主人公格国家。第三次世界大戦を勝利に導いたチート国家であり、戦後は大国の一角として国際社会を牽引してきた。技術力や経済力に積極的な投資を行う大高ドクトリンに従い、先端技術への投資を積極的に行っている。また、亜細亜の代表格として亜細亜諸国をまとめ上げつつ、欧米諸国とも良好な関係を築いてきた。
欧米に追随しない独自の外交姿勢をとっており、インドやアラブ、アフリカ諸国との関係は良好である一方、その外交政策や経済政策をめぐって欧米との対立も度々発生している。
アメリカ合衆国
名実共に最強国家。第三次世界大戦を勝利に導いた立役者であり、戦後はかつてのローマ帝国以上の超大国として国際社会の頂点に立っている。文字通り「パクス・アメリカーナ」の時代を形成しており、軍事力・経済力・文化力、その他全てにおいて世界一の力を有している。一方で、アジア地域やアフリカの多極化によって影響力を誇示することには限りが見え始めているほか、技術力においては日本に遅れをとっている。
イギリス王国
第三次世界大戦では開戦当初にナチスに占領されていた南部イングランドを開放し、その後は日本やアメリカと連携し全ての領土を奪還すると共に北欧諸国に軍を派遣するなど、連合国の勝利に貢献した。戦後は日英同盟の深化を進め、経済的な結びつきを強めると共にライバルであるフランスに対して経済的・技術的な優位を確保することに注力している。
フランス共和国
第三次世界大戦においては終盤まで本土奪還が遅れることになった。一方でアフリカ戦線においてはイギリスや日本と共同作戦をとり、アフリカ地域の解放に貢献した。戦後は荒廃した国内の復興や欧州における覇権確立に動いている。イギリスとは異なり、欧州諸国との連携を強めることで国際社会の地位向上を目指している。