新・日本国召喚   作:npd writer

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アメリカの大統領選挙が終わり、トランプ前大統領が見事返り咲きました。この場をお借りして、同氏の当選を心より祝福いたします。

これから世界は、あらゆる面で予測がつかない不確実性の時代に突入します。
アメリカという国が分断という、癒すことの難しい深傷に苦しむ中、我々日本人もどう生きるべきか、真剣に考えなくてはいけません。


第29話 『マイハーク条約』

 

 ロウリア王国代表団がマイハークに到着したのは、条約草案発表の翌日だった。マオス宰相、パタジン王国軍防衛騎士団将軍、ヤミレイ王宮主席魔導師を特命全権大使として送り込んだロウリア王国。彼らは、報道陣を避けるように裏口から公爵邸に入り、控えの間に案内される。7カ国が会議を行っていた大広間の隣に位置している控えの間は、大広間と比べると広さや装飾でいくらか劣っている。

 各国首脳がクワ・トイネ公国が開催したレセプションで盛り上がる中、控えの間に入ってきたロウリア王国代表団は、待っていたホフマンの出迎えを受けた。

 

「初めまして、ロウリア王国代表団の皆さま。私は、国際連合事務総長を務めていますリチャード・ホフマンと申します。本日は、各国を代表して皆さまをお待ちしておりました」

 

「わ、私はロウリア王国宰相マオスであります」

 

「ロウリア王国軍防衛騎士団将軍パタジンです。この度の多大な配慮、心より感謝申し上げます」

 

「ロウリア王国王宮主席魔導師ヤミレイじゃ。其方が、あの強大な軍隊を持つ国家群を束ねる存在なのか?」

 

 ヤミレイの勘違いに一瞬驚くホフマンだが、すぐに笑顔を浮かべて否定した。

 

「いいえ、ヤミレイ殿。私は国際連合という国家が集まった組織で、事務仕事をしているしがない役人ですとも。国家主権を重んじる我々が、貴国の主権を制限する権限はございませんので、ご安心ください」

 

 さて、と笑顔から真顔に変わったホフマンは、手元に置かれた紐付き封筒から上等な紙を取り出し、ロウリア王国代表団へ提示した。日本製の上質な紙に大陸共通言語で記されていたのは、『マイハーク条約』の全文だ。

 

「こちらは交戦国である日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、クワ・トイネ、クイラの総意に基づいて考案された『マイハーク条約』の全文です。ここに記されている事柄を各国を代表し、私リチャード・ホフマンが国連事務総長として要求致します」

 

 併せて、ロウリア王国が条約に関して不満があれば7カ国首脳に対して申し開きができること、それでも交渉が妥結に至らなければ、即座に休戦状態となっている本戦争を再開することも厭わないとホフマンは牽制した。

 条約の内容を精査したい代表団は、取り敢えず考える時間が欲しいとホフマンに要望した。

 

「少し……考えさせてくれないか?」

 

「ええ、お気の済むまでごゆっくりと。魔信を使用して、本国を協議することも可能です。どうか、後悔のない決断を」

 

 ロウリア王国のみで考える時間を設けたホフマンは、控えの間から去っていった。残されたのはマオス、パタジン、ヤミレイの三人。改めて彼らは条約の草案に目を通す。

 

「……マオス宰相、この条約を貴殿ならどう判断する?」

 

「正直、もっと苛烈な要求をされると思っていました。これならば、関係諸侯も納得するでしょう」

 

 マオスは、条約の草案がロウリア王国が降伏する条件に求めた国家主権の維持に関して、基本的に遵守していることを確認し、一定の安堵を得た。特に要求されると思っていた傀儡政権下での国家主権、軍の即時解体、ハーク・ロウリア34世の即時退位などロウリア王国として受け入れが難しい問題については触れられてもいない。

 

「だが、軍についてはやはり厳しい。特に、この『国連軍事参謀委員会による軍の査察』だ。これをクワ・トイネやフランスが行うというのは……。かなりの反発を生むかもしれぬ」

 

 一方、パタジンは自国の軍隊が他国の影響を受けることに拒否側を拭いきれなかった。ここにロウリア王国は関与できず、事実上他国の都合によって軍隊の規模を縮小させることが可能になるからだ。

 しかも、『本土防衛に必要な戦力』という極めて抽象的な表現であることも、彼の不安の種となっていた。国連の匙加減によって、実質軍解体ということも可能だ。そうなれば現役兵士にとどまらず、退役軍人たちをも怒らせることになり、どんな混乱が起きるか分からないのだ。

 

「パタジン将軍、我々は敗戦国です。何をされるにしても、拒否権はありません。本来であれば、有無を言わさず隷属化され、酷い搾取をされるでしょう。ですが、彼らはその道とは異なる、別の選択肢を提示してくれました。それだけで十分でしょう」

 

 マオスは、一部には国連による干渉もあるが、それでも受け入れられないものではないと、パタジンを説得した。そもそも『古の魔法帝国』級の国家指導者に対して文句を言うなど、彼らに足元にも及ばなかったロウリア王国からすれば自殺行為もいいところだ。それをパタジンが理解していないはずがない。

 

「本国にいる国王陛下にもこの案を伝えるべきだ。流石に我々だけで、決断を下すのはまずい」

 

 ヤミレイの提案で、マオスは魔信で本国にいるハーク・ロウリア34世に連絡した。条約の全文を口頭で聞いた王はしばらく考え込んだ後、マオスに問う。

 

『ーーそれで、マオスはどう考える?』

 

「……正直、これ以上こちらが要望を示すことは愚策だと進言いたします。列強相手の講和では、事実上の亡国化を要求されるでしょう。その点、少なくともこの条文は他国のものと比較して、かなり我らに歩み寄っていると言えます」

 

『なるほど。パタジンはどう考えている?』

 

「私は……正直、軍隊に関する項目に不安があります。我が国の関与なしに、他国が影響力を行使するのは軍内の反発を招く可能性があります。無論、我々は敗戦国ですから物言う権利がないことは理解しています。それに、彼らが我々に対して寛容であることも。

しかし、彼らの攻撃を目の当たりにしていない一部の軍人からは、反対する意見が出ることもあるかと」

 

『それを収めるのが我々の役割であろう。今更、条約に対して不平不満を言ったところで彼らには勝てぬ。お前は条約に反対して、再度勝ち目のない戦争に挑むつもりか」

 

 バタジンの懸念など知っていると、語気を強めてロウリア34世は言い放った。軍側の都合で戦争を再開するなど、真っ平御免だ。既に降伏したロウリア王国が如何に立場を維持したまま、次の世代に残すかを考えるフェーズに入っている。その流れに水を差しかねないパタジンの発言に、王は苛立ちすら抱いていた。

 

「陛下、私はマオス殿と同意見です。相手は我々が不満であれば、再度交渉に応じると言ってはいます。ですが、ここまで歩み寄った譲歩案にケチをつけることは避けなければなりませぬ」

 

 ヤミレイはマオスと同じく、条約の受け入れを進言した。パタジン、そしてヤミレイの意見を聞き、国王は自国の運命を決める可否を決断す。

 

『ーー私は、宰相に同意であり、本条約を原則的に受け入れるべきだと考える。「マイハーク条約」を信じるのであれば、私が想像した以上にロウリア王国の主権を保障している内容だ。私の信頼するお前たちも、私と同意見ならば、これ以上の議論は必要ないだろう』

 

 ロウリア王国国王ハーク・ロウリア34世の決断は、『マイハーク条約』を原則的に受け入れるというもの。一部厳しい条文もあるが、それは敗戦国の立場である以上受け入れるしかない。国民の総奴隷化や総資産没取の上強制労働などの過酷な要求が無かっただけ幸運だ。

 国王の言葉は絶対君主制であるロウリア王国にとって、何物にも変えられない不変の命令だ。3人は黙ってそれを受け入れる。

 

 マオスは隣室にて控えていたホフマンを再度呼び出し、代表してマオスが返答する。

 

「ホフマン殿、遅くなってしまい申し訳ありません。『マイハーク条約』に対する返答を宣言いたします。国王、ハーク・ロウリア34世の名の下、ロウリア王国は本条約の全てを受け入れます」

 

「ーー分かりました。では、こちらへどうぞ」

 

 僅かな時間をおいて、ホフマンが答える。ロウリア王国の条約受諾宣言を受けて、彼は大広間に繋がる扉を開ける。そこは昨日まで首脳会議が行われていた大広間だ。7カ国と国連の旗が置かれた内装は昨日と変わっていないが、円型のテーブルは撤去されており、代わりに木製の長方形のテーブルが置かれている。

 テーブルを挟んで壁側に座る、戦勝国である日米英仏加にクワ・トイネ、クイラの首脳、そして国連事務総長。ロウリア王国代表団は反対側であるガラスの窓側に案内される。

 

「初めまして、ロウリア王国代表団の方々。私は日本国大統領を務める大高春嶽と申します。皆さまに確認したいのですが、『マイハーク条約』に関して、本当に異論はございませんか?今ならば、まだ変更することも可能ですが」

 

 テープルの中央に座る大高が、各国を代表して挨拶と確認をする。大高としては威圧感をかけるつもりなど無かったのだが、ロウリア王国側からすれば列強をも凌駕するかもしれない国家のトップなのだから、緊張しない方が無理な話だ。

 

(この男が、我らの軍を最も簡単に殲滅することができる軍事力をもった国家の王なのか。想像していたような武人ではないが……こう、人として魅力を感じる男だ)

 

「ロウリア王国宰相マオスです。先ほどホフマン殿にも伝えたが、我々ロウリア王国は本条約を原則的に受け入れます」

 

 パタジンが大高のことを心の内で高評価する傍らで、マオスは条約受け入れを宣言した。その言葉を聞いた各国首脳は、どこか安堵の空気を醸し出す。彼らとて、無駄な殺生は望んでいないからだ。

 

 そして、講和条約の文章に日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、クワ・トイネ、クイラの順に各国首脳がサインしていき、ロウリア王国も続けてサインした。その途中、サインの仕方が分からないマオスに国連職員が書き方を教え、マオスはとんでもない緊張からか、手を震わせながらサインをする場面があった。

 他の首脳のものとは違い歪んでしまったマオスのサインは、後に国際政治学者の間で震えを巡って屈辱か、悲しみか、緊張かで意見が分かれたとか。

 

 最後に国連事務総長がサインし、参加者全員の署名は完了した。これを確認したホフマンは講和会議の全日程終了、正式な戦争の終結を各国報道陣に向けて発表した。同時に各国首脳の署名が入った条約も合わせて公開された。

 講和会議終結に伴い、国連軍に所属していた日本国防陸軍をはじめ、各国軍隊の大多数は自国へと引き上げていった。一方で、防衛軍という形で一部戦力はクワ・トイネに残り、防衛に注力していくことになる。

 

 なお、ロウリア王国は国王による承認と批准、日米英仏加とクワ・トイネ公国、クイラ王国では議会の承認と国家元首による批准によって正式な批准となる。このため、締結直後直ちに条約内容は各国の外務省に伝えられ、即日審議入りすることになった。

 

 講和会議が終了し、ロウリア王国代表団は戦後処理のため、直ちに帰国する。一方、戦勝国となった日米英仏加は、クワ・トイネ公国とクイラ王国が企画した戦勝記念エキシビション・レース観戦のため、ヤマナカレース場と呼ばれる、中山競馬場と瓜二つのスポーツ施設へと移動した。

 クワ・トイネ公国で長く親しまれる国技とも言えるスポーツ、人にウマ耳が生えたーーウマ娘と呼ばれる女性しか存在しない種族の少女たちが走るレースが開催される。

 

 奇しくも各国競馬界に名を残し、今なおファンたちにも親しまれている競走馬と瓜二つの名を持った少女たちが登場するレースは、特に日本とイギリス政府代表団を驚かせた。

 

 クワ・トイネ公国からはマルゼンスキー、ミスターシービー、カツラギエース、シンボリルドルフ、メジロラモーヌ等、クイラ王国からはダンシングブレーヴ、ニジンスキー、ジェネラスなど、各国レース界で名を残したウマ娘が参加する超豪華レース。

 クワ・トイネにて初めて行われる国際衛星放送で、全世界へと生放送されたこのレースは、世界各国の競馬ファン、それぞれのウマ娘と同じ名を冠した競走馬に騎乗したことがある騎手、競走馬の元オーナーは勿論、競馬に興味の無かった一般市民層、そして競馬一族である英国王室の涙を誘った。

 

 レース後、クワ・トイネ公国とクイラ王国が意図しなかった形で、日本とイギリスを中心にクワ・トイネ、クイラ両国断固死守の世論は一気に高まることになった。特に、イギリス女王マーガレット2世が直々に、ウマ娘に対して公式声明を発したことの影響力が大きかった。日英両国政府は、更なる親善を深めるために天皇陛下並びにマーガレット2世の巡行が決定した。

 

 それまでは国内での人気にとどまっていたウマ娘の人気は一気に国際的に高まり、多くの観光客がクワ・トイネやクイラ王国に訪れるきっかけとなり、一大経済圏を形成することになる。

 

 因みに、エキシビション・レースに参加したウマ娘達も親善活動で、後に各国を訪れ、自らと同じ名を冠した競走馬の歴史に触れたとか。彼女達がどう感じたかは、それは別のお話。

 




『忍耐がどんな難問にも解決策になる』ーー吉田茂、第45・48〜51代内閣総理大臣より。
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