新・日本国召喚   作:npd writer

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もう、今年も残すところあと1ヶ月と少々……あっという間ですね


第31話 新天地、フェン王国

中央暦1639年9月2日 フェン王国

 

 魔法がなく、剣を必修教育として学ぶ国フェン王国。剣と共に生き、剣と共に死ぬこの国に、10人しかいない「剣豪」の称号を持つ王宮武士団十士長アイン。彼は今日も、自らの剣技を高めるために道場で稽古をしていた。

 自己鍛錬を終えて水を飲み休憩している彼を、上司である武将マグレブが訪ねてくる。

 

「アイン。休憩中悪いがちょっと来てくれ」

 

「何でしょうか?」

 

 汗だくのアインは布で額を拭うと、マグレブへ急いで駆け寄る。

 

「剣王シハンがお呼びだ」

 

 剣王シハンーー絶対王政であるこの国の最高権力者であり、現国王だ。思わず、アインが己だけ呼ばれたのかと聞くが、彼の上司は首を振って否定する。

 

「私もだよ。通達書にはこうある、『全武士団の十士長以上の者は即時全員集合せよ』と。こんなこと初めてだよ、国の一大事みたいだな」

 

 

 

フェン王国 首都アマノキ 天ノ樹城

 

 日本人の感覚だと和風に見える城、その広場でフェン王国の剣王シハンは、軍の中核幹部たちを前に真剣な面持ちで話し始めた。

 

「パーパルディア皇国と紛争になるかもしれない」

 

 端的に発せられた剣王の言葉に、その場にいた全員に緊張が走る。フェン王国には魔法が普及しておらず、魔導師が放つ高火力な攻撃魔法はもとより、魔力通信が使えない致命的な弱点があった。情報の伝達は、兵力が同等であったとしても戦闘において雲泥の差を生む。列強ムーはそれを“科学”という力で補っていると聞くが、生憎その技術もフェンにはない。

 

 加えて、列強パーパルディア皇国との国力と差は絶望的だ。フェン王国と比較すると、人口70万人のフェン王国に対して7千万人のパーパルディア皇国。艦船も大型弩弓(バリスタ)が配備された手漕ぎ船21隻を保有するフェンに対し、パーパルディアが保有するのは最新鋭の魔導戦列艦422隻、航空戦力もワイバーンが一切いないフェンと、原種500騎に改良種ワイバーンロード350騎を誇るパーパルディア空軍。そこに陸軍の装備の質の差が加わり、本土決戦に備えても勝てる確率は皆無だった。

 

 相手は第3大陸圏の列強。ワイバーンが近寄るのを拒む風竜が住み着くガハラ神国が隣国のため、これまで皇国の大規模侵攻は行われてこなかった。数は少ないが、ワイバーンロードを遥かに上回る空戦能力を誇る一騎当千の強さ。列強も一目置いていたガハラ神国は、フェン王国が頼れる数少ない国家だ。

 

「現在、ガハラ神国に援軍を頼めないか要請している。各方面でも対策を行なっているところだ」

 

 シハンは、ガハラ神国の首都タカマガハラの神宮に住む神王ミナカヌシをはじめ、周辺各国に使者を送り、援軍を求めていたが反応は芳しくない。

 ーー各人、戦に備えるように、との言葉に武官、文官たちは一斉に拝礼する。見下ろすシハンは申し訳ない思いをひた隠しながら城内へと戻っていった。

 

 

 

「剣王さま。複数の国家が、国交を開くために交渉したいと来訪されています。いかがいたしましょうか?」

 

 会期を終え、王宮中央の座敷にて執務を執り行っているシハンのもとへ、側近剣豪モトムが話しかけてきた。

 

「ん?ああ、日本、アメリカ、イギリス、フランス……あとはどこだったか?」

 

「カナダ、アイルランド、東方エルサレムにございます」

 

「それだ。いずれも、ガハラ神国の大使から情報があった突如出現した新興国家たちか。あの辺の群島は海流が乱れていて近づけなかったはずだが……各島の集落が集まり、国でも作ったか?」

 

 シハンは、国とも呼ぶに相応しくない、小規模な群島国家を思い浮かべていた。東海域を調査した他国の調査団の報告では、小さな群島の中で村レベルでの集まりはあると発表された。その報告を信じるのであれば、例え国家を自称しようとも、集落レベルだろうと彼は考えていた。

 

「い、いえ、それが……。彼らが言うには、7カ国合わせて人口が6億人を超えているそうでして……」

 

「ろ、6億だと!?ワハハハ!ホラもそこまで吹けば、寧ろ堂々として大したものだ!」

 

 国を大きく見せようと、政治的ブラフをかけるのは珍しくない。シハンは全く信じてはいないが、決して嘲るようではなく、快活に笑ってみせた。

 

「既にロデニウス大陸にあります、クワ・トイネ公国とクイラ王国は各国と国交を締結し、国際連合と呼ばれる多国間の集まりに加盟しているとか。両国が各国へ使節団を派遣して調査した結果、群島の影はもはやなく、9つの大きな島と1つの大陸から成り、列強をも超える超文明を実現した国家が存在していたと……。ガハラ神国経由の情報でも、同様の調査報告が上がっております」

 

「ほう……列強を超えるのは流石に言い過ぎだろうが、ガハラ神国がそこまで褒めるとはな。針小棒大の御伽噺ではないようだな」

 

 クワ・トイネ公国とクイラ王国といえば、先日敗北が決定づけられていると言われていたロウリア王国との戦争で勝利した国家だ。数々の戦場伝説が作られ、それらは周辺諸国に驚きを持って伝染している。勿論、シハンもそのことを聞き及んでいた。

 

 2カ国の背後には、国連軍と呼ばれる多国籍連合軍の存在があり、彼らがいたからこそ勝利できた。もしも、来訪中の使節から国連軍に関する情報が分かれば、フェンもパーパルディアの圧力から逃れることができるかもしれないーー剣王と側近たちは各国外務関係者と直接会うことにした。

 

 

 

 日米英仏加愛東から編成された外交使節一団は、日本と海を挟んで接するフェン王国と国交を開設するため、フェン王国首都アマノキを訪れていた。先頭をいく外交官の島田は、いつも以上に落ち着きある言動を心がける。

 

「なんというか……気が引き締まります」

 

「以前京都に行った時に近い感覚です。厳かな雰囲気にこちらも気が引き締まりますね」

 

 島田と共に今回の使節団に同行するアメリカ国務省外交官デイビッド・アルバッグは、以前訪れた京都の二条城を思い出し、厳格な空気に身を引き締める。

 

 後世世界では、戦勝国という立場にあり、且つアメリカと共にナチスとの死闘を戦い抜いた同志である日本の文化は、「ジャポニズム」として広くアメリカ国民に浸透していた。アニメや漫画から、衣食住文化、伝統工芸品に至るまで、日本文化は多くのファンたちを生み出していた。

 

 こうした日本文化の浸透によって、長期日本旅行や日本留学を経験しているアメリカ政府関係者も多く、彼もその影響を受けている1人である。

 

「国民は貧しくとも礼儀を忘れず、精神性が高い。ヨーク公がお気に召される環境です」

 

 イギリス外務省外交官イライザ・ハリファックスもフェン王国の空気を好印象に感じていた。彼女も大学生と社会人の時に、長期に日本留学・勤務を経験した親日派の外交官である。

 

 イギリスでは、アメリカ以上に日本に対して日本文化を好意的に受け入れる風潮が強い。マーガレット女王の弟である、親日派王族ヨーク公爵チャールズの後押しもあり、日本文化の積極的流入、特に武道をはじめとした日本武術は学校教育に取り入れられているなど、イギリス国民に深く根付いていた。

 

 また、旭日艦隊を率いていた大石司令長官は、英国を救った英雄として未だに語り継がれており、議会議事堂前に銅像が作られるほど、多くの人に親しまれてきた。

 

 そんな会話を挟みながら係の者に案内され、7カ国の外交官は王城の一室に通される。そこは日本人なら誰もが見覚えのある、和風建築の一室。だが、異国人に配慮してなのか、はたまたファン特有の文化からなのか、そこに合わぬ机と椅子が置かれている。

 着席した彼らが待っていると、襖が側近によって開かれ、剣王が姿を現した。飾らない王ーー着流した和装を着た鋭い目つきの武人、多くの外交官が抱いた最初の印象だ。

 

「其方達が、7カ国連合ーー国連の使者か」

 

 声は低くよく通り、懐の大きさを感じさせる。剣道七段を有する島田は所作で、ワールドカップで3度のフェンシングサーブル優勝を誇ったフランス外交官ピエール・アルダンは感覚で、彼が達人の域を大きく超えていることを感じた。

 

「はい。我々は貴国と国交を締結したく、東より参りました。ご挨拶として、我々の品をご覧ください」

 

 東方エルサレム共和国外務省外交官アルフレート・シュタイマンが代表して言葉を述べる。剣王と側近たちの前には、様々な各国の「物」が次々並ぶ。日本刀や着物、キルト、フルーレ、運動スパイク、ベリーク……。その中でシハンは日本刀を手に取り、鞘から刀身を抜いてじっくりと眺めた。

 

「ほう……実に素晴らしい剣だ。貴国らにも優秀な刀鍛冶がおられるようですな」

 

 惚れ惚れとした表情で刀身を眺めるシハン。その横で側近たちも思い思いに品を検分していく。

 

「この着物もなかなか良いですな」

 

「この靴、実に動きやすく作られておる。それに履き心地も良い」

 

 剣王とその側近たちは各国の品々を見て、群島に昨今できた新興国家ではないことを薄々感じ始めていた。どれも質が良く、また頑丈な造りをしている。とても新興国が作れるような技術ではなかった。

 気をよくしたシハンは、大陸共通語で記された外交文章を確認し、各国との通商条約、国連加盟における提示条件を間違いがないか、口頭で読み上げながら確認していく。

 確認が終わり、フェン王国にとって良い条件しかないことを理解したシハンはさらに語気を緩めた。

 

「ふむ。通商における取り決め、国連と呼ばれる国が集まった組織への加盟要件については理解できた。しかし、失礼ながら我々はあなた方の国家をよく知らない」

 

 シハンの言葉に疑問を浮かべる外交官たちであったが、黙って耳を傾ける。

 

「日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、アイルランド、東方エルサレムからの提案によれば、凄まじい国力を持つ国との対等な関係を築けるにとどまらず、夢のような素晴らしい技術も得ることができる。我が国としては不相応に思えてしまうくらいだ」

 

「それではーー」

 

 前のめりになるカナダ外務省外交官セバスチャン・キングの言葉を遮り、あくまで穏やかに話を続けた。

 

「しかし、国ごとの転移、海に浮かぶ鉄船といった事象や技術をとても信じることはできないというものだ」

 

「それは各国に大使を派遣すれば良いのではないでしょうか。多くの国はそうされていますが」

 

 アイルランド外務省の外交官ダラ・ハンフリーズの意見は最もであった。実際、クワ・トイネ公国、クイラ王国はそうやって実際に各国を訪問したことで、その力を理解できたからだ。だが、フェン王国は各国の意図とはかけ離れた提案をする。

 

「いや、各国の力を我が目で見てみたい。そこで提案なのだが、貴国らには水軍があり、機動艦隊をいくつも保有すると聞いた」

 

「ええ。確かに国連加盟国の中には空母機動艦隊を保有している国々もありますが……」

 

「その機動艦隊のうち、一つでも親善訪問として我が国に派遣してくれぬか?今年は我が国の水軍から廃船が4隻出る。それを敵と見立てて攻撃してほしい。我々は、貴国らの力を見たいのだ」

 

 使節団一同は面食らった。他国が国交のない国に軍隊を派遣することなど前例がなく、威嚇行為とすらとられる可能性が高い。現に地球ではそのような親善活動は近現代でない。

 正体も分からぬ異質な国が相手である以上、普通は拒否するはずが「力を見せろ」という。

 

 異世界の常識、武を極める国だからこその外交と結論づけ、外交官たちは呑み込み、本国に報告した。

 木戸より、フェン王国の提案を受け取った大高は、火薬庫とも言える皇国の近海への空母機動艦隊派遣に胸騒ぎをおぼえる。パーパルディアのすぐ目の前で、“新興国”として見られている我々が軍を派遣すれば、自尊心が高い彼の国を刺激する可能性は高かった。

 

 緊急開催されたオンライン首脳会談で大高は懸念を伝えるが、訓練も兼ねたいアメリカ、皇国に対する情報収集を行いたいイギリス、フランスは空母機動艦隊派遣をすぐに了承したため、日本も渋々と派遣を承認した。

 

 なお、カナダ、アイルランド、東方エルサレム共和国はフリゲートクラスを派遣することにとどめた。

 




「手に入れるのが難しいものほど、人は欲しがるのだ。」ーーアメリカ合衆国第45代・第47代大統領 ドナルド・J・トランプ



3月にロンドンに行った際、実際に議会議事堂周辺を散策しました。チャーチル、ロイド・ジョージ、マンデラ、リンカーンなど、多くの偉人たちの銅像があって、そこが“議会制民主主義”の故郷であることを深く感じました。因みにアジア系の人の像は無かったと記憶しています(間違っていたらごめんなさい!)

紺碧・旭日の艦隊の世界では、イギリスを救った英雄として、大高元総理と大石司令の銅像は間違いなくあると思います。きっと、訪れた日本人は誇らしく思えるでしょう
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