新・日本国召喚   作:npd writer

35 / 39
第34話 紺碧の艦隊

フェン王国 首都アマノキ沖合 水深300m付近。

 

 太陽光が差し込まぬ暗黒の世界。視界が一切役に立たないそこでは、音が全てを支配する。フェン王国、パーパルディア皇国はおろか、列強1位の神聖ミリシアル帝国すらも到達できていない、その未知なる場所にて静かに獲物を待つ存在。

 

 司令艦を筆頭に海中打撃艦隊、情報収集艦、潜水補給チームによって構成されたX艦隊ーー紺碧艦隊は西から接近中のパーパルディア皇国艦隊全22隻を完全に捕捉していた。

 大高の天性の才とも言える、“何か嫌なことが起こる”という直感を信じ司令官は同盟国にすら探知されることなく、密かに行動していた。彼の判断により、この艦隊はフェン王国近海の深海にて情報収集を行っていたのだ。

 海中にで牙を磨ぐ艦隊の司令艦、『超潜伊10005 極・須佐ノ男号』の発令所にて富嶽ーー前原三治郎司令官は、特務通信を受けると艦長である入江純之助に命を下す。

 

「艦長、大統領からの指令を受けた。これより、攻撃態勢に移る。目標、フェン王国に接近中のパーパルディア艦隊20隻だ。2隻は救助に残す」

 

「了解。遂に我々が動く時が来たんですな」

 

「ああ。ロウリア王国との戦争では我々の出番は無かったからな。正規軍が動けない今こそ、我々が戦う時だ」

 

 乗員に対する戦闘態勢発令の後、紺碧艦隊は行動を開始した。レーザー方式核融合機関を全艦に搭載している艦隊は、水中をほぼ無音で進んでいく。突然、海上を航行していたフェン王国艦隊を通過する際も、彼らが紺碧艦隊の存在に気付くことはない。

 

 あっという間に艦隊の頭上を通過し、パーパルディア皇国艦隊との距離700mまで接近する。情報収集艦である『亀天号』が正確に割り出した海流、波などを基に攻撃準備を進めていき、必要諸元などを共有していく。

 

 全長180mある割には不気味なほどに存在を隠す『須佐ノ男号』。水素魚雷『鮪火』を65cm魚雷発射管全門8門に装填し、発射指示を待つ。同様に海中打撃艦隊『富嶽号』、『水神号』、『快竜号』、『爽海号』も62cm魚雷発射管に注水を開始した。

 

「魚雷発射予定深度まで無音浮上、タンクブローゆっくり!」

 

「発射管扉開け、注水!」

 

「司令、攻撃準備完了。必要諸元は音通にて全艦に通達済みです」

 

 紺碧艦隊にとって、この世界初となる戦闘。前の世界には無かった魔法という新たな攻撃概念の登場は紺碧の艦隊にどの程度の影響を与えるのか。情報がない前原は、慎重に作戦を進めることを確認した。

 

「1番、4番はαおよびβ目標、2番、5番はγならびにδを目標とする。各艦リンクシステム正常に作動、目標の重複なし。魚雷発射準備完了!」

 

「雷撃戦用意!六十五式誘導魚雷、撃てえー!」 

 

 『須佐ノ男号』は艦首に設けられた魚雷発射管4門から、各魚雷一隻ずつをターゲットに発射した。かつて相手にしてきた米独の鋼鉄できた艦船相手では絶対にできない、木造船だからこそできる戦法である。同様に打撃艦隊も各艦4隻ずつ違う目標を狙い、そして魚雷を発射した。

 

「急速注水!深度200、最大船速!パーパルディア艦隊の真下を一気に通過する!」

 

 魚雷発射後、命中を確認することなく紺碧艦隊は急速潜航かつ最大速度で海域を離脱し始める。

 艦隊が敵の会場を通過した直後、パーパルディア艦隊を正体不明の海中の爆発ーー魚雷が襲い、目標としていた20隻全てを轟沈させた。

 

 

 

フェン王国 首都アマノキより西方海域

 

 時刻は紺碧艦隊攻撃直前にまで遡る。フェン王国王宮直轄水軍13隻は、パーパルディア皇国との関係悪化から開戦の可能性を考慮して、王国西側約150km付近を警戒航行していた。

 

 フェン王国の中でも精鋭の武人たちが参加した水軍は、効率の悪そうな帆を張って進んでいる。甲板には、火矢を防ぐための木製盾が等間隔に並べられ、敵船を攻撃するための大型弩弓が横に3機ずつ設置されていた。火矢を放つための油の壺も多数ある。

 

 13隻の水軍を束ねる旗艦は、他の船と比べて一回り大きく、船首には1門だけ大砲が設置されている。水軍武将クシラは西方向の水平線をじっと睨んでいた。

 

「クシラさま……パーパルディア皇国は来ますかね」

 

「先ほどワイバーンロードが我が国がある方角へ向かっていった。……必ず来る!」

 

 副官はクシラの言葉に恐怖を覚え、顔を引き攣らせる。続けて、勝てるかと尋ねる副官にクシラは自身を覗かせながら答える。

 

「こちらも精鋭を揃えた。列強相手にタダではやられん」

 

 旗艦『剣神』には文明圏で使用されている魔導兵器、大砲もある。副官は初めてこの兵器の試射に同行した際、その性能の凄まじさに圧倒された。そんな兵器があるなら、パーパルディア皇国に勝てなくとも一矢報いることができるのではないか、と副官の顔に自信が戻る。

 

「それに我が軍の練度は彼らを上回る。心配はいらんよ」

 

 だが、クシラは知っていた。列強には魔導戦列艦と呼ばれる、船ごと破壊できる兵器があることを。それは、フェン王国最強の船、旗艦『剣神』のように、文明圏に存在する大砲を船に積んだものであることが予測される。そんな船が幾隻もあるのが列強の恐ろしいところだ。

 

 武将クシラは頭で、列強パーパルディア皇国との戦闘をどうやれば優位に立てるか、戦術を必死に練った。

 

「艦影確認!艦数22隻!!」

 

 見張り台にて周囲を警戒していた見張りが、大声で報告した。クシラも望遠鏡で水平線の影を見ると、フェン王国水軍の船に比べ、遥かに大きく先進的だった。デザインと機能性を兼ね備えたマストに、魔法で発生させた風を帆に吹き付け、フェン王国の船より速い速度で走ってくる。 

 

 優雅で、美しく力強いーー各艦の乱れない動きから、各艦の練度の高さが窺える。

 

「皆の者、戦闘配置!」

 

 クシラの声に応え、船員たちが慌ただしく動き始める。

 パーパルディア皇国艦隊はクシラの想定した船速よりも速く接近してくる。あまりの想定外の速さに考えていた戦術は役に立ちそうもない。

 焦りに迫られたクシラは、好手ではない突撃戦術で選んでしまった。大砲が一撃でも当たればいい、と願うクシラの命令に従って、旗艦『剣神』を最前列に最大船速で敵陣真正面にフェン王国水軍は突撃を開始した。

 

 

 

「敵影確認、あの旗は……フェン王国水軍のものです」

  

 パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊を率いるポクトアール提督は報告を受け、脳内の情報整理とフェン王国が隠し持っているかもしれない兵器の存在に警戒を強めた。

 

「艦長、ワイバーンロード部隊の通信が途絶しているということは、それ即ち新兵器の存在を考えるべきだと思うがどう考える?」

 

「ワイバーンロード部隊の通信途絶は、通常であれば考えられない事態です。フェン王国側が何かを隠し持っていると見るべきでしょう。油断なく最初から全力で挑むべきです」

 

「うむ、私も同意見だ。列強艦隊を相手にするつもりで全力で叩き潰すぞ!」

 

 パーパルディア艦隊は速力を上げ、フェン王国水軍へと向かっていく。そして両艦隊の距離が2kmに接近すると、フェン王国側の射程の2倍の射程距離を誇るパーパルディア艦隊はゆっくりと旋回を始める。船体のハッチが開かれ、大砲が次々にフェン王国艦隊へと向けられていく。

 

「砲撃が届く距離に達し次第、すぐに攻撃を開始しろ!」

 

 

 

「何をする気だ!?」

 

 クシラは敵である皇国の行動の意味を予見することができない。それもそのはず、艦首に一門だけ大砲を積んでいるフェン側の軍船とは異なり、戦列艦であるパーパルディア側は側面を敵側に向けることで何十門の大砲から攻撃できるためだ。

 

 側面から大量に向けられた魔導砲の数々。その多さにクシラは思わずたじろいだ。フェン王国がやっとの思いで手に入れた魔導砲を、何十門と積まれては勝ち目はない。多数の白い煙がパーパルディア艦隊を包まれ、続けて砲弾がフェン王国側の海上に着弾し、連続して水柱が上がった。

 

「くぅ!魔導砲の攻撃があんな距離から!?そんな馬鹿げたことがあるか!!」

 

 クシラの想像を凌駕した射程外からの攻撃がフェン王国水軍を襲う。だが、その直後に彼の疑問すら吹き飛ばす出来事が起こった。

 

 水軍を襲っていたはずのパーパルディア艦隊。次なる攻撃が始まり、今度こそ終わったと思ったその時、突然大きな水柱が起こったと思えば、大爆発を起こして次々に沈んでいくではないか。運良く爆発を逃れた艦も船体に開いた大穴から浸水が始まり、あっという間に横転していく。

 

 木片と肉片が飛び散り、そしてツンとくる火薬の匂いが鼻を刺激する。数分前まで穏やかだったあたりはあっという間に地獄と化した。

 

「は……?へ……?な、何が起こったというのだ……?」

 

 クシラは思わず呆然とした表情で呟く。自分たちは何もしていない。『剣神』の魔導砲の射程にはまだ届いておらず、撃っても当たるわけがない。つまり、フェン王国の攻撃がたまたま当たったというまぐれではないのだ。パーパルディア側の自爆とも考えられたが、これだけ多くの船が一斉に自爆する可能性など、それこそありえない。クシラは考えられる常識で頭をフル回転させた。

 

 一方、憎きパーパルディア艦隊が次々と沈んでいく様子に、副官や部下たちは歓喜の雄叫びをあげた。何がどうなっているか分からないが、とにかくパーパルディア艦隊は大きなダメージを受けている。この機を逃すことなく、追撃せんとする部下たちはクシラに詰め寄った。

 

「クシラ様!これは絶好の機会です!何が起こったのかは分かりませんが、敵は謎の水爆発で瀕死です!今こそ、我々で止めをさしましょう!」

 

「今が好機です!今まで虐げられてきた我らに、一矢報いる機会がやってきたのです!これを逃すことはありません!」

 

「…‥ならん、ならんぞ!あそこいるのは海の魔物かもしれないのだぞ!?今はパーパルディア艦隊がやられたが、次は我々かもしれない!大至急、撤退する!」

 

 クシラが考えられる可能性から導き出した結論は、正体不明の海獣が現れたというもの。身体を動かした衝撃か、鯨の潮吹きのような運動かは分からない。しかし、それしかクシラは考えられない。

 

「そんな!敵はまだいますよ!?」

 

「艦隊のほとんどを失った以上、奴らは我々への攻撃どころではなくなった!戦力を整えためにも撤退の道を選らぶだろう!それに、ここにはフェン王国水軍の精鋭と旗艦『剣神』がいる。どのみち、後で攻めてくるのなら後で迎え撃てば良いのであって謎の爆発によって危険となった今はではない!とにかく、あの水域は危険だ!!」

 

 フェン王国水軍は一隻の被害も出していない。しかし、魚雷という存在も紺碧艦隊も知らない彼らにとって、水中から襲ってくる攻撃を伝説の海の魔物と想起したクシラの判断により、フェン王国水軍は全力で撤退を開始した。

 

 

 

「……は?ど、どうなっている!?」

 

 ポクトアールをはじめ、艦長以下、多数の幹部はその光景に衝撃を受けていた。フェン王国艦隊を攻撃するため、各艦は舵を切って魔導砲を敵に向けていた。敵に攻撃を仕掛けたところまでは良かった。だが、第二射の砲弾を装填している中、突如謎の爆発が艦隊を襲い22隻いた総数は、ポクトアールが乗船する旗艦と一隻を残して沈没してしまったのだ。

 

 ある艦は水中の大爆発によって船体が折られての轟沈、またある艦は船体に開いた大穴から大量の水が船内に流れ込み転覆、そして傾いた船内で火薬が誘爆を起こして爆発飛散した艦もある。

 

 爆発が収まり、彼らが水面に目を向けると、そこには木片の残骸やボロボロになった帆の切れ端、人だったモノが漂うばかりだ。

 一瞬、フェン王国艦隊の攻撃かとも思われたが、魔導砲一門が切り札で敵船に乗り込むことが主戦術である彼らがこんな芸当ができるわけがない。

 

「提督……我が艦隊はこの艦と戦列艦『クマシロ』を残して沈没しました……。攻撃は海中からだと思われます」

 

「何故……そう言える?海底爆発ということも考えられないか?」

 

「爆発の直前、海上には我々とフェン艦隊しかおりませんでしたし、ワイバーンロードも飛行しておりませんでした。となると、残るは海中からしか考えられませぬ。それに、この付近の海域で海底が爆発した例など前例がないです」

 

 だろうな、とポクトアールは返した。彼自身、海上でも空中でもなければ、海中からの攻撃しかないと確信していた。しかし、攻撃方法が分からない。歴史上、海の中から攻撃できた例など神話を除けば神聖ミリシアル帝国でも不可能だったはずだ。兵器の類でなければ、魔獣か神獣か。フェン王国は伝説の海獣でも手懐けたのだろうか。

 

 次いつ海中爆発があるかは分からない。その不安が積み重なっていく。

 

「それに……艦隊がこの状況では……」 

 

 フェン王国艦隊に数でも質でも優っていたはずのパーパルディア皇国の艦隊。実際、現在でも海上戦闘であればまだ勝機はある。再度態勢を立て直し、魔導砲による攻撃を行えば敵の射程外から撃ち込めるが、またあの海中爆発が起こるかもしれない。

 偶然か意図的か、とにかく残った2隻まで失うわけにはいかない。

 

「ポクトアール提督、我が艦隊は作戦継続能力を完全に喪失しました。至急の撤退を進言いたします!」

 

「……やむを得ないだろう。悔しいが、あの海中爆発が再び発生するとすれば竜母がいたとしても役に立たなかった。今作戦を……失敗とし、至急本国へ戻るぞ」

 

(畜生……せめて海の中を覗ければ良かったが)

 

 第3外務局局長カイオス、そしてその裏にいる上層部からは『軍事演習中のフェン王国に、各国武官の前で懲罰的攻撃を加え、文明圏外の蛮族に恐怖を与えよ。さらに障害となりうる可能性のある関係国の軍は、全て排除するように』との命令を受けていた。今作戦で上の指示をポクトアールが逆らうことは許されないし、皇国の威信、艦隊の士気、ポクトアール自身の面子にもが関わる。

 

 しかし、艦隊の9割の損失など大敗北、いや壊滅と言っていいだろう。そんな中でも作戦継続できるほど、ポクトアールの心は非情ではないし、馬鹿でもない。

 

(我々は……夢でも見ているのか。気がつけばベッドの上ではないのだろうか?)

 

 この光景がポクトアールが自身が作り出した幻影だったとしたらどれほど良かっただろうか。もしもこれが無ければ楽々とフェン王国艦隊を殲滅することができたのに。だが、実際は戦列艦をほとんど失い、しかも目標未達の帰投だ。

 

(一連の事情……報告書を出しても誰も信じるまい)

 

 フェン王国水軍とパーパルディア皇国監察軍東洋艦隊は、互いに得体の知れない海中爆発ーー紺碧艦隊による魚雷攻撃に慄き、双方共に撤退をしていく。紺碧艦隊の、ひいては日本の勝利である。だが、これらは大高ら極一部の指導部と前原ら“亡霊”によって成し遂げられ、誰も知ることがない。

 

 別の世界線では起こっていた『フェン沖海戦』は、この世界で起こることはなかったのである。

 




メリークリスマス!

大分、終わりになってしまいましたが、良いクリスマスを!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。