新・日本国召喚   作:npd writer

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トランプ関税、世界をどう導くのかーー

この世界の片隅から見守りたいと思います


第38話 Neutrality act

 

 国連がアルタラス王国防衛に向けて、着々と準備を整えているのと同じ頃。

 

 第3文明圏唯一の列強国、パーパルディア皇国。その中心地たる皇都エストシラントの皇宮では、1人の男が跪いていた。 

 

 第3文明圏の中で最も繁栄した都市、その中でも皇帝が住まう皇宮パラディス城は、柱一本の細部に至るまで、繊細な彫刻が施されており、見る者を圧倒する。

 鮮やかで優美に手入れされた庭園、金銀珠玉をふんだんに使用した宮殿内部、扉の取手まで施された精緻な細工、磨き抜かれた大理石の床、緋色の厚い絨毯、銀の燭台に無色透明のガラスーー世界中の富を集めたような内装は、訪れた者から言葉を奪う。

 

 そんか威圧感もある部屋の中で跪く男ーー第3外務局局長カイオスは、冷や汗を流しながら皇帝ルディアスの言葉を待つ。

 

「面を上げよ」

 

 若干27歳という若さから想像もできぬほどの威厳と覇気を放つ若き皇帝。カイオスの方が年上であるが、強烈なオーラを醸し出す皇帝に対して首を垂れることしかできない。

 

「フェン王国への懲罰に送り込んだ監察軍の件、予への報告はどうした?」

 

「はっ……監察軍の派遣を報告せず、誠に申し訳ございませーー」

 

「戯けっ!」

 

 論点をずらそうとするカイオスに、ルディアスの喝が飛んだ。

 

「派遣自体を報告しなかったことはどうでも良い。それは予が認めた第3外務局の権限だ。蛮国への侵攻報告なぞ、いちいち聞いているだけで1日が終わってしまうからだ。ーー事の問題は、その監察軍が見るも無惨な姿になって帰還してきたことよ」

 

 カイオスの顔からは滝のような汗が流れる。隠し通しておきたかったが、第1外務局が意図してリークしたのだということは、容易に推察できた。彼らはロウリア王国が起こした戦争に国家戦略局が加担していたことを知っており、第3外務局の動きを封じるために皇帝にリークしたのだろう。

 

「何処にやられた?まさかフェン王国ではあるまいな?」

 

「目下全力で対象国の割り出しを行っているところですが、現在の調査では何も分かっておりませぬ。突然の水上爆発で艦隊が沈められたという状況報告のみでは、原因を突き止めることすら困難です。この状態での報告は皇帝陛下を煩わせることになると考え、今日まで報告を差し控えておりました」

 

「……本来であれば我が国の船を沈めた罪を思い知らせたいところだが、それは叶いそうもない、ということか。だが、それでも皇国に多大な損害を与えた事実に変わりはない。

お前にはこの事態の責任を果たすため、フェン王国侵攻を必ず成功させることを命ずる。皇国に逆らった国がどのような運命を辿るか、正規軍を使ってしっかり教育してやれ」

 

「はっ!ーー皇帝陛下、もう一つご報告したいことがございます。アルタラス王国の件ですが、想定通りシルウトラス鉱山の献上を拒否するにとどまらず、アルタラス王国内での皇国の資産凍結と国交断絶を伝えてきております。いかがいたしましょうか?」

 

「ほう……ここまであからさまな叛逆を意志を隠さぬとは。パーパルディア皇国をなめているな。アルタラス王国へも正規軍を派遣せよ」

 

 アルタラス王国が自国防衛のために、国連から多大な支援を受けていることを知らないルディアスは、当然と言わんばかりに派兵を命じた。これに対し、レミールより再三にわたる警告を受けていたカイオスは、皇帝の判断を全面的に支持することはしない。

 

「恐れながら陛下。外務局に出向中のレミールさまはアルタラス王国、フェン王国への侵攻は絶対に行ってはならぬと強硬に反対しています。我々第3外務局は、皇族の方々で意見が割れている現状では、判断に慎重にならざるを得ません」

 

 

 

 これより2日前。パーパルディア皇国上層部が、2カ国への侵攻に踏み切るかもしれないとの情報を聞きレミールは唖然とした。頭が真っ白になり、アワアワと口を震わせるほど動揺したほどだ。やがて皇国の無謀な作戦に怒りを抱いたレミールは、屋敷に赴いてきたカイオス激しく詰め寄った。

 

「貴様、どういうつもりだ!?」

 

「レ、レミールさま……、どういうとは、一体……!?」

 

「惚けるな!何ということを……!」

 

 カイオスの方が身長が高いにも関わらず、怒りに身を震わせたレミールは、彼の胸ぐらを掴みその鋭い眼光で彼を睨んだ。

 

「アルタラスとフェンに軍事侵攻だと!?あれだけ警告したにも関わらず……!」

 

「も、申し訳ありません!しかし、皇帝陛下の勅命であられるならば、これに背くことは死罪になります故……」

 

「クッ……!あれだけ口酸っぱく警告したのに……!陛下は皇国を地上から消すおつもりか!!」

 

 カイオスの胸ぐらを掴む彼女はその力を強める。その烈火の如くの怒りに、彼は狼狽えることしかできない。だが、レミール自身も彼へやるせない怒りをぶつけたところで意味がないことを分かっている。やがて諦めたように彼から手を離した。

 

「……カイオス、『古の魔法帝国』すら凌駕する国家を複数相手に戦争を始めるとして、その想像を絶する結末を考えたことはあるか?」

 

 フラフラと応接室のソファに収まったレミールは、両目を右手で覆い、ため息を何度も吐いた。絞り出すようにして発せられた声に、カイオスはどう答えたら良いか苦慮する。

 

「想像できないだろう。神話の世界ですら、そんな伝説はないのだから。しかし、我々はそんな絶望の戦争へ後退するどころか、その戦いに本気で挑もうとしている。

……実に愚かだ」

 

 嘲笑とも、諦めとも言える笑みを浮かべるレミール。カイオスは、レミールが前世にパーパルディア皇国が日本国と対峙し、そして敗れたことを聞いていた。彼女が日本を異常に恐れていることは、重々承知しているつもりである。

 

「レミールさま。私の言葉では皇帝陛下や大公殿下を説得することは厳しいと言わざるを得ません。レミールさまから直接、陛下に訴えるべきだと愚進します」

 

「既に何度も話をした。日本国と我々との圧倒的な技術差、兵器の質、彼らと同盟を組む諸外国……私が知る限りの情報をだ。だが、あのバカ殿下はともかく、陛下も受け入れてはくださらなかった」

 

 レミールが日本と同盟国たちについての危険性を説明しても、彼らを文明圏外国の枠内で括っている彼らには響かない。

 

 

 

去る2週間前 皇宮パラディス城

 

『陛下!今、我が国は『古の魔法帝国』級の国家を複数相手取る、絶望的な戦争が始まるか否かの瀬戸際に立っているのです!もし、もし戦争になれば、我が国は刹那の間に崩壊します!どうかご再考を!』

 

 ルディアスにレミールは、皇国がアルタラス・フェン両国に対する軍事侵攻を計画していると聞き、皇帝に侵攻中止を進言していた。だが、野心溢れる若き皇帝は、彼女の言葉を軽く受け流してしまう。

 

『恐れることはない、レミール。たかが文明圏外国の連合に我が国は負けることはない。それに、我々が神聖ミリシアル帝国やムーをも倒して真なる世界平和ーー世界統一を掲げている以上、そのような敵にも必ず勝たねばならぬ。神は人に乗り越えられぬ試練は与えぬ、と言うだろう。今回も必ず乗り越えられる』

 

『……恐れながら、我々が支援したロウリア王国は国連が支援したクワ・トイネ公国に敗北しております。旧式とはいえ、我々の技術力を凌駕する国家が台頭しているのは紛れもない事実なのです。その国家というのが、日本であり、アメリカであり、イギリスであり、フランスなのです』

 

『確かに、ロウリアが敗れたのは事実だ。だが、彼らに与えた武器は我々より何世代も前の骨董品レベルのものばかり。それに対し、我々の技術は第3文明圏で他の追随を許していない。レミールが心配する国々は、所詮文明圏外国だ。我が国の真の強さには敵わない』

 

『お言葉ですが、国際連合の傘下に入ったクワ・トイネ公国とクイラ王国は文明圏外国を凌駕する技術と繁栄を享受していると報告が上がっています。時期にアルタラス王国にも彼らの技術が浸透するでしょう。国連と対立すれば、我が国はこれらの国々にすら劣る後進国になります』

 

『であるならば、尚のこと早く両国の平定を急ぐべきだ。調子に乗る文明圏外国よりも、栄えたる我ら皇国に従うことの方がアルタラスにとっても幸せであるということを理解させる必要がある』

 

 パーパルディア皇国がこれ以上東へ領土を拡大させてしまえば、国連勢力圏とぶつかる。国家総力戦を体した世界大戦になれば、パーパルディア皇国の存続すら危ぶまれる。壊滅的な未来を予感したからこそ、レミールは頑なに反戦を主張し続けていたのだ。

 だが、その言葉に皇帝ルディアスは応じようとしない。そのやり取りが、ここ最近はずっと続いている。

 

 

 

 このように、2カ国を皇国の領土に収めたいとする皇帝ルディアスや大公ルトラフ、戦争回避を訴えるレミールの板挟みに合うカイオスは、実に苦しい立場に置かれているのである。

 

「レミールか……。以前は我々の政策にも協力していた良き理解者であったのだが……実に残念だ。しかし、領土拡大は、世界を我々の下で統一するという国是からして避けられぬこと。それに、皇国民に豊かな生活を保障するには今ある資源だけでは足りぬ。更なる拡大は避けられないのだ」

 

「兄者よ!あのような臆病風のことなど、気にしては皇国は発展いたしません!気にせず、世界統一に向けて歩みを進めましょうぞ!」

 

 カイオスとルディアスの会見に割って入って来たのは、ルディアスの弟であるルトラフだ。知略で皇国を引っ張るのがルディアスであれば、武闘で皇国をまとめ上げるのがルトラフと言えるほど、彼らの強みは良い分に分かれていた。

 当然、数々の武勲を上げてきたルトラフに対する国民の人気は高く、それと同時に植民地化された人々は彼を恐怖政治の象徴として恐れていた。

 

「カイオスよ。お前はたかが文明圏外国に怖れているのか?まさか、文明圏内国にすら劣る彼らに我々が負けると?」

 

「……いえ、私は恐れてはいません。しかし、レミールさまが仰るには……」

 

「五月蝿い!あの女は正気を失っているのだぞ!何故、狂人の物言いを最も簡単に信じれるのか、さっぱり分からぬ。

ともかく、早く世界統一を進めるためにも兵を向けるべきだ!

……監察軍を無駄遣いした失態もある貴様ならば、その汚名返上の機会は喉から手が出るほど欲しいだろ?即刻、行動を起こすべきだと思うが」

 

 威圧的にカイオスに詰め寄るルトラフ。カイオスより一回り大きい体格の彼に睨まれては、冷や汗を垂らしてしまうのも無理はない。

 

「弟よ、そこまでにしておけ。誰にもミスの一つはある。カイオスは我々にとって優秀な人材の1人、下手に失うことは国家の損益にもなる」

 

「……兄者が言うなら異論はない。そうだカイオス、そんなに文明圏外国に怯えているようなら、我自らが前線に立つことも厭わんぞ?我自身が前線に立てば、士気も上がりどんな敵にも立ち向かえるだろう」

 

「そ、それは殿下の身にも危険が生じます故、どうか控えていただきますよう……」

 

 弟であり、大公でもあるルトラフが戦線に立てば、それだけで兵の士気は上がる。しかし、旧式とはいえ、監察軍がフェン王国沖で大損害を受けた。未知の危険性があり、無事に帰国できる保障もない。カイオスは大公の前線視察を控えるよう最大限の配慮をもちながら訴えた。

 

「ならば、速やかに両国を平定せよ。それが皇国に対する最大の忠義だ」

 

 ルトラフは皇帝の側に控える侍従武官に目線を向けた。ルディアスの命令は、皇宮に控える彼を経て即座に参謀本部や将軍たちに伝わる。

 

「陛下のご命令あらば、いつでも出撃可能であります。フェン王国、アルタラス王国を滅ぼし、両国にある資源を全て皇帝陛下に捧げましょう」

 

「そうか、任せたぞ。だが、民間人は無駄に殺すな、彼らは貴重な労働力だ。カイオス、貴様はフェン王国、アルタラス王国へ書簡を送っておけ。内容は任せる」

 

「……はっ」

 

 レミールの孤軍奮闘虚しく、列強パーパルディア皇国はフェン王国に対して宣戦布告を、アルタラス王国に対して最後通告を送った。

 

 

 

中央暦1639年11月18日 ニューヨーク 国際連合本部

 

 アルタラス王国の求めに応じて開かれた緊急の安全保障理事会。パーパルディア皇国によるフェン王国への宣戦布告に各国は色めき立つーーことはなかった。非難声明こそ発せられたものの、軍事行動はおろか経済制裁等さえ行われなかった。

 

 国連がフェン王国に対して、消極的な態度をとっていたのにはいくつか理由がある。

 

 第一に、フェン王国が国連非加盟国であるためだ。国際連合に加盟している国家が侵略を受けた場合、即座に国連軍が編成されて防衛に向かうが、非加盟国が侵略行為にあっても安全保障義務は生じない。加えて、非加盟国に対する防衛義務を明記する国連憲章の改正もまだ議論の段階だ。 

 現状では、先制攻撃でパーパルディア皇国を攻撃することに対する慎重論は根強い。

 

 第二に、過去のフェン王国の行いに各国が忌避感を抱いていたからだ。去る9月に行われたフェン王国軍祭にて、彼らは騙し討ちともとれる形で国連を戦争に引き摺り込もうとした。その対応に対する各国の怒りが収まっていないのだ。

 特にパーパルディア皇国の脅威を訴えていたはずのフランスは、フェン王国に対する不信感が募ったままであり、フェン王国国連加盟に頑なに反対し続けていた。

 

 フェン王国支援に対して慎重な各国が参加する安保理会合の結果、ホフマン事務総長の名で発表された公式声明は実に当たり障りもないものとなった。

 

『パーパルディア皇国に対して、即刻フェン王国に対する軍事侵攻を中止するよう求める。貴国の行動は周辺地域の平和と安全を乱す行為であり、更なる緊張を増大させている。また、パーパルディア皇国とフェン王国の戦闘で、多くの民間人が巻き込まれることにも最大の憂慮を表明する』

 

 この国際連合声明は、パーパルディア皇国を形式的に非難したものにとどまり、安保理理事会のゲスト席で会議を見守っていたフェン王国使節団を落胆させるものだった。1936年のドイツによる「ラインラント進駐」に対する英仏の抗議にも酷似していたが、大国の行動を批判する中小国の動きが起きなかったことも、更にその失望を加速させた。

 各国も単独で非難声明を発したものの、軍事介入の選択肢を選ぶ国家はどこもなかった。

 

 一方、アルタラス王国に対する最後通告に対しては、安保理が一致団結して防衛することを確認し、更なる軍隊の増派が容認された。

 各国が国連とパーパルディア皇国の全面衝突は避けられぬと覚悟したからだ。

 

 また、安保理会合前、フェン王国との戦争が終戦してから1年以内に、パーパルディア皇国海軍の主力艦隊がアルタラス島を攻撃する可能性が極めて高いとする「スズキ・ウォルターズ報告書」が日本国国防省、アメリカ国防総省によって公表されたことも各国の対応に影響を与えていた。

 

 これら発表を以て、日米英仏加は即座に動く。

 

 日本は海軍大将へと昇格した高杉が司令長官を務める第1連合航空機動艦隊に加えて、坂元中将率いる第2連合航空機動艦隊をロデニウス大陸防衛に、宇髄伝四郎中将率いる第3連合航空機動艦隊を日本海防衛に派遣することを決定。

 

 アメリカは艦隊を抜本的に再編成し、ニミッツ中将率いる第7艦隊に加えて、グウィネス・キング海軍中将率いる第3艦隊を傘下に収めた「アルタラス防衛艦隊」をアルタラス王国およびロデニウス大陸防衛にあてることを決定。司令長官は再編成に伴い、大将へと昇格したリーヒが就任した。

 また、日本・東方エルサレム共和国および太平洋方面防衛に向けて、ウィリアム・マクマホン中将をトップに置く第4艦隊の整備が早まれることも合わせて発表された。

 

 イギリスはネルソン中将を司令官とする空母機動艦隊に加えて、サー・キア・ストーン中将率いる潜水艦隊をアルタラス島に派遣。

 

 フランスはミュズリエ少将を司令官に置く海軍戦闘部隊、アラン・ルメール少将の潜水艦部隊をアルタラス方面管区艦隊として統合し、出立を早めることを確認。

 

 カナダはペティクリフ中将率いるアルタラス海上軍に加え、ロジャー・ハリファックス中将のロデニウス海上軍を予定を繰り上げ、即座出航を決定した。

 

 

 

 このように、フェン王国とアルタラス王国との間に差が見られた対応だが、決してフェンを見捨てることはなかった。

 フェン王国に残る加盟国民、NGOグループ、希望するフェン王国民の退避を実施することも決定されたのである。国連として軍事支援は行わないが、人道支援を通じて可能な限りのフェン王国民の命を救うべきとの日本、カナダ、アイルランドからの提案が受け入れられたからだ。

 

 国連加盟国において稼働中のクルーズ船142隻、フェリー1700隻、輸送艦45隻、飛行艇250機がフェン王国目指して最大船速で次々港を出港した。

 

 

 

同日 フェン王国 首都アマノキ

 

「パーパルディア皇国より、正式に宣戦布告書が届けられた」

 

 側近が持参した最後通告書を見たシハンは、遂にパーパルディア皇国との開戦を覚悟した。内容としては『72時間以内にフェン王国は南部森林地帯をパーパルディア皇国に引き渡せ。これは最後通告であり、拒否もしくは黙殺した場合には皇国正規軍を派遣して武力を伴った占領も辞さない』とあった。最後通告と銘打った事実上の宣戦布告である。

 

 国連加盟が遅々として進まぬ中、恐れていたことが起こった。現在、使節団がニューヨークにある国連本部に赴き、加盟要請を各国に打診し続けていたが、反応が芳しくないこととの報告が上がっていたところに、これである。

 

「国連からの支援に期待できない以上、我々は独力で国を守らなければならぬ。皆の者には命をかけて戦ってもらわねばならぬが、祖国のためにどうかその命を燃やしてほしい」

 

 軍祭で国連を巻き込むことで強国の参戦を考えていたシハンの思惑は、見事に裏切られた。

 

『我々はアルタラス王国防衛に関して全力を注いでおり、貴国らの防衛に回せる余力はない』

 

『信頼関係がない貴国とどう付き合えばよろしいか。あなた方は既に損ねてしまっていることを理解する必要がある』

 

 交渉団は国連の中でも影響力を持つ日米英仏加の5カ国と何度も会見していたが、協力姿勢を見せる日本、やぶさかではないとするイギリス、カナダと異なり、アメリカとフランスの態度は硬かった。

 

 確かに軍祭にパーパルディア皇国が来襲する危険性を伝えなかったのは意図してだった。しかし、それは文明圏外国の外交として、同盟国の力量を計るという意味で他に選択肢はなかった。

 結果として、国連側に犠牲者も物的損害も出ていない。にも関わらず、この冷遇ぶりは想像を超えている。多少の反発はあれど、これだけ強硬な反対が出ることをフェンは予想できていなかった。まさに、想定外なのである。

 だが、それだけ国連を怒らせ、結果としてフェン王国を存続の危機に陥れた原因がシハンらフェン王国上層部にあることを彼らは理解していた。そしてある程度の準備も整えていた。

 

 ーーもとより、フェンは単独でもパーパルディア皇国と戦う覚悟だった。当初の予想通りになっただけのこと、と割り切るフェン王国上層部。

 

「卑劣極まりない侵略者に対して、我々の力を見せつけようぞ!ただではやられてたまるか!」

 

 鬨の声が城内に轟き、王国最大にして()()の戦いに皆が魂を込める。シハンはそれを申し訳なさを心に秘めながらまっすぐ見据えた。

 

 

 

「アインよ。少し良いか?」

 

「はっ。いかがしましたか?剣王さま」

 

 武人たちが退出する中、シハンに呼び止められたアイン。その場で待つよう言われたアインが待っていると、1人の少女を連れたシハンが戻ってきた。

 

「アイン。我が子、シノを連れて早急にこの国から逃れよ」

 

「剣王様、何を……」

 

 普段は見せぬ父親としての優しき顔。シノはシハンの一人娘にして、次期剣王の素質を見せる若干14歳の子供だ。シハンは最後のわがままとして、愛娘を国外に脱出させ、自分では果たせぬフェン王国再興の夢を託すことにしたのだ。

 

「娘をこの国に残しておくことはできん。確実にパーパルディアの野蛮人共の慰み物にされるだろう。そんなことなど、断じて認めん」

 

「いやです、父上!私も、1人の剣士として最後まで戦います!」

 

 そんな親心を知ってか知らずか、我が強いシノは嫌だと首を全力で横に振った。そして、剣士として生まれた身として最後まで戦いたいと言う。母が病によって命を失う直前に遺言として言った「強く生まれた者は、弱き者を助けなさい。それが、強き者の責務です」という最後の言いつけを守る彼女は、これから戦う何千もの剣士たちから背を向けることなどできなかった。

 

「いいか、シノ。今回はわけが違うのだ。この国に来襲するは最新鋭の装備と圧倒的な物量を持つ皇国の正規軍だ。我々が自力で挑んだとて、勝てるはずがない」

 

「しかし!民を見捨てて、私だけ逃げるなど……我々の高潔な生き様を汚します!」

 

「ここに残ったところで、生き地獄を味わうことに変わりはない。民たちもきっと分かってくれる。

それに、私が愛した女性がこの世に遺してくれたお前も、悪魔共にくれてやるつもりはない。シノ、父のどうか最後の親孝行として私の我儘を聞いてくれ」

 

 シハンは優しい顔で微笑み、シノを固く抱きしめた。剣王として誰かを逃すなどあるまじき行為だが、親ならば誰もがそうするだろう。父の確固たる意思を感じ取り、シノは涙ながらに頷く。

 

「わ……分かりました……」

 

 「間も無く、国連より避難船団が到着する。そして脱出後、日本国に助けてもらいなさい。彼の国は最後まで我々と真摯に向き合ってくれた国だ。きっと助けてくれるだろう。そして……フェン王国をいつか再興してくれ」

 

 この日から2日後、第一弾の避難船団がフェン王国に寄稿した。シノは使用人、護衛、その他同行員計30名、及びフェン王国民200名と共に速やかにフェンを出航した。

 




「スズキ・ウォルターズ報告書(一部抜粋)

……衛星画像、パーパルディア皇国に潜入するクワ・トイネ公国諜報員からの報告、レミール殿下の証言、近年のパーパルディア皇国による拡大政策を鑑みるに、パーパルディア皇国によるアルタラス王国侵攻の可能性は依然高い状態が続いている。日米情報機関は、フェン王国侵攻完了から1年以内に正規艦隊による大規模侵攻が行われる可能性を90%と想定。侵攻軍はフェン王国軍祭を襲った軍の数十倍〜数百倍と推定される。

過去にパーパルディア皇国の要求を拒んだ国家のうち、勝利、ないしは痛み分けに終わった件数はゼロ。なお、パーパルディア皇国は植民地支配を受け入れない国家に対しては、民族浄化を行う可能性もあるとのこと。

制作
日本国統合参謀本部総長 鈴木康十郎
アメリカ統合参謀本部議長 ライアン・ウォルターズ

監修
日本国陸軍参謀総長 桂鷹三郎
アメリカ陸軍参謀総長 クレイリー・マーシャル
日本国海軍軍令部総長 高野博太郎
アメリカ海軍作戦部長 チェスター・W・ヤマモト
日本国戦略空軍参謀総長 黒羽晴夜
アメリカ空軍参謀総長 ジョージ・アーノルド
アメリカ海兵隊総司令官 フランクリン・ヒドルストン
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