オルレアンの乙女の守人   作:アリス・リリス

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ジャンヌ・ダルクは、1431年5月30日に火刑に処せられたと記録にある。

しかし、この日を過ぎても、ジャンヌ・ダルクは生きていた。

人々から忘れ去られたジャンヌ・ダルクのその後の物語。



―二人の旅路篇―
~忘れられたはじまり~


無数の剣を向けられたまま、僕とジャンヌは捕らえられた。

 

闇に堕ちかけたジャンヌの力を兵士たちはひどく恐れたが、すでに闇が去ったとみると、再び火刑の準備にとりかかった。

 

 

「ミカエル……ミカエル……?」

 

ジャンヌが消えてしまいそうな小さく細い声で僕を呼ぶ。

 

「何だい…?」

 

「ミカエル……もうどこにも行っちゃやだ……。

ずっと…そばに…」

 

「ジャンヌ…」

 

気を失いかけてる。

今のはきっと心からの言葉。

 

 

「………」

 

故郷のドンレミ村には帰れなかったけれど、最期にジャンヌは戻ることができたのだろうか。

 

聖女ではない、ただの一人の少女に………。

 

「ジャンヌ…」

 

 

 

 

 

その時、大声で合図がかかった。

 

火刑台の準備が整ったらしい。

乱暴に連行される。

松明も運ばれてきた。

いよいよ刑が執行されるのだ。

潔い覚悟を示そう。

 

 

 

 

…………僕は聖女の騎士、聖女に愛された男だ。

その誇りを胸に彼女と共に最期を迎えよう。

そして、命を落としたあともいつまでもずっとジャンヌのことを守るんだ…。

 

 

 

 

 

「待て!」

 

 

「…この声は?」

 

声の主は、あのオリビア。

 

「再び火刑台に縛り付けるとは、なんと愚かなことを!

そんなことをすれば、その娘は再び闇に堕ちるぞ。

お前たち、また市民らを犠牲にする気か?」

 

 

それを聞いた兵士たちには大きな動揺が走る。

 

 

さっきだけでも、100人以上の犠牲が出ていた。

 

道々にはまだ市民たちの亡骸が残されたままなのだ。

 

 

「聖女の始末については、本営の通達を待たねばならぬ。

今日の火刑は中止だ。

今一度、牢に閉じこめておけ!」

 

「オリビア…」

 

 

 

 

 

それから、僕とジャンヌは別々の牢獄に入れられた。

命は少し延びたものの、僕はまたジャンヌのぬくもりを失った。

 

 

「ジャンヌ…」

 

 

 

その時、牢の扉が開いた。

やって来たのは…

 

 

「オリビア…」

「あまり時間はない、よく聞け」

「……?」

「お前を逃がしてやる」

「なっ……?」

「聖女は隣の塔だ。

見張りがいるが、そのくらいは自分でどうにかしろ。

そして半刻以内に街を出るんだ。

その後はどこにでも行くがいい」

 

「何を言ってるんだ?

僕たちを逃がしたりしたら、お前が……」

 

「問題はない。

今日の騒ぎで命を落とした中にはお前たちと同じ年頃の者がいる。

お前らの身代わりにさせよう。

感謝と祈りは彼らに捧げろ」

「しかし…」

「まだ信じられないか?

それともこれが罠だとでも?

今さらそんなことをする必要がどこにあるんだ?」

 

「なぜだ?

どうしてそこまでして…」

 

「ふん、いちいち理由が必要とは面倒な男だな。

 

………簡単に言えば、罪のない市民を救った礼と、剣士としての敬意だ」

 

「礼と…敬意?」

「闇に堕ちた聖女を倒さなければ、死者は何倍にもなっていたはず。

お前はそれを止めてくれた。

 

そしてあれほどの化け物を己の剣だけで退けたその力……火刑に処すには忍びない」

 

「オリビア…」

 

「ただし…フランスへは戻らないこと、二度と戦争に参加しないこと。

この2つを誓え、それが条件だ」

 

「…わかった。

誓おう、この剣にかけて。

フランスへは決して戻らない。

戦争にも二度と参加しない」

 

「よし、ならば行け。

もう時間はない」

 

「……ありがとう、オリビア。

君のことは忘れない」

 

「ふん」

 

それから僕は牢を飛び出した。

 

 

 

 

「君のことは忘れない………か。

私もあなたのことは忘れない。

私が負けた、ただ一人の男………さようなら、ミカエル」

 

 

 

 

 

 

牢を出た僕は、ジャンヌのいる塔へと走った。

塔はすぐ近く。

深夜の街中には人影もない。

難なく塔へ忍び込むと、上階への階段をかけ上がる。

 

 

オリビアが言っていた通り、牢の前には見張りがいる。

 

約束の半刻まで、時間がない。

僕は短時間で見張りを片づけると、ジャンヌのもとへ行く。

 

 

「ジャンヌ…ジャンヌ!」

 

「…………?

………あ………!

ミカエル…?

まさか…そんな…!」

 

「ここから逃げるよ、ジャンヌ。

立てるかい?」

 

「なんで………?どうやって………?

それとも、これも夢………?」

 

「夢じゃないよ、ジャンヌ。

君のことを助けに来たんだ。

でも話は後だ、今は時間がない」

 

「……ミカエル!」

 

 

 

ジャンヌの手を取り、塔の階段を急いでかけ降りる。

 

 

ルーアンは前線拠点じゃないから警備の兵もほとんどいないけど、慎重に慎重に、物陰を進む。

 

それからオリビアに言われた通り、ルーアン北門へ向かい、僕たちは静かに城門の外に出た。

 

「夢じゃない…。

夢じゃないよね…!?」

「ああ」

 

 

それからジャンヌは僕の胸に飛び込んでくる。

 

「まさか……まさか……助けてくれるなんて……。

 

ミカエル………ミカエルっ…!」

 

 

ジャンヌは泣きながら僕の名前を呼ぶ。

僕もきつくジャンヌを抱きしめる。

 

 

「今度こそ…絶対に離さない」

 

「うん…!」

 

「でも、とにかく今は走ろう。

追手が来ないとも限らない。

事情はあとで話すよ。

行こう、ジャンヌ」

 

 

僕たちは手を取り合って西へと向かった。

ルーアンから丸一日進めば、海岸に着くはずだ。

そこから船に乗って、その先のことはその時に考えるとしよう。

 

 

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