2日後、僕たちはル・アーブルの港に着いた。
戦争の影が見えない、明るく活気に溢れた街だ。
交易の拠点になっているので、ヨーロッパ中から船が集まる。
夜通し歩いてきた僕たちは、船着き場で休みながら話をした。
「…………というわけさ。
オリビア…彼女がいなければ、火刑台にも間に合わなかったし、牢から出ることもできなかった。
感謝しないとね」
「…………きっとその人、ミカエルのことが好きだったんだね」
「え?
そんなことないよ。
今も言った通り、市民を救った礼と敬意を、って…」
「違うわ、それはただの建前よ。
ミカエルのことが大好きだから、死んでほしくなかったんだよ」
「う~ん…。
いや、やっぱりそれはないよ。
もう少しで殺されそうだったし…」
「でもミカエルはその人をやっつけちゃったんでしょう?」
「…うん」
「じゃあ、やっぱりそうだよ。
私、なんとなくわかるもん」
「ふ~ん………僕には全然わからないよ」
くすくすと彼女は笑う。
「わからなくていいのよ。
…………でも、少し妬けちゃうな。
私の知らないところで、ミカエルは女の子にモテモテなんだね」
「い、いや。
そんなことないよ」
「どうかしら?
ミカエルが気づいていないだけで、本当は他にもたくさん…」
「ええっ!?そうなの!?」
「…なあに?
その嬉しそうな顔」
「いや、だって…!」
彼女はまた嬉しそうに笑う。
「ごめんね、意地悪しちゃった♪」
「ジャンヌ~」
「………でも、やっぱり夢みたい。
ほんの少し前まで、火刑台に縛られていたのに…、今は知らない港街で二人一緒にいられるなんて。
本当に…夢みたい…」
「ジャンヌ…」
その時、船乗りがやって来て僕たちに声をかけた。
出航の準備が整ったらしい。
いよいよ船出だ。
僕たちが乗るのは、ポルトガルへ向かう船。
地中海に面した小さな港町ラゴスまで船で行き、僕たちを受け入れてくれる小さな街を探すつもりだ。
「よし、行こうか」
立ち上がって、ジャンヌの手を取る。
ふと、ジャンヌは後ろを向く。
「さようなら、フランス。
今までどうもありがとう。
かつて私が託された神の
末永く、人々に幸多からんことを…」
ジャンヌはつぶやくようにそう言うと、僕の腕に両手をからめる。
「行こう。
私たちの知らない国へ」
「ああ、行こうか」
こうして僕たちは故国フランスを後にした。
ジャンヌの命を見捨てた国だ。
僕は何の感傷も持たないけど、水平線の向こうに港が消えるまでジャンヌはずっとずっとフランスを見つめていた…。