翌日になっても、ジャンヌの具合はよくならなかった。
それどころか、どんどん悪化しているようだ……。
「大丈夫かい、ジャンヌ?」
「ごめんね…。
迷惑かけてばかりだね…」
「そんなことないよ。
今までの疲れが出ただけさ。
きっとすぐによくなるよ」
「うん………」
心配した村長が遠くの街から医者を呼んでくれたが、原因は全くわからないまま、病状は悪化の一途をたどった。
そして7日目の夜。
ジャンヌはとうとう意識を失ってしまった。
「ジャンヌ…ジャンヌ!」
「…………」
「ジャンヌ…。
そんな…ここまで来て…」
その夜、僕は神父さまに呼ばれて、祭壇の前までやって来た。
「最初に言っておこう。
私は君たちの味方だよ」
「……神父さま……?」
「神も君の大切な少女のことを心配なさっているようだ。
先ほどね、私に語りかけてくださったんだよ。
私のような者にとって、本当に畏れ多いことだが…。
それほどその子のことを心配なさっているのだろうね」
「すみません。
おっしゃる意味がよく…」
「…ふむ」
神父さまはそこで言葉を区切る。
口にすべき言葉を慎重に選んでいるようだ。
「……。
聖女は未だ闇に蝕まれている。
まもなく命を落とすだろう…」
「ッ!?」
思わず身構える。
聖女?闇?
なぜこの人がそれを…!?
しかし…神父さまの顔は穏やかだ。
「大丈夫。
最初に言っただろう?
私は君たちの味方だよ。
神がね、教えてくださったんだ。
だから、心配しなくてもいい」
「神が…?」
「しかし、まさかあの子がオルレアンの聖女さまだとは……。
神の声を聞いたとはいえ、こんなに小さな身体で……どれほど大変な思いをしたのだろうね」
「神父さま…」
ふと力が抜ける。
ジャンヌが聖女だと知った上で、これほど優しい言葉をかけてくれる人がいるのか…。
……だけど今はそれどころじゃない。
「……神が……ジャンヌは命を落とすとそう言っているのですか?」
「いかにも」
「そんな…そんな…!
ようやくここまでたどり着いたっていうのに…!
どうしてジャンヌばかりが!
いつもいつも辛い目に遭うんだ!」
思い切り床を拳で叩きつける。
低く鈍い音が響き渡る。
「落ち着きなさい。
神は君にも語りかけている」
「……僕に?」
「聖女を救ってやってほしいと。
聖女を護るために身につけた君のその素晴らしい力を……
彼女のために、もう一度だけ奮ってほしいと…。
神は君にそう言っているよ」
「僕の…力を?」
「ふむ…。
君はずっとずっと……聖女さまを支えてきたんだね」
「……」
「普通に考えれば、人間の敵う相手ではない。
闇とはつまり悪魔の
下手をすれば君も命を落とすが……。
きっと返事は聞くまでもないんだろうね?」
「はい。ジャンヌを救います。
僕の命を懸けて」
「わかった。
それではそこで待っていなさい」
神父さまは奥の部屋から聖水を持ってきた。
ジャンヌを床に横たえ、聖水を静かにふりかける。
「まもなく彼女を蝕む闇が顕在化する。
君の無事を祈るよ。
神のご加護を」
「ありがとうございます。
待ってろ、ジャンヌ……。
必ず君を助ける!」
ジャンヌの身体から赤々と燃え上がる骸骨が出てきた。
「シャーッ!」
闇に穢れた炎が吹き出す。
僕は、それを剣で凪ぎ払う。
「ギーッ!」
黒い波動が骸骨を中心に広がっていく。
「くそッ!」
その波動に触れると、次第に石になっていくようだ。
僕の足がすでに石になってしまっている。
(僕は……闇なんかに負けない!
僕は、聖女の騎士だ!)
足に意識を集中させると、石が粉々にくだけ散る。
「ハァァァァ!」
僕は一気に間合いを詰める。
「ジャンヌを放せぇ!」
そのまま剣を骸骨に突き刺す。
「ア゛ア゛ア゛………!」
断末魔を残して、骸骨は粉々に砕けた。
「終わった………?」
戦いを終えた僕は、力を使い果たして気を失った。
………
僕が目を覚ましたのは3日後のこと。
目を開けると、そこには元気なジャンヌの笑顔があった。
「………ジャ………ンヌ………」
「ミカエル……?」
「ジャンヌ!
よかった…無事で…」
「ミカエル…、ミカエルが生きててよかった…」
それから1ヶ月後。
神父さまの立ち会いのもと、アルトゥーラ村の教会で僕とジャンヌは夫婦の契りを交わした。
アキテーヌに赴任した頃に考えていたような、
高価な指輪も素敵なドレスも用意することはできなかったけど、
ジャンヌは「本当に幸せ」だと穏やかにそう言ってくれた。
式を挙げた当日、教会には村中の人が集まり、新しい住人となる僕たちの結婚を心から祝福してくれた。
そして、3日3晩にわたる祝宴の後、村長の計らいで、僕とジャンヌは海へとやって来た。
ハネムーンの贈り物だそうだ。
「わぁっ!
砂浜も綺麗だね!」
「ああ」
「ねえ、海に入ろうよ!」
「服はまだこれしかないんだよ…?
濡らしたくないよ…」
「ふふっ、そうだったね。
じゃあ、波打ち際を歩きましょう?」